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スー、王都に戻る

吸血鬼アーシュ

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力を使い果たし泥のように眠るスーを客間のベッドに寝かせ、キャティは主人の私室に戻ると一礼。

「ん、ご苦労であったの。
 すまぬが夜明け前にスーを邸宅へ戻しておいてくれ。
 アレは貴族じゃ、夜中に抜け出しているのがバレると何かと不都合であろう。」

「心得ました、お嬢様。
 それと。
 従者として、改めてお嬢様にご足労をおかけしましたこと、お詫び申し上げます。」

キャティと、その隣で頭を下げるパティにアーシュは微笑む。

「気にするでないよ。
 海面で、人を背後から抱きかかえて、矢を射られるほどに静止などその方らでは無理であろう。
 それに非常に面白いものも見ることが出来たしの。
 それだけで出張った甲斐があるというものじゃ。」

紅茶を一口。

「スーの弓、ですか。」

「覚醒してそう間もないというのにの。
 小型とはいえ乗組員が10人を超える船じゃぞ。
 それを第一射で完全に静止せしめ、船首を下に直立した船に回り込んで、戻ろうとする船の竜骨に第二射。
 結果、船底着水と同時にじゃ。」

そう言いながら両手でバタークッキーを割るアーシュ。
その表情はどこまでも明るく。

「あのような芸当、なかなか見られるものではあるまい。」

「それは何よりです、お嬢様。」

実際、あの高速船の乗員らは時々いかがわしい人間を載せていることを知っていた。
それが誘拐された女性らと運搬役というのも、船員自らも時々船内でことも。
血を吸えば、それはどんな証拠よりも正確に分かる。

であれば。

フィッツ男爵領で誘拐する野盗と、その野盗から荷を受け取りミラン子爵領の港まで運ぶ役の兵士が死んだというのに。
港から買い手の待つ港まで運ぶ者らが死なないというのは不公平だ。

「あの子爵は殺さなくてよろしいのですか?
 ご下命頂ければ一晩で有象無象丸ごと皆殺しにして参りますが。」

「無用じゃ。
 蜂に刺されたからと、その巣がある山ごと焼き尽くすと?」

「パティ、私たちは正義の味方じゃないもの。
 お嬢様の従者たるスーにちょっかいを出す愚か者は当然に殺すとして。
 スーの領民のことは領主たるスーが対応すべきで、それはお嬢様とはよ。
 もしスーが泣きついたのであれば…まぁということになるけれど。」

「そんなわけがなかろう。
 ピュアバージンとはいえ、あれほどの美味な血を持つのじゃぞ。
 その様な小物であるものか。」

そう言ってアーシュは紅茶を飲み干す。
ポットを手にしようとするキャティを制して。

「…さて、パティ。」

呼ばれたパティが歩み寄った瞬間、右手を掴んで抱き寄せ。
そのままの勢いでテーブルへと押し倒す。


「我は興奮している。」


目を白黒させるパティに。

「無理もなかろう。
 何百年かぶりの新たな従者が、目の前であのような芸当をやってのけたのじゃ。
 あのような芸当を目の前で披露されて、興奮するなというのは無理な話じゃ。
 では、その興奮を鎮めるのもまた従者の務めじゃろう?
 キャティ。」

「はい、お嬢様。」

「とりあえず食前酒代わりに、言葉と指で3回ほどイかせるとして。
 の案はあるか?」

未だに驚きの表情のパティから視線をそらさずに問うアーシュ。
そして問われたキャティは手を顎に添え数秒考え。

「では書庫で濃厚な官能小説を朗読させながら自慰オナニーさせましょう。
 あと、よく私たちが男のモノを生やして犯していると思います。
 たまにはこの子に生やして、一滴残らず搾り取るのも一興でしょう。
 メインディッシュには程遠いですがオードブルくらいにはなるでしょう。」

「…さすが、即座に答えるとは流石さすがだの。」

「お褒めに預かり恐縮です、お嬢様。
 ところで、そのフルコースはご一緒しても?」

無言で頷くアーシュにキャティも歩み寄る。

「パティ、フルコースだそうよ。
 お屋敷のありとあらゆる場所で、脳がとろけるまでエッチしましょうね。
 良かったわね、当分の間は自慰の時にネタに困らないわよ。」

「ちょっとキャティ!
 あなた私の寝室をわけ!?」

「そんなことは…って、ちょっと待って。
 あなた毎晩シてるわけ!?」

軽く目を見開くキャティ、面白いことを聞いたと目が笑うアーシュ。
そして、とんでもない墓穴を掘ったことに気づいたパティは涙目。

「我は目一杯背伸びして強がるぬしも好きじゃがの。
 素直なそなたも好きじゃ。」

体をずらしてパティの両足を胴体で割る。
そのまま体を重ね、両の指を絡める。
ギュッと閉じた両目に微笑み。
額を重ね、鼻の頭をすり合わせ、吐息を重ね、そして唇は重ねず。

「さて、どうされたい?
 放せと言うなら、その様にするが。」

そう言われたパティは、一言。
何をされるのだろうというが一割、そして、何をされるのだろうというが九割。
目を閉じたまま、震える声で。




「抱いてください、お嬢様…」
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