時は満ちた... 〜厨二病少年が英雄になるまで〜

あぷ

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1章

11話 絶望。

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俺はこの時の感情を生涯、忘れることはないだろう。身の毛が逆立ちするほどの慄然、肉食動物に捕食される草食動物の気持ちを今、初めて知った。

「お~い。聞こえてんのかぁ?」

大男は、道端に転がってる石ころを見るかのように、その巨大な下肢を一歩二歩と、少しずつ俺たちの方へ近づけていく。
その度に、胃液が膨れ上がるように込み上げてくる。

「だ、誰だよあんたは。」

俺は、自分の毛穴という毛穴から潜り込んでくる恐怖を相手に悟られないように、実に悠々たる態度で立ち向かおうとした。

「おいおぉぉい。足が震えちまってんじゃねーかよ!」

大男は、産まれたての子鹿のように足を震わせている俺を見て、腹を抱えながら笑った。

「ばーか。これは極度の武者震いだ。お前をぶっ倒すのが楽しみでしょうがないんだよ。」

「あ?誰をぶっ倒すって?」

大男の表情が一変、さっきまでは余裕を持った表情でこちらを見下すように笑っていたが、今は般若のような表情を浮かべ、こちらを睨みつけてきた。

(くそっ!!流石にここは格好つけるところじゃないだろ俺!!・・・落ち着け。美心もいるんだ。冷静に...)

美心は怯えているのか、先程から俺の服の袖を掴んだまま、一言も言葉を発さない。

「そ、それよりあなたは僕たちに何の用だ。というか何故ここに僕たちがいるって分かった?」

努めて冷静に、相手の逆鱗に触れないように言葉を慎重に選びながら相手のことを探った。

「あぁ?お前に関係あんのかよ。」

大男は耳に小指を突っ込み、こっちの話を聞いているのか、聞いていなのか分からないような態度をしていた。

(いや関係あるだろ!今俺と話してるのがこいつは理解出来ていないのか!?)


話の通じない相手に怒気の感情をぶつけそうになったが、隣にいる美心のことを思い出し、自分の心に冷水を浴びせることで正気を取り戻した。

「と、とにかくあなたは何のために僕たちのところに来たんですか?」

先ほどよりも丁寧に、そして相手を刺激しないように質問したことが良かったのだろうか。相手は少し面倒くさそうに答えた。

「いやな。俺たち・・の同類が近くにいるっていうのを聞いてよぉ。居ても立ってもいられなくなって逢いに来ちまったって訳よ。」

大男は長年探していた待ち人をようやく見つけたかのように、こちらを焦がれるように見つめてくる。

「じゃあ目的は果たしたんじゃないですか?僕たちそろそろ帰ろうと思ってるんですけど。」

「そんな悲しいこと言うなよぉ。ちょっとくらいお兄さんと遊んでいけよ。」

(だめだ。完全に狂ってる。荷物はほっといて、全速力で逃げるしかないか?)

話し合いによる解決は不可能、戦闘などははなから論外。いくつかあった選択肢がこの大男によって踏み潰されたおかげで、逃走一択になった俺たちは、タイミングを図るために、相手に聞こえない程度の小声で美心に話しかけた。

「美心。今すぐ走れる?」

「ふぅふぅ、大丈夫。行けるわ。」

恐らく俺が伝えたいことの意図が伝わったのだろう。俺たちはお互いに少しづつ後ずさりをしながら、逃げる準備をした。

「今だ!!!」

相手に聞こえても構わない。俺は悲鳴にも近い叫び声で自分自身に発破を掛けるように吠えた。



「「は?」」



だからこそ困惑した。今までの人生で経験のないくらいの叫び声を上げ、地球自身を蹴り飛ばすように相手に背を向けて走り出した。
なのにだ、そんなことは許さない、と地球が俺たちを叱りつけるように、目の前に自分の背丈より遥かに高い土壁が姿を現した。

「聞こえてんだよなぁ。こっちは五感もビンビンなのよぉ。」

この巨大な土壁は、大男が出したのだろう。自分のしたことに惚れ惚れするような表情を浮かべ、自分自身を抱きながら恍惚としていた。

絶望。最後の希望だった「逃走」という一手すらも、この男によって踏み潰された。この先の展開が鮮明に脳裏をよぎってしまった俺は、膝を地面につきながら今度こそ込み上げてくる胃液を我慢できずに、思わず吐いてしまった。

「柊!大丈夫!?」

美心が心配するような顔で俺の背中をさすってくれた。

「ったくよぉ。貧弱過ぎねぇか?女に介抱されて恥ずかしくねぇのかよ。」

大男は呆れたような表情を浮かべ、こちらに歩を進めてきた。

(逃げることもできない。まともに会話をすることもできない。覚悟を決めろ俺!美心だって怖いんだ!!男の俺がこんな格好悪くていいわけないだろ!!)

俺は歯を食いしばり、この状況で何も出来ない己の無力感、この先に待ち受けているであろう、絶望の展開を思い浮かべ、弱気になっている自分を心の底から蔑んだ。

「・・・美心。覚悟は出来てる?」

「できてるわけないでしょ。けど、やるしかないわよね。」

そんな、どうしようもない自分自身を叱咤し、美心の手を借りながらようやく自分の足で地面を踏みしめることができた俺は、固まってしまった顔の筋肉を無理やり釣り上げるようにして、鋭い笑みを浮かべながら、大男に対して一言言い放った。



「かかってこいよ。お前をぶっ倒してクマの餌にしてやる。」

「はは、おもしれぇじゃねぇか!!」

こうして、ここに一つ、戦いの狼煙が上がった。




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