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scene8-B:突然…… ~加賀 side~

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雅の家を出て少し待っていたのは加賀だった。待つこと数分、栖谷は雅の家から出てきた。それを見て加賀は車から降りてきた。

「栖谷さん!!」
「加賀…済まなかったな。こんな遅くに呼び出して。僕の我儘で…」
「そんな事は…しかし、成瀬の事まで…」
「加賀、それ以上はいい…署に戻るぞ」
「しかし…」
「僕なら問題ない。其れか僕がそれを預かって帰る。どうする。」
「どちらでも。しかしこの中にあった内容からしたら我々公安の中に裏切り者が居る…という事になります。そんな中にこの証拠を置いておくには危険すぎます。」
「…そうだな…やっぱり僕が持ち帰る事にする。あ、それと加賀…」
「はい?」
「少しの間、彼女に……雅についててやってはくれないか…?」

そう言う栖谷の言葉に加賀は少し言葉を飲んだ。

「自分より栖谷さんの方が成瀬の安定には…それに…」
「いや、僕が出来るなら僕が守るさ。だけど今回ばかりは相手のターゲットは僕だ。僕と一緒に居たら雅は狙われる一方だ。君が大切ではないとか、君なら狙われても大丈夫だと言っている訳では無いが…加賀、君なら安心して任せられる。…・・引き受けてくれるか?」
「はい、それはもちろん…」

そう言いながら加賀から雅から押収したものを受取り、栖谷は車に積み込み、そのまま車を出した。それを見て加賀も自身の運転席に乗り込む。いろんな物が不安になる。

(今、成瀬は大丈夫だろうか…)

携帯を取り出し、電話を掛けようとしたものの、最後の発信に至る事は無かった。別れを突きつけられた雅の気持ちを考えたら…加賀は自分に掛ける事は出来ないと悟ったのだった。
そうして自身もその場から車を出してアパートに帰って行く。

自宅に帰り、浴室に向かい、シャワーを浴びる…少しして出た時、携帯が鳴っている事に気付いた加賀は急いで出た。

「もしもし」
『加賀か。』
「はい、」
『明日、もし仮に成瀬が出勤してきたらすぐにでも帰してくれ。』
「解りました。栖谷さんは…」
『僕は少しやらなくてはいけない事がある。署内には居るかどうかも解らないから何かあったら連絡してくれ。』
「……」

やらなくてはならない事がある…それが一体何なのか…加賀には聞く事が出来なかった。こうやってを話さずに言う時は、大抵聞いても答えてくれないのだ。それでも栖谷の事だ…間違いはない…そう考えていると電話口から声がした。

『加賀?聞いているか?』
「栖谷さん…」
『何だ?』
「こんな事自分が言う事ではないのですか…」
『どうした?』
「成瀬の傍に居てやって貰うことは出来ないでしょうか。今の状態で成瀬を一人にするのは危険かと思いますが。」
『…そうだな。しかし、さっきも言ったが、だけど相手のターゲットは僕だ。僕と一緒にいたら尚の事雅に危険が及ぶ。そんな事は何よりも避けなくてはならない。それに、加賀。君が居てくれる。」
「栖谷さん…それなら何も別れなくても良いのでは…」
『相手を騙すには解りやすい雅を利用するしかない。酷い男だと思われても仕方ないな。雅に…嫌われるな。』
「栖谷さん、栖谷さんにとっての…」
『ん?この際だ、何でも聞こうか。』
「いえ、大丈夫です。」
『…フ、そうか?』

そうして電話は切れた。無言の電話を見つめたまま加賀は1つため息を吐いた。

「聞ける訳ないですよ…栖谷さんにとって譲れない1歩って…何ですか?何て…」

ぽつりと呟いて加賀もまたベッドに沈んでいった…

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