上 下
22 / 23
もう一つの、王都の日常

吸血鬼の従者の日常

しおりを挟む
今回の一件、キャティが全てを調べ上げていた。
月が西の空を進む深夜、とある屋敷の屋根に少女2人の姿があった。

「もう少しすれば、ここの主は執務室から寝室へと移動するわ。
 歳だから夜伽のメイドも不在。
 さっさと心臓を止めて、お嬢様の館に戻るわよ。」

「お嬢様がおっしゃっていた、真祖や従者の可能性は?」

「極めて低いと思うわ。
 まぁ根拠も無いし、油断することもないけど。」

そのキャティの笑みは酷く暗い。
怒っているのはパティだけじゃない。

「…やっぱり、皆殺しでいいんじゃない?
 スーに手を出すバカへの見せしめにもなるし。
 それでも足りないくらいの罪は犯していると思うけど。」

「理解は出来るわ。
 けれど、それで世の中が混乱して、結果としてお嬢様にご迷惑をおかけしてはいけないわ。」

腕を伸ばしてパティの頭を抱き寄せる。

「それに、今回の一件で優秀そうな駒を手に入れられたでしょう。」

「…あのフィールとかいう男?
 私たちがいるのに、人間の仲間なんて必要なの?」

「残念ながら必要なのよ。
 だってスーは貴族だもの。
 私たちと違って、四六時中お嬢様のお傍にいることは不可能よ。」

スー自身はあまり出世とか興味はないみたいだが、それでも貴族としての責務は色々ある。
学生である今ですらお嬢様の館にはそうそう来られない。
お嬢様から王国社会の勉強も兼ねてスーの護衛についてから、従者なのにお嬢様にお仕えできていない。
『転移』で行き来することも可能だが、スー自身が『転移』や『念話』を使えない以上どうしても対応しきれない。

「この国のことは、この国自体が面倒を見てくれないとお嬢様にご迷惑がかかるの。
 それに、お嬢様のお好きな紅茶や焼き菓子だって国が安定していないと手に入らないでしょう。
 いくら私だってプロに勝てるほどの腕は持っていないわよ。」

「それは、そうね…」

「だからスーの一件だけで国を丸ごと混乱させるのは得策じゃないの。
 とりあえずお嬢様の御命令を忠実にこなせば、ご褒美を頂けるわよ。」

その言葉に左の首筋に手をやる。
もう久しく吸われていないから、跡だってすっかり消えてしまった。
右の首筋には真新しい跡が残っている。
この前キャティに抱かれた時のものだ。

「ちなみに私は、あなたとお嬢様を所望するわよ。
 二人そろってサンドイッチにして、可愛い声を合唱してもらうわ。
 自慰の万倍は気持ちよくさせてあげる。」

「…淫獣。」

「誉め言葉ね。」

頭をポンポンと叩き。

「じゃ、頃合いよ。
 迅速に、微塵も油断せず、完璧にこなすわよ。
 『転移』」
しおりを挟む

処理中です...