みどうめぐるはふたりいる

ムサキ

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最終話「御堂メグミは笑わない」

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ーー最終話「御堂メグミは笑わない」


 御堂は水守とオズの戦いをただ座してみているつもりはなかった。だがしかし、彼らの戦いはただ座してみる事しか出来なかった。その空間に針一本付け入る隙はなかったし、なにせ水守が負ける気配がしなかった。水守の魔力はオズとぶつかり合うたびに洗練されていく。研ぎ澄まされていく。そのシャープな刃がオズの命を刈り取る寸前まで来ている。
 水守の華麗な体術と、水の魔法は、流麗としか言えない。オズは奇怪な陣を宙に描き、魔法を無力化しようとしているが、手数が足りない、あるいはエネルギーが足りないのか、二回に一度の割合で水守の攻撃を身体に受けている。

「埒が明かないな」と言ったのはオズの方であった。「「本当にお前は人間なのか?」」そう言った次の瞬間に、オズは水守の額に触れた。指先で彼を読み取った。その指は刹那の間に弾かれた。オズは驚愕を顔で表したが、水守はそれを見ていない。
 水守の拳とそれに重ねられた魔法とが、オズの頭を砕き、そして悪魔は消滅した。

 一同は何が起きたかわからなかった。おそらく、水守もわからなかっただろう。そして、御堂がこの現象を理解するのはもっと先の話である。

・・・

「柊」
「東」
「終わったな」
「えぇ、そうね」
「司馬も捕まったし、水守の方も何とかなったらしい」
「よかったわね」
「柊」
「なに?」
「そんな顔するなよ」
「……女に向かって酷いこと言うのね」
「悪い」

 現場にいた司馬組の構成員たちは府中刑務所に、司馬キッショウの身柄は網走刑務所に移送された。久々津アキラは死亡。事件はひとまず幕を閉じた。

・・・

「メグルくん」メグミは御堂に抱き付く。家族の前だからと思ったが、皆メグルらの姿を見て涙を流している。
(そうか、ぼくは戻ってこれたのか)メグルは思う。「メグミ、待たせて悪かったね」

「ううん、戻ってきてくれて本当にうれしいの。もう身体は大丈夫なの?」
「うん、心配をかけたね」

 メグミは胸に顔を押し付ける。いつもなら化粧がつくからと言うだろう。
「メグミ、ぼくはこれからやらなければならないことがあるんだ」メグルは言う。「ぼくは、魔導警備でやらなければならないことがある。なるべく、君を心配させないようにする。君の傍にいる。もし、君が求めるのであれば、ぼくの全てを見ていて構わない。そして、ぼくに不服を申し立てて欲しい。何を求めているか言って欲しい」

 メグミは瞬きを三度して、口を開いた。「メグルがやりたいことが出来て良かったわ。私は応援する。あなたを傍で支える。だから、あなたも私を支えなさい。私たちは対等な関係でしょ?」

「あぁ」メグルは声を漏らす。目じりが赤くなる。彼の白い肌には、感情の移ろいがはっきりと浮かび上がる。顎のこわばりも、眉の皺も、流れる涙も。

 メグルはその場に右ひざをつく。彼女の左手を取る。

「榊メグミさん、ぼくと結婚してください」

 メグミはまた、瞬きを三度して、口を開いた。その目じりにはくっきりとしわが刻まれ、彼女も涙を流した。

 メグルは彼女の左手に口づけをした。
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