チートがなくても最強です!?〜最弱勇者はハードモードの異世界を策略と悪知恵で必死こいて生きていく〜

ソリダス

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第七章 サダルア編

第七十七話 ニシンの塩漬け

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 現在、俺たち4人は仲良く牢屋にぶち込まれている。

 光を失った瞳で天井を眺めていたヴェルデは、ゆっくりと俺の方を向いて力なく呟く。

 「ねぇ、たろ……『ゴミ』、今すぐここから脱獄する方法、考えて」

 「わ、分かんないッピ……。あと、なんでわざわざゴミに言い直したの?次、ゴミっつったら握りっぺ食らわせるからな」

 唐突にヴェルデからの暴言から始まったが、俺は特に動揺したりせず床にぺたりと座ったまま答えた。
 普段だったらなんの脈絡もなくそんなことは言わない人だと分かっている。他二人はともかくとして。
 そのくらい精神的に参っているのだと、さすがの俺も察した。

 まあ、そりゃこんな牢屋にぶち込まれたらそうなるだろう。かくいう俺も平然を装ってはいるが、頭の中はだいぶグチャグチャだ。
 俺の心は理科の実験で使うプレパラート並のガラスハートなので、この重圧に耐えられるようにできてないのだ。

 ……若干2名はこの監獄ライフに動揺するどころか、何なら満喫しているように見えるけれど、それはきっと俺の勘違いだろう。

 ――この監獄の警備は全体的に甘い。

 警備もザルだし、監獄の規模から考えても看守の数があまりにも少ない。

 そんな感じなので、他の囚人たちと話す機会もあったのでその時に聞いてみたのだが、投獄されている人々のほとんどは魔法を使えないということだった。

 つまり、この監獄に収容されている囚人は弱者と思われているから。
 脱獄なんてできるわけが無いと思われているから、この手薄さなのだろう。

 ただ、念には念をということなのか、囚人の手首には魔法などを使えなくする魔封じの腕輪なるものが着けられていた。

 ……これがなけりゃ、今頃ダリルにでもこの牢屋をぶち壊してもらってたんだが。

 で、だ。

 何もせずじっとしているという訳にもいかないらしく、囚人達にはある刑務作業が命じられた。

 草むしりである。

 敷地内の雑草を引きちぎり、やたら大きいポリ袋にぶち込んでいく。これが日中いっぱい続く。
 単純作業が一番堪えるかもしれない。
 まぁ、けど奴隷が回す謎の棒みたいな過酷な肉体労働させられるのに比べればマシなんだろうが。

 ここまではまだいい。

 一番やべぇのは食事だ。

 ……俺の元いた世界の人間であれば知っている人もいるかもしれないが、『シュールストレミング』という名前の食べ物がある。
 それは北欧で食べられているニシンの塩漬けを発酵させたものなのだが、まぁとにかく臭いらしい。その臭いを例えるなら、強烈な腐敗臭だとか炎天下の中放置した生ゴミとか、一見食べ物に対する表現とは思えないような言葉がずらりと並ぶ。

 ……なぜその話題を出したのか、察しのいい方ならお気づきだろう。

 出たのである。『それ』が。

 昨日までは普通の飯――といっても、美味しくはないが――だったのだ。

 それが突然、今日の朝に現れた。
 例のブツの蓋を開けると、隙間からプシュッとガスが噴き出したかと思うと、そこから一瞬遅れてくる激臭。鼻から脳天にかけて突き刺さるような衝撃が、俺たち4人に襲いかかった。

 「ぎゃあああああああ!!!!」

 中でも俺は、そのあまりの臭いに断末魔のような悲鳴をあげ、そしてえずきながら、何か密閉できるものはないかを探した。
 そしたら、ヴェルデの横にある草むしりで余ったポリ袋が視界に入る。

 「ゔ……ゔぇ、ヴェルデ……!その隣の袋、取って……ッ!」

 「こ、これ……?は、はい!早く早く!背中さすってあげるから!我慢しないで!」

 「いや違うって!別に吐くわけじゃないから……あっ、でも、背中さすられたら込み上げてきた……」

 俺は吐き気を耐えながら、そのパンドラの缶詰を掴んでそのまま袋にぶち込んだ。袋の口を固く結び、とりあえずは臭いが漏れないようにしたが。

 「はぁ、はぁ……色々と危なかった……ヴェルデ?あの、もう背中さすらなくてもいいよ?」

 なおも背中を摩り続けていたヴェルデにそろそろストップをかける。激臭を嗅いだ直後にそれだけ摩られれば、なんともなくても脳が勘違いして喉の奥から酸っぱいものが込み上げてくる。

 俺が吐き気に耐えている時、ダリルは袋に入った缶詰をまじまじと見つめながら、ツンツンと突っついている。

 「これ……確か、この辺の名物だったはず。私は食べたことないんだけど」

 「いくら名物でも、時と場所を考えないと完全にテロだからねコレ。……ダリル、この街のこととか割りと詳しかったりするの?」

 思い返せば、この街全体や王の思想とか知ってたり、ちょいちょい意味ありげな表情を浮かべたりと、少し気になる部分はあった。
 これにダリルは最初、珍しく言いよどんだ様子を見せながら話し始めた。

 「詳しいというか……。実はさ、だいぶ前になるんだけど賢者の仕事の関係で、この街に少しだけ住んでたことがあるんだよ」

 「えっ、マジで?」
 「なるほど……。この街の人達の考え方とかを知ってたのはそういうことだったんだね」

 想定外の発言に食いつく俺とヴェルデ。

 だがこれまでのダリルにしては珍しい、物思いにふけったような遠くを見つめる視線を宙に向ける。

 「……けど、私この街好きじゃなかったから、あんまり思い出したくなかったんだよなぁ」

 ……おっと、やべぇ。
 なんか、これ以上深く聞くのはあんまり良くなさそうだなという雰囲気を敏感にも感じ取った俺。
 表情からは読み取れないが、恐らくヴェルデも同じことを考えているはずだ。

 こうなったらとりあえず話を変えるしかない。

 ただ、別の話題を振るというのもそう簡単にはいかない。というのも、シンプルに俺の語彙力と会話力が欠落しているからである。悲しいね。

 俺は何かないか何かないかと考える。
 すると、ここまで特に目立った動きを見せてこなかったデイモスが、突如として怒鳴り声を上げ、その声はフロア中に響き渡る。

 「おいゴルァ!なんだコレ!こんなもん出してくるんじゃねぇ!こんな腐ってるものが近くにあったら気が気じゃねぇよ!持ってってくれ!」

 デイモスは鉄格子をガンガンの外にいる看守に向かって、封印されしポリ袋を指差しながら怒鳴り散らす。

 ……こいつは意外とこういうところがあるからなぁ。

 周りのことを見ていないようで、実は誰よりも気を配っていたりする。デイモスとはしばらくの付き合いになるが、その中で分かってきたことだ。

 ……ん?あれ?けど、デイモスの表情がだいぶ本気っぽいんだけど?
 もしかしてこいつ、何も考えずに言ってるだけかもしれない。あるいは発酵食品が近くにあることで自分が腐るんじゃないかとでも考えてるのか。
 いずれにせよ、デイモスのことを一瞬見直した俺の感情を返して欲しい。

 俺は感情を失ったジト目で無言のままデイモスを見つめる。

 近くに来た看守は渋々といった感じで溜息をつきながら受け取ると、廊下を1、2歩歩いたところでコトリとそれを置いていった。
 結局は俺たちの視界から消えることはなく、俺たちが手の届かない鉄格子を挟んだ目の前の廊下に移動しただけだった。

 「…………いやそのまま置いていくんかい!!」

 デイモスの絶叫が通路にやけに虚しく響いた気がした。


 ◆◆◆◆

 ――そんなやり取りがあったのが、つい数十分前。

 そして今、先程までとは比べられないほどに状況が一変している。

 さっきまで入っていた牢屋の外へと出された俺たちは、その鉄格子の前に1列に並ばされていた。

 「――お前達の死刑が確定した。まずは勇者以外の者達から執行する。3人は我々の指示に従ってもらう」

 7名いる目の前の看守の中で、恐らく1番階級が上であろう白髪混じりの壮年の男性看守が、淡々とした口調で言い放った。
 
 マジでいきなりだったのでビビり散らかす俺達。

 ……だが、ビビりながらも割と頭は冷静に働いているのが分かる。これまで色々な経験をしてきて、神経が図太くなってきたからだろう。
 そんな中、俺は必死に思考を巡らせる。

 まず、俺以外から処刑されるのはまずい。
 俺は何の力も持っていないため、一般人以下の戦闘力しかない。そんな俺だけ残されても脱獄や仲間たちの救助なんてできるわけがない。
 だが、この3人なら脱獄の可能性はゼロではない。

  つまり、俺以外が処刑の準備や拘束されて動けない状態で、その間に俺がフリーで動くか。
 もしくはその逆。俺が動けない状態の間に、3人がフリーで行動する方がいいか。

 これなら明らかに後者の方が可能性が高い。
 ならば、可能性が僅かでも高い選択に持っていこうとすることが、今できうる最善手のはずだ。

 それに……ここまで付き合ってくれた奴らなんだ。俺と一緒にいたせいで殺されちゃ目覚めが悪いし、罪悪感だって感じる。

 俺は一度呼吸を整えると、

 「ちょちょちょ!!待てって!こいつらは関係ないぞ!?……こほん、実はな、俺はこいつらの家族を人質に取っていて、それでこいつらを服従させているのだ!ちなみに俺が死ぬとこいつらの家族も死ぬ!!お前達だって罪もない一般人を殺したくはないだろう?」

 これならばどうだろうか?
 3人は人質に取られた家族のため、俺の命令に従っているに過ぎない。
 ……という設定だ。

 これで「そうだったのか……!」となって、死刑が延期になればベストだし、それが出来なくてもヘイトを俺に向けさせて、他3人よりもこのヤベェ勇者を先に殺すべきという意見が出ればバッチリだ。

 というか、ぶっちゃけ俺にはこのくらいしか思いつかない。他の人ならもっと効果的でかつスマートな作戦を思いつくのだろうが、これが俺の限界だった。
 俺は相手の出方を伺う。
 しかし、看守達は表情を変えることなく、真っ直ぐに俺たちを見つめたまま。
 だが、さっきの壮年の看守が感情を感じない冷徹な視線を細めた。

 「……だからどうした?」
 
 「えっ?」
 
 「優秀でない者の命など誰が気にする?この街の、この国の益とはならない者なぞ価値はない。それに、貴様らについて得た様々な情報を勘案するに現状、貴様らは魔王軍関係者やその内通者である確率が高い。もしこれで討ち取れれば儲けもの、違った場合でも魔法も使えぬ貴様らなど大した損にはなるまい」
 
 「えぇ……?」
 
 随分と割り切った考え方というか……まあ、合理的な判断だとは思うけど……。

 多分、魔法も使えないのに魔王軍幹部を倒せるわけがない、ならそれは魔王軍による偽装工作なのではないか、と疑ってるのだろう。
 そうすれば、俺たちは魔王軍を倒した勇者として人間の内部に潜り込める、幹部たちは死んだことになっているので潜伏し奇襲などもしやすくなる。
 確かに疑う気持ちも分からんではないが……。

 「――だ、だけどそんなことをしたら勇者という存在はどうなるんですか!これだけの功績を挙げられる者がまた現れると思ってるんですか!?」

 ヴェルデが看守達に声を荒らげる。
 しかし、彼らは微塵も表情を変えることなく、淡々とした口調で言う。

 「その辺も皇帝陛下はしっかりと考えをお持ちのようだ。今から死に行く貴様らはそんなことは気にせず逝けばよい。……さて、時間だ。勇者以外の3人を連れて行け!」

 そうして、俺以外は全員連れていかれてしまった。
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