薄幸な子爵は捻くれて傲慢な公爵に溺愛されて逃げられない

くまだった

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「アッシェン」
 奥から女の声が聞こえる。

 レイモンドは奥に入っていくと、何か話しているようだ。

 おれは頬杖をついて座り続けた。
 
 しばらくして、音がしたら、レイモンドがやつれた妹を伴って奥から出てきた。

 従姉妹だからか金髪の感じも、白い肌も、顔立ちも似ている。

 本当の兄妹と言われてもわからない。

 妹は薬と世話になったお礼を言っている。幼い表情でやつれていなければあどけないと言ってもいいだろう。

 その隣をレイモンドが優しい表情で寄り添っている。

 雛鳥みたいな二人だ。

 アーノルドはお礼を受け入れ、学校が一緒だったことなどを話した。

 彼とアーノルドの接点はそれくらいだ。

 彼の妹が「もしかしてお仕事も紹介してくれるというのはマクガイル公爵なのですか?」と言う。

 おれはレイモンドの顔を見た。レイモンドはおれと目を合わせない。

 「ええそうです。彼は学生の頃から真面目でよく本を読んでいました。私の仕事を手伝ってもらえればと思っています。妹さんの世話は仕事先から手配させますので、ご安心を」

 彼の妹は顔を明るくさせた。

 「アッシェンよかったわ。あなたにも苦労をかけさせて申し訳ないと思っていたの」

 仕事が決まったと喜ぶ妹をレイモンドは優しく見つめている。

 妹は興奮したのが良くなかったのか、咳をし始めた。一度で始めると止まらず、ひどい咳をしている。血も出ているようだ。

 「長居をしてしまったようだ。お暇しよう」
 「すみません」

 レイモンドは慌てて妹を奥に連れていく。

 平民街を歩きながら、自分は何をやっているんだと思う。

 足音が聞こえたと思ったらレイモンドが追いかけてくる。

 「アーノルドさん。ありがとうございます」
 ハアハアと息をせいている。

 「何のお礼だ」
 「話を合わせてくれて」

 「別に話を合わせていない。明日から来たらいい。そう言おうと思っていた」

 「本当にありがとうございます」

 鼻を赤くしてまたお礼を言ってくる。

 騒がしい酔っ払いが角からやってくる。

 おれはレイモンドを路地裏に引っ張ると、壁に背中を付けさせて顔を上げさせるとキスをした。

 いつ拒絶されるのだろうかと思いながら、止められないのをいいことに深く舌をニュルンと絡めていく。

 お互いに息が切れて顔を離すと、レイモンドは、顔を真っ赤にしてトロンと蕩けた目をしている。

 おれの顔を見ると更に顔を赤くするが、さっとおれから離れて家に戻っていく。

 走り去る後ろ姿を見送る。

 これは雇用主へのサービスだろうか。



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