66 / 81
第六章 カラマス編
第六十二話 まっすぐに手を伸ばせ
しおりを挟む
――しばらくすると、ゾンビのいない少し広い空き地へと着いた。
「ここなら大丈夫そうだな……っと」
デイモスは担いでいた俺をゆっくりと降ろす。
「……あぁ、助かったよ。ありがとう……」
俺は振り絞った声で礼を言い、その後その場に座り込みガックリと顔を俯かせた。
……頭の中を色々なことが駆け巡る。
ダリルを強く引き止めていれば【神の祝福】によってマスターを助けられていたかもしれない、もう少し早く到着していれば、この騒ぎに気付いた時真っ先にあの酒場に向かっていれば、俺が回復の魔法を使えていれば、俺に人を救うだけの力があれば――。
様々な後悔が脳裏に浮かんでは消え、また浮かんでは消え……。頭の中をそれらがグルグルと渦巻く。
思えば、この世界に来てから人の死を、それも目の前で見たのは初めてのことだ。もちろん、こういった状況を覚悟していなかった訳では無い。
ただ、『救えたかもしれない』という可能性が、俺の心に罪悪感として現れた。それによって想像していたよりも心は深く抉られ、精神的なダメージは思いのほか大きかった。
その様子を見たヴェルデが、静かに語りかけてきた。
「……太郎……マスターは私たちに会った時にはもう既に手遅れの状態で何も出来なかったけど、今からでもマスターのために出来ることがあるんじゃないかな」
「……あぁ、分かってるよ。最期の頼みを叶えなきゃ、この騒動の原因を止めなきゃ……」
俯いたまま、力なく答えた。
……分かってはいる、分かってはいるのだ。ただ、頭では分かっていても身体がそれにしっかりとついてこない。
そのことに気付いたのか、デイモスは俺の肩をポンと叩いた。
「口を開けば『死にたくねぇ』っつー奴とは思えないほど、よくやってると思うぜ?普通の奴でもわざわざ危険を冒してまで、いるかも分からん人間をあの酒場まで探しに行ったりしねぇしな。……だからよ、あまり自分を責めるなよ、お前はやるだけのことはやったんだ」
俺を気遣ってくれたデイモスの励ましの言葉……。
本来であれば非常に勇気づけられる言葉であったが、その言葉を聞いた俺の心には
『――俺はそんな言葉をかけてもらう資格はない』
そんな罪悪感に似た、暗く澱んだ感情がさらに現れた。と、同時に俺の口からも、ほぼ無意識にそれらの感情の一欠片が漏れ出る。
「やめてくれ……俺は目の前の命ひとつ救えない、本当に無力な人間だ。今回のことで痛感したよ、力を持たない俺が、持ってる者と同じように行動すれば、俺を含めた全てを危険に晒す。それに……たとえ救える可能性があったとしても、俺にはただ見てることしかできない」
気が付くと、俺はそんなことを口走っていた。
この2人には弱気な本心をさらけ出してもいいというところまで心を許したのか、あるいは、ただ2人の優しさに甘えているだけなのか。……おそらくは、その両方なのだろう。
それを認識した途端に、甘ったれた自分自身が情けなくなった。
俺は俯いたまま、力なく首を横に振る。
「……ごめん、今のは忘れ――ッ!!」
『――忘れてくれ』そう言いかけた瞬間、俺の左頬に痛みと衝撃が走り、視界が大きくブレた。何が起こったのか分からぬまま、俺の身体は真横に数メートルほど吹っ飛ばされる。
地面に這いつくばりながら、俺は未だ揺れ続ける視界を突然衝撃が襲ってきた方向へと向けた。
そこには、拳を握ったデイモスがいた。
「……この先ずっと横でメソメソされてちゃ鬱陶しくてしょうがねぇからなぁ。……どうだ?今ので少しは頭も冷えたんじゃねぇか?」
右手の拳を強く握り締めながら、俺を見てニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
俺は無意識に殴られた頬を擦る。
しかし、派手に吹っ飛んだにしては痛みはそれほど感じない。おそらくはデイモスが手加減したからだろう。
「今の時代……ちょっとした暴力シーンでもPT○から苦情が来る時代だよ?それに……肉体言語で語り合わなきゃいけないほど……俺の脳みそは腐ってないか――ッ!!」
フラフラと立ち上がろうとしたが、俺はデイモスに胸ぐらを掴まれグッと引き寄せられる。
そして、額同士がくっつくほどの距離でデイモスの怒りの込められた眼に睨まれ、ゾクリと背筋が凍るような恐怖を感じ身体が固まった。
「……てめぇがなんでも出来るような完璧超人じゃねぇことなんざ、端から分かりきったことじゃねぇか。俺たちはそれを知った上で、今、ここにいるんだ。……お前が言う『無能な人間』に救われた奴が少なくともここに1人いるってこと、忘れんじゃねぇぞ」
デイモスは真剣な目で真っ直ぐに俺を見つめる。
俺も思わず逸らしそうになるのを堪えて、デイモスの目を見つめ返す。
デイモスは続ける。
「お前は普通の奴に比べたら持ってねぇのもたくさんあんのかもしれねぇ。……けどよ、それとは別の、お前しか持ってねぇ大切なもんがあんだろうが。ないものねだりをしてる暇があんなら、今あるものをどう使って、壁をどう乗り越えるか……いや、どうやって壁をぶっ壊せるのかを考えろ。お前はこんなところで折れちまうようなタマじゃねぇだろ?」
そう言ったデイモスの腕からふっと力が抜け、俺はその場にドサリと膝から崩れ落ちる。
「救えなかった人のことを思うのも大切だけど、そのことを引きずってても前に進めないよ」
ヴェルデは俺の肩に手を置いてそう言った。
……精神的な面でデイモスは勿論、ヴェルデの方が俺よりずっと大人なんだよな。
そんなことを考えながら俺は、思考が少し昔に遡る。
――思えば、俺は中学や高校くらいから頭の中や行動は何も変わっちゃいない。俺の精神年齢はあの頃のまま、止まっちゃってるんだと思う。
それに関しては、元の世界でサラリーマンとして働いてる時もよく言われたよ。
『社会人とは思えない』『行動、思考が幼稚』ってね。
当然ながら、そんな状態じゃ人間いつかは限界が来るってもんで。案の定……というべきか、俺は全てが嫌になった。
仕事はもちろん、当時の俺はもしかしたら生きることにすら絶望していたのかもしれない。
そうして、本当に色々と限界を迎えた俺は、この世界からどうやって逃げ出そうか、そんなことを考えながら仕事が終わり、家へ向かっていて――気が付くと、この世界にいたんだ。
『勇者として魔王を倒せ』
訳の分からんこの世界に来た初っ端に、突きつけられたこの言葉。
暇つぶし程度に見てた異世界うんぬんの物語やゲーム、アニメの知識を持っていた俺からすれば、まさに『夢のような状況』だと思った。
だが、疑う気持ちがなかったわけではない。
本当にこれでいいのだろうか、俺に勇者など無理に決まってる、それならここで真面目に働き口を探した方がよほど賢いんじゃないか――。
俺だって、仮にも社会に出て働いてきた人間だ。
1回ポッキリ、魔王に負ければ終わりのイカれた大博打なんかより、細々とでも安定した生活を送れるほうがいいに決まってるなんてことは分かってた。
だけど、こんなチャンスは1度逃したら二度と手に入らないだろうということだけは確信していた。
実を言うと俺は小さい頃、ヒーローとか英雄、『勇者』と呼ばれるような存在に憧れを抱いていたんだ。
弱きを助け、悪をくじく。
俺がかつてゲームやテレビなどで見た勇者という存在は、きまって皆この信念を掲げて、人々や世界を救っていた。
……俺ははるか昔の色褪せた記憶に、再び鮮やかな色が戻っていくのを確かに感じた。
だったら、この一度きりのチャンスを掴んでやろう!
そんな淡い希望を胸に、俺は勇者になることを選んだんだ。
……だが、現実は違う。
この世界の住人には標準装備の特別な力を、俺は何一つ持たずに放り込まれた。人を救うどころか自分の命すら自分で守れない。
「俺は……お前たちみたいに強くない……。この手じゃ誰も救えねぇんだよ……」
俺は自分の震える手のひらを見つめながら、喉の奥から消えるような声を絞りだした。
何の力も持たない俺が手を伸ばしても、その届く範囲はひどく狭い。
……それこそ、目の前にいる人にすら届かないほどに。
いくら必死に伸ばしても伸ばしても、どうしても救いきれない生命は出ると思う。それはきっとこれから先も同じことだろう。
――だが、ここで俺が手を伸ばすことを諦めたら?
不意に脳内にそんな言葉が浮かび上がる。
これから先、もしかしたら俺たちが救うことになるはずだった命はどうなる?今も続く魔王軍の攻撃はどうなる?
拡大し続ける被害を尻目に、俺はそれらを知らんふりできるのか……?
俺は葛藤をこらえるように唇をかみしめ、顔を俯かせた。
そうして俯く俺の視界に、突然ふたつの手のひらが伸びてきた。
驚いた俺は目を丸くして、ハッと顔を上げる。
それは、デイモスとヴェルデが差し出した手のひらだった。
「――1人で手を伸ばしても届く範囲には限界がある……それは私もデイモスも、太郎だって同じだよ?だけど、私たちが手を組んで真っ直ぐに伸ばしたその先に、限界なんてないんじゃないの?」
ヴェルデはポカンとしたマヌケ顔になっている俺に、ニッコリと優しげな笑みを向けた。
「世界を救うだの、人を救うだの、そんなバカでけぇ大荷物、一人で抱え込めるわけねぇだろうが。……貸せ。その面白そうな荷物、俺にももうちょっと持たせろや」
デイモスも俺に手のひらを差し出したまま、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
――そうだ、そうだった。俺にはこんな頼りになる仲間がいるんじゃないか。
なぜ俺は、これほどの重荷全てを自分一人で抱え込もうとしていたんだ。
なぜ俺は、自分一人だけが手を伸ばしてやっと届くようなごくごく限られた狭い範囲を、まるで世界の全てのように考えていたんだ。
俺には信頼している仲間がいる。
この事実だけで十分じゃないか――。
俺はふぅと小さく息を吐き、口元にいつも通りの凶悪な笑顔を浮かべる。
これで迷いはなくなった。
俺は2人の手を借りて、座り込んでいた地面から無言でゆっくりと、だがしっかりとした姿勢で立ち上がる。
「――さぁ、俺たちでこの街を、この街の人々を根こそぎ救ってやろうぜ」
「ここなら大丈夫そうだな……っと」
デイモスは担いでいた俺をゆっくりと降ろす。
「……あぁ、助かったよ。ありがとう……」
俺は振り絞った声で礼を言い、その後その場に座り込みガックリと顔を俯かせた。
……頭の中を色々なことが駆け巡る。
ダリルを強く引き止めていれば【神の祝福】によってマスターを助けられていたかもしれない、もう少し早く到着していれば、この騒ぎに気付いた時真っ先にあの酒場に向かっていれば、俺が回復の魔法を使えていれば、俺に人を救うだけの力があれば――。
様々な後悔が脳裏に浮かんでは消え、また浮かんでは消え……。頭の中をそれらがグルグルと渦巻く。
思えば、この世界に来てから人の死を、それも目の前で見たのは初めてのことだ。もちろん、こういった状況を覚悟していなかった訳では無い。
ただ、『救えたかもしれない』という可能性が、俺の心に罪悪感として現れた。それによって想像していたよりも心は深く抉られ、精神的なダメージは思いのほか大きかった。
その様子を見たヴェルデが、静かに語りかけてきた。
「……太郎……マスターは私たちに会った時にはもう既に手遅れの状態で何も出来なかったけど、今からでもマスターのために出来ることがあるんじゃないかな」
「……あぁ、分かってるよ。最期の頼みを叶えなきゃ、この騒動の原因を止めなきゃ……」
俯いたまま、力なく答えた。
……分かってはいる、分かってはいるのだ。ただ、頭では分かっていても身体がそれにしっかりとついてこない。
そのことに気付いたのか、デイモスは俺の肩をポンと叩いた。
「口を開けば『死にたくねぇ』っつー奴とは思えないほど、よくやってると思うぜ?普通の奴でもわざわざ危険を冒してまで、いるかも分からん人間をあの酒場まで探しに行ったりしねぇしな。……だからよ、あまり自分を責めるなよ、お前はやるだけのことはやったんだ」
俺を気遣ってくれたデイモスの励ましの言葉……。
本来であれば非常に勇気づけられる言葉であったが、その言葉を聞いた俺の心には
『――俺はそんな言葉をかけてもらう資格はない』
そんな罪悪感に似た、暗く澱んだ感情がさらに現れた。と、同時に俺の口からも、ほぼ無意識にそれらの感情の一欠片が漏れ出る。
「やめてくれ……俺は目の前の命ひとつ救えない、本当に無力な人間だ。今回のことで痛感したよ、力を持たない俺が、持ってる者と同じように行動すれば、俺を含めた全てを危険に晒す。それに……たとえ救える可能性があったとしても、俺にはただ見てることしかできない」
気が付くと、俺はそんなことを口走っていた。
この2人には弱気な本心をさらけ出してもいいというところまで心を許したのか、あるいは、ただ2人の優しさに甘えているだけなのか。……おそらくは、その両方なのだろう。
それを認識した途端に、甘ったれた自分自身が情けなくなった。
俺は俯いたまま、力なく首を横に振る。
「……ごめん、今のは忘れ――ッ!!」
『――忘れてくれ』そう言いかけた瞬間、俺の左頬に痛みと衝撃が走り、視界が大きくブレた。何が起こったのか分からぬまま、俺の身体は真横に数メートルほど吹っ飛ばされる。
地面に這いつくばりながら、俺は未だ揺れ続ける視界を突然衝撃が襲ってきた方向へと向けた。
そこには、拳を握ったデイモスがいた。
「……この先ずっと横でメソメソされてちゃ鬱陶しくてしょうがねぇからなぁ。……どうだ?今ので少しは頭も冷えたんじゃねぇか?」
右手の拳を強く握り締めながら、俺を見てニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
俺は無意識に殴られた頬を擦る。
しかし、派手に吹っ飛んだにしては痛みはそれほど感じない。おそらくはデイモスが手加減したからだろう。
「今の時代……ちょっとした暴力シーンでもPT○から苦情が来る時代だよ?それに……肉体言語で語り合わなきゃいけないほど……俺の脳みそは腐ってないか――ッ!!」
フラフラと立ち上がろうとしたが、俺はデイモスに胸ぐらを掴まれグッと引き寄せられる。
そして、額同士がくっつくほどの距離でデイモスの怒りの込められた眼に睨まれ、ゾクリと背筋が凍るような恐怖を感じ身体が固まった。
「……てめぇがなんでも出来るような完璧超人じゃねぇことなんざ、端から分かりきったことじゃねぇか。俺たちはそれを知った上で、今、ここにいるんだ。……お前が言う『無能な人間』に救われた奴が少なくともここに1人いるってこと、忘れんじゃねぇぞ」
デイモスは真剣な目で真っ直ぐに俺を見つめる。
俺も思わず逸らしそうになるのを堪えて、デイモスの目を見つめ返す。
デイモスは続ける。
「お前は普通の奴に比べたら持ってねぇのもたくさんあんのかもしれねぇ。……けどよ、それとは別の、お前しか持ってねぇ大切なもんがあんだろうが。ないものねだりをしてる暇があんなら、今あるものをどう使って、壁をどう乗り越えるか……いや、どうやって壁をぶっ壊せるのかを考えろ。お前はこんなところで折れちまうようなタマじゃねぇだろ?」
そう言ったデイモスの腕からふっと力が抜け、俺はその場にドサリと膝から崩れ落ちる。
「救えなかった人のことを思うのも大切だけど、そのことを引きずってても前に進めないよ」
ヴェルデは俺の肩に手を置いてそう言った。
……精神的な面でデイモスは勿論、ヴェルデの方が俺よりずっと大人なんだよな。
そんなことを考えながら俺は、思考が少し昔に遡る。
――思えば、俺は中学や高校くらいから頭の中や行動は何も変わっちゃいない。俺の精神年齢はあの頃のまま、止まっちゃってるんだと思う。
それに関しては、元の世界でサラリーマンとして働いてる時もよく言われたよ。
『社会人とは思えない』『行動、思考が幼稚』ってね。
当然ながら、そんな状態じゃ人間いつかは限界が来るってもんで。案の定……というべきか、俺は全てが嫌になった。
仕事はもちろん、当時の俺はもしかしたら生きることにすら絶望していたのかもしれない。
そうして、本当に色々と限界を迎えた俺は、この世界からどうやって逃げ出そうか、そんなことを考えながら仕事が終わり、家へ向かっていて――気が付くと、この世界にいたんだ。
『勇者として魔王を倒せ』
訳の分からんこの世界に来た初っ端に、突きつけられたこの言葉。
暇つぶし程度に見てた異世界うんぬんの物語やゲーム、アニメの知識を持っていた俺からすれば、まさに『夢のような状況』だと思った。
だが、疑う気持ちがなかったわけではない。
本当にこれでいいのだろうか、俺に勇者など無理に決まってる、それならここで真面目に働き口を探した方がよほど賢いんじゃないか――。
俺だって、仮にも社会に出て働いてきた人間だ。
1回ポッキリ、魔王に負ければ終わりのイカれた大博打なんかより、細々とでも安定した生活を送れるほうがいいに決まってるなんてことは分かってた。
だけど、こんなチャンスは1度逃したら二度と手に入らないだろうということだけは確信していた。
実を言うと俺は小さい頃、ヒーローとか英雄、『勇者』と呼ばれるような存在に憧れを抱いていたんだ。
弱きを助け、悪をくじく。
俺がかつてゲームやテレビなどで見た勇者という存在は、きまって皆この信念を掲げて、人々や世界を救っていた。
……俺ははるか昔の色褪せた記憶に、再び鮮やかな色が戻っていくのを確かに感じた。
だったら、この一度きりのチャンスを掴んでやろう!
そんな淡い希望を胸に、俺は勇者になることを選んだんだ。
……だが、現実は違う。
この世界の住人には標準装備の特別な力を、俺は何一つ持たずに放り込まれた。人を救うどころか自分の命すら自分で守れない。
「俺は……お前たちみたいに強くない……。この手じゃ誰も救えねぇんだよ……」
俺は自分の震える手のひらを見つめながら、喉の奥から消えるような声を絞りだした。
何の力も持たない俺が手を伸ばしても、その届く範囲はひどく狭い。
……それこそ、目の前にいる人にすら届かないほどに。
いくら必死に伸ばしても伸ばしても、どうしても救いきれない生命は出ると思う。それはきっとこれから先も同じことだろう。
――だが、ここで俺が手を伸ばすことを諦めたら?
不意に脳内にそんな言葉が浮かび上がる。
これから先、もしかしたら俺たちが救うことになるはずだった命はどうなる?今も続く魔王軍の攻撃はどうなる?
拡大し続ける被害を尻目に、俺はそれらを知らんふりできるのか……?
俺は葛藤をこらえるように唇をかみしめ、顔を俯かせた。
そうして俯く俺の視界に、突然ふたつの手のひらが伸びてきた。
驚いた俺は目を丸くして、ハッと顔を上げる。
それは、デイモスとヴェルデが差し出した手のひらだった。
「――1人で手を伸ばしても届く範囲には限界がある……それは私もデイモスも、太郎だって同じだよ?だけど、私たちが手を組んで真っ直ぐに伸ばしたその先に、限界なんてないんじゃないの?」
ヴェルデはポカンとしたマヌケ顔になっている俺に、ニッコリと優しげな笑みを向けた。
「世界を救うだの、人を救うだの、そんなバカでけぇ大荷物、一人で抱え込めるわけねぇだろうが。……貸せ。その面白そうな荷物、俺にももうちょっと持たせろや」
デイモスも俺に手のひらを差し出したまま、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
――そうだ、そうだった。俺にはこんな頼りになる仲間がいるんじゃないか。
なぜ俺は、これほどの重荷全てを自分一人で抱え込もうとしていたんだ。
なぜ俺は、自分一人だけが手を伸ばしてやっと届くようなごくごく限られた狭い範囲を、まるで世界の全てのように考えていたんだ。
俺には信頼している仲間がいる。
この事実だけで十分じゃないか――。
俺はふぅと小さく息を吐き、口元にいつも通りの凶悪な笑顔を浮かべる。
これで迷いはなくなった。
俺は2人の手を借りて、座り込んでいた地面から無言でゆっくりと、だがしっかりとした姿勢で立ち上がる。
「――さぁ、俺たちでこの街を、この街の人々を根こそぎ救ってやろうぜ」
0
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる