はいはい、異世界転生。異世界転生ね

詩月 七夜

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タイトル?いらねー

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「はいはい、異世界転生。異世界転生ね」

 交通事故に遭った俺(享年17歳)は目を覚まし、状況を把握すると、そう言った。
 周囲に広がる、光が満ちた世界…いわゆる「誰でも想像できそうな」神様の世界。
 目の前には、白い服をまとった、神々しいほど美しい金髪の女性…いわゆる「典型的な女神さま」
 もはや、疑うべくもない。
 美しい女神さまは笑顔のまま、汗を一筋垂らした。

「…ず、随分冷静なんですね」

「まあ、この手の展開?もう方々で十分使い古されてるし?いまのラノベじゃ『異世界』だの『転生』だのは吐いて戻すほど蔓延してるし?」

 そう言いながら、俺は空を向いて言った。

「あ、この先、チート能力で無双する展開だと思うなら、その通りだから。意外な展開を期待してるなら諦めて、別の作品を読めよ。後で『時間を返せ』って言っても応じないからな」

「だ、誰に言ってるんです…?」

 不審そうな顔の女神さまに、俺は空を指差して言った。

「いや、こういう場合、どうせどっかから誰かが見てるんだろうと思って」

「誰か!?見てる!?なんですソレ!?ここ怖いこと言わないでください…!!」

 途端に空を見ながらキョドる女神さま。
 神様の癖に、肝が小さい奴である。
 俺は、ガクブルする女神さまに、頭を掻きながら言った。

「いいから、とっとと転生先の説明をしてくれ。あと、ミッションも。まあ、どうせ魔王討伐辺りなんだろうけど」

「…」

 無言になる女神さま。
 俺は舌打ちした。

「…図星か。つくづく何て芸の無い」

「す、すみません」

「他に何かこう一風変わったのは無いの?あ、言っておくけど、悪役令嬢とかおっさん主人公で逆転劇…ってのもいいから。そういうゲップが出そうなのもいいから」

「あう…」

 固まる女神さま。
 俺は溜息を吐いた。

「じゃあ、もう魔王ぶっコロでいいよ。それと、一応聞いておくけど、何で俺はここに呼ばれたの?」

 そう尋ねると、ようやく説明の機会を得た女神さまは、両手を合わせて顔を輝かせた。

「そ、そう!それなんですけどね…」

 と、小さく咳払いをしてから、目を閉じて厳かに語り始める。

「…よくぞ来てくれました、新たなる勇者よ」

「サクサク頼むわ」

 俺が不機嫌そうに腕組みしてそう言うと、一転、女神さまは慌てて、

「あ、はい…実は貴方がここに来たのは、とある事故なんですが、それが実は…」

 俺はその些細なくだりを見逃さなかった。

「「完全な手違いでして…」」

 俺の声が女神さまの声に完全にハモる。
 世界に沈黙が落ちた。

「…嘘だろ。そこまでテンプレか」

 手で顔を覆いながら、大袈裟に溜息を吐きつつ、天を仰ぐ俺。
 一方の女神さまは、目を見開いたまま、プルプルと震えている。

「おい」

「はいぃぃぃぃ!」

 俺の低い声に、鬼教師に叱られた生徒のように背筋をシャンと伸ばす女神さま。

「も、いいや。とっとと転送おくれ

「え?あの…でも、この後、スキルパラメーターの振り分けとか転生する世界の成り立ちとか、説明が…」

「カットだ、カット。ここまでテンプレなら、皆まで言わんでも想像つくわ」

 すると、女神さまはモジモジしながら、

「…え、えと…一応、私も頑張って練習したので、その辺の説明セリフは言わせてもらえると、嬉しいな…なんて…」

 俺のジト目に、上目づかいになりながら、消え入りそうな声にそう告げる女神さま。
 俺は手をヒラヒラ振った。

「そんなの俺の知ったことか。ホレ、早く転送おくれ。安心しろ、魔王ならサクッと倒して来るから」

「…」

 俺の言葉に、涙目になりながら、衣の裾をギュッと握る女神さま。
 幼稚園児か。

「チッ、ならマキでやれ」

「あ、有り難うございます…!」

 そう言うと、女神さまの説明が始まった。
 まず、俺が送られる世界の名は、よくある横文字の「なんとかリア」(ネーミングがありきたり過ぎて、脳が記憶領域の使用を拒んだ)。
 そこに突如侵攻してきた「魔王なんとかラス」(以下同文。敢えて言うなら濁音のが多かった名前)。
 それで俺の能力値の上限値は、有象無象の神々の加護ご都合主義とやらによって軒並みMAX。
 割り振り可能なスキルポイントも常人以上出血大サービスの領域だった。

「分かった。じゃあ、これで」

 俺が手渡したタブレットサイズの石板パラメーター表を見た女神さまは目を剥いた。

「ちょ、ちょっと!スキルポイントが「剛力(こうげきりょく)」「健壮(ぼうぎょりょく)」のみに突出してますけど!?」

「だから何だ」

「…い、いえ、その…普通はもっとバランス良く割り振るとか?突出させるにしてももう少し…」

「魔王は生き物か?」

 突然の俺の質問に、目が点になる女神さま。

「え?あの…?」

「生き物じゃないのか?」

「そ、そんなことはない…と、思いますけど」

「そうか。なら、これでいい」

 女神さまは、恐る恐る聞いてきた。

「ええと、それはどういう…?」

「生きているなら、ブン殴り続ければ死ぬだろう?だから、腕っぷしと頑丈さがあれば何とかなる」

「で、でも、魔法が使えるスキルもあるんですよ?それに、勇者ってバランス良いパラメーターがセオリーだと…」

「魔法なら、どうせパーティーに加わる連中が使えるだろ。あと、器用貧乏オールマイティは個人的に好かん」

「…」

 絶句する女神さまに、俺は告げた。

「説明はこれで全部か?なら、転送おくれ。サクサク行くぞ、サクサク」


---------------------------------------------------------

 そして、魔王の城に辿り着いた。

 途中経過として、ギルドの連中に貸しを作って売ったり、王家のピンチを救い、もてはやされたり、親しい仲間が命を落としたり(強制蘇生させたが)、ありきたりな展開があったが、読むのも疲れるだろうから割愛する。

 魔王の城は、洗濯物が乾きにくそうな、年がら年中曇天の険しい山の上にあり、見る者に威圧感を与える造りをしている。
 内部は、あからさまに「ラストダンジョンです」という暗くて、一般人なら身も竦むような雰囲気だった。
 おまけに居住性最悪。
 常々思うが「魔王」という連中は、何故こうも合理性皆無の場所に居城を建て、更に内部まで複雑にしつらえるのだろうか?

「フフフフ…よくぞここまで来たな、勇者よ」

 城の最深部…やたらおどろおどろしい装飾が施された大広間に、一人の青年がいた。
 イケメンだが、肌は青みがかっているし、爪は長いし、側頭部からはねじくれた角が生えている。
 どう見ても、人間ではない。
 黒衣に身を包んだ美青年…「魔王なんとかラス」は、扉を開けてやって来た俺を見ると、玉座に肘をついたまま不敵な笑みを浮かべた。

「だが、貴様の悪運もここまで…だっ!?」

 スタスタと近付いていった俺は、問答無用で魔王の横っ面を思いっ切り引っ叩いた。
 スキル「剛力」に腕力MAX。
 諸々のアイテムで、もはや巨人族を片手でコロコロできる俺の一撃に、魔王は壁に叩きつけられ、痙攣する。
 腫れ上がった頬を抑えながら、ヨロヨロと身を起こす魔王。
 おお、さすがラスボス。
 結構タフだ。

「い、いきなり何をするか、貴様!?」

 牙を剥く魔王を、俺はジロリと見た。

「黙れ、魔王のクセに。そもそも、人様にこんだけ迷惑かけまくって『何をするか!?』じゃねぇだろうが」

「ま、『魔王のクセに』って…」

 呆然となる魔王。
 おおかた、ラスボスとして君臨し、誰もが恐れる立場にいるせいで、ザコ扱いされたこともないのだろう。
 まあ、そこそこの力はあるんだろうが、数々の試練お約束をこなして、さらに強大になった俺の敵ではない。

「よーし、んじゃ、手っ取り早く『ぶっコロ』するから、歯ァ食いしばれ」

「いや待て待て待て待て!」

 ボキボキと指を鳴らす俺を、納得いかない顔で制止する魔王。

「貴様、ナニ数々のプロセスをすっ飛ばしておるのだ!」

 魔王はそう言いながら、俺に指を突きつける。

「私は魔王だぞ?この世界の征服者だぞ?そんな存在と出会って何か思うところとかリアクションがあるだろう、普通!?」

「どんな?」

「例えば、宿敵との邂逅に歯を噛み締めて睨み合うとか、これまでの苦難の旅路を振り返って、モノローグが流れるとか!」

「ああ、そんなありふれた展開はカットした。面倒くさいし」

「カットって…」

 絶句する魔王。

「じゃ、じゃあ!せめてこの魔王たる私の口上だけでも聞くとか!」

「時間の無駄」

「な、何だと…」

 魔王の心がへし折れる音が聞こえる。
 が、辛うじて踏みとどまる魔王。
 うって変わって弱弱しく再三尋ねてくる。

「で、でも、ホラ!私がどんな奴なんだろうか?とか、どんな野望を持っているのか?とか、あの時、何で無関係な人間を殺したんだ?的な、謎もあるし?もっとお互いのこと、知った方が盛り上がるだろう?」

 何か、交換日記を申し込んできてるような台詞だ。
 それに、これから戦う相手と盛り上がってどうする。
 しかし、俺は無情に告げた。

「大体推測できる。どうせありきたりだし」

「…」

 事実だったのか、とうとう無言になる魔王。
 と、俺は思い出したように言った。

「あ、そうそう。一個だけ聞いとくことがあったんだ」

「な、何だ?」

 魔王がパァッと顔を輝かせる。
 俺は笑顔で右手の神剣を見せつつ、左の拳を握って尋ねた。

聖剣これで叩き斬られるのと、正拳こいつでボコボコにされるの、どっちが良い?」

「…いい加減にしろ、貴様!」

 全身からドス黒いオーラを立ち上らせつつ、魔王が低い声で告げる。

「勇者!」

「気を付けろ!」

「くっ、何てオーラなの!」

 そう言いつつ、仲間の聖戦士(筋肉男)、大僧正( じじい)、大魔導師(エルフ女)が口々にそう叫ぶ。
 あ、すっかり忘れていたが、彼らはいずれも旅の途中で俺のパーティーに加わった面々だ。
 一緒に強敵に挑んだり、仇討ちに協力したり、仲間に加わる条件に難題を科されたりして、今日まで苦楽を共にした、頼れる連中である。
 ま、そもそも魔法を使えない俺の代わりにMP(マジックポイント)代わりになってくれているだけなんだが。
 身構える仲間たちを、俺は手で制した。

「あ、皆は危ないから下がってて。あれくらいなら、俺一人でどうにかなりそうだし」

 それを聞き、三人の目が点になる。
 我に返った聖戦士が怒鳴った。

「な、何を言ってるんだ、勇者!これは正真正銘、世界の命運を賭けた最後の戦いなんだぞ!?ここは全員で協力して…」

「でも、物理攻撃力なら、俺一人で足りてるし。君は『防御』一択でいいよ。残りの二人は、適当に魔法で支援して」

 それを聞き、聖戦士がガックリ膝をつく。

「ま、またかよぉぉぉぉぉ~!いつもいつもコレだ!やることは『防御』か『道具を使う』くらいで、一回も戦ってねーし!おこぼれの経験値でせっかく上級職になっても『薬草』使うのだけ上手くなってるし!」

「な、泣くでない、聖戦士!」

「そうよ!あたし達なんて、MP尽きたら貴方以下なのよ!」

 大僧正と大魔導師が、もらい泣きして慰め合う。
 うんうん。
 色々あったけど、やっぱ、うちのパーティーはチームワーク抜群だよな。
 俺はただ一人、魔王に向き直った。

「さーて…選ばないなら、こっちで好きにぶっコロさせてもらうぞ?いいな?」

「ほざけ!我が力にて、貴様のはらわたをブチ撒けてくれるわ…!!」

 魔王が邪悪な笑みを浮かべる。
 そして、最後の戦いが幕を開けた。



 追伸。
 結局、まで含めて、二十発くらい殴ったら魔王はくたばった。
 結構、粘った方だと思う(でも、死にざまもお約束だった)。

---------------------------------------------------------

 戦いが終わり、大僧正に傷を癒してもらっていると、不意に大広間に光が差した。
 見上げると、光の中にあの女神さまが浮かんでいる。
 驚き、慌ててひざまづく仲間達。
 その中で、俺だけが平然と片手を挙げた。

「よっ、久し振り。見ての通り、魔王なら駆除したぞ」

「…あ、あはは…あははははは…転送して一カ月足らずで魔王を討伐するなんて…あはははは…」

 信じられないものを見るような目で、乾いた笑いを浮かべる女神さま。

「手慣れ過ぎてませんか、貴方!?」

 俺はこともなげに、

「そうか?でも、神様あんたのバックアップもあったし、色々余計なプロセスをかっ飛ばすと、こんなもんだろ、魔王討伐なんて。」

 大体、神様の加護チートをもらってラスボス討伐まで時間をかける勇者なんて、そいつがよほどの無能か、原作者が自己満足で尺を伸ばしたいだけだろ。

「…(汗)」

「さて、そんじゃボチボチ元の世界に戻してくれ」

 その言葉に、放心していた女神さまは、我に返った。

「それは…できません」

「なに?」

 思わず聞き返す俺。
 それに、ひどく神妙な顔で女神さまは続けた。

「貴方を元の世界に戻すは出来ないのです、勇者よ」

「ちょっと、待て!嘘だろ!?」

 女神さまの話では、この世界に「転生」した以上、その世界の生命として、魂が定着してしまうため、異なる世界へ容易に転生できなくなってしまうとのことだった。

「そ、そんな…」

 甲子園の負け投手のように、ガックリ両手を地面につく俺。

「勇者…」

 それを痛ましそうに見つめる女神さまと仲間たち。
 俺は震える声で続けた。

「そんな…そんな…」

 見かねたように、聖戦士が俺の肩を叩く。

「らしくないぞ、勇者!」

「そうよ!よく分からないけど、あたし達もついてるから!」

「その通り!これからもずっとワシらは仲間じゃ!ずっと一緒じゃ!」

 その様子に、女神さまがふと微笑む。

「よき仲間に恵まれましたね…勇者」

「…そんな…そんなとこまで…」

「え?」

 ワナワナと震える俺。
 何やら様子がおかしいのを察して、女神さまと仲間たちが一歩後退る。
 俺はガバッと起き上がり絶叫した。

「お約束なのかよ…!」

「「「「問題そこ!?」」」」

 全員が唱和したという。


 再び追伸。
 その後、世界は平和になった。
 そんなとこも「お約束」だ。
 やれやれ。

      -Fin-
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