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告白。
偶然が偶然を呼んで…悠人が殺人鬼NDLのリーダーと知った花音…今回の依頼は命がけです…
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ようやく花音が落ち着いて、ゆっくりと車を走らせ始めた悠人。車内は静かな物だった。予定していたショッピングも、何もかも…自分のせいで台無しにしてしまった…そう花音は自責の念に駆られていた
「花音…少しだけ寄り道していい?」
「…ん」
言葉少なに返事をした花音。悠とは少し回り道をし始めた。どれほどだろうか、時間が経過した時だった。徐に駐車場に車を入れる悠人。エンジンを切った。
「ここ…」
「俺が小さい時によく来たことがあって…今でもたまに来たりしてたんだけど…ここの所ずっと来てなくて。」
「教会?」
「うん」
そこは小さいながらも挙式も挙げることが出来る教会だった。しかし、大聖堂というものでもなく、こじんまりとした、しかしかわいらしいイメージの所だった。後部座席の扉を開けて、悠人は花音を降ろす。手を引いたままそっと数段の階段を上がっていく。
ガチャ…ン…・・
「ハァ…やっぱりここは開いて無いか…」
ダメもとで掛けたノブは無情にも鍵かかかっており、入場を阻まれた。それでもミニガーデンと言えそうな場所にあるベンチに座る事は出来、並んで座った。
「悠人…今日は色々とごめんね…」
「何が?大丈夫だって…」
そっと肩に腕を回して、自分の方に引き寄せた悠人。そんな相手に身を委ねるように凭れかかった花音は悠人のもう片方の手をそっと求めた。
「ねぇ悠人…私ね…」
「ん?」
「私の事は悠人ほとんどの事知ってるでしょ?」
「えぇ、大抵の事は…どうしたんです?」
「私、悠人の事、何にも知らないなって思って…悠人の事…また教えて?」
「何が知りたい?」
「えっと…誕生日とか…!」
「9月29日」
「え…?」
あっさりと回答を出す悠人。あまりのさっぱりとした回答に花音は少し面喰ってもいたが同時に嬉しかった。それからというもの、新崎との関係、いつからの友人なのか…どんなものが好きか…色々と聞いては、悠人もそれに答えていく。
「そっかぁ…」
「後知りたい事は?」
「…」
「花音?」
「あのね?……私を助けてくれた時に悠人の声はしっかり聞こえていたの…その時の話し方とかがね…」
「話し方?」
「……私が夢で見たよって話した事あったの覚えてる?……あの時の悠人にすごく似てたの…真っ黒の服に四人組の…すごく怖くて冷たい目…あの夢は…本当に夢なの?]
「花音…」
「教えて?」
「それは…また話す…話せる時が来たら…でもごめん…今じゃない…」
「……そっか…悠人…一つだけ…約束してくれる?」
「何?」
「危ない事はしないで…自分の命…大切にして…お願い…」
「……それは侍従関係として?それとも男と女として?」
「どっちも…」
「クス…それを神様の前で約束させる?」
「え?」
くいっと指を差す先にはすっかりと忘れかけていたかのような教会…きゅっと腕を絡めた花音は下から見上げた。
「悠人は?」
「ん?」
「悠人は約束できない?…自分の命よりも大事な物なんてないでしょ?」
「残念だが…俺には自分の命よりも大切にしたいものがある」
「…え?」
「花音だよ…」
そう呟くとそっと口唇を重ねる悠人。短いキスの後に、花音は笑うと悠人に茶化すように話した。
「悠人こそ…神様の前で嘘…つけないよ?」
「大丈夫だよ、俺は嘘は吐いて無い。」
「…バカ…」
照れたように巻きついた花音を悠人はそっと抱きしめた。
禁忌だなんてわかっている。
従事している者がその主人に対して恋心を抱くなど…
許されることではない。
こうして触れ合うなど…
頭主に対する…冒涜だ…
でも見逃してもらえるならば…
他には何も要らないと手放すから…
花音との愛情は許してください…
そう悠人は願うばかりだった。そうして二人はゆっくりと立ち上がると車に乗り込んで屋敷へと帰って行った。花音を入浴させて、『おやすみ』と言葉を聞いた後に悠人は工藤の元に電話を掛けた。
『はい』
「悪い、待たせた」
『いや俺は大丈夫。詳細今見れるか?』
「あぁ、目の前にある。」
そうして、悠人はパソコン上のメッセージを読んでいた。
「それで?」
『少しコンタクトというか、人となりを悠人にも見てもらおうと思って。北斗よりも確かだろう』
「それは構わないが…日にちはいいとして、この店って…」
『あぁ。だから誰か一人で構わない』
「…ここに来るのか?だとしたら弘也一人で十分じゃないか?」
『あいつは仕事中って名目らしいからな』
「なるほどな。…・・・了解。解った。」
そうして電話は切れた。ドサリと腰を下ろした悠人。メガネを外して天井を仰いだ。
「…ハァ…全く…」
そう呟いていた。
そうして次の日…いつも通りの朝を迎える夏目家…車の洗車をしている悠人の元に花音がやってきたものの、すぐ近くでホースを引っかけてしまった花音。幸いにも花音自身には水がかからなかったものの悠人はどっしゃりと被ってしまう羽目になった。
「悠人…ごめんね?」
「いえなに、大丈夫ですよ。この位なんてことはございません。お気になさいませぬ様…」
そう言い残して屋敷に入る。後を追って花音も入って行く。脱衣場で花音が見たもの…それは悠人の背中だった。
「悠人…?それ…」
「花音様…?」
「その背中の傷…どうしたの?」
「何、昔の古傷にございます。もう痛み等は全くございませんよ」
「大丈夫?」
「大丈夫、それより、着替えを覗くとは…あまりいい趣味とは言えませんよ?」
「見たくて見たんじゃないもん!!!!」
そういいながらその場を離れる花音に対してクスクスと笑いながらシャワーを浴びる悠人。しかし内心では焦っていた。古傷…それに一切の偽りはないものの、NDLとして、数年前に負った傷だったからだ。そうこうしている間に悠人の携帯が鳴る。しかし、当の持ち主はシャワーを浴びていた。どれ程かして、上がる悠人は着信に気付き折り返す。
「もしもし、悠人…・・・・はい……え?…はい…、かしこまりました。その旨他には……はい、はい。了解です」
そうして切れた電話。内容は頭首からだった。予定していたNDLの仕事が早まったという事だった。突如、外国に飛ぶ事が決まったという情報から、日にちを半月ほど前倒しの明日、決行するとの事だった。その為、全員集まって緊急会議、及び本日からの打ち合わせに時間を割く事となったのだ。
「悠人?」
「…ッ?どうした?」
「どうしたは私のセリフだよ?なんか難しい顔してるけど何かあった?よくない事?」
「…花音様は心配しなくて大丈夫ですよ」
「なんか隠してる…」
「何をです?」
「悠人がそういう顔して『大丈夫です』って言う時は絶対なんかあるから…」
「…クス…、本当に何もありませんよ?」
そういって悠人は花音の頭をそっと撫でた。それから悠人の中の時間は恐ろしく早く進んでいく。しかし、その忙しさを花音に悟られぬ様立ち振る舞うのは難しくもあった。花音自体、何が起こっているのかは解らなくとも、薄々感じているのも悠人は解っていたのだ。
打ち合わせはメールで行いながら同時通話で行うことにした。
次の日の夜…深夜23時を回った頃…悠人の出発に合わせて花音は扉を開けた。
「悠人…」
「花音……寝たんじゃないのか?」
「昨日から悠人おかしいもん。だから気になって…」
「待ってろ…」
「嫌。一緒に行く!」
「花音、言うことを聞け」
「いや。悠人がどこで何をしているのか…私だって気になるよ?」
「ハァ…」
ため息を着いた直後、車から弘也が降りてきた。何やら耳打ちをすると腕を取り、車に連れていく。
「いいか、連れては行くが、絶対に降りるなよ。」
「でも…」
「降りたら死ぬよ」
「悠…人?」
突然の死の宣告。言葉に詰まった花音はうつむいた。
「あぁあ、そんなにはっきり言わなくても…」
「うるせぇ。」
「そうだな、言わなきゃ降りる…イコール死ぬ。これは間違いない。」
「じゃぁ、悠人だって…皆だって降りたら…」
「悠人、…」
花音の横に座っていた弘也は花音に話し出した。
「正確には、守ってやれない。って言うのが事実だな。」
「ヒロ…」
「だって間違いじゃないだろ?だから降りるなって言う。理由を言わなきゃ花音ちゃんだって納得できないだろ。」
「…ハァ…」
「生きるか死ぬかのことなんだ。俺らだけであれば死なない。ただ、もし花音ちゃんがいたら…」
「ヒロ。」
「何?」
「…フゥ…回りが見えなくなる。俺らじゃなくて相手が…だ。もしそうなって花音が囚われたらそれこそ相手は花音の事を道具にする。それでは任務遂行なんて不可能だ。」
「任務って…」
そうこう話しているととある薄暗い場所にやって来た。インカムを着けた四人は車を降りる。
「花音は待っていろ」
「…」
「大丈夫…俺は死なない。帰ってくる。」
そういい残して悠人はリムジンを後にした。その時だった。ウィーンっと軽い音と同時に運転席と後部座席を分ける仕切り板が降りた。
「こちらから失礼いたします。夏目花音様…でございますね?」
「え…あ…・・はい」
「僕はこの車の運転を任されています、九条と言います。」
「あ…初めまして…」
「クス…本当にお可愛らしい…花音様と知り合ってからユウの態度が変わったんですよ。」
「ユウ…?」
「あ、すみません。悠人さん…でしたね。」
「悠人達は…一体何をしてるの?」
「僕にお答えする権利はありませんので…」
そう答える九条。ちらりとバックミラー越しに花音の表情を見ると、俯いて今にも泣きだしそうな…そんな顔に見えた。
「…とある場所に、若者が四人いました。」
「え?」
突然話し出した九条の言葉に花音は耳を傾ける。ふう…と息を吐いた九条は珍しく少しリラックスした様子で話を続ける。
「その四人は、NDL。Not Dust Left という仕事を受ける事となったのです。その意味は、『塵一つ残さない』という意味です。仕事の依頼があれば、どんな相手でも、どんな手を使ってでも、その任務を果たす。それがいかに残酷な結果になろうと…」
「まって…それって、どんな仕事なの?」
「…それは…」
「九条さん…教えてください…」
「ひと言で言うなれば…殺し屋です」
そのひと言を聞いた花音は背中がぞっとした。そんな仕事が今のこの世の中にあるなんて信じられなかった。
「それで…?」
「ニュースにもならない…事件にもならない…それなのに、いつの間にか人がいなくなっている。だけどいなくなっても声を大にして言えないのはその人のやってきた所業の問題があると言います。その者達の行いが世にばれてはそれこそ大問題になる。そんな事を未然にふせぐ為に結成されたとでも言いましょうか…」
「…それで?」
「その若者たちは皆得意分野を持って居ます。短銃・長剣・銃・詮索・地理関係・空手…それぞれを武器として行くのです。誰も彼らの存在には辿りつかないものです。」
「………でも」
「一歩間違えれば確実に死に直結する仕事です。ある時期を境に日本の立て直しを目的に一人の男性が始めた事なのです。」
「それが…それが何で悠人なの?」
「さぁ、それは僕にもわかりません。それに、僕はとある若者の話をしただけです。」
そんな九条の言葉を最後まで聞くことなく、花音は車を飛び出した。そんな花音を追う事も止める事も出来なかった九条は頭を抱えてインカムで飛ばしていた…
「ヴヴ…こちら九条。ユウ、聞こえますか?」
『…なんだ?』
「…お嬢様が飛び出しました…」
そのひと言を聞いた悠人はドクリと胸が飛び上がる。その後の九条の報告や状況など入ってこなかった。
「ユウ、お前は花音ちゃん探しに行って来い」
「…いや、ここに居るのは解っていないはず。余程は問題がないはずだが…」
『落ち着け、大丈夫だよ!俺らの方に見えても援護はするから!』
「…チ…悪い」
インカムの向こう側からはジン達の声も聞こえてきた。大きく息を吸い、立ち上がる。
相手を見据えて攻撃を仕掛ける。今回は複数人居る。状況判断が特に求められる仕事だった。
様々なところで音がする…物が倒れ…声が上がる…
「悠人…悠…ッ!!!」
その音のする方へと花音は近付いてくる。角を曲がった瞬間だった。その悪夢のような情景が花音の目に鮮やかに映ったのだった…
「悠人!!!!」
何も考えられなくなった花音は悠人の元に走ってくる。来るなと言われたことさえもすっかりと抜け落ち、ただ、愛おしい相手が危険に晒されているその状態を守りたい…そんな一心だった…
「悠人…!!」
もう一歩で…そんな時だった。悠人は走りだし腕を目一杯に伸ばして引き寄せる。
パァァァン…!!
気付くと花音は悠人の腕の中に居た。
「悠人…あの…」
「バカ…なんでここに居るんだよ…ッツ…」
「ゆう…と?」
「けが…ッ…無くてよかった」
そういうと悠人は体の重みを保つことが出来ないままずるりと力がみるみる内に抜けていく…
「ユウっ!!!!」
その声と同時に悠人を撃った男はジンの放つ銃弾に打ち抜かれていた。力を無くしかけている悠人の元に新崎は近付いてくる…工藤は九条に電話をする…北斗は止血に回る…そんな光景を目の当たりにした花音の頭には最後、見送った時の言葉がグルグルと廻っていた。
花音…絶対に降りるなよ?
俺は…必ず生きて帰るから… 心配するな…
「ぃゃ…嫌ぁぁぁぁ!!!!」
花音の声は夜空に悲しく響いていた…
「花音…少しだけ寄り道していい?」
「…ん」
言葉少なに返事をした花音。悠とは少し回り道をし始めた。どれほどだろうか、時間が経過した時だった。徐に駐車場に車を入れる悠人。エンジンを切った。
「ここ…」
「俺が小さい時によく来たことがあって…今でもたまに来たりしてたんだけど…ここの所ずっと来てなくて。」
「教会?」
「うん」
そこは小さいながらも挙式も挙げることが出来る教会だった。しかし、大聖堂というものでもなく、こじんまりとした、しかしかわいらしいイメージの所だった。後部座席の扉を開けて、悠人は花音を降ろす。手を引いたままそっと数段の階段を上がっていく。
ガチャ…ン…・・
「ハァ…やっぱりここは開いて無いか…」
ダメもとで掛けたノブは無情にも鍵かかかっており、入場を阻まれた。それでもミニガーデンと言えそうな場所にあるベンチに座る事は出来、並んで座った。
「悠人…今日は色々とごめんね…」
「何が?大丈夫だって…」
そっと肩に腕を回して、自分の方に引き寄せた悠人。そんな相手に身を委ねるように凭れかかった花音は悠人のもう片方の手をそっと求めた。
「ねぇ悠人…私ね…」
「ん?」
「私の事は悠人ほとんどの事知ってるでしょ?」
「えぇ、大抵の事は…どうしたんです?」
「私、悠人の事、何にも知らないなって思って…悠人の事…また教えて?」
「何が知りたい?」
「えっと…誕生日とか…!」
「9月29日」
「え…?」
あっさりと回答を出す悠人。あまりのさっぱりとした回答に花音は少し面喰ってもいたが同時に嬉しかった。それからというもの、新崎との関係、いつからの友人なのか…どんなものが好きか…色々と聞いては、悠人もそれに答えていく。
「そっかぁ…」
「後知りたい事は?」
「…」
「花音?」
「あのね?……私を助けてくれた時に悠人の声はしっかり聞こえていたの…その時の話し方とかがね…」
「話し方?」
「……私が夢で見たよって話した事あったの覚えてる?……あの時の悠人にすごく似てたの…真っ黒の服に四人組の…すごく怖くて冷たい目…あの夢は…本当に夢なの?]
「花音…」
「教えて?」
「それは…また話す…話せる時が来たら…でもごめん…今じゃない…」
「……そっか…悠人…一つだけ…約束してくれる?」
「何?」
「危ない事はしないで…自分の命…大切にして…お願い…」
「……それは侍従関係として?それとも男と女として?」
「どっちも…」
「クス…それを神様の前で約束させる?」
「え?」
くいっと指を差す先にはすっかりと忘れかけていたかのような教会…きゅっと腕を絡めた花音は下から見上げた。
「悠人は?」
「ん?」
「悠人は約束できない?…自分の命よりも大事な物なんてないでしょ?」
「残念だが…俺には自分の命よりも大切にしたいものがある」
「…え?」
「花音だよ…」
そう呟くとそっと口唇を重ねる悠人。短いキスの後に、花音は笑うと悠人に茶化すように話した。
「悠人こそ…神様の前で嘘…つけないよ?」
「大丈夫だよ、俺は嘘は吐いて無い。」
「…バカ…」
照れたように巻きついた花音を悠人はそっと抱きしめた。
禁忌だなんてわかっている。
従事している者がその主人に対して恋心を抱くなど…
許されることではない。
こうして触れ合うなど…
頭主に対する…冒涜だ…
でも見逃してもらえるならば…
他には何も要らないと手放すから…
花音との愛情は許してください…
そう悠人は願うばかりだった。そうして二人はゆっくりと立ち上がると車に乗り込んで屋敷へと帰って行った。花音を入浴させて、『おやすみ』と言葉を聞いた後に悠人は工藤の元に電話を掛けた。
『はい』
「悪い、待たせた」
『いや俺は大丈夫。詳細今見れるか?』
「あぁ、目の前にある。」
そうして、悠人はパソコン上のメッセージを読んでいた。
「それで?」
『少しコンタクトというか、人となりを悠人にも見てもらおうと思って。北斗よりも確かだろう』
「それは構わないが…日にちはいいとして、この店って…」
『あぁ。だから誰か一人で構わない』
「…ここに来るのか?だとしたら弘也一人で十分じゃないか?」
『あいつは仕事中って名目らしいからな』
「なるほどな。…・・・了解。解った。」
そうして電話は切れた。ドサリと腰を下ろした悠人。メガネを外して天井を仰いだ。
「…ハァ…全く…」
そう呟いていた。
そうして次の日…いつも通りの朝を迎える夏目家…車の洗車をしている悠人の元に花音がやってきたものの、すぐ近くでホースを引っかけてしまった花音。幸いにも花音自身には水がかからなかったものの悠人はどっしゃりと被ってしまう羽目になった。
「悠人…ごめんね?」
「いえなに、大丈夫ですよ。この位なんてことはございません。お気になさいませぬ様…」
そう言い残して屋敷に入る。後を追って花音も入って行く。脱衣場で花音が見たもの…それは悠人の背中だった。
「悠人…?それ…」
「花音様…?」
「その背中の傷…どうしたの?」
「何、昔の古傷にございます。もう痛み等は全くございませんよ」
「大丈夫?」
「大丈夫、それより、着替えを覗くとは…あまりいい趣味とは言えませんよ?」
「見たくて見たんじゃないもん!!!!」
そういいながらその場を離れる花音に対してクスクスと笑いながらシャワーを浴びる悠人。しかし内心では焦っていた。古傷…それに一切の偽りはないものの、NDLとして、数年前に負った傷だったからだ。そうこうしている間に悠人の携帯が鳴る。しかし、当の持ち主はシャワーを浴びていた。どれ程かして、上がる悠人は着信に気付き折り返す。
「もしもし、悠人…・・・・はい……え?…はい…、かしこまりました。その旨他には……はい、はい。了解です」
そうして切れた電話。内容は頭首からだった。予定していたNDLの仕事が早まったという事だった。突如、外国に飛ぶ事が決まったという情報から、日にちを半月ほど前倒しの明日、決行するとの事だった。その為、全員集まって緊急会議、及び本日からの打ち合わせに時間を割く事となったのだ。
「悠人?」
「…ッ?どうした?」
「どうしたは私のセリフだよ?なんか難しい顔してるけど何かあった?よくない事?」
「…花音様は心配しなくて大丈夫ですよ」
「なんか隠してる…」
「何をです?」
「悠人がそういう顔して『大丈夫です』って言う時は絶対なんかあるから…」
「…クス…、本当に何もありませんよ?」
そういって悠人は花音の頭をそっと撫でた。それから悠人の中の時間は恐ろしく早く進んでいく。しかし、その忙しさを花音に悟られぬ様立ち振る舞うのは難しくもあった。花音自体、何が起こっているのかは解らなくとも、薄々感じているのも悠人は解っていたのだ。
打ち合わせはメールで行いながら同時通話で行うことにした。
次の日の夜…深夜23時を回った頃…悠人の出発に合わせて花音は扉を開けた。
「悠人…」
「花音……寝たんじゃないのか?」
「昨日から悠人おかしいもん。だから気になって…」
「待ってろ…」
「嫌。一緒に行く!」
「花音、言うことを聞け」
「いや。悠人がどこで何をしているのか…私だって気になるよ?」
「ハァ…」
ため息を着いた直後、車から弘也が降りてきた。何やら耳打ちをすると腕を取り、車に連れていく。
「いいか、連れては行くが、絶対に降りるなよ。」
「でも…」
「降りたら死ぬよ」
「悠…人?」
突然の死の宣告。言葉に詰まった花音はうつむいた。
「あぁあ、そんなにはっきり言わなくても…」
「うるせぇ。」
「そうだな、言わなきゃ降りる…イコール死ぬ。これは間違いない。」
「じゃぁ、悠人だって…皆だって降りたら…」
「悠人、…」
花音の横に座っていた弘也は花音に話し出した。
「正確には、守ってやれない。って言うのが事実だな。」
「ヒロ…」
「だって間違いじゃないだろ?だから降りるなって言う。理由を言わなきゃ花音ちゃんだって納得できないだろ。」
「…ハァ…」
「生きるか死ぬかのことなんだ。俺らだけであれば死なない。ただ、もし花音ちゃんがいたら…」
「ヒロ。」
「何?」
「…フゥ…回りが見えなくなる。俺らじゃなくて相手が…だ。もしそうなって花音が囚われたらそれこそ相手は花音の事を道具にする。それでは任務遂行なんて不可能だ。」
「任務って…」
そうこう話しているととある薄暗い場所にやって来た。インカムを着けた四人は車を降りる。
「花音は待っていろ」
「…」
「大丈夫…俺は死なない。帰ってくる。」
そういい残して悠人はリムジンを後にした。その時だった。ウィーンっと軽い音と同時に運転席と後部座席を分ける仕切り板が降りた。
「こちらから失礼いたします。夏目花音様…でございますね?」
「え…あ…・・はい」
「僕はこの車の運転を任されています、九条と言います。」
「あ…初めまして…」
「クス…本当にお可愛らしい…花音様と知り合ってからユウの態度が変わったんですよ。」
「ユウ…?」
「あ、すみません。悠人さん…でしたね。」
「悠人達は…一体何をしてるの?」
「僕にお答えする権利はありませんので…」
そう答える九条。ちらりとバックミラー越しに花音の表情を見ると、俯いて今にも泣きだしそうな…そんな顔に見えた。
「…とある場所に、若者が四人いました。」
「え?」
突然話し出した九条の言葉に花音は耳を傾ける。ふう…と息を吐いた九条は珍しく少しリラックスした様子で話を続ける。
「その四人は、NDL。Not Dust Left という仕事を受ける事となったのです。その意味は、『塵一つ残さない』という意味です。仕事の依頼があれば、どんな相手でも、どんな手を使ってでも、その任務を果たす。それがいかに残酷な結果になろうと…」
「まって…それって、どんな仕事なの?」
「…それは…」
「九条さん…教えてください…」
「ひと言で言うなれば…殺し屋です」
そのひと言を聞いた花音は背中がぞっとした。そんな仕事が今のこの世の中にあるなんて信じられなかった。
「それで…?」
「ニュースにもならない…事件にもならない…それなのに、いつの間にか人がいなくなっている。だけどいなくなっても声を大にして言えないのはその人のやってきた所業の問題があると言います。その者達の行いが世にばれてはそれこそ大問題になる。そんな事を未然にふせぐ為に結成されたとでも言いましょうか…」
「…それで?」
「その若者たちは皆得意分野を持って居ます。短銃・長剣・銃・詮索・地理関係・空手…それぞれを武器として行くのです。誰も彼らの存在には辿りつかないものです。」
「………でも」
「一歩間違えれば確実に死に直結する仕事です。ある時期を境に日本の立て直しを目的に一人の男性が始めた事なのです。」
「それが…それが何で悠人なの?」
「さぁ、それは僕にもわかりません。それに、僕はとある若者の話をしただけです。」
そんな九条の言葉を最後まで聞くことなく、花音は車を飛び出した。そんな花音を追う事も止める事も出来なかった九条は頭を抱えてインカムで飛ばしていた…
「ヴヴ…こちら九条。ユウ、聞こえますか?」
『…なんだ?』
「…お嬢様が飛び出しました…」
そのひと言を聞いた悠人はドクリと胸が飛び上がる。その後の九条の報告や状況など入ってこなかった。
「ユウ、お前は花音ちゃん探しに行って来い」
「…いや、ここに居るのは解っていないはず。余程は問題がないはずだが…」
『落ち着け、大丈夫だよ!俺らの方に見えても援護はするから!』
「…チ…悪い」
インカムの向こう側からはジン達の声も聞こえてきた。大きく息を吸い、立ち上がる。
相手を見据えて攻撃を仕掛ける。今回は複数人居る。状況判断が特に求められる仕事だった。
様々なところで音がする…物が倒れ…声が上がる…
「悠人…悠…ッ!!!」
その音のする方へと花音は近付いてくる。角を曲がった瞬間だった。その悪夢のような情景が花音の目に鮮やかに映ったのだった…
「悠人!!!!」
何も考えられなくなった花音は悠人の元に走ってくる。来るなと言われたことさえもすっかりと抜け落ち、ただ、愛おしい相手が危険に晒されているその状態を守りたい…そんな一心だった…
「悠人…!!」
もう一歩で…そんな時だった。悠人は走りだし腕を目一杯に伸ばして引き寄せる。
パァァァン…!!
気付くと花音は悠人の腕の中に居た。
「悠人…あの…」
「バカ…なんでここに居るんだよ…ッツ…」
「ゆう…と?」
「けが…ッ…無くてよかった」
そういうと悠人は体の重みを保つことが出来ないままずるりと力がみるみる内に抜けていく…
「ユウっ!!!!」
その声と同時に悠人を撃った男はジンの放つ銃弾に打ち抜かれていた。力を無くしかけている悠人の元に新崎は近付いてくる…工藤は九条に電話をする…北斗は止血に回る…そんな光景を目の当たりにした花音の頭には最後、見送った時の言葉がグルグルと廻っていた。
花音…絶対に降りるなよ?
俺は…必ず生きて帰るから… 心配するな…
「ぃゃ…嫌ぁぁぁぁ!!!!」
花音の声は夜空に悲しく響いていた…
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