凜恋心

降谷みやび

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battle04…決心

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一晩の野宿、もう少しで着くという所ではあるが、白竜の体力等も考えてこの日の夜は野宿にすることに決めた一行。不幸中の幸い、雅も外で眠る事には慣れていたためすんなりと決まった。

「…ン」

それでもやはり勝手は少し違う。なかなか寝付けずに雅は目を覚ました。

「…ハァ」
「……眠れませんか?」

そう声をかけてきたのは八戒だった。

「八戒……」
「どうしましたか?昼間から浮かない顔してますが…?」
「どうって事はないんだけど…」
「話なら聞きますよ?」

フッと笑う八戒に誘われるように雅は口を開いた。

「ねぇ…八戒?」
「はい」
「少しだけ…触れてもいい?」
「え?」
「あ…迷惑ならいいの…急に変なこと言っちゃって…」
「いえ。どうぞ?」

そう答えると両手を広げる、八戒の手にそっと触れる雅は、時期に離した。

「温かい…」
「…どうしました?」
「昼間に三蔵に聞いたの…妖怪だって。正確には八戒が妖怪、悟浄が妖怪と人間のハーフ、悟空が岩から生まれた異端児だって…それ聞くまで私みんなの事めちゃくちゃ強い人間だって思ってたの。だから話聞いて貰っても、優しくされても何が解るの?ってどこかで思ってた…でも妖怪だとか岩から生まれるとか…私の事以上にみんな過酷で…」
「雅…」
「……私、三蔵に…答え出さなくちゃいけないの…次の町で別れるか、着いていくか…」
「迷っているんですね?」
「ん。昼間に約束したばかりだけど…私なんて強くない。皆みたいに妖怪と戦ったりなんて出来ない。あの妖怪達も、三蔵目当てだとしたら私がいたら足手まといになっちゃうだろうし…」
「じゃぁ、やめますか?」
「でも…ね?八戒…私、三蔵達と…三蔵といろんなもの見たいなって思うの。」
と?」
「ん、初めてだったから…あぁやって、手を差し出してくれた人…」

そういうと手をじっと見つめた雅。にこりと笑いながら八戒は嬉しそうに話した。

「雅?もう答え決まってるじゃないですか…」
「え…?」
「三蔵と行きたい。十分な理由ですよ?」
「でも迷惑かけちゃいそうで…」
「迷惑だと思うなら、三蔵は初めから連れていこうとは思いませんよ。それに、俺が守ってやるなんて、初めて聞きました」
「…ッ」
「じゃぁ、明日、三蔵にしっかりと伝えないと、ですね?」
「困らせない…かな」
「大丈夫です、まずはゆっくり寝てください?」

そう伝えて、眠るように促した。八戒のそれに誘われるように、すぅ…っと雅は眠りに落ちていく。それを見届けて八戒は声をかけた。

「…だ、そうですよ?三蔵」
「…フン…明日しっかり言えればいいがな」
「言わなくても連れていくんでしょう?」
「さあな」

それだけの会話をして、皆眠りについていった。

翌朝、皆揃ってジープに乗り込む。しかし三蔵が今までにないほどに不機嫌だった。

「ねぇ、悟浄…?」
「ん?なぁに?」
「なんか…三蔵…機嫌悪い?」
「気にしないで良い、三蔵、極度の低血圧だから。」
「良かった。」

胸を一撫でして雅はほぅっとため息を吐いていた。村について時期に悟空は食べ物へと突っ込んでいく。

「あんのバカ猿」
「ははは、仕方ないですね、買い物は食事の後にしましょうか、時間も良い時間ですし。」
「全く…」

そう言いながら皆で歩いていく。少し歩いて雅はふと一件の露店の前で立ち止まっていた。

「うわぁ、これ可愛い…」
「珍しい、見たこと無い子だね」
「えと、旅というか、さっき着いたばっかで…」
「そうかい、で大変だねぇ」
「一人じゃないですよ?」
「連れは別行動かい?」

その一言で雅は後ろを振り替える。しかしそこには三蔵や八戒、悟浄や悟空の姿は誰一人居なかった。

「あ、ごめんなさい、また…」

そう言いながらも立ち上がりキョロキョロ見渡した。しかし見当たらず困っていた。とりあえず手当たり次第に食事処を覗いていくもののどこにも居ない。ドクドクと鼓動が早くなるのを感じていたものの、落ち着かせようと必死に深呼吸をする。その時ドンッとぶつかった。

「ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそ、すみません」
「………」
「あの…?」
「あ、いえ…美人過ぎて…すみません…」
「…なんで泣いてるんですか?」
「え…」

ふと頬を伝う涙をその女性はゆっくりとぬぐった。

「お一人ですか?」
「いえ…一緒に居た人達とはぐれてしまって…」
「そうでしたか…もし良ければ一緒に探しましょうか?」
「でも…ご迷惑じゃ…」
「良いんですよ、私も付き添いできたのですが…」
「やっおねー!!!」

少し離れた所から紙袋一杯の食料を抱えて小さな女の子がやってきた。

李厘りりん様!またそんなに買い込んで…」
「へへーん!大丈夫だよ!お兄ちゃんの分も入ってるし、八百鼡やおねちゃんは……ってその人誰?」
「お連れの方とはぐれてしまったみたいですよ。一緒に探そうかと思っていたところです。」
「そうなんだぁ、あ、これ!食べる?」
「…えっと」
「毒なんか入ってないよ?睡眠薬とかも!入れるなら三蔵のに入れて経文奪うけど!」
「李厘様!!」

しかし雅はその一言を聞き逃さなかった。

「あの!!三蔵の事知ってるの?」
「知ってるけど…」
「どこかで見た?」
「最近はあってないなぁ!」
「それに、多分あなたが知っている三蔵とは違うとは思うのですが…」
「そっか……」

しょんぼりとする雅。しかし次の瞬間、見知った顔が声をかけてきた。

「雅!見つけました!」
「え、あ、八戒…」
「おや…八百鼡さん?」
「おいらもいるぞ!」
「これはこれは…」
「もしかして一緒にいるというのは…」
「えぇ、うちの子ですが。」
「うちのって…八戒さん子供が…?」
「いえいえ、どちらかといえば三蔵の、でしょうか?」
「ちょ…八戒!」
「ははは、冗談ですよ、それより皆待ってますよ」
「なぁなぁ三蔵もいる?!」
「まぁ、居ますよ?」
「おいらも行く!なぁな、八百鼡ちゃん、いいだろぉ?!」
「紅孩児様にすぐ戻れと言われてるのでは?」
「お兄ちゃんはいいの!いこうよ!八百鼡ちゃん!」

そういい、なぜか四人で向かうことになった。しかし着いた先は一度は雅が覗いた店だった。

「ずっとここに?」
「えぇ、」
「…私ここみたのに…」
「クスクス」
「あー!!居たぁ!三蔵ー!!!」
「……なんで貴様が居る」
「連れてきてもらったー!」
「すみません、皆さん、李厘様がどうしてもと…」
「うまそー!」
「言っておくが貴様の分の食費は出さんぞ?」
「えー。」
「そうですよ、李厘様。そんなに買ってるじゃないですか。」
「でもまぁ、今日は元気そうな三蔵見れたし、魔天経文の無事も確認できたからまた奪いに来るよ!」

そういって嵐の様に二人は帰っていく。

「あの…はぐれてごめんなさい…」
「たく、てめぇがはぐれなきゃあいつらの顔見なくて済んだのに」
「そんな事言っていいわけー?三蔵サマ、彼女の顔見れたじゃねぇの!」

言い終わるが早いかガチャリとまたしても銃口が悟浄の額に当てられた。

「誰が彼女だって?言ってみやがれ、その頭すぐさまぶち抜いてやる」
「冗談です………」
「それで?なんでてめぇははぐれたんだ?」
「…あの、可愛いアクセサリーが…」
「ガキか…」
「ごめん…」
「どっちにしろ雅の着替えも要りますからね。後で買いにいきますか。」
「でも…」
「行くなら行ってこい。ただし、誰か一緒に付いていけ」
「三蔵は行かないんですか?」
「俺はこの後行くところがある。」
「彼女のとこ?」
「うるせぇ、殺されてぇかてめぇは。」
「その辺にしてください?」

そう話している四人を見て雅はどことなく寂しい気持ちを覚えた。その気持ちの正体はまだ解らないまま、八戒と一緒に買い物へ。悟浄は悟空と一緒にどこかへ向かい、三蔵は人知れず町に消えていく。

「さて、三蔵からカードは預かっているので、何でもいいですよ?どんな服がお好みですか?」
「どんなのでもいいんですが、ただ、これからはズボンのが良いかなって…スカートだと私は嬉しいけど迷惑になっちゃうから」
「クスクス、解りました、そうするとどこですかねぇ。」

そう話しながらも二人でショッピングに向かう。そんな道中で八戒は雅に問うた。

「いつ話しますか?三蔵に。」
「いつでもいいんだけど。本当は今日のご飯の時と思ったけど、私はぐれちゃってそれどこじゃなかったから。」
「なら夜寝る直前は?」
「それじゃぁ眠くなってて聞いてくれないんじゃ…」
「だったら買い物終えて合流、宿に着いたらでいいじゃないですか?」
「…そうだね、ちゃんと伝えなくちゃ…」

そう心に決めていた。

時同じくして、その頃の三蔵。

「おい店主」
「へい、いらっしゃい」
「若い女に渡すんだが」
「プレゼントかい?ならこれなんかどうだい?」
「…ほかには?」
「なんだい、だったらこっちのはどうだ?」

指輪の次に出されたのは細いネックレスだった。少し迷いはしたものの三蔵は小さくため息を付いてかうと、懐にしまった。

そうこうしている間に約束の時間になり、それぞれが多方面から町一番の宿の前に集まった。

「いらっしゃい!」
「部屋を…」
「五部屋は空いてないんですがねぇ。一部屋にベッド二つずつが二部屋なら…」
「構わん。それで良い」
「ちょっと三蔵、それじゃ足りねぇじゃんよ!」
「俺はベッドで寝る後の奴らは勝手に決めろ」
「はぁぁぁ?」
「俺もベッドー!」
「えと、四つならあるんですよね?」
「あぁ、そうだよ?」
「なら私別のとこに泊まります!近くに別のお宿ありましたし!一部屋だけなら空いてるかも…」
「…好きにしろ」
「ね?皆疲れてるだろうから…」
「でもみやび、心配です」
「あたしも心配だねぇ」
「あ、じゃぁお布団って借りれますか?」
「え?あぁ、あるよ?」
「一組お借りしても…」

そうして雅は同じ宿に泊まることに。ベッドで用意が出来なかったと言うこともあって雅分は半額にして貰えたのだった。
まだ眠るには早く、夕飯前の時刻。雅は三蔵の居る部屋に向かった。

コンコン…

『どうぞ?』

中からは八戒の声が聞こえた。

「あの…三蔵?」
「…なんだ」
「今日は服、ありがとぉ」
「別に、俺が一緒に買いに行った訳じゃねぇ。」
「あの…ね、話があって」
「なんだ、さっさと話せ」
「…あ、じゃぁ僕出てますね?」

そういって八戒は気を利かせるかのように部屋を後にした。残されたのは雅と三蔵の二人きり。それでも話すと決めた雅は一つ深呼吸して三蔵の前に立つ。 

「あの、三蔵。」
「なんだ、」
「昨日話してたこと…着いていくかどうかって…」
「…あぁ」
「私、一緒に行っても良い?」
「妖怪共に囲まれてか」
「たしかに…始め聞いた時には怖くないって即答できなかった。でも、私…自分の居た村に居るときからの事考えてみたの、初めて会った悟空も、泣いてる時に来てくれた悟浄も、今日の八戒も…皆優しかった。それこそ、妖怪と言うよりもあったかい人間みたいに思えた。」
「でもあいつらの中の『血』は妖怪だ。」
「でも!…それでも私には嬉しかった。力をみてもきれいだって言ってくれた悟空も!泣きそうな時になにも言わずに傍に居てくれた悟浄、今日だけじゃない、昨日も欲しかったことを的確にアドバイスくれる八戒、…それに、」

じっとまっすぐに三蔵を見つめて迷い無く雅は言った。

、一緒に来いと差し出してくれた三蔵の手…」

そこまで言うと、三蔵もまた、雅をじっと見つめる。その瞳は、雅の目の奥までも見透かすように射貫くほどの眼圧を持っていた。しかし、そんな圧に雅も怯むこと無く続けた。

「だから…まだ、有効なら…あの時、守るって言ってくれたことまだ有効なら…!!つれてって…」
「いつか死ぬぞ」
「それでも良い…それに死なない」
「…ほう?力もまともに使いこなせねぇ奴が…」
「八戒に教えてもらって少しでも早く使えるようにする!」
「そんな甘い考えじゃ死ぬっつってんだろうが。」
「…でも、?」

そう言いきった雅。その目差しにはもう迷いはなかった。

「…たく、解った。」
「ほんと?!」
「まぁな、俺が居て死なせる訳ねぇしな。」
「ありがとう!」
「ハァ……たく。」

その答えを聞いて安堵した雅の前にすっと立ち上がると、三蔵は懐から包みを差し出した。 

「…ほら。」
「え?」
「行く先々で迷子になられたら迷惑だ」
「…えと」
「気に入らないなら捨てろ」

そう言い雅の手の中に無愛想にもいれた三蔵は椅子に座り直して新聞に目を落とした。

「開けて良い?」
「いちいち聞くな、好きにしろ」

その答えを聞いて雅はゆっくり包みを開けると、中からネックレスが出てきた。

「三蔵、いいの?もらって…」
「言ったはずだ、要らなきゃ捨てろ」
「要る…大事にするね!ありがとう!」
「……チ、それくらいにしておけ」
「え?」
が気になって仕方ねえ」
「…ふぇ?」

キョロキョロ見渡し始めて時期に、出入り口の扉がガタンと開いて、悟浄と悟空がなだれ込むようにして入ってくる。その後ろから飄々と立つ八戒の姿もあった。 

「み…んな」
「あぁあ、バレちゃった」
「始めから知ってんだよ、バカ猿が」
「俺だけじゃねぇよ!悟浄がぁ!」
「てめっ…人のせいにすんのか!?」
「妖怪だろ!」
「いえ、悟空?半分は人ですよ?…って聞いてませんねぇ。」
「…うるせぇ」

そんなわいわいした空気のなか雅はペコリと頭を下げた。

「これからも、よろしくお願いします!」

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