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ホウレンソウ

教師と、ホストと、恋人と……その草鞋はどれも脱げやしない。

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一方その頃の美堂は車の中で着替えを済ませて、車に乗り込むとブルートゥースを装着した。お客からのメールや連絡を音声で読み上げて貰いながら店に向かうのが放課後の美堂のルーティンだった。その時、電話がかかってくる。

「もしもし?」
『あ、か?』
「その声…凛音か?どうした?」
『どうしたもこうしたもねぇよ。透いつ来るのかって待ってる客結構いて、俺でも裁き切れねぇぞ?』
「凛音が珍しいな。そんな事言うなんて。それで?」
『それでってなぁ…何時頃こっちに着ける?』
「もう後5分もあれば…」
『なるべく早く頼むな?』

そうして電話は切れた。桜の所に向かっていた分予定がずれ込んだのだ。こうして急いでくるようにと催促された美堂は事故を起こさぬ程度に車を走らせた。

「…到着…っと。」

そうしてふぅ…っと一息ついてきらびやかに光る扉を開ける。するとそこには新人2人が立っていた。

「お疲れさま!悪かったな、遅くなって。」
「あ!透さん!おはようございます!!」
「うん、おはよう。オーナー来てる?」
「いえ、今日は来てないですね、その代りに凛さんがてんてこ舞いで…」
「…ちょっと。」

そうしてニコリと笑ったまま美堂は目先でぐっとにらんだ。

「どこで姫方が聞いているか解らない。言葉を気を付けるんだな。」
「…は…い」
「僕らがてんてこ舞いである事は姫方に悟られてはいけないんだ。いつでもスマートで、姫方の悦びを一番に考える。其れが僕らの仕事だろう?」
「はい、すみません」

そう言うなり、美堂はホールに入って行った。その瞬間にホール内の空気が一気に変わる。ホスト達は一気に立ち上がり、女性客はどよめきあがる。マイクを取り、美堂はさらりと挨拶をし始めた。

「本日は遅くなり申し訳ございません。お楽しみ中の中、ご挨拶させて頂きます。」

その言葉を聞いた瞬間に我先にと透に対しての指名が入る。凛音はスッと横まで来ると肩口をコツリと叩き、ニッと口角を上げた。

「おせぇんだよ、来るの。」
「ワリィ…」

そうしてそこから一気に不在分を取り戻すかの勢いで美堂は売り上げを伸ばしていく。気付けば、この日の売り上げもほんの少し凛音に届かなかったものの、数時間で追いついたのだった。
姫方を喜ばせて居たのも束の間、すぐにお開きの時間となった。そうして、遅刻をしたという事もあり、美堂はこの日一緒になって掃除を手伝う事にした。新人たちは美堂のテキパキさに目を見開いている。片付けの時間も間もなく終わると言った時だ。控室に戻ると、そこには凛音が居た。

「よ、お疲れ!」
「お疲れ様です!凛さん!!」
「お疲れー。」
「ちょちょちょい!!透?!軽くねぇか?俺に対して!どういう事?!?!」
「クス、ちょうどいい、凛、少し話がある。」
「なんだ、珍しいな、透が俺を呼び出しなんて…俺喰わんのか?!とうとう透に…」
「ばぁか、んな事しねぇって…クスクス」

そう言いながらもVIPルームを開けた凛音。どさりと腰を下ろすと美堂の方を見た。

「それで?話ってなんだ?」
「あぁ、実は…さ。」
「まさか辞める…とか言わないよな?」
「今はまだやめねぇよ?そうじゃなくて…」
「どうした?」
「大事な彼女ひとが出来た。」
「…マジ?」
「あぁ。凛音には言っておこうと思って。」
「なぁ、それって、透として?それとも陵透として?」
「…クス、後者だな。そうでなければ凛音に報告なんてしないよ。」
「確かに。透は固定の姫を作らない主義だったもんな。もしそれで前者ですなんてこと言い出したらその姫は一体どうやって透を落としたんだって事になるし!!!」

そういうとにっと口角を上げた美堂。その様子を見た凛音もまた少しうれしそうに声をあげた。

「でも、それって今日の遅れに関係するか?」
「いや、あると言えばあるがないと言えばない。今日実は向う、球技大会でな。男子生徒の暴投で思いっきりバスケットボールが頭部直撃した子が居て。それがちょうど僕の生徒でね。その生徒の親御さんに当時の事情説明と本人のその後の確認に行ってたって訳。」
「ふぅん。そうか。じゃぁ仕方ないな。で?その彼女は陵透がしてるって知ってるの?もしかして教師だけとか言ってるんじゃねぇよな?」
「まぁ、どっちも知ってる。」
「おい!大丈夫か?両方の事言って…」
「仕方ないな。ホストだってバレたのは自業自得ともいえるし…」
「どういう事?」
「少し前…2か月位前になるかな…にここくる前に寄ったコンビニでちょうど会ってね。その時にかかってきた電話が、…覚えてるかな、細いのにツケだけ溜めて飛んだ客。あの電話でね。」
「そんなすぐ連絡取れるような女の子いたんだ…」
「そうみたいだ。そしてその電話の後に僕が『内緒な?』なんて言っちゃったもんだから漏れ又調べてね。それでいて『これってホスト用語です!!』って言われてね。」
「いや…ホスト用語って…そんな直ぐ解る言葉使ったの?」
「いやただ単にあの子が好奇心旺盛だったってだけだと思う。それにその質問ぶつけられた、これもまた仕方ない。土日以外毎日会ってる。」
「……ちょっと待て陵透、それって教師同士か?」
「違う。」
「……まさか…」
「あぁ、そのまさかだよ」

そういう美堂に凛音は唖然とした。そうして次に出た言葉…

「かなりハイリスク…それどころじゃないだろ?大抵の所が禁止項目になってるだろ」
「あぁ、家の学園ももちろん。手を出すなとは書いてないし、項目・条約にも記載はしていない。手を出す、交際に至るなんて暗黙の内にダメだって解ってるよな?って言いたいんだろうけど。」
「教師と生徒って、バレたら問題あるだろう?お前だけじゃなくて相手の子にも。…大丈夫か?」
「何か問題はあるか?」
「いや、普通で考えたら大有りだろ。ただでさえ教師とここの掛け持ちで…それだけでもバレたら大変なのに…」
「それは凛音とおじさんの事信頼してるから問題はないだろ?」
「はぁ…まぁ…そういう事なら…でも残念だな。その子に見せてやれないのは…」
「何を?」
「陵透のモテっぷり!」
「いや、見せなくていい…」
「なんで?どうせなら見せてやりたいくらいなんだけどなぁ」
「凛音…いきなり楽しんでるだろ…」
「…バレた?」

そう言いながらも2人揃って笑顔になった。

「まぁ何かあったらいつでも相談しにこいや。同伴中でも連絡はいつでも付くようにしてるから。」
「僕の為に?」
「いや、その可愛い姫のために」
「だろうな…」
「でもまぁ、陵透の事も俺大事だしな。また機会あったら紹介でもして?」
「凛音に紹介すると困る事になるからどうしようか…。」
「困るって?」
「なんかペラペラ僕の事をいろいろぶちまけそうで…怖い」
「ハハハ…それなりに、だな」
「洞、そう言うところ…」

そうして、美堂もまた、ZEROのオーナーの息子であり、高校来の友達に話す事が出来た。

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