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思いがけない再会1
その日、エリオット・オーブリーはギロチン台へ向かう気持ちで馬車に乗っていた。
突然家に来た使者は丁寧に、だが有無を言わせない口調で、エリオットをクレール家に招待すると言った。クレール家の封蝋が押してある招待状を渡されては、両親も反対できない。
そのままの服装でいいと言われたが少し時間をもらいきちんとした服に着替え、馬車に乗りこむ。
……馬車に家紋が入っていない。
もしやこのまま殺されるのではと青ざめたエリオットを見て、使者はなだめるように言った。
「クレール家に招かれたことを知られないほうがいいかと思いまして、このように致しました。クレール家にお連れいたしますのでご安心ください」
ご安心できないと思いながら、エリオットはぎこちなく頷いた。
最近クレール家のまわりは騒がしい。カミーユ殿下のパーティーでアデルが自作自演をしたとか、フェイユ家を陥れたとか、そういう暗い噂が社交界に疎いエリオットの耳にも入ってくるほどだ。
息子を死地に送るような表情で、両親がエリオットを見送った。
オーブリー家は医者の家系で伯爵位を持っているが、あのクレール家に呼び出されては逆らえない。
窓から両親の姿が見えなくなるまで見ていたエリオットは生きた心地がせず、クレール家についた時には精神をすり減らしきっていた。
豪華な応接室に通されても楽観視できず震えていると、ドアがノックされた。
「ど、どうぞ」
少々裏返った声で答えると、ゆっくりとドアが開いた。
「君は……」
そこにいたのは、少し前に出会った少女だった。
上品な紫の髪に、濡れたアメジストの瞳をまだ覚えている。失恋したと泣いていた、可愛い少女が目の前にいる。
「改めまして、アデル・クレールと申します。この間は名乗らなくてごめんなさい。アデルだと言ったら、きっと嫌われると思って……」
下を向くアデルを支えたのは、あの日エリオットを鋭い目つきで見ていた騎士だった。
「……そっか。君がアデル・クレールだったんだね」
「ええ。黙っていてごめんなさい」
「いいよ、気にしてない。僕だってきちんとエリオット・オーブリーだと名乗らなかったんだから」
おずおずと顔を上げたアデルの微笑みは可憐な花がほころぶようで、エリオットは思わず赤面しかけ……すんっと真顔になった。
(えっ、怖。あの騎士の目つき怖すぎない?)
テオバルトはすでに人好きのする笑みを浮かべていたが、エリオットはその独占欲に気付いてしまった。
(話し合ってうまくいったのかな。よかったなぁ)
アデルのことを気にしていたエリオットは、にこにこと二人を見た。その笑みにアデルの緊張も解け、テオバルトと二人でソファーに座る。
「こちら、私の婚約者のテオバルト・ヴァレリー様よ」
「よろしく、エリオット」
「よろしくお願いします。エリオット・オーブリーです」
力強い握手を終えると、エリオットは話を切り出した。
この後はお茶を飲みながらたわいもない話をしていると見せかけて相手の腹を探りあうのが貴族のやり方だが、長居するのはよくない気がする。
それに、エリオットがすぐに本題に入っても、アデルならわかってくれるような気がした。
「わざわざ俺を呼び出したんだから、何か用事があるんだよな?」
「うん。エリオットに聞きたいことがあって。私とテオバルト様が、テオバルト様の冤罪を晴らそうとしているのは噂で聞いていると思うんだけれど」
「えっ、そうなの?」
「ふふっ、実はそうなの」
騎士団長が変わったことは知っていたが、冤罪だとは知らなかった。
騎士団はレノー家の管轄で、レノー家の息がかかった医者が雇われているのが暗黙の了解だ。そのせいで、オーブリー家は騎士団に詳しくなかった。
突然家に来た使者は丁寧に、だが有無を言わせない口調で、エリオットをクレール家に招待すると言った。クレール家の封蝋が押してある招待状を渡されては、両親も反対できない。
そのままの服装でいいと言われたが少し時間をもらいきちんとした服に着替え、馬車に乗りこむ。
……馬車に家紋が入っていない。
もしやこのまま殺されるのではと青ざめたエリオットを見て、使者はなだめるように言った。
「クレール家に招かれたことを知られないほうがいいかと思いまして、このように致しました。クレール家にお連れいたしますのでご安心ください」
ご安心できないと思いながら、エリオットはぎこちなく頷いた。
最近クレール家のまわりは騒がしい。カミーユ殿下のパーティーでアデルが自作自演をしたとか、フェイユ家を陥れたとか、そういう暗い噂が社交界に疎いエリオットの耳にも入ってくるほどだ。
息子を死地に送るような表情で、両親がエリオットを見送った。
オーブリー家は医者の家系で伯爵位を持っているが、あのクレール家に呼び出されては逆らえない。
窓から両親の姿が見えなくなるまで見ていたエリオットは生きた心地がせず、クレール家についた時には精神をすり減らしきっていた。
豪華な応接室に通されても楽観視できず震えていると、ドアがノックされた。
「ど、どうぞ」
少々裏返った声で答えると、ゆっくりとドアが開いた。
「君は……」
そこにいたのは、少し前に出会った少女だった。
上品な紫の髪に、濡れたアメジストの瞳をまだ覚えている。失恋したと泣いていた、可愛い少女が目の前にいる。
「改めまして、アデル・クレールと申します。この間は名乗らなくてごめんなさい。アデルだと言ったら、きっと嫌われると思って……」
下を向くアデルを支えたのは、あの日エリオットを鋭い目つきで見ていた騎士だった。
「……そっか。君がアデル・クレールだったんだね」
「ええ。黙っていてごめんなさい」
「いいよ、気にしてない。僕だってきちんとエリオット・オーブリーだと名乗らなかったんだから」
おずおずと顔を上げたアデルの微笑みは可憐な花がほころぶようで、エリオットは思わず赤面しかけ……すんっと真顔になった。
(えっ、怖。あの騎士の目つき怖すぎない?)
テオバルトはすでに人好きのする笑みを浮かべていたが、エリオットはその独占欲に気付いてしまった。
(話し合ってうまくいったのかな。よかったなぁ)
アデルのことを気にしていたエリオットは、にこにこと二人を見た。その笑みにアデルの緊張も解け、テオバルトと二人でソファーに座る。
「こちら、私の婚約者のテオバルト・ヴァレリー様よ」
「よろしく、エリオット」
「よろしくお願いします。エリオット・オーブリーです」
力強い握手を終えると、エリオットは話を切り出した。
この後はお茶を飲みながらたわいもない話をしていると見せかけて相手の腹を探りあうのが貴族のやり方だが、長居するのはよくない気がする。
それに、エリオットがすぐに本題に入っても、アデルならわかってくれるような気がした。
「わざわざ俺を呼び出したんだから、何か用事があるんだよな?」
「うん。エリオットに聞きたいことがあって。私とテオバルト様が、テオバルト様の冤罪を晴らそうとしているのは噂で聞いていると思うんだけれど」
「えっ、そうなの?」
「ふふっ、実はそうなの」
騎士団長が変わったことは知っていたが、冤罪だとは知らなかった。
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