世界唯一の妖喚師 ~転生したらスキル「召喚」が「妖怪限定」でした~

詩月 七夜

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第十九話 どえれぇ奴隷

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 暗い通路は、やがて地下へと降りる階段になった。
 階段の途中にある魔法の光を灯したカンテラが照明となり、足元を照らしているので、思ったより歩きやすい。
 しばらく歩き続け地下にたどり着くと、大きめの部屋に出た。
 部屋は総石造りで大きい。
 いくつかの通路や扉もあるところを見ると、玄関口エントランスのような役割を果たしている場所なのかも知れない。

「お求めの奴隷達は、この奥に待機させております」

 ガビーがそう言いながら、俺とビルギットさんを一つの扉を先導する。
 この男、左足が義足だけど動きは機敏だ。
 身のこなしもただ者じゃない。
 もしかしたら、昔は冒険者か何かをしていたのかも。
 そうして進むと、やがて通路は異様な様相を呈してきた。
 左右に牢屋のような部屋がいくつも並び、その中には…何人かの奴隷がいた。
 男もいれば女もいる。
 年老いたものは少ないが、子供は多めだ。
 人種も人間族だけでなく、亜人族や獣人族までいる。
 皆、通り過ぎていく俺達を見ていた。
 その視線にはすがりつくような色もあれば、諦念の色もある。
 俺と年が変わらない少年・少女達の目に浮かぶそれを浴びるのは、何とも居心地が悪い。
 腰の魔王の小槌こづちがぼやいた。

『…ここはまるでゴミ溜めだわね』

 まあ、小槌が言いたいことは分かる。
 彼らの見なりを見る限り、牢屋の中に居こそすれ、別に扱いが酷いということはなさそうだ。
 が、ここにいる奴隷達からは、生きる意志や希望なんかが根こそぎ失われている。
 奴隷となった己の身の上について、全てを諦めているんだろう。
 俺は努めてガビーの背中だけを見詰め、牢の中からは目を外しながら進んだ。
 奴隷という馴染みのないものを見て、俺は改めてここが異世界であることを痛感する。
 と、その時、

『…あれは』

 小槌がわずかに動き、クイッと俺を引っ張った。
 その方向を見やると…

(…な、何だ、アレ…)

 俺は思わず立ち止まり、その牢屋の中を見詰めた。
 その牢屋には、幽霊がいた。
 いや、正しくは幽霊のような人間だ。
 肌は白く、長い髪の毛も白い。
 あまりにも白いので、暗い牢の中で発光しているのかと思ったほどだ。
 身体は本当に細かった。
 手足は枯れ枝のようで、今にも折れそう。
 髪の毛でその表情は見えないから、年齢も性別も分からない。
 死人同然のその姿に、俺は異様なものを感じた。

『な、何であんなモノがこんな所に…!?』

 珍しく激しく動揺した声を上げる小槌。

(なに?どういうこと?)

 思念でそう問い返すと、小槌は低い声で言った。

『アレは普通じゃない…を持った存在がこの世界にいるはずが…』

 そこまで言って、小槌が黙り込む。
 思わず腰の小槌に目を落とした俺は、次の瞬間、弾かれたように顔を上げた。
 な、何だ…この気配は…!?
 見ると、牢屋の中の幽霊が俺の方を見ていた。
 相変わらず長い髪に隠れてその表情は分からないが、確実に俺を見据えている。
 それだけで、俺の全身が総毛だった。
 恐怖ではない。
 殺気というわけでもない。
 ただ、知らずに体が身構えていた。
 
「アルトさん?どうしました?」

 立ち止まったままの俺を、ビルギットさんが怪訝そうに振り返る。
 ハッと我に返った俺は、牢の中に目をやった。
 幽霊は元の姿勢になり、うつむいている。
 流れる冷や汗をそっとぬぐうと、俺は慌ててビルギットさんを追い掛けた。

「どうしたんです!?顔色が悪いようですが…」

 俺のただならぬ様子に、ビルギットさんが驚いてそう言った。
 俺は咄嗟に笑顔を作った。

「す、すみません。慣れない場所だったので、気分が落ち着かなくて」

「もう少しの辛抱ですよ。さあ、こちらです」

 奥にあった一つの扉を開けながら、ガビーがそう言った。
 扉の奥にはちょっとした広さの部屋があった。
 そして、そこに三人の男女がいた。
 一人は精悍な茶髪のエルフ族の若者。
 一人は長い金髪の人間族の女性。
 一人は屈強な灰毛の狗人ドックマン族の巨漢。
 三人とも種族は違うが、いずれもただならぬ雰囲気を放っている。
 面構えも強者のそれだ。

「この三人がお客様がお求めになっている条件を満たす奴隷達です」

 ガビーがそう言うと、三人は自信に満ちた目つきで俺を見下ろした。
 それを受けつつ、俺は内心首をひねった。
 この人達が…ステラ三つ等級ランク…?
 確かに百戦錬磨の冒険者みたいな雰囲気を放っているけど…

「いかがです?気になる者はいましたかな…?」

「…そうですね」

 俺は顎に手を当て、考え込んだ。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「ご希望に添えず、残念です」

 ガビーが肩を竦めてそう言った。
 結論、俺は三人のうち、誰も選ばなかった。
 別にガビーが嘘を吐いた訳じゃない。
 あの後、三人の技量を見せてもらったが、いずれも手練れだった。
 確かにステラ三つ等級ランクの冒険者の資格は持っていたし、その点では間違いなく優秀だったのだが…
 正直、三人とも俺が瞬殺したドルアドのおっさんよりも劣っていた。
 そうなってしまうと、いささか心許ない。
 少なくともドルアドのおっさんより強そうでないとね。
 高望みかも知れないけど、ナーシャさんに聞いた緑の迷宮グリーン・ヘルの情報を聞く限り、その辺が合格ラインと考えざるを得ない。

「お役に立てず、すみません…」

 奴隷三人がいた部屋を後にし、来た通路を戻る途中でビルギットさんが申し訳なさそうにそう言う。
 俺は慌てて、

「いえ!せっかく俺に選ばせてもらったのに、こんな結果になってしまって…俺の方こそ申し訳ないです」

 しかし…本格的に参ったな。
 他で人手を補うにも、ステラ三つ等級ランクの冒険者となると、そうはいない。
 そうして内心頭を抱えていると、例の幽霊がいた牢に差し掛かった。
 去り際に見ると、幽霊は先程と同様、うつむいたまま微動だにしない。
 その姿を見た俺は、何故か歩みを止めた。
 そして、前を行くガビーに呼び掛けた。

「…あの、ガビーさん。ちょっといいですか…?」

 振り向くガビーに、俺は幽霊を指差した。

「あの人はどういう方なんです…?」

 俺が指す牢を見やり、ガビーは少し眉をひそめた。

「ああ、アレですか」

 その口調に、厄介者を見た時のような色がにじみ出る。

「何年か前に売られてきたハーフエルフのガキです。その時はまあ、見栄えも良かったのですぐに売れると思ったんですが…」

 溜息を吐くガビー。

「食も細く、やせ細ってあっという間に病にもなっちまって、買い手もつかずにあのまま売れ残っているんです」

「お医者さんには診せたんですか?」

「ええ。でも、本人は言葉も喋らないし、文字を書く気力もない。だから、治療もロクにできず、何とか生きてるって状態です。まさに見たまんまの幽霊です」

 俺はもう一度幽霊を見やる。
 相変わらず幽霊は無反応だ。
 けど…ここを通り過ぎた時に感じたあの感覚は、一体何だったんだろう…?

(なあ、小槌。あの奴隷どう思う?何か知ってるのか?)

 先程の小槌の反応を思い出し、俺は念話で小槌に問い掛けた。
 よく分からないけど、小槌はあの幽霊のに反応していたのは確かだ。
 魔王である山ン本のおっさん謹製のこの万能魔具があれほど反応したんだ。
 この幽霊には何かあるはずだ。

『…あたしは正直関わりたくないのだわ』

 そんな弱気な感想を述べる小槌。
 意外だな。
 いつも強気なこいつがそんな風に尻込みするなんて。

(そらまた何で?)

『さっきも言ったけど、アレはを持ってるだわ。貴方もそれを感じたから、ああいう風に身構えただわ』

(…確かに。何か普通じゃない感じはしたな。でも、そのってのは一体何なのさ?)

 俺の疑問に、小槌は少し黙った後、

『あの…「霊力」を持ってるだわ』

(霊力…?いや、っていうか女の人だったの…!?)

 念話で思わず驚きの声を上げる俺。
 まあ、確かに髪は長いから、そう言われればそうも見えるけど…
 それはともかく「魔力」「法力」「妖力」の次は「霊力」ときた。
 この世界、色んな「~力」が溢れててぼちぼちインフレを起こしそうだぞ。

魔術師メイジ達は、世界に満ちる「魔力」を。聖職者達は、神への信仰で得られる「法力」を。そして、妖喚師である貴方や妖怪は「世界の摂理から外れたモノ」として生まれ持った「妖力」をそれぞれ力の根源として使う…これはもう分かってるだわね?』

(うん)

 頷く俺に小槌は続けた。

『それらに対して「霊力」は「世界の摂理に内包された生命体が持つ魂の力」そのものといってもいい力だわ』

 魂の力…?
 何だか漠然とした力だな。
 いまいち理解してない俺。

『それゆえ「霊力」は「妖力」に対抗しうる力でもあるだわよ』

(…それってつまり…)

 息を飲む俺に、小槌が静かに告げる。

『あたし達のだわよ』
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