僕と彼の話

竹端景

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きねんび

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 用意をするからと、いつものように時間を潰して駅前のケーキ屋に予約してあったケーキを取りに行って、家に帰る。
 最初の頃は彼が甘い物が好きだからワンホールにしていたけれど、最近は半分でも少しきつくなってきたらしい。それでもほとんど彼が食べてしまう。

 僕は食べても食べなくても肉がつくのに、何で彼は食べても太らないんだろう?

 酒を飲んでも太らないとかずるい。僕は酒を飲み初めてから服のサイズが一つあがったのに。

「ただいま。買ってきたよ」
「お帰り。こっちも準備できてる」

 リビングに行けば、カレーライスと惣菜のコロッケ。つけ合わせのサラダとそれと味噌汁が並べられていた。
 ケーキを冷蔵庫にしまって食事をする。

「はい、今年も更新で」
「おう!更新ありがとうございまーす!」
「営業?」
「職業病だ」

 営業マンらしい彼のやりとりについ軽口をいえば、にやっと彼が笑う。

 僕が渡した紙を彼は小物入れになるオルゴール箱にしまう。だいぶ溜まってきたから、蓋が少しゆるそうだ。また新しいのを見つけないといけないかな。

「だいぶ溜まったね」
「な。応募したらくれたらいいのに」
「抽選?それともパンとかお菓子みたいに全員?」
「どっちでもいいな…お前がよければだけど」

 よく何ポイント溜めたら交換できる皿とか景品みたいにしてくれたら、きっと僕らのこの行為は無くなってしまうかもしれない。
 それは何だか寂しいと感じてしまう。

「風呂入ってからケーキを食おうぜ」
「明日でもいいんだけど」
「ダメ。今日、食べるんだって」

 だって初めての日はそうしたろ?

 そんな風にとろけた顔の君を見れなくなるのやっぱりもったいなくてさびしい。

 出せない婚姻届には僕と彼の名前を書いている。
 今日は僕が彼に婚姻届を渡した何度目かの記念日。

 僕たちは歳をとって、ケーキも小さくなって、僕の服は大きくなってしまったけれど、毎年変わらずこの日を過ごす。きっと来年も。
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