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scene27:早まった引っ越し

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どれ程の時間が経っただろうか…くたりとした様子の雅と腕枕をして頬を撫でる栖谷。

「ン…洸…ぉ」

小さく吐息を漏らすと雅はきゅっと巻き付いた。そんな相手を愛おしく包み込み、抱きしめる栖谷。


どうしてこれほどまでに愛おしくなってしまったのだろうか…

どうして…雅が自分にとてこれほどに必用なのか…


そんな思いと同時に不安になって仕方なかった。


もし、自分や加賀に危機が迫ったら…きっと雅は自分を犠牲にする…


そう感じた途端に背中がゾクリとしたのを栖谷は感じた。こうなるのが嫌だったからか…それとも別の理由があったからだったか…今となってはもう『恋人はこの国だ』と言っていられた自分には到底戻れなくなっていた。
そんな時、不意に雅はゆっくりと瞼を開けた。

「ン…ン…・・洸…」
「起きた?」
「ん…」
「早くこっちにこい…」
「なぁに?藪から棒に…」
「放っておけない…」
「そんな事言っても…引っ越し…頑張ってるけど…」
「明日、越して来い」
「急すぎなぁい?」
「荷物はまとまってるか?」
「ん…」
「それなら問題ない。明日、休みだろ…僕も手伝うから…」
「でも…」

そう言い残して栖谷に背中を向けた雅。肩を取り、グイッと引き戻すと上に覆いかぶさった栖谷は見下ろして聞いた。

「頼むから…傍に居てくれないか?」
「…洸…?」
「これ以上離れてたら…僕は気が狂いそうだ…」
「…だけど…私…」
「なんだ?」
「今日みたいに迷惑かけるし…プライベートになったら…もっと迷惑かけちゃうだろうし…」
「問題ない…」
「それに…」
「雅…」

ふわりと重なる唇…そのキスで雅の言葉の続きは遮られた。ゆっく類と離すと栖谷は額をコツリと当てて再度聞いた。

「僕の所に来るかどうか…答えは2つに1つのはずだ…」
「解った…」
「うん…」
「その代り、明日って言っても午後になるかもしれないからね?」
「…解った」
「不動産会社に行って話してこなきゃ。少し早まる退去の件…」
「そうか…」

そうして栖谷はもう一度…と言わんばかりに雅の首筋に顔を埋め甘噛みをしては楽しんでいた。
日も昇り、明るくなってきた。時間は7時…シャワーを浴びる栖谷…心地よい音を聞きながらもシーツに包まっている雅。カタンという音と同時に下着とスウェットパンツをはいた栖谷が寝室に戻ってくる。

「雅、いつまで包まってるつもりだ?」
「だって…洸の香り…抱っこされてるみたいだも…キャ…」
「僕の香りに抱かれてるみたい?」
「だっこ!!もぉ…」
「クスクス…」

嬉しそうに顔を見合わせる2人。その時、栖谷は思い出したかのように加賀に連絡を入れる。

『もしもし、』
「僕だ、昨日はすまなかったね…」
『いえ…自分もタイミングの悪く…』
「ほう……ねぇ」
『いえ…!!その…それで…どうかされましたか?』
「昨日、メールで送ると言っていた件、こちらに届いてないんだが?」
『あ…それは…もう大丈夫です!』
「なんだ、それは…」

そう話している栖谷に背中からぴたりと巻き付いた雅。そんな雅を抱き寄せ、髪を指で梳きながら加賀との会話をしている。

「そういえば加賀、昨日の事詳しく状況取りたいんだが…」
『昨日…というと…成瀬の件ですか?』
「そうだ。」
『それは…自分…が運んだから…という事も含めでしょうか?』
「…そうなのか…」
『……はい』
「まぁ、それも含め、だな。僕は今日夕方にはそっちに行けると思う。宜しく」
『は…はい』

そうして切れた電話。

「やけにくっついてくるな…」
「…だって…」
「加賀に運んでもらったそうだが?」
「……私…水野が連れて行かれた後、急に震えてきて…加賀さんに運んでもらって…」
「…という事は加賀に見られた…という事か」
「でもあれは仕方なく…それに来て早々に加賀さん上着貸してくれて…かけてくれて…」
「ほう…」
「本当だよ?洸の思ってることは無いよ?」
「僕の思ってること…ねぇ。それって…」

どさりと押し倒す栖谷。ぺろりと雅の唇を舐めるとにっと笑った。

「こういう事?」
「…ッッばっ…!!」
「何?ん?」
「……シャワー…浴びてくる…」
「その前に少しだけ食べさせて…」

そういい手は雅の秘部に誘われた。くちゅりと厭らしい水音がする…

「こんなに濡らして…朝から…ん?」
「…洸…ン」
「加賀にそんな事できないって事位知ってるさ…」

そう呟きながら栖谷は簡単に雅を快楽に導いた。上から退くと頭を撫でた。

「何か食べるの作っておくから…入っておいで。」

そう言われて雅はようやく栖谷の愛撫から解放されたのだった。ゆっくりと進み、浴室に入る雅は湯の蛇口を捻る。サーーーと流れるシャワーから流れ出る湯から立ち上る湯気と熱気で先に入った栖谷のシャンプーの香りが鼻を付く。

「…ッッ…ずるいよ…こんなの…ッ」

そっと自身の胸に触れ、秘部に触れる。

「ン…ァ……ッッ」

くちゅりと音を響かせて雅は自分自身でシ始める。

一方の栖谷は時計をちらりと見る。雅が入ってから10分…あまりにも静かだが、シャワーの音だけが流れ続く。

「全く…」

俯きながら小さく笑う。コトリと食器を置き待っていた。時期に雅は慌てて出てくる。

「ごめんなさい!…遅くなって…」
「いや、さっき出来たばかりだ。」
「…すご…」
「食べるぞ?」
「いただきます!」

そうして食べ始める。『おいしぃー!』と満面な笑みで話している雅を見て嬉しそうに栖谷も食べる。

「本当に雅は美味しそうに食べてくれる」
「だって洸の料理美味しいよ!」
「…それにしても作りすぎたか。」
「加賀さん?」
「あぁ。言っても彼も食べてないだろうからね。」

カタンと立ち、タッパーを取りに行き手際よくての付いていないところを取り分けていく。

「体に悪いなぁー!」
「ん?」
「加賀さん、朝御飯も食べてないなら力でないのに。」
「確かにな。」

袋に入れて机に付くのかと思いきや、雅の後ろに回り込む。

「洸?もぉ食べないの?」
「雅も食べすぎはよくない。」
「ならこれ貰っていい?お昼に食べる!」
「構わないけど…いいのか?それで」
「これが良い!」
「クスクス…」

後ろからトンッと重さを感じた雅。ふわりと前に回る栖谷の腕に包まれていた。

「洸…?」
「引っ越し当日だが…今日帰り少し遅くなると思う…待ってなくていいから。先に休め」
「待ってるよ?」
「相手が加賀だからね。遅くなる事も考えられる。」
「……ご飯…」
「先に食べていてくれて構わないから」

そう言うとこめかみにキスを落とす。そうして支度を始める2人。数分の事で終えた2人は玄関に向かっていった。

「さて…と。それじゃぁ行くか。」
「ん!」
「とりあえず君の車を取りに行かなくてはいけないから…」署に行くか。ついでに加賀にも渡せるし。」
「それならついでにそのままお仕事して来たら?」
「それじゃぁ君の引越しが手伝えない。」
「大丈夫よ…!ね?そうしたら?」
「…なるほど」
「ふぇ?」
「そんなに夜、僕と一緒に過ごしたいか…」
「ばっ!!……な……」
「クスクス…本当にかわいいな…雅は…」
「そんな事…!!言ってない!」
「確かに聞いて無いが、んだろう?」
「……!…そんな事ないもん」
「はいはい、そうしておくか」

そう笑う栖谷とぷぅっとしている雅。両極端すぎるその表情はいつもの光景だった。そうして走る事、すぐに署に着いた。駐車場で自身の車に乗り替えた雅は嬉しそうに車を出し、自宅に戻る。まとめておいた段ボールや衣装ケースを持ちだそうとする。

「これは…1度には無理か…」

そうして先に段ボールを入れ、何往復かに分ける事にした。大き目の家具は備え付けになっている為それほど多くの持込はもちろん、持ち出しも無かった。気付けば11時になっていた。昼食の前に…とマンションの管理会社の元に行った。

「そうしましたら、退去としましても、こちらの立会い確認もありますが本日、という事で日程を早められるという事で宜しいでしょうか?」
「はい。それで、今新しい住居の方に荷物移してる最中でして…」
「そうしましたら、何時頃がご都合宜しいでしょうか?」
「えっと……ーー・・・・16時…とかでも大丈夫でしょうか?」
「かしこまりました。それでは、1度ご連絡頂いて、こちらからも同時に向かうという事でいいでしょうか?」
「はい。」

そうして手続きを済ませていく雅。最終の片付けとチェックを済ませて簡単な掃除をする。役所と郵便局にもいかなくては…そう思っていたが先に昼食を摂る事にした。朝ごはんの残り、栖谷の作った物だった。それを口に頬張り嬉しそうに顔がほころぶ。最後にと、タッパーを洗い、光熱費関係に連絡を取って行く。次いで住所変更の為、郵便局に向かった。取りあえず一緒に住むところの住所を伝え、郵便物の転送をしてもらえるようにした。時間はいくらあっても足りない程だった。それでも職業柄手続等は慣れている為助かっていた。

「よしっと…ふぅ…少し遅れたかも…」

そうして16時廻るかどうかと言う時、ようやく雅は管理会社に電話が出来た。急いで向かう雅。着いた時には相手側は到着していた。

「すみません、お待たせしてしまって…」
「いえ、大丈夫ですよ?それじゃぁ…早速なんですが…」
「はい。お願いします」

そうして中に入り確認をして貰う。経年劣化も多少あるもののきれいに使っていた為追徴金は発生しなかった。そして鍵を返して無事に退去できた。

「長い間ありがとうございます。」
「こちらこそ。」

長きにわたってお世話になった自宅にも別れを告げて栖谷の家に向かっていった。運び入れたものの整理をしていたものの、ふと時計を見る。

「やっば!!!買い物!」

そうして家を出ようとした時だった。少し離れた所に栖谷が立っている。

「どこか出掛けるのか?」
「あ…お帰り…お買いもの…」
「買い物?夕飯の買い出しならついでに行ってきたけど…」
「え……あ…ごめんなさい。」
「中に入れ。」
「うん」

そうして中に戻される雅。その部屋の様子を見て栖谷は小さく笑った。

「まだ片付け終わってないな。」
「ごめんね?」
「仕方ない。雅の事だから、どうせ今日1日で事務系終わらせたんだろう。」
「…ぅ……」
「全く。だから言ったんだ。無理をするなと…」
「でも必要な事だし…」
「そうかも知れないが…」
「すぐご飯作る…」
「まて…」

そう言うと引き留める栖谷。突然の事に雅は驚いた。

「夕飯は僕が作るから。片付けでも休憩でもしていろ」
「でも…洸もお仕事で疲れてるのに」
「今日なんて仕事らしい仕事なんてしていない」
「…でも」
「文句があるならいくらでも聞くが?」
「…無いです…」
「ならいいな?」

そうして栖谷に任せて雅は急いで片づけをし出した。段ボールを開けて小さめの整理ダンスに入れていく。どれくらいしたか…明らかに解りやすいため息を1つ吐くと『おわったぁー!』と声を上げた雅。

「終わったか?」
「おおよそ…あ、お言葉に甘えてここ…スペース使っちゃったけど…」
「大丈夫だよ。それより片付いたなら出来たし食べるか?」
「すっごーい!ちょうどいいタイミング!」

そのまま手を洗いに行き、食卓に着く。2人揃って食事となった。

「頂きます」

同時に箸を進めていく。

「ねぇ、洸…出来るだけ私作れるようにするね?」
「無理しなくていい。」
「でも…」
「それほど物わかりの悪い男ではないと思ってるんだが?」
「…ありがとう。」
「それに、僕が食べられない時もあるかもしれない。そんな時まで君に作らせるなんて出来ないさ。」
「でも……私も洸に作ってあげたい…」
「ありがとう。期待してる。」

そうして笑いながら食卓を囲んでいた。


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