チートがなくても最強です!?〜最弱勇者はハードモードの異世界を策略と悪知恵で必死こいて生きていく〜

ソリダス

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第一章 はじまりの王都編

第一話 はじめまして、異世界。

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「――さぁ、早く目覚めるのだ『勇者』よ!」


 その日、俺は今まで聞いた事も無いオッサンのしわがれた声で目を覚ました。


 スーツのまま仰向けで寝ていた俺はゆっくりと目を開ける。

 そこにあるのは、俺の家の見慣れた天井が……。

 見慣れた、天井……。


 ……あれ、俺ん家の天井ってこんな馬鹿でかいシャンデリアなんて付いてたっけ?


 それに、心なしか天井までがやたらと高く感じる。……というか明らかに高いし、おまけに視界に入るもの全部が金ピカときた。


 明らかに俺の家の天井ではない。


 いつもであれば『ハッ、こんなんどうせ夢だろ(鼻ホジ)』くらいの感じで気にも留めないのだが……。


 最悪な事に、俺は昨日家に帰った記憶が無い。


 最後に記憶にあるのは、仕事が終わっていつもの帰り道を歩いているところまでだ。

 別にベロベロに泥酔して記憶が飛んだ訳では無い。だって、昨日は居酒屋に寄ってないし。

 記憶が飛ぶような持病を抱えているわけでもない。


 しかし、帰宅した記憶が無い事、そんで目の前には見知らぬ天上が広がっている事は事実。


 もしかしたらここは本当に俺の家じゃないのかも、という嫌な想像がグルグルと脳裏を過ぎる。


 …………………………。


 俺は全てを忘れて、もう一度眠る事にした。


「おいっ、勇者よ!何故また目を瞑るっ!起きろっ、おい!勇者よ!」


 俺が目を閉じるとすぐさま熱烈な勇者コールが始まる。

 しばらく無視して狸寝入りを決め込んでいたが、なおも続く勇者コールにどうやらこれは俺に対して呼びかけているようだと気づいた。

 流石にこのまま知らんぷりしている訳にもいかないと、俺は仕方なく上半身を起こした。

 そして、寝起きのせいもあってか、しっかりと開かない半開きの目をしばたたかせながらこう言った。


「……いやあの……俺、勇者じゃないんで。えっと、これって、新手の宗教勧誘かなにかですか?もしかして、割ると道具が手に入る壺とか買わせられる感じですか?」


「何を言っておる!いいから、とりあえずちゃんと目を開けよ!」


 オッサンにそう言われ、俺は渋々半開きだった目を開く。


 そうして目に飛び込んで来たのは、まるで王様のような格好をしたふくよかなオッサンが、大きな椅子に腰掛けている姿だった。

 頭の上には金ピカの王冠を乗せ、髪とカイゼル髭は白く染まっている。


 ……え?状況が全く理解出来ないんだが。


 俺は未だかつてないほどに自慢の低スペ脳みそをフル回転させてみるも、状況が全く見えてこない。


 俺がこの状況に戸惑っている事を察したらしいオッサンは、俺が尋ねる前に話しかけてきた。


「うむ、驚く気持ちも分かる。目が覚めたら見慣れぬ場所、見たことのない者がいれば誰しもそうなるであろう。……だが、冷静に今から話す内容を聞いて欲しい。……念のため確認だが、私の言葉は、分かっているな?」


 脳内には俺のキャパシティを遥かに上回る情報量が流れ込んで、ただでさえ熱暴走寸前だっていうのに『冷静に話を聞け』とか頭おかしいんじゃないのか?

 ……と思わず文句を言いたい衝動に駆られるが、ほら、これでも俺は社会人だからさ、言っても良い事と悪い事の区別ぐらい出来るから(震え声)。

 この状況で社会人関係あるか?と聞かれたら全くないと断言できるが、ここは本音をぐっと飲み込んで聞かれたことに対して答えよう。


 言葉はきちんと分かっているので、コクコクとぎこちなく首を縦に振る。


「そうか、それは良かった。一応、確認はしておかなければな」


 だが何よりもまずここは一体何処なのか、何故俺はこんなところにいるのかを聞かなければならない。


「……あの」


「ん?どうした?言いたいことがあれば何でも申してみよ」


「……ここ……どこですか?」


 上手く出ない掠れた声を必死に絞り出して尋ねる。


「うむ、それを含めた現在の状況を説明しておこう。……ここはフツーノ王国といって、お主が住んでいた世界とは別の世界に存在する国だ」


「…………え?」


「そしてお主は、魔王からこの世界を救う勇者として召喚されたのだ!!」


 想像の斜め上の返答が返ってきて困惑を隠せない俺は、あまりの事に混乱しその場に固まった。


「ふむ、これだけのことを聞いて全く動じないとは……。流石、勇者として選ばれた男よ。その器もまた別格、という事か」


 本当は混乱して何を喋っていいのか分からなかっただけなんですが……とは言わせない空気を醸し出す王。

 しかも『動じていない』とか、随分と好意的に取られているので尚更言いにくいんだけど。


「現在、この世界の支配を目論んでいる魔王がいるのだ。その名はバアル。魔王バアルはこの世界を征服しようと企んでいる。であるから、お主には勇者として魔王を倒して来てもらいたい。引き受けてくれるか?」


 魔王とか勇者とか、何がなんだかさっぱり分からないが、とりあえずコクリと頷き肯定の意を表す。


 …………いや、ちょっと待て。


 今言ったことが本当だとすると……。


「つまりここって、俺からすると異世界って事ですか?」


 俺はそう尋ねた。


「そうだ!理解が早くて非常に助かる!……では聞こう!お主はどのような魔法が使えるのだ?そしてお主が持っている特殊能力は何だ?」


 う………うおおおおおお!!!夢の異世界キタコレェェ!!!


 しかも魔法と特殊能力アリで勇者とか、もうこれ完全に俺へのお膳立てが出来上がってる状態じゃねえか!


 つまりあれか!

 これからは、俺に与えられたチート能力を使って無双!

 そんでパーティー全員を女の子にしてキャッキャッウフフなハーレム生活を送れって事だな!


 やっべ、テンション上がってきた。


 けど、『どんな魔法が使えるのだ?』ってどういう事なんだ?


 魔法はこれから教えてもらうんじゃないの?


 こればっかりはいくら俺が考えても埒があかないので、正直に聞いてみることにした。


「魔法とか特殊能力って後から使える様になったりするんじゃないんですか?俺、そういうファンタジーチックなもの、全く使えませんよ?」


「……………え?」 


 素っ頓狂な声を上げる王。


「……『え?』って、どういうことですか?」


 だが、王は答えない。

 そしてしばらくの沈黙の後、国王は何を思ったか手を二度叩いた。

 すると、俺の後ろにあった馬鹿でかい両扉がギギギギと重たい音を立てながら少しずつ開き始める。

 その様子をナンダナンダと眺める俺を余所に扉は完全に開かれた。

 その開いた扉の奥から頭部以外を甲冑で覆った2メートル近い大男が二人現れ、真っ直ぐに俺の方に歩いてくる。


 そして、王は徐に口を開いた。


「………さあ!行くのだ勇者よ!魔王を討ち取ってくるのだ!兵よ!勇者をこの城の外へ連れて行くのだ!」


 王のその言葉と同時に、俺は両脇をその厳つい兵士達に拘束された。

 どうやら俺はこのまま城の外へ連れていかれるらしい。


「いや!あの!ちょっとまっt」


 気になる事への質問する間も与えられず、俺は無理やり外に連行されたのだった。



 ◆◆◆◆◆



 兵士に両脇を拘束されたまま、俺は無言で歩く。


 もう……なんていうか、色々と訳が分からないよ……。


 そのまましばらく歩き続けると、大きな門が見えてきた。

 その大きな門は既に全開の状態だった。


 ……俺を追い出す準備は万端って訳だ、ちくしょう。


 そして俺はそのままその門を通り、外へ出される。

 すると、不意に強い力で背中をドンと突き飛ばされた。

 それによって俺はバランスを崩し、顔面を強かに地面に打ち付けた。


 ……大丈夫、鼻と歯は折れてない。

 土が入って口の中がジャリジャリするだけだ。


「―――ほらよ、これは王からお前へのプレゼントだ」


 乱暴に外へ出された俺に、兵士の一人がこれまた乱暴に小さな袋を投げて寄越す。

 中身を確認すると『100ゴールド』と書かれた金色の硬貨のようなものが15枚入っていた。


 俺はあまりにも乱暴な兵士に文句を言ってやろうと顔を睨みつけようとする。

 だが、俺の視線はその兵士の後ろにある、たった今俺が出てきたばかりの建物に釘付けになった。


 ――兵士の後ろには巨大な純白の城がそびえ立っていた。


 イメージとしてはディ○ニーランドにあるシンデレラ城。

 まさにあんな感じのヤバいやつ。

 これを見て俺は、『あのオッサン、本当に王様なのか』という実感と、俺の中のファンタジー異世界の期待がちょっと高くなる。


 周囲を見渡してみると、どうやら今俺が立っているこの場所は丘の頂上のようだ。


 ……丘のてっぺんにこんな城を建てるとか、随分いいセンスしてやがるな。


 馬鹿と煙は高い所に登りたがるっつーのは本当なんだなと思わず口に出しそうになる。

 しかし、不敬罪とか言われてこの場で処刑されるイメージが一瞬俺の脳内を通り過ぎていったので、すんでのところでぐっと堪えた。


 そうして、兵士は俺の後方を指差した。

 つられて俺も後ろを振り返り、兵士が指差しているその先に視線を向ける。

 
 兵士は丘の麓にある、結構大きな都市を指差していた。


「今渡した金を使ってあそこの王都で装備を整えるなり、宿に泊まるなりするんだな。……おっと、そうだ。大事な事を言い忘れるところだった」


 え?大事な事?……まさかとは思うが、チートに関する情報だったり……?

 俺は幾ばくかの期待を持って、兵士の次の言葉を待ち構える。


「武器や防具は持っているだけでは意味がない。手に入れたら、きちんと装備することを忘れるな」


 やかましいわ!!何か重要な事かと思ったらクッソどうでもいい事じゃねぇか!!

 んな事言われんでも分かってるわ!

 RPGにでも出てろこのモブ兵士が!帰れ!ドラ○ンク○ストの世界に帰れ!!


 まぁ、そんな事口に出したら殺されそうなんで絶対言わないが、思わずそんな感情を抱いた俺。


「分かったらさっさと行け」


「…………はい」


 兵士達はそれだけ言うとくるりと踵を返し、城の中へ帰っていった。

 バタンッと勢いよく門が閉まり、その音だけが寂しく周囲に響き渡る。

 取り残された俺は仕方なくその王都へ向かってトボトボと歩き始めた。



 ――魔法は使えないし、特殊能力もない。


 武器や防具ももちろん無い。

 あるのは金が1500ゴールド(これが大金なのかは不明)だけ。


 だが、俺は挫けない!

 何故なら、俺の冒険はまだまだ始まったばかりだからだ!


 ……たった今冒険が始まったばかりなのに、既に危機的状況なんですけど。こんなの俺の考えてた異世界じゃねぇよ。

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