【8月8日「妖怪の日」記念短編集】「汝、妖」 -いまし、あやかし-

詩月 七夜

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第七話 砂かけ婆

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 昔々。

 奈良県の山奥の神社で、近くの竹やぶを通りがかった人が、何者かに砂を掛けられるという事件が起こっており、いつしか妖怪“砂かけ婆”の仕業であるとされた。

 ある日、めぐるという若者が、この神社を訪れた。
 怪我を負い、床に伏している母親が早く良くなるようにと、お参りに来たのである。
 その道中の事。
 人気のない参道を歩いていると、巡は一人の女と出会った。

「あらあら。こんな場所に人が来るなんて、久し振りですねぇ」

 しっとりとした雰囲気の和服美人のその女は、美砂みさと名乗った。
 聞けば、神社を管理する務めに就いているという。
 巡の身の上話を聞くと、美砂は大層気の毒がった。

「それは難儀な事です。ご同情申し上げますわ」

「有り難うございます。ここに祀られた神様『樹御前いつきごぜん』は、霊験あらたかで、病や怪我を負った者を癒して下さると聞き、こうしてお参りに来たのです」

「そうでしたか。では、私が神社までご案内いたしましょう」

 美砂の申し出を有り難く受けると、巡は神社を目指した。
 すると、古びた鳥居が見えてきた。

「あれが、第一の鳥居です」

「え?」

「この先に、あと十一の鳥居があります。全部で十二ですね、はい」

「は、はあ」

 にこやかにそう告げる美砂に、巡は戸惑ったように聞いた。

「何故、そんなに鳥居があるんですか?」

「それは、あたいが教えてやろう!」

 不意に。
 鳥居の影から、一人の女が姿を現した。
 褐色の肌に黄金の髪をなびかせた、大柄な女である。

「あたいの名前は“牛鬼うしおに”のかがり!この第一の鳥居を守護する黄金妖闘士ゴールドガイスト!」

 巡の目が点になる。

「…ええと…何やってるの、篝?」

「見て分かんねぇか?門番だよ、門番」

「門番って…(汗)」

 唖然となる巡に、篝がニッと笑った。

「この古多万こだま神社には、十二の鳥居があって、それぞれに門番として「黄金妖闘士ゴールドガイスト」と呼ばれる守護者がいるのさ」

「どこかの聖域みたいだね…って、何でそんなに門番が要るのさ!?」

「そりゃもちろんその方が面白…いえ、苦難に負けないほどの強い意思を持った人の願いこそが、叶えられるべきだからです」

 美砂の説明に、巡が頭を抱える。

「な、何か本編でも似た展開があったような…」

「という訳で、早速勝負だ!あたいに勝ったら、ここを通してやる!」

「勝負っていっても…僕と篝とじゃ全然勝負にならないよ!?」

「それも問題ありません」

 そう言うと、美砂は穴の開いた箱を取り出した。

「勝負方法は、人間と妖怪が公平に行える内容をくじ引きで決める方式ですので」

 それに、今度は篝が目を剥いた。

「はぁっ!?そんなの聞いてねぇぞ!?素手喧嘩スデゴロじゃないのかよ!?」

「はい。何せ、お参りに来るのは、ほぼ人間の皆さんですから」

 すると、篝は苦虫を噛み潰した顔で、

「えーい、クソ!久し振りに大暴れできると思ったのに!仕方ねぇ!何でも来い!」

「はい、ではくじを引いてください、十乃とおのさん」

「は、はい…な、何でこんな事に」

 ボヤキながら、くじを引く巡。
 くじには、

『トランプ札でピラミッド作成』

 と書かれていた。
 それを見た篝の顔が、派手に引き攣る。


 数分後。


「勝負あり。十乃さんの勝ちです」

「やった…!」

 喜ぶ巡の隣りで、一段も完成できなかった篝が崩れ落ちている。

「ムリ…どだいムリなのさ、あたいにゃ…タマゴだって割るときに粉砕しちまうくらいだし…」

「なかなかやりますね、十乃さん」

 瀕死の篝を横目に、にこやかに巡へそう告げる美砂。

「でも、篝さんは黄金妖闘士ゴールドガイストの中でも一番の小物。次はそうはいきませんよ?」

「いや、その台詞は本人の前で言わない方が…」

 倒れ伏したまま、しくしく泣きだす篝を心配そうに見る巡の背を押し、美砂は虫も殺さないような微笑みで告げた。

「さ、次へ参りましょう。期待しております、十乃さん」



 それから、巡と黄金妖闘士ゴールドガイスト達との激戦が続いた。



「え、えーと、王手!」

「ぬあ!?や、やるでござるな、十乃殿…!」



 それはまさに、血で血を洗う激戦の連続だった。



ピンポーン!

「はい、十乃さんのが早かった!」

「か、鴨南蛮?」

ピンポンピンポン!

「盛者必衰…か、完全敗北…!」



 しかし、巡は諦めなかった。



「カバディ、カバディ…」

「こ、こいつ、意外と隙が無いジャン!」
「ダーリン、負けるなじゃん!」



 数々の激戦を潜り抜け、巡は遂に教皇の間…ではなく、最後の鳥居へ辿り着いたのである。



「うふふふ、ここまで辿り着くとはお見事です、十乃さん」

「ハァハァ…あ、有り難うございます」

「さて、ではこれが最後の勝負になります。心の準備はよろしいですか?」

「こ、ここまで来たら、もう何でも…あれ?でも、最後の黄金妖闘士ゴールドガイストがいませんけど…?」

「いいえ、おりますよ」

 そう言いながら、美砂はすっと自分の胸に手を当てる。
 
「最後の黄金妖闘士ゴールドガイストは…何を隠そうこの私です…!」

 勿体ぶった口調でそう告白する美砂に、巡は驚きもせずに言った。

「あ、やっぱりそうなんですね」

 あっさりそう言う巡に、笑顔のまま固まる美砂。

「…気付いてたんですか?」

「はい」

「ええと…いつから?」

「篝との勝負の後、貴女が『お参りに来るのは、』と仰っていたので」

「…」

「自分が人間なら『人間の皆さん』とは言わないですよね?つまり、貴女も妖怪なんでしょ?」

「…」

「あと、貴女の性分なら、きっとこういうどんでん返し的な演出をやりそうかな、と思いました」

 美砂はそっと、袖口で目元を覆った。

「これが本当の『後足で砂をかける』…時々勘が鋭くなる十乃さんは嫌いです」

「上手くまとめないでください…!」


 その後。
 全クリの景品として「河童の軟膏」を美砂から分けてもらった巡は、それを使って、無事に母親の怪我を治すことができたそうな。

 “砂かけ婆”に関係ない話で、あなおそろしきことなり。
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