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私はその扉にもう一度手を伸ばす※
「あっ、あっ、時谷く……っ」
「んっ、綾瀬さんかわい……」
「綾瀬さん、大好きですよ」
時谷くんの欲望には際限がなかった。
この部屋にいる人形のような時谷くん達は私とセックスをすると床や壁や天井の肉と同化し消えていくが、本体である時谷くんが私に新たな劣情を抱くたびに、また新たに生まれてきてしまうのだ。
何十人もいてそれぞれが違った欲をぶつけてくる時谷くんに対して、私の肉体は一つだけ。私には休む暇が与えられない。
「ひっ、あっあっ、んんんっ!」
時谷くんの男性器はみんな形が違う。背後から私を犯す彼の性器は、ほとんど触手といっていい歪な形をしていた。
彼は亀頭から糸のように細い触手をうねうねと出して、その触手が私の子宮口をこじ開け、私の子宮の奥まで犯すのだ。
「出しますね……っ、僕の精液受け止めてください……くっ!」
「やっ、あっ、ああっ!!」
どぷどぷ吐き出される精液を体の内で感じながら私も同時に果てる。
彼でええと、四十……何回目?
「綾瀬さん、やらしい……子宮イキできるようになったんですね……っ、えっちな綾瀬さんも大好きです!」
乱れる私をうっとりした表情で観察していた時谷くんがそう言うと、また新たな時谷くんがぼこぼことこの部屋に誕生した。
「や、休ませて、お願だからぁ」
「ん、仕方ないなぁ……」
「綾瀬さん、休憩ですよぉ」
「あ……」
時谷くんが運んできたのは、私が食べたがっていたザッハトルテ。
この時谷くんの黒髪は少し長くて、整った顔に暗いカーテンをかけている。
「あーんして?」
フォークにさした一口分の甘いケーキを口元に運ばれて、私は素直に口を開けた。
「お、いしい」
「ふふ、よかった」
私が笑えば、時谷くんもくすぐったそうに笑ってくれた。
以前は毎日見ていた笑顔なのに、随分久しぶりに見た気がした。
私が時谷くんのことをずっと避けてたからだ。何で時谷くんを遠ざけちゃったの。
私は彼の笑顔が大好きだったから……だから、前髪を切ろうよって言ったのに。
「時谷くん、私ね――」
***
顔を上げれば、机を挟んだ向かい側に時谷くんが座っていた。
去年よりずっと垢抜けて、顔を見られなくなっていた時谷くん。
「あ、起きましたか? 綾瀬さん、寝てたんですよ」
「えっ……ご、ごめんっ!」
さっきまでの全部、夢だったの?
なんだ、そうだよね。あんなこと現実なわけないか……目が覚めてしまえば、やっぱり時谷くんを直視するのは恥ずかしくて、私は時谷くんから机の上へとわかりやすく顔を逸らす。
机の上には時谷くんが持ってきてくれたであろう紅茶が置かれていた。
爽やかな花の香りの紅茶だ。その隣には不自然に空っぽのお皿。
「ザッハトルテはないんだ……」
私がぽつりとこぼすと、時谷くんが私の手を取った。
「――また食べたいですか?」
「え?」
また……? 寝る前に食べたんだっけ?
時谷くんに掴まれた手を引っ込めることもできずに、私の額からは何故かだらだらと冷や汗が出ていた。
「とっ、時谷くん、私ね! 時谷くんのこと避けたかったわけじゃないの! た、ただ、その……っ、時谷くんがかっこよくなっていくから、い、意識しちゃって!」
詰まりながらも必死で言葉を紡ぐ。それはさっき……ついさっき、夢の中の彼に伝えたことと同じだった。
でも多分、正解だ。
「綾瀬さん……僕と付き合ってください。一人ぼっちだった僕に声をかけてくれた時から、僕はあなたが好きです」
***
半年後――
時谷くんとの交際は順調そのものだ。
優等生の時谷くんはわざわざ私の家に交際の挨拶までしに来てくれたから、母もすごく気に入っちゃって、将来は婿に来てほしいなんて調子のいいことを言っている。
本当に清く正しく、不純なことなど一つもない交際。外で会うことが多いものの、テスト期間だけは時谷くんの家で勉強会をするのが定番だった。
おかげで私の成績は見違えるように伸びている……が、勉強を好きになったわけじゃないのだ。
「やだやだ、もう無理! 休憩しようよ」
「もう……綾瀬さんは仕方ない人ですね。少しだけ休憩にしましょうか。紅茶を淹れてきますね」
時谷くんが出ていった部屋で一人、私は太ももをこすり合わせる。
「はあ……」
時谷くんの顔を見ているとあの日――時谷くんに犯された夢のことを思い出す。
怖かった……でも、気持ち良かった。何もかも全てどうでもよくなるほどに。
――時谷くんに抱いてほしい。彼の作り出した分身に、触手に、また頭がおかしくなるほど犯されたい。
あれ以来私の中に生まれてしまった、このどうしようもなく浅ましい欲望を静めるために、私はほぼ毎晩自慰をするようになってしまった。
一応それで普通に生活できているが、特に時谷くんの家に来ると我慢するのが難しいのだ。
自分がこんなにも淫乱だったなんてびっくりだけど……仕方なくトイレでこの熱を発散させようと廊下に出ると、廊下の突き当たりにあの扉があった。
私の足は吸い寄せられるように、その金属製の扉の前へと向かった。
緊張で呼吸が浅くなる。溜まった唾を飲み込み、深呼吸をすると背後からふわりと紅茶の香りがした。
「――綾瀬さん、開けるの?」
「うん……開けちゃ駄目?」
「今度は帰さないかもしれませんよ。それでもいいんですか?」
本当はあれだけの欲望を抱えながらも重たい扉の向こうに閉じ込めている……優しい時谷くんならきっと帰してくれるよ。
帰さなくてもいいけどね。
私はふふっと笑いながら、その扉へ手を伸ばす――
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