【R18】廊下の奥にある扉は開けないでくださいね? 絶対ですよ?

チハヤ

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僕は忠告しましたよ※

 ――廊下の一番奥の扉は明らかに異様だった。

 時谷くんの家は一階も二階も全て木製の白い扉で統一されているのに、この扉だけ金属製だ。扉は全体的に錆びついていて汚らしく、新築とは思えない劣化を感じさせるのがまた不気味に見えた。

 正直何も言われていなければこの扉を気に留めることはなかっただろうな。
 でも……あれだけ開けるなと念押しされたら気になるよ。逆に見てみたくなっちゃうんだってば!

 私は好奇心を抑えられずにドアノブへと手を伸ばす。硬く冷たい金属の感触が手のひらに伝わる。そこで初めて自分の手が汗ばんでいることに気付いた。
 大丈夫。ちょっとだけ、隙間から覗いてみるだけだから――

 私が体重をかけると、重たい扉はやっとのことで少し開いた。
 薄暗い室内に人の影。細身の男の子が部屋の中心に座っているようだ。
 時谷くん……だよね。一階のキッチンに行ったんじゃなかったの……?

 やばいと思った時には目が合ってしまい、彼は恐らく微笑んだ。

「きゃ」

 私が小さく声を漏らしたのは時谷くんに見付かったと思ったからだけれど、それは大きな悲鳴に変わる。

「きゃあああっ!」

 一瞬の出来事だった。何かが腰にしゅるるるっと巻き付き、その物体によって私の体は持ち上げられ……部屋の中心へと投げ飛ばされる。
 衝撃はこない。ぶよぶよとした柔らかい床に受け止められたらしい。
 室内は意外と明るかった。半身を起こして広々とした室内をぐるりと見渡す。

「なっ、なにこの部屋!」

 床も天井も四方の壁も、赤色のような桃色のような肉で覆われた部屋。
 まるで人の胃の中だ。肉で構成された異常なこの空間で、私が開けた金属の扉だけが無機質に光っている。

「あー……綾瀬さん、扉を開けちゃったんだぁ」
「時谷く……っ!」

 時谷くんは気付けばすぐ隣に座っている……が、

「何で裸なの!?」

 この部屋を覆う赤色とのコントラストで、時谷くんの色白の肌はより白く見える。目のやり場がなくて、私はとっさに自分の手で視界を隠した。

「ねぇ、綾瀬さん」
「僕は忠告しましたよね」
「綾瀬さんが自分で扉を開けたんですよ?」
「この扉を開けたってことはいいんですよね?」
「こんな僕のことを受け入れてくれるんですよね?」
「もう我慢しなくていいんですよね?」

「え……?」

 聞き慣れた声だけど、なんて言ってるのかほとんど聞き取れない。
 だって――
 前方から左右から後方から時谷くんの声がして、重なっている。

「綾瀬さんが悪いんですよ?」
「ひゃっ」

 右耳にふーっと熱い息をかけられて、耳たぶに柔らかい感触。
 ぴちゃ……ちゅっちゅっちゅぅっ
 近くで聞こえる水音。耳を舐められるなんて当然初めてで、ぞわぞわと全身が粟立つ。

「何を――!!」

 彼を突き飛ばそうと振り上げた手はぬめった何かに絡め取られる。それは私をこの部屋に引きずり込んだのと同じ、タコの足のような触手だった。
 先ほど部屋を見渡した時にはなかったのに……床や天井、肉壁の隙間から、無数の触手が飛び出していた。ぬるぬるの粘液をまとったそれらは意思を持っているかのように私を取り囲み、そのうちの何本かが手足に巻き付いてきた。

「やっ、嫌! 離してよ!」

 私の体は床へと沈み、仰向きの状態で大の字に固定された。暴れる私の顔面を時谷くんが覗き込んでくる。

「綾瀬さん、ごめんね?」
「ひっ」

 上下がひっくり返った時谷くんの笑み。時谷くんのこんなふにゃりと溶けるような笑顔を見たのは初めてだった。
 しかし、何となく重たさを感じる髪は以前の時谷くんの姿に戻ったようだ。長い前髪が重力に従って私の顔面にだらりと垂れている。

「おいしそう……」

 はあ、と熱っぽいため息をひとつこぼして、彼は私に唇を重ねてきた。

「んっ、んむぅっ」
 ぴちゃっぐちゅっじゅぷっじゅぷっ

 すぐに唇を割り開かれ、初めてのキスは激しいものに変わったけれど、私はそれどころじゃなかった。

「ふぅぅ……っ」
 じゅるっじゅぽっじゅぽっ

 尖った舌先が耳穴にねじこまれ、ぬぷぬぷと出し入れを繰り返される。更にどこからか伸びてきた手が私の乱れた髪をかき分け、ざらざらとした舌が首筋を這って唾液でぬるぬるにする。

「はあっ……ずるい、俺もキスしたい」
「代わってよ」

 ……全然理解が追いつかない。唇ごとパクリと食べられているようなキスを受けながらも、何とか顔を反らして周囲に視線を向ければ同じ顔に同じ体、同じ声をした時谷くんが何人も見える。

「綾瀬さっ、ちゅ、ちゅっぢゅるっ」
「ん、んん……んぅっ」

 たくさんの時谷くんの中の一人……頭上から私の唇を奪っている時谷くんは私の頬をがっちり固定していた。私を逃がさないためというよりは周りへの牽制なのかもしれない。
 彼は長いまつ毛を伏せて、私に夢中でキスを続ける。舌伝いに落ちてくる唾液が甘い。私がされるがままに舌と舌をゆるく絡めている間にも右隣の時谷くんには右耳を犯され続け、もう一人の時谷くんには首筋を舐められている。

「綾瀬さん、耳も弱い?」
「っ!」

 今度は左耳のすぐそばで声がしたと思ったら、そっちの耳の奥まで舌が入り込んできた。

「っんぐ、んん――!」
 ぐちゅっちゅっ、じゅっぽじゅっぽっ

 酸素が足りていない頭に直接水音が響く。わけがわからず恐ろしいのにどうしてこんなにゾクゾクするの。
 それに背中やお尻、脚の裏側など床に触れている面が熱い。

「綾瀬さん、かわい……柔らかくて俺の唇溶けちゃいそう……っ」
「ね、もう代わって……っ、んっちゅっ」

 ほんの一瞬だけ唇が離れて、同じ顔が私の頭上で入れ替わり、再び同じ柔らかさの唇に呼吸を奪われる。

「ああっ、俺だってもっとしたいのに」
「んんっ、んむ、んぅぅっ」
 ぴちゃぴちゃっくちゅくちゅっ

 この息苦しささえも心地の良いものに思えてきて、脚の付け根がじわじわと熱を持ち始めていた。でも、それ以上に背中が熱くて……何か変だ。

「っ!! ひっ、やっ!」

 しゅーしゅー鳴っているかと思えば、床に接した面の服が溶けていた。ブラウスにスカート、下着まで、床と接触している部分の布はもう完全になくなり、気味の悪い感触を肌で直に感じる。
 ローションのような唾液のような、変なぬめりけをおびたぶよぶよの床は弾力も温度も人間の舌に近い。

「んんん……っ!」

 頭上でうねうねと揺れているいくつもの触手からよだれのような液体が垂れてくる。多少なりとも肌を隠してくれていた残りの布は、甘い香りのするその粘液によって溶かされてしまった。
 そして、晒された素肌にぽたりと粘液が落ちてくると、

「ひぁっ!」

 肌を刺すようなその刺激に私の体はビクンッと大きく跳ねる。狙いすましたようにぽたぽたと落ちてくる液体に全身をねっとりと包まれ、それは毛穴から私の体内に浸透していく。

「ふぁっ、んんっ!」

 体温が上昇する。触手の粘液によって感覚が研ぎ澄まされていた。時谷くんのキスで、舌をしゃぶられる感覚で、体がどうしようもなく高まって――

「っあ――!」
「……あ、あああ……すご、い……キスイキしちゃったんだぁ」

 ――嫌だ。違う、怖い。この部屋も触手も時谷くんも、何もかもが異常だ。
 全身をガクガク震えさせた私の唇を時谷くんはようやく解放してくれた。
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