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2-5 冒険者流遠足会
第87話 ベテランの奮迅 3
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村を覆う柵の外、敷地外の北側に、焚火の明かりが等間隔に灯りつつある。
飛び跳ねるイナゴをロングソードで両断する。
地を這うイモムシがハンマーに押しつぶされる。
「──ふぅ……俺達ならやれるはずだ。落ち着いて行こう」
「了解っす。なるべく遅れないようにするっす!」
俺達は村の南側、入り口付近の虫を掃討しながら、来る作戦決行の時を待っている。
「大丈夫っすかねガリウスさん……」
「ホホーホ……(ナカマ)」
「そうだなぁ……でも"人馬一体"。バルと確かな絆で結ばれたガリウスさんなら、片腕でもやってくれる──というよりも、頼らざるを得ないのが現状だしね」
俺達の心配など無用とばかりに、馬車を駆るガリウスが着々と虫達の退路を阻む壁となる焚火を起こしてゆく様子が、遠く離れたこの暗がりの中から伺える。
「──む! ヤマトさん、そろそろっす」
獣人特有の視力の良さを発揮するロングが、村の北側に灯る予定された明かりの数を確認し、俺達の出番を知らせる。
「ロング、無茶するなよ。ゆっくりでいい、俺も合わせるから」
「任せてください!──」
◇
片手で振り下ろすロングソードは疲労のせいか随分と重く感じられ、剣筋の精度も鈍く遅くなりつつある。
恐らくそれはロングも同じだろうが、弱音の一つも吐かず踏ん張っている。
そんな熱心な姿を想像し、俺も負けてはいられないと剣の握りを改める。
『上手くいけば一網打尽って訳さ』
ビビットの考えた作戦とはこうだ。
まず馬車を駆るガリウスが薪を積み密かに村を離脱、街の北側に虫達の退路を断つ壁となる焚火を起こしてゆく。
その"火の壁"目掛け、俺とロングが東西二手に別れ虫達を追い立て北上、村の北側にて待機するビビットの前へと誘導する。
そしていよいよ虫達が集結したところに、ビビットの大盾が覆いかぶさり、一挙に叩いてしまおうという算段だ。
この作戦の要となるビビットの持つユニーク魔法"マグニ"。
これは、魔法をかけるその対象物を大きく拡大させるという魔法だ。
説明によると、込める魔力量により拡大する規模は変化し、魔力を注げば注ぐ程にその物体は肥大していくというものらしい。
だが欠点もあり、拡大する規模とは反比例に、大きくなればなる程に効果時間が減少するという、使いどころは難しいが一発逆転を狙える切り札的奥の手だ。
ビビット曰く、集めた虫達を一網打尽に出来る大きさに拡大するとなると、効果時間は極僅かばかり。
大盾を傾け押し倒しながら拡大する都合上、チャンスはほんの数舜という事になる。
なので如何に俺達がタイミングを合わせ、虫達をビビットの前に運べるかが、今回の作戦の肝となる。
「ちぃっ!──」
隙をつくように襲い来る虫達を斬り伏せながら北上してゆく。
(ロングは──ロングも順調に上がってる。いいペースだ)
(時期じゃないって事だからしょうがないよな……)
疲れから恨み言が頭をよぎる。
この大発生さえ無ければここまでの道中危険は無く、旅行気分でいられたのだが、今更嘆いても仕方ない。
何より俺は"冒険者"だ。
こんな時こそ後に武勇伝を語るが如く『村を救った』と、胸を張って言えるような立ち振る舞いをしなければならない。
いよいよ村の北西辺りに差し掛かった頃、ロングの居るであろう方角へと目を向けると、予想される位置より少し遅れ気味の位置に松明の明かりが見えた。
(む!? あっちの方が数が多いのか……? いや、ロングを信じて耐えるんだ。タイミングを合わせないと)
北上するスピードを緩め、半ばこの場に停滞、虫達との綱引きへともつれ込む。
松明のおかげで虫の勢いは抑えられてはいるものの、先の見えない攻防が続く。
◇
浅く間隔の短い呼吸が漏れ出る。
(ロングは!?──よし、追いついてきてる!)
ロングの明かりの進行を確認し、俺も北上を再開する。
ここからはタイミングが重要となる。
俺かロング、どちらかが先に着いてしまうと虫達が散り散りにばらけ、撃ち漏らしてしまう事になる。
いくら強さはそれ程といっても多勢に無勢。
俺達の体力も限界に近く、多くの魔力を消費するビビットも、撃ち漏らしが多ければ途端に窮地に陥ってしまう。
(見えた、ビビットさんの松明! ロングも同じぐらいの位置、このまま──)
「ホー! (テキ!)」
リーフルが後ろを向き警戒を発する。
──突如背後から襲い来るイナゴ型の虫。
(後ろから!?)
「くそっ!──」
咄嗟にロングソードの切っ先を後ろに向け一匹の突進を防御。
もう一匹のイナゴの体当たりをもろに受けながらも松明を押し付け反撃、何とか凌ぎ難を逃れる。
(少し遅れたか!?)
急ぎ戦線を押し上げる。
◇
(よし! ロングが見えた!)
いよいよ対面にうっすらと松明の火に照らされたロングの姿を捉え、大幅な差異は無い事を確信する。
(これなら──!)
『マグニ!!』
タイミングを見計らうビビットの雄たけびがこだまする。
「で、でかい……」
雄たけびと同時に、村から溢れる焚火の光すら遮るような、天まで届かんばかりに大盾が肥大。
もはや畏怖すら覚える程の質量を宿した鉄の大板が、逃げ場を失い、密度高く蠢く虫達の上に倒れこむ。
まるで隕石の衝突を想起させる、地響きを伴う激しい衝撃音。
同時に辺り一帯に舞い上がる砂埃。
「くっ──」
「──やったか?!」
舞い上がる土煙に視界を奪われ状況が見えない。
土煙が落ち着きを取り戻す。
効果時間の切れた大盾が縮んでゆく。
その下にはゆうに百は数えられそうな押し潰された虫達の残骸が残る。
「やった……成功だ……」
「ホホーホ! (ナカマ!)」
「ヤマトさ~ん!」
ロングが手を振りながら駆け寄ってくる。
「ロング! やったな!」
「やりましたね……くふふ、兄弟の力っす……」
いつも通り快活に喜んでいるが、衣服は虫の体液まみれで、言葉とは裏腹に疲れ切った表情をしている。
「お~い!」
ビビットが駆け寄って来た。
「やりましたねビビットさん!」
「凄かったっす! あんなにおっきくなるなんて!」
「あんたたち! よくやってくれたね!」
ビビットが満面の笑みで話す。
「凄いですね……『真壁』も納得です」
「二人の歩調がばっちりだったおかげさ。それに数が──」
──「ホー!! (テキ!!)」
リーフルが警戒を発する。
不快な声を上げながら迫りくるイナゴ型の虫。
これまで相手をしてきた個体と比べ一回り大きいイナゴ型の虫が、突如闇の中からビビット目掛け突進してきた。
「ビビットさん!!」
ロングがビビットの前に身を投げ出す。
鈍い衝撃音。
ビビットを庇うロングが突進の直撃を受け吹き飛ぶ。
「ロング!──っく……」
疲労から足が言う事を聞いてくれず、膝を着いてしまう。
「ロング!!」
蹄が地を蹴る音。
「ヒヒーーンッ!!」
いななくバルがイナゴ型の虫に体当たりする。
「ガリウスさん!」
身を挺しイナゴを遠ざけるガリウス達の姿を目にし、震えていた膝が正気を取り戻す。
「うおぉぉっ──!」
松明を放り投げ、両手で握るロングソードを振り下ろす。
体液を飛散させながら地に落ちるイナゴ型の虫。
「──ロングは?!」
「ロング!──ロング! 大丈夫かいっ!」
ビビットがロングに駆け寄り抱きかかえる。
「ま、間に合ってよかったっす……」
「あたしなんかの為にあんた……!」
「『女の子は絶対に守ってあげなさい』って……父ちゃんの教えっすから、くふふ……」
そう小さく呟き笑顔を見せ、力無く首が傾き目を閉じる。
「ロング!──ロング!」
体を揺さぶりながら必死に問いかける。
「…………」
「おい……ロング……?」
「嫌だよロング! まだあんたに好きだって──!」
「…………すぅ……すぅ……」
寝息のような呼吸音が聞こえる。
「よかった……気絶しただけか……」
「まったく……ふふ、かっこよかったよ……」
ビビットが慈しみ深い表情でロングを抱きしめる。
飛び跳ねるイナゴをロングソードで両断する。
地を這うイモムシがハンマーに押しつぶされる。
「──ふぅ……俺達ならやれるはずだ。落ち着いて行こう」
「了解っす。なるべく遅れないようにするっす!」
俺達は村の南側、入り口付近の虫を掃討しながら、来る作戦決行の時を待っている。
「大丈夫っすかねガリウスさん……」
「ホホーホ……(ナカマ)」
「そうだなぁ……でも"人馬一体"。バルと確かな絆で結ばれたガリウスさんなら、片腕でもやってくれる──というよりも、頼らざるを得ないのが現状だしね」
俺達の心配など無用とばかりに、馬車を駆るガリウスが着々と虫達の退路を阻む壁となる焚火を起こしてゆく様子が、遠く離れたこの暗がりの中から伺える。
「──む! ヤマトさん、そろそろっす」
獣人特有の視力の良さを発揮するロングが、村の北側に灯る予定された明かりの数を確認し、俺達の出番を知らせる。
「ロング、無茶するなよ。ゆっくりでいい、俺も合わせるから」
「任せてください!──」
◇
片手で振り下ろすロングソードは疲労のせいか随分と重く感じられ、剣筋の精度も鈍く遅くなりつつある。
恐らくそれはロングも同じだろうが、弱音の一つも吐かず踏ん張っている。
そんな熱心な姿を想像し、俺も負けてはいられないと剣の握りを改める。
『上手くいけば一網打尽って訳さ』
ビビットの考えた作戦とはこうだ。
まず馬車を駆るガリウスが薪を積み密かに村を離脱、街の北側に虫達の退路を断つ壁となる焚火を起こしてゆく。
その"火の壁"目掛け、俺とロングが東西二手に別れ虫達を追い立て北上、村の北側にて待機するビビットの前へと誘導する。
そしていよいよ虫達が集結したところに、ビビットの大盾が覆いかぶさり、一挙に叩いてしまおうという算段だ。
この作戦の要となるビビットの持つユニーク魔法"マグニ"。
これは、魔法をかけるその対象物を大きく拡大させるという魔法だ。
説明によると、込める魔力量により拡大する規模は変化し、魔力を注げば注ぐ程にその物体は肥大していくというものらしい。
だが欠点もあり、拡大する規模とは反比例に、大きくなればなる程に効果時間が減少するという、使いどころは難しいが一発逆転を狙える切り札的奥の手だ。
ビビット曰く、集めた虫達を一網打尽に出来る大きさに拡大するとなると、効果時間は極僅かばかり。
大盾を傾け押し倒しながら拡大する都合上、チャンスはほんの数舜という事になる。
なので如何に俺達がタイミングを合わせ、虫達をビビットの前に運べるかが、今回の作戦の肝となる。
「ちぃっ!──」
隙をつくように襲い来る虫達を斬り伏せながら北上してゆく。
(ロングは──ロングも順調に上がってる。いいペースだ)
(時期じゃないって事だからしょうがないよな……)
疲れから恨み言が頭をよぎる。
この大発生さえ無ければここまでの道中危険は無く、旅行気分でいられたのだが、今更嘆いても仕方ない。
何より俺は"冒険者"だ。
こんな時こそ後に武勇伝を語るが如く『村を救った』と、胸を張って言えるような立ち振る舞いをしなければならない。
いよいよ村の北西辺りに差し掛かった頃、ロングの居るであろう方角へと目を向けると、予想される位置より少し遅れ気味の位置に松明の明かりが見えた。
(む!? あっちの方が数が多いのか……? いや、ロングを信じて耐えるんだ。タイミングを合わせないと)
北上するスピードを緩め、半ばこの場に停滞、虫達との綱引きへともつれ込む。
松明のおかげで虫の勢いは抑えられてはいるものの、先の見えない攻防が続く。
◇
浅く間隔の短い呼吸が漏れ出る。
(ロングは!?──よし、追いついてきてる!)
ロングの明かりの進行を確認し、俺も北上を再開する。
ここからはタイミングが重要となる。
俺かロング、どちらかが先に着いてしまうと虫達が散り散りにばらけ、撃ち漏らしてしまう事になる。
いくら強さはそれ程といっても多勢に無勢。
俺達の体力も限界に近く、多くの魔力を消費するビビットも、撃ち漏らしが多ければ途端に窮地に陥ってしまう。
(見えた、ビビットさんの松明! ロングも同じぐらいの位置、このまま──)
「ホー! (テキ!)」
リーフルが後ろを向き警戒を発する。
──突如背後から襲い来るイナゴ型の虫。
(後ろから!?)
「くそっ!──」
咄嗟にロングソードの切っ先を後ろに向け一匹の突進を防御。
もう一匹のイナゴの体当たりをもろに受けながらも松明を押し付け反撃、何とか凌ぎ難を逃れる。
(少し遅れたか!?)
急ぎ戦線を押し上げる。
◇
(よし! ロングが見えた!)
いよいよ対面にうっすらと松明の火に照らされたロングの姿を捉え、大幅な差異は無い事を確信する。
(これなら──!)
『マグニ!!』
タイミングを見計らうビビットの雄たけびがこだまする。
「で、でかい……」
雄たけびと同時に、村から溢れる焚火の光すら遮るような、天まで届かんばかりに大盾が肥大。
もはや畏怖すら覚える程の質量を宿した鉄の大板が、逃げ場を失い、密度高く蠢く虫達の上に倒れこむ。
まるで隕石の衝突を想起させる、地響きを伴う激しい衝撃音。
同時に辺り一帯に舞い上がる砂埃。
「くっ──」
「──やったか?!」
舞い上がる土煙に視界を奪われ状況が見えない。
土煙が落ち着きを取り戻す。
効果時間の切れた大盾が縮んでゆく。
その下にはゆうに百は数えられそうな押し潰された虫達の残骸が残る。
「やった……成功だ……」
「ホホーホ! (ナカマ!)」
「ヤマトさ~ん!」
ロングが手を振りながら駆け寄ってくる。
「ロング! やったな!」
「やりましたね……くふふ、兄弟の力っす……」
いつも通り快活に喜んでいるが、衣服は虫の体液まみれで、言葉とは裏腹に疲れ切った表情をしている。
「お~い!」
ビビットが駆け寄って来た。
「やりましたねビビットさん!」
「凄かったっす! あんなにおっきくなるなんて!」
「あんたたち! よくやってくれたね!」
ビビットが満面の笑みで話す。
「凄いですね……『真壁』も納得です」
「二人の歩調がばっちりだったおかげさ。それに数が──」
──「ホー!! (テキ!!)」
リーフルが警戒を発する。
不快な声を上げながら迫りくるイナゴ型の虫。
これまで相手をしてきた個体と比べ一回り大きいイナゴ型の虫が、突如闇の中からビビット目掛け突進してきた。
「ビビットさん!!」
ロングがビビットの前に身を投げ出す。
鈍い衝撃音。
ビビットを庇うロングが突進の直撃を受け吹き飛ぶ。
「ロング!──っく……」
疲労から足が言う事を聞いてくれず、膝を着いてしまう。
「ロング!!」
蹄が地を蹴る音。
「ヒヒーーンッ!!」
いななくバルがイナゴ型の虫に体当たりする。
「ガリウスさん!」
身を挺しイナゴを遠ざけるガリウス達の姿を目にし、震えていた膝が正気を取り戻す。
「うおぉぉっ──!」
松明を放り投げ、両手で握るロングソードを振り下ろす。
体液を飛散させながら地に落ちるイナゴ型の虫。
「──ロングは?!」
「ロング!──ロング! 大丈夫かいっ!」
ビビットがロングに駆け寄り抱きかかえる。
「ま、間に合ってよかったっす……」
「あたしなんかの為にあんた……!」
「『女の子は絶対に守ってあげなさい』って……父ちゃんの教えっすから、くふふ……」
そう小さく呟き笑顔を見せ、力無く首が傾き目を閉じる。
「ロング!──ロング!」
体を揺さぶりながら必死に問いかける。
「…………」
「おい……ロング……?」
「嫌だよロング! まだあんたに好きだって──!」
「…………すぅ……すぅ……」
寝息のような呼吸音が聞こえる。
「よかった……気絶しただけか……」
「まったく……ふふ、かっこよかったよ……」
ビビットが慈しみ深い表情でロングを抱きしめる。
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