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第四章 ハルマ編
第三十話 ギルドの中心で現実を叫ぶ
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俺とデイモスは、銀髪の彼女の後ろをテクテクと追いかける。
しかし、デイモスはさっきから彼女をじっと睨み付けたまま喋ろうとしないし、彼女も真っ直ぐに前を向いたまま無言で歩き続けている。
……やべぇよ、尋常じゃないくらい気まずいんだけど。
この気まずい空気を吹き飛ばす為にも、ここは俺が何とかしよう。
そう考えた俺は目の前を歩く彼女の横に並び、そして話しかけた。
「いやー、本当にありがとうございます!私たち二人ともこの街は初めて訪れるもので、右も左もさっぱりな状態だったんです!」
サラリーマン時代に身につけた営業スマイルを使って、フレンドリーな感じで会話を切り出す。
「あぁ、そうだったんですね!割とこの街は広くて複雑に入り組んでいるので、初めて来た人で迷わずに目的地に着くのはかなり厳しいかも知れません」
俺に話しかけられた彼女は、いかにも人当たりの良さそうな笑顔を向けて相槌を打つ。
彼女は続けてこう言った。
「それにしても、観光でギルドに行くというのは中々珍しいですね。何か気になるものがあるんですか?」
「いえ、今回この街に来たのは観光じゃないんです。……実は私達は魔王を倒すために旅をしていまして、その道中でこの街のギルドに『最強の魔法使い』と呼ばれている方がいらっしゃるという話を聞いたんです。それで、一度会ってみたいなと」
「へぇ!『最強の魔法使い』さんですか!そういえば私もどこかで話を聞いたことがありますよ!……まぁ、私は一回もその人に会った事は無いんですけど」
えへへと照れた様子で笑う彼女は、まるで現世に降り立った本物の天使のようで、非常に可愛らしかった。……本物の天使なんて見た事ないけど。
そんなこんなで、彼女と談笑しながら歩いていると。
「あっ!着きましたよ!ここがギルドです!」
「………………えっ?」
彼女の指差した建物を見た俺は、脳が数秒間完全に停止した。
そして我に返ると同時に、忘れかけていた現実を改めて認識させられた。
――この異世界は俺の理想から、かけ離れた世界であるという事を。
俺がイメージしていた『ギルド』というものは冒険者のたまり場として酒場が併設されていたり、屈強な冒険者達が様々な重装備を身につけて出入りしているような、漠然とだがそんなイメージを持っていた。
だが、実際は全然違う。
彼女が指差した先にある建物は『ギルド』というよりも『役所』と表現した方が適切な気がする。
白を基調とした清潔感を与える色合いに、無駄なものを一切省いたシンプルなデザインのその建物。
間違っても酒場が併設されてたり、屈強な冒険者がウロウロしてるような場所には到底見えない。
この世界に来てから何度目になるのか最早覚えていないが、理想の異世界像が崩れていく音が確かに聞こえた。
「それじゃあ私は帰ります!またどこかで会えるのを楽しみにしてますねっ!」
「えっ?あっ、ありがとうございま……行っちゃったよ……」
彼女は天真爛漫な笑顔を浮かべながら俺達に手を振り、俺が感謝の言葉を伝える前に去っていった。
呆然と彼女の去った方向を見つめていると、デイモスが後ろから俺の肩を叩いた。
俺はオイルの切れたブリキの人形のようにギギギとぎこちなく振り向く。
「おい、太郎。どうした?ボーッとして」
しかし、残念ながらこんな状況で爽やかスマイルが出来るほど俺のメンタルは強くないし、役者魂なんてものや格好良い顔も持ち合わせちゃいなかった。
その結果、目が笑っていないうえに尋常じゃないくらい頬が引き攣った不気味な笑顔を浮かべることになった。
「げへ、それじゃあ……中に入ろうか」
デイモスが心底怯えたような表情でゆっくりと後退りしたが、それを無視して俺はギルドの中に入る。
◆◆◆◆
建物の中へと入った。
就職活動や仕事に関連するポスターが壁のあちこちに貼られている。
ソファに腰掛けて順番を待っているであろう人々は、どんよりと暗い表情のまま求人雑誌を読んでいる。
そのためだろう、空気も息苦しいと感じるほどに張り詰めている。
その光景を目の当たりにした俺の脳内にある映像がフラッシュバックした。
と、同時に俺の心は限界を迎え、溜まった負の感情がついに爆発した。
「……ハロォォォワァァァクじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!」
俺は白目を向きながら、周囲の人の目もはばからず咆哮した。
もうダメだ、俺はもう限界だ。
この異世界に残されていたと思ってた希望が、まさかの形で打ち砕かれた。
ハローワークはないわ。
そりゃ、俺の想像してたギルドも『冒険者にクエストを紹介してくれる場所』ではあったけど!
俺が元々いた日本のハローワークも『無職に仕事を紹介してくれる場所』だったけど!
だからって、そのまんまハローワークはないだろ!
尚も、白目を剥いて叫び続ける俺に。
「お、おいどうした太郎!!なにがあった!おい!しっかりしろ!」
「どうなさったんですか!?大丈夫ですか!?」
デイモスと職員らしき女性が駆け寄ってくるのが分かる。
だが、この時の俺は明らかに普通ではなかった。
――早く!この場から離れなければ!
何をトチ狂ったのか俺は『逃げ出す』という結論に至り、混濁する意識の中で必死に立ち上がって、出口めがけて突っ走ったのだった――!
太郎は逃げ出した!
しかし、デイモスはさっきから彼女をじっと睨み付けたまま喋ろうとしないし、彼女も真っ直ぐに前を向いたまま無言で歩き続けている。
……やべぇよ、尋常じゃないくらい気まずいんだけど。
この気まずい空気を吹き飛ばす為にも、ここは俺が何とかしよう。
そう考えた俺は目の前を歩く彼女の横に並び、そして話しかけた。
「いやー、本当にありがとうございます!私たち二人ともこの街は初めて訪れるもので、右も左もさっぱりな状態だったんです!」
サラリーマン時代に身につけた営業スマイルを使って、フレンドリーな感じで会話を切り出す。
「あぁ、そうだったんですね!割とこの街は広くて複雑に入り組んでいるので、初めて来た人で迷わずに目的地に着くのはかなり厳しいかも知れません」
俺に話しかけられた彼女は、いかにも人当たりの良さそうな笑顔を向けて相槌を打つ。
彼女は続けてこう言った。
「それにしても、観光でギルドに行くというのは中々珍しいですね。何か気になるものがあるんですか?」
「いえ、今回この街に来たのは観光じゃないんです。……実は私達は魔王を倒すために旅をしていまして、その道中でこの街のギルドに『最強の魔法使い』と呼ばれている方がいらっしゃるという話を聞いたんです。それで、一度会ってみたいなと」
「へぇ!『最強の魔法使い』さんですか!そういえば私もどこかで話を聞いたことがありますよ!……まぁ、私は一回もその人に会った事は無いんですけど」
えへへと照れた様子で笑う彼女は、まるで現世に降り立った本物の天使のようで、非常に可愛らしかった。……本物の天使なんて見た事ないけど。
そんなこんなで、彼女と談笑しながら歩いていると。
「あっ!着きましたよ!ここがギルドです!」
「………………えっ?」
彼女の指差した建物を見た俺は、脳が数秒間完全に停止した。
そして我に返ると同時に、忘れかけていた現実を改めて認識させられた。
――この異世界は俺の理想から、かけ離れた世界であるという事を。
俺がイメージしていた『ギルド』というものは冒険者のたまり場として酒場が併設されていたり、屈強な冒険者達が様々な重装備を身につけて出入りしているような、漠然とだがそんなイメージを持っていた。
だが、実際は全然違う。
彼女が指差した先にある建物は『ギルド』というよりも『役所』と表現した方が適切な気がする。
白を基調とした清潔感を与える色合いに、無駄なものを一切省いたシンプルなデザインのその建物。
間違っても酒場が併設されてたり、屈強な冒険者がウロウロしてるような場所には到底見えない。
この世界に来てから何度目になるのか最早覚えていないが、理想の異世界像が崩れていく音が確かに聞こえた。
「それじゃあ私は帰ります!またどこかで会えるのを楽しみにしてますねっ!」
「えっ?あっ、ありがとうございま……行っちゃったよ……」
彼女は天真爛漫な笑顔を浮かべながら俺達に手を振り、俺が感謝の言葉を伝える前に去っていった。
呆然と彼女の去った方向を見つめていると、デイモスが後ろから俺の肩を叩いた。
俺はオイルの切れたブリキの人形のようにギギギとぎこちなく振り向く。
「おい、太郎。どうした?ボーッとして」
しかし、残念ながらこんな状況で爽やかスマイルが出来るほど俺のメンタルは強くないし、役者魂なんてものや格好良い顔も持ち合わせちゃいなかった。
その結果、目が笑っていないうえに尋常じゃないくらい頬が引き攣った不気味な笑顔を浮かべることになった。
「げへ、それじゃあ……中に入ろうか」
デイモスが心底怯えたような表情でゆっくりと後退りしたが、それを無視して俺はギルドの中に入る。
◆◆◆◆
建物の中へと入った。
就職活動や仕事に関連するポスターが壁のあちこちに貼られている。
ソファに腰掛けて順番を待っているであろう人々は、どんよりと暗い表情のまま求人雑誌を読んでいる。
そのためだろう、空気も息苦しいと感じるほどに張り詰めている。
その光景を目の当たりにした俺の脳内にある映像がフラッシュバックした。
と、同時に俺の心は限界を迎え、溜まった負の感情がついに爆発した。
「……ハロォォォワァァァクじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!」
俺は白目を向きながら、周囲の人の目もはばからず咆哮した。
もうダメだ、俺はもう限界だ。
この異世界に残されていたと思ってた希望が、まさかの形で打ち砕かれた。
ハローワークはないわ。
そりゃ、俺の想像してたギルドも『冒険者にクエストを紹介してくれる場所』ではあったけど!
俺が元々いた日本のハローワークも『無職に仕事を紹介してくれる場所』だったけど!
だからって、そのまんまハローワークはないだろ!
尚も、白目を剥いて叫び続ける俺に。
「お、おいどうした太郎!!なにがあった!おい!しっかりしろ!」
「どうなさったんですか!?大丈夫ですか!?」
デイモスと職員らしき女性が駆け寄ってくるのが分かる。
だが、この時の俺は明らかに普通ではなかった。
――早く!この場から離れなければ!
何をトチ狂ったのか俺は『逃げ出す』という結論に至り、混濁する意識の中で必死に立ち上がって、出口めがけて突っ走ったのだった――!
太郎は逃げ出した!
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