平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

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1-4 シロップ

第17話 昼食にて

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「こんにちは、少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」
 
「おやおや、なんとかわいい鳥さんだこと。冒険者さんかい?」

 ほっかむりを頭に被り、少し腰の曲がったおばあさんが農作業をしている。

「ええ、ミドルラットの駆除に参りまして。先程小麦畑の方は見回り終えたんですが、今日は少ないようで。普段とお変わりはないですか?」

「そうだねぇ、特に変わった様子はないねぇ。」

「お手を止めてしまいまして、すみませんでした」

「気にしなさんでええよぉ」

 小麦畑と違い見晴らしがいいので、ミドルラットならすぐ視認出来るが姿は無い。

 目立った成果は無いが、今日のように少数、あるいは一匹も持ち帰らず報告をしても問題はない。

 仮にミドルラットが悪さをしているのにそれを放置して、一匹も駆除せずに見当たらなかったと虚偽の報告をした所で、農業組合からのクレームで直ぐにばれる。

 ギルド側もそれを理解しているので、農業組合から支払われる報酬額は少なくなるが、クエスト失敗扱いとはならない。

 他の冒険者であれば、労せずクエストが終わってラッキーと言った所だ。

 被害を受ける農業組合を思えば不謹慎な事だが、リーフルのご飯を当てにしていた俺にとっては少々残念。
 
「ホーホホ(タベモノ)」

「そうだねリーフル。今日は少ないみたいだ」

 目立った成果のないまま、ギルドへ報告に戻る事にした。



「目立った異変はありませんでした」

「そうですか、ヤマトさんが調査してそういう事でしたら問題ありません。まぁ緊急性のない、定期的に依頼されるクエストですから、そういう時もありますよね」

「リーフルのご飯が増えなかったのは残念です」 「ホーホホ(タベモノ)」

「リーフルちゃん、ミドルラットも主食なんでしたっけ? それは残念ですよね」

「ええ。ご飯を用意する立場としては、ラビトーだけだと栄養バランス的に自信が無いので、ミドルラットもあげるようにしているんです」
 
「栄養バランスまで! リーフルちゃんは愛されてるねぇ」 「ホー……」

 頭を撫でられるリーフルは満足そうに目を細めて首をすくめている。

 ギルドに戻りキャシーに報告しながら雑談に花が咲く、いつものパターンだ。

 冒険者になりたての頃、少々無理にでも愛想良くしようと意識していた。

 この世界の人達と違う顔立ちをしていて、おまけに記憶喪失──という設定──だなんていう人物は、どう見ても胡散臭い。

 特筆した能力も無いわけだし、せめて顔を覚えてもらって信用を得るしかないだろう。

 今では意識せず自然と雑談にまで発展するようになり、少しは信用してもらえるようになったと思う。

「今日はもう終わりですか?」
 
「ええ、掲示板を確認して都合のいい仕事クエストが無ければ帰ろうかと思ってます」

「そうですか、それでは報酬の方ご確認ください。ミドルラットはいつも通り、魔石は買取でお肉はお渡しですよね」

「はい、お願いします」

 報酬は銀貨十枚。如何せん駆除した数が少ないので普段の半値ほどだ。

 リーフルのご飯に関しては自主的にラビトーやミドルラットを狩りに行けばいいのだが、仕事クエストのついでに手に入れば効率がいいので、今回は少し期待外れか。

 昼時を過ぎ、望み薄だが一応掲示板を確認してみる事にする。

「まぁそうだよなぁ。酒場でご飯食べて帰ろうか」

「ホーホホ(タベモノ)」

 案の定、半日で終わって危険の少ない、そんな都合のいいクエストはもう捌けた後だ。

(今日は何にしよう)

 昼ご飯を考えながらギルドに併設されている酒場のカウンターへ向かう。

「すみませ~ん、昼定をひとつ──あ、ダナさん。こんにちは」

「あら、ヤマトさん! こんにちは。リーフルちゃんも元気そうね!」

「ホホーホ(ナカマ)」

 今日は氷の納品日だったらしく、ダナさんがカウンターでかき氷を販売していた。

「聞きましたよ、"かき氷"売れ行き好調のようですね」

「おかげさまでね。冒険者さんが『冷たくてリフレッシュに丁度いい』って、買ってくださるの。ヤマトさんは今からお昼かしら?」

 ここで販売できるようお願いすると言っていたが、売れ行き好調のようで安心した。

「ええ、お昼の日替わり定食でも頼もうかと思ってました」

「折角だし私もご一緒していいかしら? かき氷のお礼にご馳走するわ。あと、そのぉ……リーフルちゃんにもご飯あげたいのだけど……」

 ダナさんはまんまとエサやり体験の魅力に取り憑かれてしまったようだ。

「それではお言葉に甘えて。食後にかき氷も頂けますか?」

「ふふ、ヤマトさんの為ならいくらでも作るわ」

 ダナさんと一緒にテーブルに付き、注文した定食を味わいながら談笑する。

 誰かと一緒に食べるご飯は、より美味しく感じる。

「──このラビトーのシチュー美味しいですね。自炊が出来れば節約になるんですが、宿屋暮らしだとそうもいかず」

「宿のお部屋にキッチンは無いものねぇ。そうだ、そろそろかき氷でもどうかしら? 少し待っててね、用意するわ。味はどちらがいいかしら?」

「そうですね……」
 今の所実現しているシロップはベリとシディの2種類だけ。

(ブルーハワイ……)

 思い出してしまったが最後、俄然食べたくなってしまう。

 そもそもブルーハワイは何味なんだろうか。

 人の味覚は目からの情報に大きく影響されると、バラエティー番組で見たような気がする。 

 ということは見た目が青くて甘ければ再現出来るのか?

「ダナさん、食べ物を何かご存じありませんか?」

「青色の食べ物?……さぁ、すぐには思い当たらないわ」

 客の立場から言えば味の選択肢が多いと楽しいし、何より俺自身がブルーハワイが食べたくなってしまった。
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