創世戦争記

歩く姿は社畜

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大和神国編 〜陰と陽、血を吸う桜葉の章〜

五年の流れ

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「だぁー、負けた!また負けた!」
 小屋にフレデリカの絶叫が響く。
「チェスにリバーシ、囲碁。そして今日は将棋!惨敗だよ!」
 頭金で決着が着いた盤面にフレデリカは溜息を吐いた。
 桜宮神宮の地下でコーネリアスの生存を知ってから一週間、フレデリカは〈桜狐オウコ〉と〈社畜連盟〉、そして〈プロテア〉の合同軍事演習の合間を縫って、アレンと頭を使う遊びをしていた。
「この手が悪かったな」
 その際に、アレンとフレデリカは紙に打った手を記載して後から振り返るようにしている。
「これは迂闊だったかぁ…」
 既に桜は全て散り、木々は夏に向けて青々とし始めている。
「二人共、氷菓子を持ってきたわよ。頭使った後は甘い物でしょ」
 そう言ってアリシアが入って来た。その横には、レシピを写した水晶盤が浮いている。どうやら手作りのようだ。
「わぁい!練乳アイス、練乳アイスよ!いっただっきまーす!」
 練乳を使ったアイスは甘い香りを放っており、味覚の無いアレンでも香りを楽しめる。
「ねぇ母さん、練乳ってどんな味?」
「濃くて甘い味よ。苺があれば、苺と食べても美味しかったんだけど」
 フレデリカは口に付いたアイスに気付かないまま言った。
大和ヤマトは今、物価が高騰してるからね。元々苺って高いけど、今じゃ贅沢品だから。農家と仲良く出来れば、形の崩れた苺を貰えるかも知れないけど」
「形が崩れた?」
 フレデリカの口元を拭いてやりながらアレンが問うと、アリシアは答えた。
「アレンは知らなかったか。形の悪い農作物は、市場に出る事無く廃棄処分されるの。奴隷だったり王族だったりしたから、そんなの知全然らなかったけど…勿体無いわよね」
「ケツ顎みたいな苺とか、人間みたいな形した人参とか…先っぽが二つ三つに分かれた大根とか…廃棄にするしか無いんですって。〈プロテア〉の拠点ではあんまり気にされてないけど…」
 フレデリカが〈レジスタンス=プロテア〉の名前を出した瞬間、アレンは顔を上げた。
「兵糧、拠点の農作物だけで遣り繰り出来てる?」
「…微妙。今じゃ農民より軍人の割合が多いからね」
 この五年で、トロバリオン騒動に感化された信者達が多く〈プロテア〉に志願して来た。身分や出身を念入りに調べた上で入団を許可したが、兵数は農民の数を日に日に上回っていく。今は苏安やグラコスが協力し、両王が出資してくれているが、このままでは兵糧の生産が間に合わない。
「大和の型落ち野菜を安く入荷したら改善されないか?普通に買うよりさ」
「…それだ!それ、早速提案してくるよ!ありがとうアレン!」
 そう言ってフレデリカはアイスを掻き込むと、「ご馳走様」と大きな声で言って走り出した。
 まるで突風のような彼女にアリシアは笑った。
「…ふふっ、元気ね。フレデリカは」
「五月蝿いけど…あいつらしいよね」
 そう言ってスプーンでアイスを削ると、口に運ぶ。やはり味はしない。だが、口いっぱいに広がる甘い香りとひんやりとした感覚が気持良い。
「…母さん。これ、また食べたい」
 普段のアレンは、アリシアと余り話をしない。関係はだいぶ良好なものになってはいるが、会話が思い付かないし、得意ではないのだ。そんなアレンが、珍しく欲求を出した。アリシアはそれを少し嬉しく思って微笑む。
「分かった、また作るね。今度は味も変えてみる?」
「うん」
 いつか味覚を手に入れたら、その時はフレデリカと一緒に食べたい。そう思いながらアレンはスプーンを進めた。

 一方、フレデリカは突風のように走り、城下町に置かれた鍵を起動させて拠点に戻る。
 庁舎に戻ると、幹部達が難しい顔をしながら何やら話し合っていた。
「皆、大和の型落ち野菜を安く仕入れてみない!?アレンからの提案よ!」
 クルトが顔を上げて小さな目を輝かせる。
「それ、名案ですよ!早速やりましょう!」
 しかし、反応したのはクルト一人だった。他の者達は皆、水晶盤に夢中になっている。
「…もう、皆は何を見てるの?」
 折角の名案に反応しない一同に不満を感じながら水晶盤を覗くと、そこにはクリスタ・ニュースが写っていた。
『…苏安スーアン世南セナン平原では、未だ激しい衝突が続いており⸺』
 黒煙が立ち上る、戦場と化した戦場跡。
「ちょっと、これどういう状況!?」
 フレデリカが問うと、ゼオルが答えた。
「五年前のトロバリオン騒動、あれでユエさんとアレンに不信感を抱いた奴らが反乱を起こしたのさ。しかも、世南だけじゃない。白虎ビャッコ山脈や玄武ゲンブ山、青龍セイリュウ江でも激しい内戦が起きてる」
「何で、五年経った今?裏に誰か居るに違いないわ」
「帝国側の勢力だろうな。ロルツが実家の傭兵を率いて世南で戦ってるから、ついでに調べてもらってるけど」
 兎人ラビットマンのロルツは五年前に獣人ライカニアの国、ライカニア合衆国に帰国して家督を相続し、父が経営していた民間軍事会社の副社長に就任した。
 この五年で、〈プロテア〉の幹部達にも様々な動きがあった。ネメシアは故郷の人魚マーメイドの国メリューンに戻り、自身を士官学校へ推薦した女王メリュジーヌと協力しながら反帝国派の戦力を集めている。美凛メイリンは皇帝の第二補佐官として政治を学びながら着々と支持を集めており、ゼオルはベアガルを廃し、新国王に即位したジェラルドの命を受けて〈プロテア〉と〈騎士団〉の両方で活躍している。
「…と言っても、どいつも裏に居るのは〈裁判神官〉だって睨んでるけどね。ほら、神官長が五年前に変わったろ?誰だっけ…ああ、エルメンヒルト・ベシュカレヴァだ。アレンが凄く嫌そうな顔しながら水晶盤睨んでるのを見た事がある」
「知り合いの可能性が高いわね。しかも、あのアレンが嫌がってたなんて」
 ゼオルはぼそりと呟いた。
「…お前だってアレンに嫌われてただろ」
「何か言ったかしら?」
「いーえ、何でも御座いませんヨー」
 適当な返事をするゼオルの肩を掴んでガタガタと揺すると、クルトが慌てて止めに入る。
「どーどー、落ち着いてください~」
 怪力によって引き剥がされたフレデリカは、マリアが無言で差し出したタピオカミルクティーを飲みながらじっとり睨むように水晶盤を見詰めた。どうやらマリアもクリスタ・ニュースの内容が気になるようだ。
『…これらの暴動に対し、苏月スー・ユエ皇帝は…⸺』
『西で戦争が起きていて次はいよいよ我が身という時にこういう行動を起こすのは、馬鹿か帝国のオトモダチか何かとしか思えない。確かに四月の割にはもう暑いが、頭に昇った血と気温で熱中症になる前に、一旦涼しい場所で甘い氷酪(氷菓子)でも食べて冷静になって考えよう。さもないと、苏安スーアンに更に心霊スポットが増えて、来年以降の夏は酷く寒い思いをする事になる』
 扇子で髪が靡く程にバタバタと仰ぎながら言う苏月の横で、キオネがかき氷のような何かを食べて顔を皺くちゃにしている。かき氷と言うには氷がでか過ぎるそれには、たっぷりの檸檬汁が掛かっており、冷たいと同時に酸っぱそうだ。
「何だか、腹の立つ顔ねぇー」
 フレデリカはキオネの顔に思わず呟いた。取材は凰龍オウリュウ京で受けているが、キオネは拠点を介して苏安に遊びに行っていたのだろう。苏安に味方するというアピールと同時に、親帝国派への挑発だ。
 すると、その挑発に答えるように画面が切り替わる。その画面に写ったのは、〈裁判神官〉のエルメンヒルト・ベシュカレヴァだ。
『皆さん、御機嫌よう。私は〈裁判神官〉のエルメンヒルト・ベシュカレヴァ。トロバリオン騒動を引き起こし、世界を崩壊させんとする三つの組織に、宣戦布告致します』
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