凜恋心 ♢ 転生編 ♢

降谷みやび

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battle14…懐かしい空間

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この日は雅は仕事が早く終わる日だった。

「雅!!」
「慧攔…どうかした?」
「待ってたんだよ、俺…」
「どうした?なにか用事?」
「……やっぱり雅、俺と付き合ってよ。」
「だから…何回も言ってるけど私慧攔とは付き合えないって……」
「そんなこと言うなよ!付き合ってみなきゃ解らないことだってたくさんあるだろ?」
「…それは…そうかも知れないけど…」
「ほら!!それにだってまだ現れてないんだろ?」
「……たぶん…」
「そんなあやふやな相手待ってるよりは俺と付き合った方が楽しいって…!!」

そんな事を話していた。そんな様子を少し離れたところで三蔵と八戒が見ていた。

「…三蔵?あれって雅、ですよね」
「…だな」
「絡まれてません?」
「…でも普通に話してるだけかも知れんだろうが…」
「そうでしょうか…」

そう話しているとふと雅と視線が重なったような気がした八戒。

「…って、雅こっちに来ますよ?」

そういうが早いか雅は三蔵の横にピタリと着き、慧攔に向き直る。

「私、この人達と用事あるから…」
「なんだよ、この人って…旅の連中だろ?名前も知らない奴に助け求めんのかよ?そんなに俺の事嫌なわけ?」
「そうじゃないけど…ごめんね?慧攔。行こ?

そう呼び捨てにした雅。ペコリと慧攔に頭を下げる八戒と気にも止めない様子の三蔵。そのまま離れていく三人。

「……マジかよ…」

そう項垂れてとぼとぼと反対に歩いていく慧攔。後ろをチラリと見てほうっとため息を吐いた時だった。

「…おい」
「え…あ……ごめんなさい、三蔵さん…ですよね…巻き込んじゃって……それにいきなり呼び捨てにして…」
「…チッ…」
「どうして三蔵だと?」
「昨日話してるの聞いて……」
「なるほど」

急いで絡ませていた腕をほどく雅。申し訳なさそうに頭を下げた。

「いえ、僕達も丁度買い出しの途中だっただけなので…」
「変なことに巻き込むんじゃねえよ」
「…ごめんなさい…」
「タク…」
「あの方が慧攔さん、ですか?」
「知ってるんですか?」
「いえ、昨日あなたの働いてる食堂で出会った人に聞いたんですよ。遊びでもいいから付き合いたい女性がたくさんいるそうですが?」
「…そうなんだけど……私はちがくて…あ、それよりも…ありがとうございました。」
「俺達が通らなかったらどうするつもりだったんだ…」
「えと……それは……」
「まぁまぁ、三蔵?丁度いいので本当に用事、作っちゃいましょうか?」
「…え?」
「おい、八戒」
「いいじゃないですか。宿で待ってる二人もいることですし?」
「それ……迷惑じゃないですか?」
「ぜーんぜん。ね?三蔵?」
「……めんどくせえ」
「あ、そうですよね…」
「雅さん?三蔵のコレ、『ようこそおいでくださいました』って意味ですから、心配しないでください?」
「……誰がそんなこと言った」
「あれ?違いました?」
「クスクス…」
「おい、お前はなんで笑ってる」
「…いえ…ごめんなさい…ただ…クスクス…」
「お茶くらい、してから行きましょうか?」
「…でも…後のお二人待ってるんじゃ…」
「そのくらいの寄り道なら大したこと無いですよ。」

そう言いながらもなぜか雅は八戒の横、ではなく、三蔵の横から動けずにいた。そのままある一ヵ所の茶店に入った。

「いらっしゃい!あ、雅、今日は両手に花かい?」
「へへ、」
「慧攔聞いたら卒倒しそうだけどね」
「あーー、さっきフッて来ちゃった」
「ははは!!相変わらずだね、あんたは」

そう笑いながらも三人は席に着いた。あえて八戒と三蔵は向かい合うように着席し、雅は少し困っていた。

「え…っと…」
「どちらでもお好きな方にどうぞ?」
「……でも…」
「どっちでもいいからさっさと座れ」
「三蔵?言い方」
「……お隣、いいですか?」
「…好きにしろ」

そう聞いた雅は『へへ…』と小さく笑いながら三蔵の横に座った。

「いらっしゃいませ!こちらメニューです」
「ありがと!」
「あれ!雅?」
「久しぶりに来ちゃった。」
「しかも……男の人と一緒?」
「…唯漣…落ち着いて?」
「決まった頃に来るね?」

そういって唯漣は去っていく。

「今の方は?」
「唯漣。この街の町長さんのところの娘さんで私の友人。」
「…そうだったんですね。」
「私が男性と一緒にってのが珍しかったみたい…」

そうして注文をする。そのときに唯漣に雅は聞いていた。

「唯漣、あのね?」
「どうかした?」
「灰皿ってある?」
「あるよ?ちょっと待って?」

そうして持ってくると、はい!雅に渡した。

「ありがと!」
「いーえ!!」
「……あの…もしかして…雅が?」
「まさか…クスクス…はい。」
「…なんだ」
「使うかなって…ここ、いつもは灰皿撤去してるから…」
「…フン…」
「良く解りましたね…三蔵がたばこ吸うと…」
「昨日も吸ってたから…」
「吸ってました?」
「三蔵さんが食事終わって…たしか吸ってましたよね?」
「…良く見てんな」
「…つい、癖で…」
「そうでしたか。あ、自己紹介がまだでしたね。僕は八戒、猪八戒です。こっちは三蔵。あと昨日一緒にいたのが赤い髪の方が悟浄で、小さい方が悟空です。」
「改めて…私、花洛雅って言います」
「昨日聞いて知ってますよ、ね?三蔵」
「…フン…」

そうして話している。

「お待たせしました、アイスコーヒーです」
「ありがとうございます」
「雅のはもう少しまってね?」
「…もぅ…」

そうして待つこと数分。お待たせ!といって持ってきてくれた。

「それは?」
「烏龍茶にミルク入ってるの。」
「…えっと……」
「おいしんだよ?」
「…ミルクティーみたいなものでしょうか…」
「ん!あ、私飲む前に飲んでみますか?」
「…あーー…僕…結構です。」
「フン…貸せ」

そういって三蔵は一口飲んだ。

「確かに。うまいな」
「でしょ?!私の最近のブームなんだ!」
「……クス…」
「…どうかしました?八戒さん…」
「いえ、こちらの話です」
「どうせロクでも無いことだろ」
「えぇ、そうかも知れません」
「八戒さんも三蔵さんも…大人な感じですよね…」
「僕は二十三、三蔵は二十四なんですよ。ちなみに悟浄は僕と同じで、悟空は十九です。」
「いるのか?その情報…」
「せっかくじゃないですか…」
「私は二十一なんです。意外と近いですよね…」
「フン…」
「雅さんのその口調…癖でしょうか?」
「え?」
「敬語。」
「そうじゃないんですけど…」
「だろうな。さっき俺に対して敬語の『け』の字もなかったし」
「…ふぇ?」
「自覚無かったのか…」
「…すみません」
「いえ、どちらかと言えばいいんですけど…」
「八戒さんのは?」
「僕のは地ですね。」
「そっか…私は…距離置きたいのかも知れない…」
「距離…ですか?」
「うん。少し話すと長くなっちゃうから…でも、誰か一人を私ずっと探してるんです。でも私は解らないから…見付けてくれるのを待ってるんですけど…」
「…そうですか…」
「…フ----…それで?」
「え?」
「もし仮に、見付けて貰えなかったらどうするんだ」
「それは仕方ないことなのかも知れないから…私も記憶が部分的に無くなってるし…相手の方も記憶無い私だと嫌になるかも知れないし…」
「自分で動こうとは思わねえのか?」
「記憶が…無いんです。今みたいに懐かしいなって思うことはあっても…ちょっと…特殊で……」

言葉を選びながら話している雅。それを重々承知で三蔵もまた話している。

「じゃぁもし、そいつ以外の奴にお前が恋愛感情を抱いたとしたら?それとも、その気持ちに嘘吐いてまで見つかるかも解らねえ相手を待つってのか?」
「私自身良く解らないけど…好きだなって思うのってすごいことだと思う。大切な誰かって言うのはたくさん居ても好きだなって思うのは本当に貴重な存在で…」

そういうと雅はそっと桜のネックレスを握りしめる。

「このネックレスみたいに、離せないのもなにかあるのかもしれない。もしかしたら大好きな人に貰ったのかもしれない…だから、信じたいんです。私が信じたいことを…」
「……そうか…」
「…クス…これ、誰だったかな…受け売りなんですけどね…強さとか、そういうのを信じるんじゃなくて…自分が信じたいものを信じるって……」

そういう雅の言葉を聞きながら、三蔵はふぅっとたばこを煙をふきあげたのだった。

「…あの、すっかり遅くなって…ごめんなさい…」
「いえいえ、僕は楽しかったですよ?」
「私もです。悟浄さんと悟空さんにもよろしくって…」
「はい。それではまた」

そうして三人はそれぞれ離れていったのだった。
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