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1-1 第二の人生
第1話 平凡冒険者の日常
(今日の仕事も無事に終わったな)
ギルドの受付嬢にクエストで指定された薬草等の納品が完了した。
「毎度の事ですけど、ヤマトさんの納品される品は状態が良くって素晴らしいです!」
「それにクエストでのミスも、今まで一度もありませんし」
「ありがとうございます」
会釈程度の微笑を返す。
彼女は毎度そう俺を褒めてくれるが、恐らくやる気を削ぐことの無いようにという世辞の一種だろう。
自分には特別な才能も有能を証明する技術も、そう思える根拠は何も持ち合わせていない。
ただ訪れるその日一日を必死にこなす事を意識しているのは事実だが、褒められると実際悪い気はしないものだ。
陽が沈みかける頃。普段より早く仕事を終わらせた俺は、ギルドに併設の酒場のカウンターへと向かう。
「いつものをお願いします」
肌は浅黒く、坊主頭で恰幅のいい店員に銅貨を三枚支払う。
男性はおもむろに、カウンターの下により分けていたパンや肉のクズ──残飯が入った袋を取り出し俺に差し出す。
「毎日飽きないねぇ」
男性は顔見知りが故の苦笑混じりで俺にそう言う。
袋を受け取りギルドを後にする。
そして夕焼けで橙色に染まる町並みを横目に、いつものように露店が立ち並ぶ中央広場へと足を運ぶ。
「おう、いつもの兄ちゃん。ちゃあんと取ってあるぜ」
「いつもすみません」
礼を言い、いつもの路地裏へと歩き出す。
この世界には『魔物』と呼ばれる人間に対して好戦的な生き物が存在する。
その中に、地球のうさぎに良く似た"ラビトー"と言う名前の、鋭く鋭利な角が生えた魔物がいる。
俺のような駆け出しの冒険者でも楽に討伐出来る部類の強さでかつ肉が美味いということで、この街では一般的に用いられる食材の一つに数えられる。
毎日通うこの露店の主人が販売しているのが、そのラビトーの肉の串焼きとスープだ。
商品として客に提供する以上、ある程度形と量は揃える必要があるらしく、その切り取られた必要のない部分を安く譲ってもらっているのだ。
俺には些細な趣味がある。
何故わざわざ金銭を支払い残飯を買って回っているのかというと、町の路地裏に住み着く野良猫や野良犬達にエサをやるためだ。
俺は動物が好きだ。
この世界には魔物と呼ばれる凶暴な生き物が存在するが、馴染みある自然動物も存在する。
そんな動物達にエサをやることが喜びなのだ。
「お~い。今日も持ってきたぞ~」
存在を知らせる鈴を鳴らしながら路地裏に呼びかける。
『にゃ~ん』 『ゴロゴロ』 『ワフッ!』
鈴の音に釣られた野良達が続々と集まってくる。
素直に撫でられる子や、ツンとしている子。
自分の分をさっさと平らげ他者の分を横取りしようとする子など、色々と個性があり見ていて飽きない。
『自分のペットでもねぇ動物に、身銭切って食い物恵んでやるなんざバカじゃねぇのか?』
『野良猫や野良犬がこれ以上増えたらどうしてくれるんだい!』
ギルドの冒険者や町のご婦人方はそう口にする。
以前は、野良達が露店の商品を盗み食いしたり、子供が噛みつかれたりと、ちょっとした街の問題になっていたそうだ。
なのでエサをやりだした初めの頃は、その様子を目にした人々によく罵倒されたものだ。
『なんか最近野良達が大人しいよな』
『糞尿やら毛やらの掃除もある程度場所が決まっていてやりやすいわ』
だが近頃はこの俺の趣味が町の美化、治安に貢献していると認めてもらえたのか、エサやりに対して罵倒されることは無くなった。
一日の楽しみを終えた俺は、家代わりの定宿へと帰る。
この町には宿屋が三軒あり価格帯によって住み分けがなされている。
俺の定宿は松竹梅で言うところの"竹"に当たり、三階建ての宿の外観は、素朴な黒い色合いの平らな屋根に白い壁、値段も設備も普通そのものだ。
何故竹にしているかと言うと、単純に枕との相性が良かったことと、その価格だ。
仮に松を選んでも宿泊代が跳ね上がるといった事は無いのだが、一日の稼ぎに限界がある以上節約出来る所は節約したい。
「お帰りヤマトさん。今日も無事帰ってきたわね」
「ただいまシシリーちゃん」
帳場の娘が迎え入れてくれる。
特段美人ではないが肩ほどの長さの赤茶色の髪が良く似合う、愛嬌のある子だ。
「これ、今週の分。今渡しておくよ」
そう言って袋に入った金をシシリーに渡す。
この国の貨幣は金貨、銀貨、銅貨の三種類に分かれており、それぞれの価値を日本円に換算すると、十万円、千円、百円といった具合だ。
俺が手渡した一週間分は、銀貨十七枚と銅貨五枚。
素泊まり一泊三銀貨が正規の値段なのだが、定宿としなかば住み着いているようなものなので、一泊につき銅貨五枚分割り引いてもらえている。
「今日は夕食用意する?」
「うん、頼むよ。部屋で食べるね」
「たまには食堂で私と一緒に食べれば?」
「今日はいつもより少し早く帰れたから、あれに時間を多くかけるよ」
「そっか~……定期的にやってるみたいだけど、何か意味あるの?」
「俺にとっては大事なことだよ」
シシリーとの馴染みの会話を終え夕食分銀貨一枚を追加で手渡し、三階の一番奥、いつもの自分の部屋へと帰る。
背負う弓や腰に帯びる短剣を置き、壁に立て掛けながらふと思い返す。
「そういえば、もう一年程経つのか……」
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