選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第六章の裏話

ポルティの大人たち

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  汚れも少ない居酒屋に見知った男たちが集まった。
 今日ではや何度目かのポルティギルドの会合をする。

「全員揃ったな…それじゃ、始めるぞ。結論からいうと事態はかなりやべぇ」

 なんでか俺はやりたくもねぇ主座をやらされている。画材屋のザックでいいんだ。『鬼食いのザック』は迷宮で死んだことにしたっていうのに、ティスのボケは…帰りてぇ…そんで、娘に近づく男どもを見張りてぇ。

 さっさと済ませたいところだが、マジで事態は最悪だ。もう時間がねぇ。

「新人が依頼を受けるのは悪くねぇんだ…問題は、ここの流儀をまだ覚えてねぇってことだ…俺たちは冒険者であることを隠さねばならない。できねぇやつは、ポルティから出ていけ。これがここの流儀だ…俺の店に来て自分がどのクラスかを自慢してきたやつがいたが、あれはお前のとこのだろ、ドーナツ屋」

 俺がポルティギルドの主座だからと画材屋まで来やがって…しかも非番の娘を口説くためだけに…雑魚が。ぶっ殺すぞ。Dランクごときが将来性があるだぁ?農家の方がまだ許せるんだぞ、くそが。

 会合では表の商売でお互いを呼ぶようにしている。何名か名前を出すわけにはいかねぇやつがいるからな…頼むから今日も静かにしていてくれ。

「俺の古巣の若手らしい。だが俺はそいつらのことは知らねぇよ…俺が引退して何年経っているか知ってんだろ?一年もあればクランの面子は変わっちまうし…まぁ、今のクランを取りまとめてる奴にいってある。きちんと注意したから安心しろ。俺のいたクランは下まできっちり通達したから…問題を起こせばもうクランとは無関係だ」

 中規模のクランをとりまとめていた男がいうんだから一先ず安心だな。
 問題を起こせば消してもいいとは…口では引退したとかいうが、現役の感覚がそのままだぞ。

 苛立って殺気混じりになるのは俺にもわかる。
 気のせいだと思いたかったが、俺たちが一線を退いてから冒険者の質は確実に落ちていた。
 俺の娘にちょっかいをかけたガキは一発殴ったらすぐに逃げやがったし…最近の冒険者は根性がなさすぎる。勝てないとわかっていても捨て台詞か睨むぐらいはしていくもんだろうが。

 それに礼儀もなっちゃいねぇ。縦と横の繋がりも作ってねぇくせに粋がっていっぱしの冒険者を気取りやがって…情報収集もできなければ、比較的安心なここいらでも、いずれ死ぬぞ。

 俺もそういう経験を嫌と味わった。目をかけていた奴らは、迷宮に潜りっぱなしか、死んだか…ドラルインに渡ってから音沙汰知れずだ。
 あの国は前以上に情報が流れてこなくなった。ドラルインにあった、ギルドも自由を捨てて軍属化したとかいう話も出てきた。ここ八年ほど情報がほとんどないが…それほど最前線に異常が生じたというのだろうか。

 ここのところ、どうも見たことがない魔物が目撃されている。
 それに、やたらと魔族の爵位持ちが現れている。

 邪教徒が結界に穴を開けて呼んだにしろ、このスメイン大陸は特に平和な大陸だ。
 仮にだが、ここまで冒険者の質が落ちているっていうなら、伯爵級が攻めてきたら国が滅ぶぞ。ギルドの会合にでたときに男爵でSランク派遣したとかふざけたことを抜かしていたからな…大戦のときみたく、魔族をバカみたく呼びだしたな、わかるが、一匹ぐらい俺でも殺れるってんだ。

 ぬるくなっちまうのもわかるんだ。平和になるってのは、そういうことだ。

 北の結界があるから、大物の魔物はいねぇし、魔族もほとんどいねぇ…それじゃあ、平和ボケしちまう。稼ぎも少ねぇから別な大陸に行く。ドラルインなんて実力があれば貴族にだってなれる。

 スメイン大陸の冒険者はおそらく、一番弱い。

 そこに魔物に新種なんてもんは、考えたくもねぇ。スライムや獣型の魔物ぐらいしかここらでは見られないからまだいいが…迷宮にも異変があるようだし伝説の俺が引退を撤回して関われば騒がしいことこのうえないな、おい。

 まぁ、今は目の前の爆弾の処理だ。フェスマルクってとんでもない爆弾がやってくる。

「そ、それ、なら、わ、我輩の、ところも、根回し、してますぞ!」

 葬儀屋のところも名の知れた冒険者クランだ。少々、裏よりだがな。
 葬儀屋を頼ってくるやつも多いが…現役のころと性格がまったく違うこいつを見たときは、危ねぇ薬にでも手を出したのかと、葬儀で使う花や薬品が怪しいと思って商品の確認もしたが、薬物性のある植物や違法な薬品の取引はしていなかった。

 怪しいからたまに抜き打ちでやってるが証拠は出ていない。出たら即座に街から追い出すっていうのに。

「クランに所属していた方は大変ですね」
「お前は黙って茶をすすってろ!」

 片隅の机でキザな服を着込んだ肉屋が自前のお茶を優雅に飲んでいる。
 服装や軽薄そうな見た目から肉屋とは思えないが、あれでもこの街唯一の肉屋だ。

 本当は呼びたくねぇが、こいつも会合に出るべき店主の一人だ。性格が破綻してなければ俺の代わりでもいいが、こいつはもうだめだ。世のため早く土に還れ。名前を呼べねぇ内の一人だが、呼びたくもねぇ。

 ポルティにいる冒険者でも一匹狼を気取る奴らにはすでに話は済ませている。話が通じない問題児たちも遠征にでかけているし、厄介なやつはここに確保済みた。

「よし。絶対にフェスマルクの子供たちに冒険者の存在をばらすんじゃねぇぞ!」

 それが今回の目的であり、絶対に成功させなければならない依頼だ。

「ティストールの旦那からは何か連絡があったんで?画材屋さんよぉ」

 ドーナツ屋がいうが、俺は頭の血管がきれそうになる。

「あの親バカから、明日は午前中に大聖堂に行って、その後で俺のとこに寄るからって連絡がさっききた。さっきな!俺はよぉ…一週間は前以て連絡を寄越せっていっておいたんだがなぁ!」

 どんだけいっても、あいつはなんで昔から先にいわねぇんだよ!

 ガキのころだ!今から行くからってこっちの都合はお構い無しのうえ、馬車に詰めこまれて、お前は貴族で俺は平民だっていってんのに、王都の貴族街まで連行され…犬っころが来たころなんざ、相談もなく勝手に長年仕えていた使用人たちの雇用を切って家を畳む気でいるわ…思いつきで生きてる。
 本当にあいつは結婚しなきゃ野たれ死んでる。間違いない。それか俺が殺している。迷宮を崩壊させたときのことは死んでも忘れれねぇからな。

「画材屋さん。落ち着いて。寿命が減るよ?ほら、私のお茶でも」
「肉屋のいれた茶なんて死んでも飲むか!俺を殺す気か!」
「そんなもったいないことしないですよ」

 薄っぺらい笑顔で肉屋がいうと、集まっていた店主全員が目をそらした。
 やっぱりこいつ、土に還ってくんねぇかな。

 さっさと話を切り上げて早く離れよう。こいつといると頭の血管がいくつもぶちぎれるか、こいつの首を俺がぶっちぎりそうだ。

「とにかくだ!午前中はギルドの仕事を停止して、午後から」
「邪魔するよ!若僧ども!」

 今度は誰だ!

「聞いたよ!フェスマルクの子供たちが遊びに来るんだって?何であたしに声をかけないのさ!」

 ドアを蹴破ってきたのは、マメばぁさんだった。
 この街でも少ないエルフの血が濃く出ているババアだ。かなり昔は美人だったのがわかるが、今はしわくちゃのババアで、乾物を持ってあちこちの村や町へ行商をしに行っている。

「いつ帰ってきたんだよ、マメばぁさん」
「一昨日だよ!それより、本当かい?店に行ったら会合をするっていうから飛んできたよ!」

 正直、早くお迎えがきてほしいババアだ。今回の会合もどうせ来ないだろうからマメばぁさんが雇っている従業員にマメばぁさんが戻ったら結果を聞きに来てほしいと伝えてはいた。
 何せ、このババアはすぐにどこかへ歩き回る徘徊老人だからだ。

「三年ぶりに顔を見たと思ったら相変わらず元気なババアだぜ」

 ポルティには品の補充などでしかもなかやか戻ってこない。俺も直接顔をみるのは三年ぶりなのだ。
 挨拶もないのは三年ぐらいババアにとったら取るに足らないもんだからなんだろう。

「あたしは一ヶ所にいれない性分さ!明後日にはまたリンメギンまで行こうと思ってるところさね」
「身軽なのはいいが、あの世まで行っちまってもしんねぇぞ」

 ボージィンや精霊の迷惑になるからせめて弱ってから旅立ってほしいが、このババアならそのままあの世に行く気がするな。

「はっ!この世に飽きてから、あの世を楽しみに行ってやるのさ!」

 何とも恐ろしいばあさんだ。足腰がしっかりしているのはいいことだが、少しは腰をすえてほしいところだ。
 だが、わりと助かる。マメばぁさんはしっかりしているからな…ババアだが、ただのババアじゃねぇし。

「それよりも!若旦那の息子だよ!何でも誘拐犯をぶちのめしたそうじゃないか!さすがはあたしが惚れた旦那様の血を継ぐだけはあるねー。あたしがお屋敷に奉公にでていたころなんてね、世の中は荒れていたもんさ。いいかい、あれはね」

 なげぇ。昔話が長すぎるぞ。ババア、無理すんな。ババアの恋愛話を聞いたって誰も喜ばねぇから。
 頬を染めて片想いの話をし始めるな。誰か魔法で墓場まで『転移』させろ。すぐ這い出てくるから遠くの墓場な。

「マメばぁさんがいっているのは、ティストールの旦那か?」

 ドーナツ屋は他所の出身だから知らねぇか。
 マメばぁさんのことはポルティ出身なら誰だって知ってる名物ばぁさんなんだけどな。

「違う。ティスのことは若旦那って呼んでんだ。マメばぁさんが旦那様って呼んでるのは、先々代のご当主のことだ」
「先代じゃなく、先々代?」
「フェスマルク家に仕えていたこともあるんだと」
「…ババアやべぇっす」
「だろ?…俺が洟垂れ小僧のころからあの調子だ。しかもババアのくせに俺より元気なんだぜ?犬っころもしばかれまくってたけどな」

 今じゃフェスマルク家に仕えているのは犬っころ…カルドとその家族、ランディぐらいのもんだが、昔のフェスマルク家は使用人も一流だった。マメばぁさんも今じゃこんなうるせぇババアだが、確かに一流だった。
 突発的な対処ができなきゃ、フェスマルク家に仕えるなんてできないからな…ある意味で呪われてるとしか思えねぇわ。問題に首を突っ込むなんてな。

「聞こえてんだよ!くそガキども!旦那様の男気の欠片でも、分けてもらいな!墓前はあっちだよ!あんないい男、あたしの人生でもみたことはないんだからね!」

 マメばぁさんが旦那様と呼んで慕っている先々代のご当主ってのは、魔法の腕はいまいちだったが、魔拳使いとしては一流だった。
 フェスマルク家はたまにだが、そういった人が産まれていた。魔法ではなく、魔力を拳に使う独特な拳法だ。
 どっかの島では同じ流派があるらしいが、その拳法を使えた使用人もティスは解雇したからもう見ることはないだろうな。

 魔法使いのフェスマルク家ってのが一番に思いつくが、お膝元ともいえるポルティ育ちの俺からすれば、別に変ではない話だ。

 二代目の血が出たらそりゃ、強いわな…大陸を割るような伝説の御仁だ。

 そういや上の子はもしかしたら魔拳を使えるかもしれないってティスがいってたが、体が弱いのに魔拳が使えるって思うなんざぁ、本当に親バカだな、あいつ。

「マメばぁさんの戯れ言はどうでもいいが、とにかく、厳重警戒な。いいか?冒険者になりたての若僧どもがフェスマルク家の子供たちに気取られでもしてみろ…奥方が来るぞ…」
「奥方が…来る…」

 肉屋がカップを落として震えている…いや、お前が一番恐怖しているのはわかるんだけどよ、どう考えたってお前が悪いし、許されたとはいえ、下手すりゃ今でも斬首されるだろう。

 神聖クレエル帝国中を恐怖に陥れた死人事件。その首謀者の子供たちの一人にして、当時まだ年齢が二桁にもいかなかった。ティスのとこの下の子よりも年齢が幼くして最年少の国家反逆罪となった男だ。

 俺が初めてあったときからそうだが、奥方の命令に絶対に従うようになっていた。事件のことは軽くしか知らないが…まぁ、よほどのことがあったんだろうな。

 あの奥方だしな…敵として一番会いたくない人間の一人だ。

「どうも上の子が冒険者の話を書いてるらしくてな…興味があるという風にいっていたらしい」

 なんとかというマンガ?とやらに使える話を聞きたいとかいっていたが、自分の父親かカルドか、ティルカにでも聞けばいいのにな。
 あいつらまさか自分たちが冒険者をやっていたことを黙って…そうだな。特にティス。かっこつけやがるから。

「気をつけろよ?この街のことも知られちゃいけねぇんだ」

 俺たちはあくまでポルティの店主のおっさんたちだ。高ランクの冒険者ってわけでもねぇ。
 それを通せばいいだけのことだ。
 めんどくせぇが…フェスマルク家にこそ、たまには平和な代があったって罰が当たらねぇだろ。

 風の精霊よ。そこんとこよろしく頼むぜ。
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