上 下
25 / 48
トオク、トオイ

本番2日目…講堂での音楽祭への突入です!

しおりを挟む
翌日もまだ文化祭は続いていた。天王祭2日目は行動を使っての音楽祭になっている。音楽祭と言っても、バンドばかりではなく、漫才であったり、ミニライブであったり…ダンスパフォーマンスであったりと様々な催しが1日かけて行われるのだった。主に午前の部では、音楽関係以外の事を、午後にはライブ形式の事を分けてやるのだった。この時ばかりは、教師や生徒等全く関係なく、無礼講状態で行われるのだ。

「ねぇね!桜!!」
「ん?」
「美堂先生、今日の午後に出るんでしょ?」
「ん、ギターで…出るみたい!」
「それに併せるのって望とか赤石君とか…とにかくイケメン達でしょ?」
「まぁ望がイケメンかどうかは置いといても結構人気ある子達だよね!!」
「そうそう!!…って、望も結構人気あるんだよ?」
「そうだったね…毎年チョコめちゃくちゃ持って帰るもん…」
「でしょ?」
「でも、何やるんだろうね。」
「ねー!!」
「望はボーカル、美堂先生はエレキだっていうのは聞いたけど…」
「でも楽しみだよね!!」
「だけど…午後の最後から2番目だよ?結構後だね…」
「うん!でもこのトリ取る人って誰だろう…」
「TORUって…ギターの弾き語りだって!」

そう話しながらも、2人はとにかく望や美堂の出演する時間を今か今かと楽しみにしていた。午後の部に入るまでの演目は余り記憶にも入ってこなかった。何か面白いのは?と聞かれても特に思い入れが見当たらなかったのだ。こうして午後の部になり講堂は一気に湧き上がる。ダンス部のパフォーマンスだったり、ライトもきらびやかに舞い、いろんなバンドが音を重ねる。その間に軽くMCを挟みながらもそれぞれ工夫を凝らしていた。

「次だよ!!」
「ん!!」

スマホを片手に1枚でも写メを収めようと意気込んだ桜と結子。被写体にするのは違っても同じ目的だった。いざ始まると歓声は大きかったがすぐに静かに、しかし、皆が本当にノリノリになっているのが解った。1曲目を終えた所で挨拶をして、すぐさま2曲目、3曲目へと移って行く。最後の3曲目が終わると、全員で一礼をするも、客席からアンコールが巻き起こった。

「どうする?」
「どうしましょうかね…」
『もっとききたぁい!!!』
「…だそうですけど…」
「何か出来る?」
「美堂さん次第?」
「じゃぁ行きますか…」

そうしてその場で曲名を決め、その場で始める事にした。前の3曲とは違い、しっとりとしたバラード曲。それもラブソングだった。予想外の選曲に生徒はもちろん、教員たちもまた聞き惚れている様子だった。皆、写真を撮る事さえも忘れているかのようだった。かくいう桜も、そんな内の1人だった。
これで満足…!!と言わんばかりに生徒たちはもう、すっかりと大トリを飾る『TORU』という存在を忘れているかの様だった。

『もうこれでいいよねぇ!!』
『最後の人がめちゃくちゃ変な人だったら嫌じゃない?!』
『確かにー!!』

そんな声がちらほらと聞こえてくるのも聞こえてくるほどだった。そんな中、場内放送が入り、一旦暗くなると誰かがステージ上に上がってくるのが解る…その姿を見て桜は『嘘…』と呟いていた。中央に1つだけ用意されたイス。そこに腰かけるその姿…ピンスポがゆっくりと点いた時、会場内は一気にざわついた。そう、そこに座っていたのはさっきまでエレキギターを弾いていた美堂だった。

「えーっと、さっきまで僕も生徒たちに紛れて参加していましたが…今度は僕1人での演奏となります。まぁアコースティック1本で弾き語りなんてのをやらせて頂こうと思いまして。無理を言い、この枠を頂きました。全部で3曲、やらせて頂こうと思っています。アンコールは受付けませんので…クス。それと、最後に弾かせてもらう曲ですが、僕のオリジナルになってますので失敗するかも知れませんが…最後まで楽しんでいただけたらと思います。それでは、聞いて下さい…」

そうして始まった美堂のソロステージ。さっきまで『ここでいい!』と言っていた生徒たちも、美堂の演奏にくぎ付けになっていた。1曲目…2曲目が終わり、拍手がすさまじく続く中、美堂は一呼吸おいて一旦目を閉じ、ゆっくりと息を整えて弦を弾き出す。
心地よいメロディーと、音域、それに併せて歌詞が切なくもあったかく、包み込むようなラブソングだった。それを聞いていた生徒たちの中には泣き出してしまう子もいる程だった。それも仕方ない…歌詞の内容は誰か特定の愛おしい相手に注ぎ、溢れんばかりの愛情を歌い、紡ぐ歌詞だったのだ。ゆっくりとフェイドアウトするように最後の1音を鳴らし終わった後、少しの間があったが、すぐに大きな拍手に包まれたのも言うまでもなかった。
こうして2日間の天王祭も終わりを告げた。最後の後夜祭も2日目の終わりにするのもおなじみだった。この時に告白をして、その恋が実れば幸せになれる…そのジンクスは昔から変わらず受け継がれている天王学園の伝説のようなものだった。やはり隙を見て美堂に告白する者は多かった。その他にも、様々な所で告白の成功者、敗退者…様々な模様が垣間見る事が出来た。しかし、桜は美堂の前に現れなかった。余裕を持っている…という訳でもなかった。ただ、今この時に伝えて困らせるのではないか…そんな思いだけが完全に先走って居たのだ。

運動場を中心に集まり最後のお祭りを楽しんでいる中、桜は自分自身の教室に身を隠し、その様子を見ていた。美堂の姿を探そうにもこの全校生徒が居る中、見つかる訳もない。椅子に座り、俯いて小さなため息を吐いていた時だ。カラカラと軽い扉の開く音がした。

「ここに居たのか…」
「先生…」
「通りで外いくら探してもいないはずだ…」
「だって…見ていられ無くなって…」
「何が?」
「皆から当然に告白されてる先生見るの…」
「ばぁか…」

そういうと1脚椅子を出して美堂は前に座った。じっと桜を見つめるとふっと笑いかける。

「桜?ここのジンクスって知らない訳じゃないだろ?」
「…ん…」
「…顔、上げて?」
「……先生?」

ふと顔を上げる桜の目には、変わらず優しく笑う美堂が映った。その直後に美堂は頭を撫でて口を開いた。

「僕は、桜が好きだよ。今はもちろん、今までも、そしてこれからも……」
「陵透……」
「桜…返事は?」
「でも…他に好きな人が出来るかも知れないでしょ?」
「それは僕に?それとも桜に?」
「陵透に…」
「それは愚問だな…どれだけ僕が今桜を愛してるか…愛おしく思ってるか、まだ解らない?」
「それは…その……」
「僕自身も我慢の限界な時なんていつだってある。数学の時間…ホームルーム、いつだって桜の事ばかり考えてる。悟られない様に、バレないように……それでも僕んお心はいつまでたっても桜にしか向いていないのに。」
「…陵透…」
「桜?さっきの事、返事は?」
「…私も、陵透が好き…」
「ん、……」

互いの顔が赤く見えるのは改めて心を通わせれた結果なのか、それとも珍しく夕日がきれいな色を照らし出しているからなのか…解らないでいた。

一方の結子は望を探していた。良く、気を研ぎ澄ませながらも回りに注意を払えば大抵どこにいるかは解るのだった。告白して振られた子の話からどこに居るのか推測をする。最後に辿りついたのは体育館の2階、観客スペースに繋がる踊り場の所だというのを聞いた結子はそこに緊張する心を抑えたまま向かった。

「望…?」

体育座りをして、突っ伏しているがそれは明らかに望本人だった。結子の問いかけにゆっくりと顔を上げた望。

「あぁ…牧野か…」
「結構探しちゃった…」
「…わり…何か…外出たくなくてさ…」
「皆から告白されっぱなしで疲れた?」
「クハ…んなことねぇよ」

そう言いながらも下から見上げる望の前に座り込んで、結子は目線を合わせる。

「今日のステージ、かっこよかった!」
「…ありがと」
「本当だよ?」
「うん、牧野のその言い方は嘘じゃないって解るから…」

その返事の後に少しの沈黙があった。その沈黙を破ったのは望の方だった。

「でもさ…美堂さんのあの曲はずりぃな…」
「…え?」
「俺完全負けじゃん…?どうしたって桜に想い、届かねぇの思い知らされた…」
「…望……でも、先生のあの歌詞って言ったって桜にじゃないかもしれないじゃん?」
「どれだけ桜の事見て来たか…それに男同志だよ。本人に聞いてないからどこまでが正解かって確信に至っては無いけど。多分あれは美堂さんが桜に対してのだと思う。」
「な…んで?」
「…クス、球技大会の時、それに個別指導、その他諸々、疑う余地なんてたくさんあるよ」
「……ッ」
「クス…だっせぇよな…好きだって思って17年、やっぱよく言うあれかな…初恋は実らないっての…」
「……望…」
「まぁ、あんな曲聞かされたらさ?桜にもう1回…今日言おうかって思ったりもしたけどさ。告る気も起きなくなってきたからいいんだけど…って、……おい、なんで牧野が泣いてんだよ」
「だって…でも、泣いて無い…」
「……どうした?」
「望が…望が桜の事好きなのと同じで…私もやっぱり望の事が好き…振られてるのに…こんな事言っても困らせるの解ってるけど…やっぱり好きなんだもん…」

そういいながら、ぐいっと涙を拭う結子。そんな結子を望は両手を出して抱き寄せた。

「なんで…?俺、1回牧野の事すげぇ振り方してるのに…なんでそんなに想ってくれんの?」
「……・・わかんない…でも…好きなんだもん…望の事…理由なんて解んない…それでも…私は望が好き…」
「…牧野…」

望の抱き締める腕に力が入った。そのまま、望は結子に聞こえる程の声で話し始めた。

「牧野…俺と付き合う…?」
「……の…ぞむ?」
「さっきまで俺自身桜に告ろうかって思ってたって言った後だから『遊びなの?』って思うかも知れないけどさ?…ってか、普通はそう思うよな…」
「あの……」
「家同士隣だし、桜の性格からして俺の態度も、桜の態度もきっと変わらないと思う。そんなつもりじゃないけど、もしかしたら、好きだって思い続けてくれてる牧野使って桜の事、桜への気持ち、忘れたいだけなのかもしれない…でも…俺牧野の事好きになれそうかも知れないって思う。」
「……」
「今はまだ、牧野の事友達以上に好きでも、恋人としての好きには届いて無いかも知れない…それでも、牧野がこんな俺でもいいって言ってくれるなら…付き合おう…」
「望…本気?」
「あぁ。それに俺の事なのにあんな風に泣いてくれて、話聞いてくれて、自分の気持ち嘘無く真っ直ぐに伝えてくれる牧野なら好きに、好きになれると思うんだ。」
「…でも…ッッ…!!明日になったら…やっぱりあれは嘘だったとか…なしだよ?」
「それは牧野もな?落とせるかどうかのゲームでしたとかっていうのは無しにしてくれな?」
「そんな事言わないよ…絶対…」
「……・・結子…」

そう言うとそっと頬にキスをした望。すぐに離れ照れ隠しの様に、望はもう1度結子を抱き締めた。言葉にならない様子でただ抱き締めてくれる望の腕を信じるかのようにキュッと抱き締め返す結子。そして桜よりも少しだけ広い背中をポンッと叩きながらも、望はその背中をさすり撫でていた。

「そうだ…望…?」
「ん?どうした?」

ゆっくりと体を離した結子は望にそっと問いかけた。

「話さなきゃね。ちゃんと桜に。」
「まぁ…そうだな…。うん」
「桜に話すの…嫌?」
「嫌じゃない…けど…」
?なに?」
「怒られそう…『結子泣かしたら怒るよ!?』って言い出しかねない…」
「そんな事ないでしょ…大丈夫だと思うよ?」
「そっかぁ?意外と怒られるよ?」
「望だからでしょ?」
「うわ、ひでぇなぁ…」

そう話しながらもゆっくりと立ち上がった2人。そのまま制服をパンっとはたき埃を落とすと、ひと言望は呼びとめた。

「結子?」
「ん?何?」
「いや…その…さ?」
「うん?なぁに?」
「これから…宜しく…」
「…うん…」

そうしてどちらからともなく互いの手を求め、そっと指を絡めながらも繋ぎ歩いた。そうして後夜祭も終盤になって居た時だ。相変わらず人気のある美堂と望。少し離れた所で桜と結子は互いの相手のモテ振りに少し紋々としていた。

「全く…なんであんなにモテるんでしょうね…」
「他の学年の人からも告られてるもんね…」
「そう言えば…結子は?今日ならもう1回チャレンジしても…」
「さっき…した……」
「それで?どうだった?」
「…うん、付き合ってくれるって…まだ桜の事諦めれないけど、それでも私の事好きになれると思うからって…家隣だし、変な噂とかたつ事も知れないけどって…」
「噂なら立たないよ。クスクス…立ったとしてもお互い家族みたいなものだし…でも、そんなあやふやな返事したの?望…」
「それでもいいんだ…望から…付き合おうって言ってくれたし…」
「そうなんだね!やったね!おめでとう!」
「うん、ありがとう。桜!桜も…美堂先生に改めて想い伝えたんでしょ?」
「伝える前に言われちゃったけどね?」
「……まさか…」
「あ、違うよ?別れ話とかじゃなくて……その、好きだって…」
「へぇぇ!……あの美堂先生がどんな顔して言うんだろう…ちょっと見てみたい気もするけど…」
「…ヘヘ、すごく優しい顔するよ?」
「はい、ごちそう様」

そう言いながらもクスクスと笑い合いながらもそれぞれに後夜祭を楽しんでいたのだった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界のんびり散歩旅

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,230pt お気に入り:745

婚約破棄 ~ガチでやられると結構キツい~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:4,525

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:745pt お気に入り:76

ワンコとわんわん

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:309

異世界ライフは山あり谷あり

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,094pt お気に入り:1,554

鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,052pt お気に入り:160

【運命】に捨てられ捨てたΩ

BL / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:611

処理中です...