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勝利への確信
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韓の超巨大軍事都市 宜陽?
その城下に両軍は布陣した。
方や公叔嬰率いる韓軍二十万。
方や甘茂率いる秦・梁連合軍十五万。
荒野を埋め尽くす無数の影に林の如く両軍の旗がはためいている。
公叔嬰は韓王より賜った駿馬が引く戦車に跨り敵軍の布陣を睨んでいた。
連合軍は中央に主力の秦軍を置き、その両翼を弱兵の梁軍で固めている。
中央の前軍には騎兵が配置され後詰めに歩兵が配置されている。
それだけを見ても連合軍の意図は明白だ。
まず、 中華最強と名高い秦軍の騎兵、戦車混合部隊が敵軍に穴を開ける。
次に、空いた穴に後詰めの歩兵が流れ込み韓軍を分断する。
そして最後に両翼の梁軍が浮き足立った韓軍を挟撃する。
通常の白兵戦ならば梁軍など韓軍の敵ではない。
だが、軍を分断され指揮系統を切り裂かれた状態ではどんな強兵も悲鳴だけをあげ続ける単なる木偶でくと化す。
とても理にかなった戦術だ。
「はん。秦の山猿どもなんぞ俺の部隊だけで皆殺しにしてやるぜ。」
副将の汗全かんぜんは悪趣味に彩った白馬に跨りヘラヘラと笑いながら取り巻き達と談笑していた。
仮にも韓軍の副将としてあるまじき姿だ。
公叔嬰はそんな汗全を軽蔑しきった目で冷たく見据える。
(ふんっ、所詮貴族どもに媚を売るしか能がない野良犬よ。)
汗全は家と金の力で不相応の地位についた男だ。
五カ月にも及ぶ籠城戦においてなに一つ役に立たずただ喚き散らすだけだった。
おそらく汗全は敵軍の意図をなに一つ読めていない。
こいつの脳裏には絵巻の如く颯爽と敵をなぎ倒す己の姿が浮かんでいるのだろう。
そんなものあり得はしないのに。
戦は集のぶつかり合いだ。
いくら個人が突出しているからといって戦の趨勢すうせいが決するわけではない。
連携と駆け引き、ひいては指揮官の技量によって戦は左右される。
武は集と合わせて初めてその真価を発揮するのだ。
「公叔嬰様。右軍、左軍共に準備が整ったそうです。」
「そうか。」
公叔嬰は伝令を下がらせ一人勝利の笑みを浮かべる。
(この戦、勝ったも同然よ。)
公叔嬰はすでに敵軍の戦術の弱点を見抜いていた。
敵軍の戦術は確かに強力だ。
最悪、我が軍が全滅することだってありえる。
だが、それは秦軍に中央突破を許した場合だ。
逆に言えば、 中央を突破させなければ我が軍の両翼が秦軍騎兵を包み殺すことができるということだ。
そうなれば連合軍は敗れたも同然だ。
騎兵が全滅すればこの戦術は用をなさなくなるからだ。
それどころか先鋒部隊が撃滅され動揺した歩兵たちは混乱に陥り、いとも容易く潰走するだろう。
それに秦軍の戦術を打ち破ることができれば、それは韓軍にとって戦略的に大きな意義を持つようになる。
なぜなら、歩兵はすぐにでも補充が効くが騎兵はそうはいかないからだ。
馬に乗るためには馬腹を両足でしっかり挟むという特殊な技術が必要とされるため幼い頃から訓練されている者以外に乗れるものなどいない。
加えて騎兵戦術が取り入れられたのはつい最近のことであり元々数が少ないのだ。
見たところ秦軍の先鋒に配置された騎兵は五百程だろう。
これらを一気に殲滅すればいくら西の大国秦と言えどもすぐには補うことができない。
すなわち相当な痛手になるだろう。
よって、公叔嬰は自軍の中央に重装歩兵を置き両翼に騎兵を並べた。
防御力が高い重装歩兵が中央に押し寄せてくるであろう敵の先鋒を留め、機動力に富む両翼が素早く梁軍を破り秦軍の先鋒を挟撃殲滅する。
あとは数で勝っているという利点を存分に活かして秦軍の歩兵部隊を手早く壊走させ本陣に迫り敵側の総大将を生け捕り、もしくは討ち取る。
秦軍も多少の反撃はしてくるだろうが相手にならない。
なぜなら、士気が違うからだ。
もしこの会戦に勝てば秦軍は包囲を解いて撤退するだろうが負ければその勢いに乗じて宜陽は必ず落とされるだろう。
宜陽には兵たちの家族や親族たちがいる。
負ければ全てを蹂躙される。
尊厳も誇りも大切なものも。
それがわかっているからこそ兵たち一人一人が死兵と化す。
死を恐れぬ軍隊ほど強力で厄介で恐ろしいものなど無い。
多少強かろうが秦の山猿どもがどう足掻いても勝てるはずがない。
完璧だ。
公叔嬰は救国の英雄として名声を好きなままにする自分の将来の姿を思い浮かべながら再び顔に笑みを浮かべた。
戦いの火蓋が切って落とされた。
両軍の咆哮が蒼穹そうきゅうに轟き、地を震わせる。
公叔嬰の読み通りにまず秦軍の騎兵が韓軍中央とぶつかった。
鉄が爆ぜ日光をかき消すほどの火花が散る。
血の匂いが口内に満ちる。
しばらく土煙が舞い戦場の様子を覆い隠してしまう。
だが、公叔嬰は確信していた。
戦場の帳とばりが開けた時秦軍は一歩も前に進めておらず立ち往生しているであろうことを。
そして、自分がそれを悠々と眺めながら片腕を軽く振るだけで両翼が秦軍の先鋒をこの世から消し飛ばしてしまうであろうことも。
秦軍の歩むであろう惨状を象徴するように天気が崩れ始めた。
暗闇が周囲を黒く染め上げ豪雨が乾いた戦場の砂塵を潤す。
そして帳が開けた。
いや、開けたのは悪夢かもしれない。
…韓軍にとっての
その城下に両軍は布陣した。
方や公叔嬰率いる韓軍二十万。
方や甘茂率いる秦・梁連合軍十五万。
荒野を埋め尽くす無数の影に林の如く両軍の旗がはためいている。
公叔嬰は韓王より賜った駿馬が引く戦車に跨り敵軍の布陣を睨んでいた。
連合軍は中央に主力の秦軍を置き、その両翼を弱兵の梁軍で固めている。
中央の前軍には騎兵が配置され後詰めに歩兵が配置されている。
それだけを見ても連合軍の意図は明白だ。
まず、 中華最強と名高い秦軍の騎兵、戦車混合部隊が敵軍に穴を開ける。
次に、空いた穴に後詰めの歩兵が流れ込み韓軍を分断する。
そして最後に両翼の梁軍が浮き足立った韓軍を挟撃する。
通常の白兵戦ならば梁軍など韓軍の敵ではない。
だが、軍を分断され指揮系統を切り裂かれた状態ではどんな強兵も悲鳴だけをあげ続ける単なる木偶でくと化す。
とても理にかなった戦術だ。
「はん。秦の山猿どもなんぞ俺の部隊だけで皆殺しにしてやるぜ。」
副将の汗全かんぜんは悪趣味に彩った白馬に跨りヘラヘラと笑いながら取り巻き達と談笑していた。
仮にも韓軍の副将としてあるまじき姿だ。
公叔嬰はそんな汗全を軽蔑しきった目で冷たく見据える。
(ふんっ、所詮貴族どもに媚を売るしか能がない野良犬よ。)
汗全は家と金の力で不相応の地位についた男だ。
五カ月にも及ぶ籠城戦においてなに一つ役に立たずただ喚き散らすだけだった。
おそらく汗全は敵軍の意図をなに一つ読めていない。
こいつの脳裏には絵巻の如く颯爽と敵をなぎ倒す己の姿が浮かんでいるのだろう。
そんなものあり得はしないのに。
戦は集のぶつかり合いだ。
いくら個人が突出しているからといって戦の趨勢すうせいが決するわけではない。
連携と駆け引き、ひいては指揮官の技量によって戦は左右される。
武は集と合わせて初めてその真価を発揮するのだ。
「公叔嬰様。右軍、左軍共に準備が整ったそうです。」
「そうか。」
公叔嬰は伝令を下がらせ一人勝利の笑みを浮かべる。
(この戦、勝ったも同然よ。)
公叔嬰はすでに敵軍の戦術の弱点を見抜いていた。
敵軍の戦術は確かに強力だ。
最悪、我が軍が全滅することだってありえる。
だが、それは秦軍に中央突破を許した場合だ。
逆に言えば、 中央を突破させなければ我が軍の両翼が秦軍騎兵を包み殺すことができるということだ。
そうなれば連合軍は敗れたも同然だ。
騎兵が全滅すればこの戦術は用をなさなくなるからだ。
それどころか先鋒部隊が撃滅され動揺した歩兵たちは混乱に陥り、いとも容易く潰走するだろう。
それに秦軍の戦術を打ち破ることができれば、それは韓軍にとって戦略的に大きな意義を持つようになる。
なぜなら、歩兵はすぐにでも補充が効くが騎兵はそうはいかないからだ。
馬に乗るためには馬腹を両足でしっかり挟むという特殊な技術が必要とされるため幼い頃から訓練されている者以外に乗れるものなどいない。
加えて騎兵戦術が取り入れられたのはつい最近のことであり元々数が少ないのだ。
見たところ秦軍の先鋒に配置された騎兵は五百程だろう。
これらを一気に殲滅すればいくら西の大国秦と言えどもすぐには補うことができない。
すなわち相当な痛手になるだろう。
よって、公叔嬰は自軍の中央に重装歩兵を置き両翼に騎兵を並べた。
防御力が高い重装歩兵が中央に押し寄せてくるであろう敵の先鋒を留め、機動力に富む両翼が素早く梁軍を破り秦軍の先鋒を挟撃殲滅する。
あとは数で勝っているという利点を存分に活かして秦軍の歩兵部隊を手早く壊走させ本陣に迫り敵側の総大将を生け捕り、もしくは討ち取る。
秦軍も多少の反撃はしてくるだろうが相手にならない。
なぜなら、士気が違うからだ。
もしこの会戦に勝てば秦軍は包囲を解いて撤退するだろうが負ければその勢いに乗じて宜陽は必ず落とされるだろう。
宜陽には兵たちの家族や親族たちがいる。
負ければ全てを蹂躙される。
尊厳も誇りも大切なものも。
それがわかっているからこそ兵たち一人一人が死兵と化す。
死を恐れぬ軍隊ほど強力で厄介で恐ろしいものなど無い。
多少強かろうが秦の山猿どもがどう足掻いても勝てるはずがない。
完璧だ。
公叔嬰は救国の英雄として名声を好きなままにする自分の将来の姿を思い浮かべながら再び顔に笑みを浮かべた。
戦いの火蓋が切って落とされた。
両軍の咆哮が蒼穹そうきゅうに轟き、地を震わせる。
公叔嬰の読み通りにまず秦軍の騎兵が韓軍中央とぶつかった。
鉄が爆ぜ日光をかき消すほどの火花が散る。
血の匂いが口内に満ちる。
しばらく土煙が舞い戦場の様子を覆い隠してしまう。
だが、公叔嬰は確信していた。
戦場の帳とばりが開けた時秦軍は一歩も前に進めておらず立ち往生しているであろうことを。
そして、自分がそれを悠々と眺めながら片腕を軽く振るだけで両翼が秦軍の先鋒をこの世から消し飛ばしてしまうであろうことも。
秦軍の歩むであろう惨状を象徴するように天気が崩れ始めた。
暗闇が周囲を黒く染め上げ豪雨が乾いた戦場の砂塵を潤す。
そして帳が開けた。
いや、開けたのは悪夢かもしれない。
…韓軍にとっての
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