みどうめぐるはふたりいる

ムサキ

文字の大きさ
9 / 15

第九話「水守ハジメは殴らない」

しおりを挟む
ーー第九話「水守ハジメは殴らない」

「それでも再生するのが木属性発現者だ」水守は御堂に言い聞かせるように言う。「殺すためには魔力の核を破壊する必要がある。疲弊させるためには、それは必要ないけどな」
(つまり水守さんは疲弊させることを狙うのだろう)

 女たちの身体は再生していく。その分の魔力を消費して。
「いったいわねぇ」桜木の声。「まったく、暴力的なんだから」心臓を貫かれても、生きている。それが木属性の発言者である。生命エネルギーを司る発現者である。他の女たちも不服そうな顔を水守に向けている。

「完全に再生してから破壊する方が効率はいい。延々と破壊する方が反撃されるリスクは低くなる。トレードオフだ」
「ぼくは後者の方が良いと思いますがね」御堂は言う。
「俺は前者を選ぶ」水守は答える。「俺は弱った人間を殴るような趣味はない。女を殴る趣味も、な」
「それはぼくにだってありませんよ。ただ、仕事とプライベートは別なんじゃありませんか?」

「いいや、これは信念だ」水守は女たちの身体が完全に再生したのを見て、右足で大地を強く踏む。その力は地面を伝わり、女らの足元から水の柱となって現れる。それを桜木のみが躱した。彼女は、水守に向かって走ってくる。

「格好いいわね」桜木は言い、5メートル離れたところで、腕を交差させた。水守の脇の地面が隆起し、桜の木の幹が水守の行動を制限した。「でも、これは破れないわ」その幹の表面は、江良の歌によって朽ちていくのだが、その下からすぐに新たな組織が生まれ、再生していく。

「魔力の消費が激しそうだな」水守は言う。その言葉に桜木は笑う。
「ふふ、そう思うでしょう? でも、大間違い。私自身の魔力はこれっぽちも使ってないのよ」

(よくしゃべる女だな)水守は思う。(そして、予想の確度は向上した)水守は右手の指をはじいて鳴らした。その瞬間から次第に、砂粒のサラサラいう音と、摩擦のザラザラいう音が大きくなった。
「木の根はもう張れないぞ」水守もう一度指を鳴らす。「そして、俺も自由だ」水守を縛り付けていた木の幹が火の気なしに爆散していった。

「な」桜木は水守立ち止まる。
「だが、そこは俺の射程圏内だ」水守の右の方から、水の拳が飛んでいく。それは、桜木の左肩を捉え、彼女の身体を地面に叩きつけた。「疲弊させるしかぁない」水守の一瞥と共に、水の拳は無数に現れ、彼女の両肩だけを丁寧に殴りつけていく。

 気が付くと、周囲の木々は枯れ、窪んだ地面に女だけが残っていた。
「降参しろ。そうすれば、命まではとらない」
 水守の言葉に桜木は、ぽかんとした表情を見せた。砂が流れた。風が吹いた。桜木は、大きな口を開けて高らかに笑った。
「何を言っているの? 命を取られる以上の苦しみが待っているのでしょう?」
「そんなことはない、俺たちにもやり直すチャンスが与えられる」

「いいえ、そんな綺麗ごとを言えるのは、綺麗な世界で生きてきた人間だけよ」桜木は続ける。「あなた、発現者になったからって、自分が地のどん底を歩いてきたと思っているんでしょう? でもそれは大間違いよ。発現者になったことが唯一の救いだって言う人間はいくらでもいる。私がその一人」

「魔法は救いなんかじゃない」

「いいえ、魔法は救いよ。この力が私に自由を与えてくれた。私に自信を与えてくれた。私に自我を与えてくれた。私は何をすべきなのか、その道を、過程を、権利を与えてくれた」桜木は仰向けで水守を睨みつける。「だから、迎合しない。私は最後まで戦う」その瞳の奥に濃緑の色が見えた時、彼女の身体は大地に吸い込まれていった。
「江良!」水守は血相を変えて叫ぶ。彼は桜木の意図に気づいていた。だが、江良もそれ相応の場数を踏んでいる。だから、近づいてくる木属性の魔力には気づいていた。彼女は特大の歌声を地面に向かって放った。それは怒りを孕んでいた。

「無駄よ」その声はすべての方向からやってきた。枯れていた木々は、一斉に緑を吹き返し、水守らの宙を覆い隠した。その木の一つが、その枝々が江良の身体に絡みつき、そして縛り付けた。

「江良!」水守は目を見開き、その次の瞬間には、脚運びを決めていた。ただ、桜木は彼と彼女の一直線上に、森の壁をつくった。それらすべてを破壊して江良の下へ向かうのは荒唐無稽な話であったが、水守はそうした。ボギッとか、ドガッとかのくぐもった破壊音が聞こえはするが、悲しくも音源は進んでいない。

「は、は、は!」桜木の声。「木の根は地中、何百メートルも張ったわ。あなたが私を押し倒してくれたから、私は難なく根を伸ばすことが出来た。この木は私。この森は私なの」その声は水守に届いていない。江良は木に取り込まれた。聞こえているのは御堂だけだった。「もう、女は取り込んだ。彼ももうすぐ取り込める。今度は指一本動かすことは出来ないわ」

「それは、一大事だね」御堂は言う。
「あら、あなたは? 可愛い顔しているから、一目見れば、気が付いたと思うけど……あなたは、いつからそこにいたの?」

「はじめからいましたよ」御堂は言う。
「嘘おっしゃい!」桜木は叫ぶ。そして、咳払いをする。「いいえ、取り乱してしまったわ。いいえ、取り乱す必要のないことなのに。気づかないということは、取るに足らないということ。取るに足らないということは、道端のゴミ以下ということ」

「よくしゃべる女だよ」御堂は言う。そして、右手で今野の頭を掴み、彼の身体を持ち上げる。「ゴミと侮ってはいけない。もしかしたら、そのゴミに躓いて頭を地面に強く打ち付けてしまうかもしれない」御堂は目をゆっくり(見る者にはゆっくりと感じられた)閉じた。

「水守さんは、砂を流動的にした。それは水属性の魔法」御堂はつぶやく。「水守さんの応用力には驚かされるが、大地の操作は『運動』よりも『存在』の方が得意だろう。たとえ、君が何十何百何千何万メートルも深く根を張ろうとも、土がなければ意味がないだろう。ここにぼくは、地下一万メートルの建物を建てる」大地が揺れた。今野の両腕が上がった。彼の目の前に黄色の青写真が現れ、彼はそれに向かって手を動かす。

「何を、何をしている!」桜木は叫ぶ。「足が、足元の地面がなくなった! 空隙がどんどんと上へと昇ってくる!」
「言ったじゃないですか、建物をつくるって」御堂は桜の木を指さして言う。「ただし、あなたを立たせる地面はないですけどね」

「やめろ!」(でも)「横に根を伸ばさないと、落ちてしまう!」
「は、は、は! あなたの高らかな笑いもここまでですかね」ブロックが組み合わさる音が次第に近づいてくる。ガコン、ガコンと。そして最後に、地下一階が出来上がる。そのころには、地表面にある緑はほんのわずかであった。「随分と小さくなりましたね」御堂は見下ろして言う。その木はもはや木とは言えず、くるぶしの高さしかない、芽であった。

「頼む! 助けてくれ」

「うん? 声が小さくて聞こえないなぁ」御堂は静かに笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...