LARGE NUMBER SQUAD

エルマー・ボストン

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第一章 ラージナンバースクワッド、活動の記録

新人・遠藤 未來の復活

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「(ウルヴズ、と、ブルース…どっちの方がカッコいいんだ…?いやそれよりも、鋼一本人はどっちがいいんだ…?
本人の意向に合わせるべきだよな。
でも、一度言ったことを撤回するのは、俺のポリシーに反する…。どうするかなぁ…。)」

訓練終了後、未來は1人、トレーニングルームの窓を開け、何があるわけでもなく空を見上げながらボーッとしていた。

チームメイトたちは皆、普段とは明らかに様子の違う未來を心配しているが、あまり干渉しすぎると逆効果なのでは?と考え、しばらくは遠目から見守ることにしたのである。

「(みんな、帰ったのか。…俺も帰るかぁ。)」

未來はトレーニングルームのドア開閉ボタンを押すと、扉が上方向にプシュッと開く。そして俯きながら、彼は部屋を後にするのだった。

「あたっ!いっ、て…。」

俯いていたせいで、ルームを出た途端に誰かとぶつかり、盛大に鼻を痛める未來。

「遠藤隊員、どうした?大丈夫か?
呆けたまま歩いては危ないぞ。」

あまりの痛みに、涙目で顔を押さえてうずくまっていた未來に手を差し伸べる、ぶつかった相手。
一茶子だった。

「うわ、し、司令!すみませんでした!ボーっとしてたせいで…お怪我はありませんか?!」

未來は、突然のトップの登場に、慌てて立ち上がり深々と頭を下げる。

「キミこそ怪我はないか?…それよりどうしたんだ?キミらしくないな、そんなにテンションが低いなんて。
何か、悩み事かね?」

「あ、いえ、そういうワケでは…。」

慌てっぱなしのまま、なんとかその場を取り繕うとする未來であったが、彼は考えていることが全て顔に出るタイプだった。

「…よかったらなんだが。
私は先日の『お疲れ様オムライス会』に参加できなかったのでな。今、無性に食堂のオムライスが食べたいんだ。
よかったら付き合ってくれんか?
キミは好きなものを食べて構わない。」


それを聞いた未來は、悩みよりも食欲が勝ち、途端にパッと表情を和らげた。


「ははは、若者はいいな。健全な悩みだ。」

「いや…俺、自分でも分かってるんス。こんなちっぽけで、くだらない悩み…ガキっぽいっスよね。そんなんでチームに迷惑かけるなんて、良くないって…。」

大盛りのカツ丼を平らげ、デザートのあんみつをムシャムシャと頬張る未來。
そして口周りををケチャップまみれにしながら、一茶子は悩める若者の言葉に耳を傾けていた。


「そうだな…確かに大人の悩みに比べれば、スケールとしては小さいかもしれない。だが、今のキミの中では、それは非常に大きな問題なワケだ。そしてキミはその事を、重要な事だと、解決しなければならないと認識しているのだろう?
素晴らしいじゃないか。」

大盛りのオムライスを平らげた一茶子は、食後のコーヒーに興じる。

「うーん、そうなんスかね…自分でもよくわかってなくて…。」

「キミは、仲間のことが『好き』なんだな。つまりだ。キミは元々、チームメイトのコードネームの呼び方を
『勝手に決めてしまった』事、そして
『1度決めたことは曲げたくない』と悩んでいた。
だがその悩みが大きくなり、周囲に影響を及ぼすまでになってしまい、新たな悩みが生まれてしまった。
そして今もなお、その悩みが膨れ上がり続けているのだね。」

スプーンを置き、静かに頷く未來。
一茶子はその姿を横目に見て、ふっ、と笑みをこぼす。

「解決したいのなら、簡単だ。
青倉隊員にその悩みを打ち明け、
自分が思っていること、そして自分はどうしたいのかを、伝えてみるといい。
彼らだってキミを心配しているんだ、キチンと伝えれば、わかってくれるさ。」

コーヒーを飲みながら、一茶子は
『若さ』をヒシヒシと感じ取っていた。
実にくだらない悩みだが、それに対して本気になれる、それも一つの『若さ』。

「…そうっスよね!俺、みんなのことすげぇ好きなんス。だから、話せば分かってくれるっスよね!司令、ありがとうございます!俺、いってきます!…あ、カツ丼ご馳走様でした!」

思い立ったら即行動するのが未來である。
一茶子の話を聞き、未來は眉をキリリと締め立ち上がったかと思うと、何かを決断したように颯爽と食堂を後にするのだった。

「ふふふ、若さって…いいなぁ。」



「・・・おや?志藤隊員と小野田隊員、それに楠田教官まで。どうしたんだ、帰ったんじゃなかったのか?」

あたりが仄暗くなり始めた頃、帰り支度を済ませ基地を出たところで、一茶子はルーキーズと担当教官に出くわした。
3人は基地の壁に身体を隠し、頭だけ出した状態で、何やらコソコソとしている。

「あ、し、司令!え、えっとですね!
実はかくかくしかじかで…。」

「ほう?青倉隊員を呼び出した遠藤隊員が心配で、様子を見に来た?なるほど。」

一茶子の登場に驚きつつも、教官が小声で状況説明を行う。
詳細を聞いた一茶子は、思わず壁に隠れるように身を躍らせた。暗がりの壁から4つの顔が、まるで団子のように並ぶ。
ちょうどその頃、呼び出しに応じた鋼一は未來と顔を合わせ、何やら神妙な面持ちで、話が始まるのを待っていた。


「鋼一、わざわざ悪ィ…。ただ、どうしても伝えなきゃいけないと思ってよ…。」

「う、うん…大丈夫だよ。それで、どうしたの…?」



「おう。
 俺の気持ち聞いてもらってよ、そんでお前の気持ちも、確認したいんだ。



 …俺、お前のこと好きだからよ…!」




未來は、口下手な上に、本番に弱いタイプだった。


「教官…これは、一体…何が起こってるんでしょう…?!」

「うふ、うふふふふふふ…
少なくとも、私にとってはとっても嬉しい出来事が起こっているよォ凛ん!つまり未來が悩んでたのって…
うふ、うふ、うふ…。」

「私ィ、教官のそういう趣味理解出来なかったけどォ…い、いいかもォ!」

「(遠藤隊員…事情を知っている私がここにいて、良かったな…。誤解は私が責任を持ってしっかり解いておく。
しかし…良いモノを見せてもらった…。)」

事情を知らない3人、そして知っている一茶子の全員が、縦並びで鼻血を出して、その様子を見守っていた。

「えっ、と…話が見えないんだけど…?」

「そ、そっか?!ホント悪ィな、俺、こういうの苦手でよ…。自分で呼び出しといてアレなんだけどよ。ここだと落ち着かねぇし、ちゃんと話せそうにねぇから、食堂でコーヒー飲みながら話そうぜ!」

「オッケー。こういう時に、隊員はコーヒー無料なの良いよね。」

2人は、仲良く食堂へと消えていく。
そして面々は、その後ろ姿を目で追いながら、この後の自分たちの身の振り方を思考するのであった。

「ど、どうします教官!目標、移動を開始しました!」

「落ち着きたまえ凛くん!まずは鼻血を拭こうじゃないか!そして速やかに我々も目標を追跡!うふ!うふ!」

「楠田教官、キミも落ち着きなさい。
そして鼻血を拭くのだ。これ以上は野暮…ゲフンゲフン、あまりよろしくないだろう。コンプライアンス的にも。」

「うわ!司令も鼻血すごォい。
…うーん、でも確かに、2人の恋路を邪魔するのは良くないよねェ~。
私が同じことされたらイヤだし~。」

とっ散らかる4人。
側から見たら、完全に不審者の集団である。

「ふぅ…。首を突っ込むのはここまでだ。我々は食堂ではなく、近くのカフェにでも入るとしよう。」

一茶子の司令官命令に目を丸くしながら、ルーキーチームは互いに顔を見合わせてから「了解!」と小さな声で相槌を打った。

その後未來は食堂で鋼一に悩みを打ち明け、一茶子はカフェでルーキーズの誤解を解いたのは言うまでもない。


「おーお前ら!おはよー!」

「おはよう御座います遠藤くん。今日はやけに元気ですね。」

「おうよ!鋼一から聞いたぜ、心配かけちまったみてぇだな、悪ィ!」

「元気になってよかったね~遠藤くん。
悩みがあったらさ、あんまり抱え込んじゃダメだよ~。いつでも頼ってくれていいんだから~!」

「そうだよ。未來は小さな事でもややこしく考えちゃうんだから。まずは恥ずかしがらないで、僕らに言ってみてくれればいいんだよ。僕らは仲間だし、友達なんだからさ。…あれ、志藤さん、鼻血。」

和気藹々と、振り返りと今後の課題を話し合う若者たち。
その顔つきは皆ほんの少しだけ、昨日よりも大人になっているように、大人たちには見えていた。

そしてその様子を、トレーニングルームの外で肩を並べ、鼻血を出しながら優しく見守る、わりと良い歳の女性が2人。


「若いって、良いですよね…司令。」

「ああ、本当だな…楠田教官。」
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