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本編
しおりを挟む僕は魔術師一家に生まれた。
僕の実家は一目につかない山の中にある。利便性は、麓の大きな街に転移したり、城下町に箒で飛んだり、魔術を使うので特段困ることはない。
魔術師家業でそれなりの収入を持つ、金持ち一家の癖して、子供が多すぎるのか、メイドや従者の1人もいないこの家。
全自動魔術で家事が進むので困ることもない。
家族は僕を含めず数えて7人。
親戚の集まりの際は馬鹿騒ぎして遊んでいるが、それ以外の時は基本静かに時間魔術の研究を続ける両親。
子供に関してはかなり放任主義で、構ってくれることもなく世話だけして倫理観の教育すらせずに育てた犯人だ。
そして兄弟姉妹たち。
炎魔術が楽しすぎて放火魔になり現在刑務所にいる長男。
錬金術で億万長者を目指して旅立ち、歴戦の詐欺師になって帰ってきて実家に居座る次男。
美を突き詰めて典型的な不老の魔女になり、爺専にも程があるようなご老人に付き纏うストーカー長女。
背を伸ばそうと骨格改造薬を作り、試薬で多くの命を犠牲にした後、指名手配された次女。
兄2人、姉1人、妹1人の詳細がコレだ。
僕は正直言って家族に関わりたくない。
ちなみにぼくは三男坊。魔術の才能高い家族たちと違って、生活必需魔術を応用して遊ぶ程度のよわよわ魔術師だ。
そもそも、僕は一人っ子なので、家族、特に兄弟姉妹たちを血の繋がりのある生き物以上の者に思えない、というか、僕の真の家族は、コレらじゃない。
「なぁなぁ、ウイちゃん。出掛けたくないか?」
「僕は日光に当たると死ぬから出たくない」
吸血鬼じゃないんだから、そう言わずにさ、と僕に話しかけてくる次男。悪いこと考えているのが透けて見える。
関わりたくなくて、そっぽを向くが、ウザ絡みされる。
「ちょーっと取引に行くだけ。物を運ぶだけの仕事だから」
パチンとウインクする次男。無駄にかっこいいのが腹立つ。
「それ、危ないやつ」
高校生が巻き込まれて加害者にされるオレオレ詐欺の下っ端勧誘みたいに聞こえる。絶対行きたくない。
「パシリになってくれる妹ちゃんは外出中だし、姉さんや兄さんはしばらく帰ってすら来ないし、頼めるのがウイちゃんだけなんだ。報酬は弾むからさぁ」
「最後のセリフをアンタが言うとまったく信用ならない」
詐欺師の兄の言葉を信頼できるはずがない。
目を合わせることなく、座っていたソファに寝転がり、やる気のなさをアピールする。
「ひどいなぁ」
全く傷いついていない顔をしながら、うぇーんと鳴き真似をする次男。ただ、ひたすらに、うざい。
「まぁいいや、じゃあ、そういうことだから、コレ、城下町の裏路地の緑頭の爺さんに渡しといて。夜までにね。これ前払いの報酬」
検討するどころか、拒否したのに押し付けられた。
どう見てもジュース一杯分の金と、重そうな木箱。
両手で抱えられるサイズの木箱は厳重に封がしてあり、透視の眼鏡で中を除くに、どうやら小さな小瓶がたくさん入っている。
ヤバげなお薬だろうか。
警察がわりの王国騎士団にでもしょっ引かれたら、僕は長男同じく刑務所行きだ。
そこらへんにすててしまおうかとも思ったが、その後で次男に何かあった場合責任があるのは僕ということになってしまう。それはそれでいい気がしない。
去っていた次男の背を遠目に見ながらも、仕方なくゆっくりとした動きでソファから起き上がる。
ぱぁーっと着替えを瞬時にこなす。
魔術はものぐさ者の必須技術だ。物を引き寄せ、着るのも脱ぐのも、動作一つ言葉一ついらない。センスがあれば料理だって、服を一から作ることだって、まったく動かずに作れる。生活魔術を極めた僕は、いつも怠惰だ。
着るのは明るい花柄のワンピース。
僕は男の子だが、前世が女の子なので、この格好に忌避感はない。前世と違ってレディーファーストの風潮があるこの国では、女の子の格好をしていた方が便利な時が多い。
首元を隠すためにスカーフを巻く。
顔を隠すのに麦わら帽子。
コレで田舎から来たちょっと素朴な女の子に見える。
今世の僕はタッパがあるわけでも、胸筋がバインバインな訳でも、筋肉ムキムキでもない。細身で小柄な子供なので、女装しても、違和感の家出が可能だ。
兄2人ではきっと酷いものだろう。
無駄にイケメンで、無駄に筋肉と行動力があるから。
ただし常識はない。
もう少し、普通の一家に転生できなかったものか、と考えてしまうのは仕方ないことだと思って欲しい。
「お嬢ちゃん。危ないからお家にお帰り」
それこの裏路地きて5回目のセリフ。
僕が男の子だとわかれば平然とカツアゲしてくるであろうチンピラは懇切丁寧に家へ返そうとしてくる。
しかしながら、僕には用事があるのだ。
「でも、届け物を頼まれてしまって」
男の子にしては高い声で、かぼそく呟く。
どうせなら爺さんの場所教えてくれないかな。
「届け物? こんな場所に?」
「えっ、あ、はい。見知らぬお兄さんが、困っていらっしゃって、緑頭のおじさまに渡してね、と」
親切すぎるお嬢さんを演じる。断じて兄貴に頼まれたなんて漏らなさない。
「緑頭……? ウェズの爺さんか。呼んできてやるよ。でもお嬢ちゃん。危ないから次からはそんな知らない奴の言うことを聞くんじゃないぞ」
「……でも、すっごく困ってるって」
「優しすぎるんだよなぁ」
それ僕のセリフ。女の子相手の場合、この国の住人は優しすぎるのだ。これだから僕は外出時にいっつも女装する羽目になっている。兄弟だから僕らは多少似ていて、家族と間違われることを防止する役目もある。
ちょっと待ってな。危ないから隅に座っているんだぞ、と言われて薄汚い木箱に座って待つ。体重で壊れないか心配だったが、杞憂のようでギコギコ音はしたものの、なんの問題もなかった。
「おぉい、こっちだ。爺さん」
「おや、可愛いお嬢さんだね。わしに御用なのかい?」
かなり甘ったるい声で話掛けてきたおじいさん。線の細いスラムで子供に本を読み聞かせていそうな優しそうなお爺さんだ。横にいる若いあんちゃんが強面なせいで、若いヤクザに連れてこられたカツアゲ被害者みたいな図だ。
「えっと、お届けものです。道端で会った困っていたお兄さんが、貴方に、と」
リュックにしまっていた木箱を渡す。
案内してきたお兄さんは近くで見守るように壁に背中を預けて立っている。
ニコニコ笑ったお爺さんは、箱の中身を見て目を険しくさせた。僕はそれに少し驚いたように後ずさる。本気で驚いた訳ではないが、演技は大切だろうから。
お爺さんはそれを見て、あぁ君のせいじゃないからね、気にしないでおくれよ、とまた甘ったるい声で話したあと、かなり低い声であのクソ野郎と呟いた。怖。
「ちょいと聞きたいんだが、これを渡してきたのは、赤髪赤目の血塗れみたいな野郎じゃなかったかい?」
次男の容姿を言い当てられる。これで頷いたら地獄送りにされるので、いいえと答える。
彼は詐欺師なのでよく変装している。本性を知っているなんて危ない世界で危ない仕事している奴だけだ。僕を見抜こうとしているんだろう。
「茶髪の痩せた男性でしたよ」
行きに見かけた道端で掃除をしていたお兄さんを想像して喋る。嘘は具体性があれば真実味を増すのだ。
歳を増すごとに嘘をつくのが上手くなっている気がする。
「そうかい……そろそろ暗くなるな。おい、表通りまで案内してやりな」
「わかってますよ~、ほら、もう来るんじゃないぞ」
僕は特になんの変哲もない少女だと判断されたのだろう。
お爺さんに言われて若者が先導する。僕は素直についていく。やっと帰れると安心した。
「ただいま」
「やあ、おかえり。ウイちゃん」
ソファーに転がっている次男。あまりにも悠々とくつろいでいるから、ぶん殴りたくなった。まぁ、ここで労力を使っても仕方ない。力で上の兄弟に勝てはしないのだ。
そういえば、もう夕飯の時間だな。
「疲れたから、夕飯作って」
「……母さんに、あっ、そうか。しばらく研究所だっけ。仕方ないなぁ。いいよ。何がいい?」
母も父も研究漬けの人種なので、いないことはよくある。
料理のセンスがないので僕はお腹が空いたら次男を頼る。
次男はこういう頼みを無碍にすることはない。なんだかんだ長男よりお兄ちゃんをやっている。
長男は調理器具で放火する遊びを始めちゃうし、そもそも不在だ。長女は出来るかもしれないが、長男同じく家にいない。ストーキング作業が忙しいらしい。
次女はお菓子は作るが食事は作らない。楽しくないからやらないらしい。調理器具を触ることすら厭う僕にはお菓子作りと食事作り何が違うのかさっぱりだ。
僕は、一度キッチンを爆発させてからは料理チャレンジはしないことにしているのだ。魔法を使ったからこそ起こった大事故である。使わなくてもキッチンは壊していたと思うが。
「オムライス。ケチャップは海で」
「ケチャップ漬けの卵ご飯のこと? 相変わらず変なものが好きだねぇ」
ケチャップ漬け卵ご飯。正確には卵かけご飯にケチャップを器に入るだけ詰め込んでかき混ぜてたもの。嘘みたいに美味しい。僕は生粋のケチャラーである。それもマヨネーズに歩み寄れるタイプのケチャラー。オーロラソースだって構わない、でも一番はケチャップ。
「ケチャップがあればなんでも美味しい」
「絶対頭おかしいって、ウイちゃん。ケチャップで人肉食えるあたり、サイコーに頭おかしいもん」
「人肉が主食みたいに言わないでよ」
なんでも食べるが、作るのは嫌な三男は僕である。
なんでも食べるは文字通りの意味だ。その気になればこの体は鉄骨でもプラスチックゴミでも消化できる。エコな身体しているだろう?
ケチャップで人肉をイートしちゃう件ついては、見目的にはなんの変哲もない血塗れの肉であり、味に目を瞑れば焼いて食える。僕の主観なら、牛肉の方が美味しいから、食べようと思って食べることはまず無いが。
「ヤツちゃんは、パンの代わりに食べてるじゃん」
ヤツちゃんと呼ばれた彼は、嬉しそうに歓声をあげた。名を呼ばれただけで大騒ぎしている。相変わらずうるさいヤツだ。
「僕と彼を同一視しないでくれと言ったじゃないか。別人なんだよ」
「身体は同じなのに?」
「例えば、女児が楽しむ人形遊び。同じうさぎのぬいぐるみが使い回しされたとしよう。操る女児たちのそれぞれの嗜好によって、動き方や役割は変わるでしょ? それと一緒」
「それ、自分を人形に例えてるって自覚ある?」
「僕とヤツは女児でしょう、この場合。操られている身体は入れ物に過ぎない」
「……やっぱり、感性がおかしいよ……いや、でも俺らの家の人間としては、むしろ普通か? 普段ウイちゃんが大人しいからわかりにくいけど、やっぱり2人とも俺らの家族だったってことだね」
家族たちと同類にされるのには微妙に嫌悪感を覚える。
まぁ、僕はともかく、ヤツがおかしい性格をしているのは事実だ。
「さて、家族の絆を深めた記念にもう一仕事行かない?」
「行くわけないでしょ」
食えない兄は、ウインクを華麗に決めてポーズを取った。
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