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本編
「捕縛は意外と難しいんだ」男爵閣下はおっしゃいました。「勝つだけなら簡単だ。敵本陣を榴弾で吹っ飛ばせば、事足りる」
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私が作戦本部に来て1時間強。
何度もラッパが鳴り、帝国軍の進撃が始まった。
平野から怒号が響いてくる。
それは馬の駆ける音であり、人の駆ける音であり、突撃する兵士の雄叫びであり。
「距離600…550…」
「総員、まだ撃つな…200まで引き付けろ…」
大きなオペラグラスを持ったヒトと、大隊長の声がヘルメットの中で響く。
声は全員に伝わっているのだろう。
それにしても、何で誰も動かないの。
ただ黒い鉄の棒を、帝国兵に向けているだけ。
あんなので、叩けるのだろうか…
刀も槍も、弓すら見えない。
もう帝国兵は目の前まで迫っている。
「350…300…」
「安全装置解除!レバー、3点バースト!
歩兵中隊、射撃用意!撃鉄起こせっ!」
「距離200!!」
「撃ちィ方、始めェ!」
「歩兵中隊!攻撃始めっ!」
アレスタ様と大隊長が怒鳴る。
その瞬間、塹壕や土嚢あたりから大きな連続音が響き、帝国の騎馬が崩れ落ちた。
兵士が投げ出され、背後の騎馬兵に踏みつけられる。
その騎馬さえも崩れ落ちる。
「支援中隊!大隊長指示の目標!
攻撃始め!」
「支援小隊、第3から第6!弾種、榴弾!目標、敵先陣!
迫撃砲、発射始めっ!」
アレスタ様に続く大隊長の声に、土嚢の背後にある黒い筒がボンボンという音を出す。
数瞬後、大音量と共に敵陣の地面が弾け、敵歩兵が宙を舞う。
「何!?何!?」
「火薬です。」
半分パニックになった私に、横にいたヒューキャットの少女が話しかけてくる。
「あの土嚢を見てください、そう、最も手前の。
黒い筒がありますよね。
あの中に弾を入れると、火薬で敵陣まで、大量の火薬が詰まった弾を飛ばします。
そして地面に当たると中の火薬が爆発し、破片と爆風をまき散らします。」
「何それ!?」
火薬は学校で習ったことがある。
主に鉱山などで硬い岩盤を崩すためのものだ。
しかし扱いが非常に難しく、少しの火花でも大爆発を起こす。
数年前には王家直轄の鉱山で大規模な落盤事故をがあったはずだ。
「そんな危険な物…」
でも、味方に被害は生じていない。
筒の中に兵士(服の色は深緑だ)が何かを流し込む。
直後に兵士はしゃがみ込み、2秒後くらいに小さな火が見える。
対して敵陣は、あちこちで地面が弾けている。
「あんなに遠くに…?」
最前線である塹壕の200メートルくらい先は、帝国兵の死体が積み重なっていた。
剣どころか投げ槍や弓さえ届かない先で、一方的な攻撃が続いている。
「作戦本部より支援中隊、混乱に乗じて敵退路を遮断する。
第1支援小隊は左方9時方向、第8支援小隊は右方3時方向、第2および第7は後方12時方向。
敵陣より距離およそ50取り、敵兵への直撃は極力回避せよ。
小隊長は任意に攻撃を開始せよ。」
後方って…最後尾の荷馬車群は1キロ以上離れているのですが…
(後から聞いたのですが、迫撃砲と呼ばれるあの火薬発射装置は2キロ以上も飛ぶらしい。)
「大隊長より歩兵中隊、これより現場指揮権を第1歩兵小隊へ委譲する。
第1小隊長は歩兵中隊を指揮、敵本陣を制圧し指揮官を確保せよ。
一番派手な鎧を着ているのが指揮官と思われる。
分からなければ、近衛兵も纏めて確保せよ。」
『第1小隊長、現場指揮権を受諾。
歩兵中隊、12時の方向へ前進せよ!
各員、伏兵には最大限警戒!』
「弓兵と飛竜に警戒、近づけるなよ。
支援中隊、撃ち方止め!
これより歩兵中隊が前進を開始する、友軍誤射に厳重警戒!」
塹壕から奴隷がワラワラと出てくる。
「発砲は任意、ただし無用な殺害は慎め。」
『了解。
第1歩兵小隊長より支援中隊、火力支援を要請する。
敵後方で敗走の予兆あり、これを阻止されたし。』
『第1支援支援小隊、要請を受諾する。
作戦本部、観測をお願いしても?』
「了解だ、教練通りキッチリ退路を潰せ。
敗残兵狩りは非常に手間だ。
支援中隊!弾種、フレシェット弾!
第1歩兵小隊の指示の目標、攻撃始め!」
「アレスタから総員、警戒を厳にせよ。
油断して誰かが死ぬと、祝勝会の雰囲気が悪くなる。
通夜みたいな空気で仲間にマズいメシを食わせることは、絶対に許さん!」
『了解しました、閣下!』
何が起きているのか分からなかった。
勝利した今となっても、何もかもが理解できない。
補足説明:
ただ勝つだけなら越境前にハープーンやヘルファイアで吹き飛ばせばいいが、そうはいかない。
この世界では、誰もその勝利を理解できない。
であれば、領内において、視認できる範囲において勝利する必要があった。
なので買い受けた奴隷を、前衛の歩兵中隊、後衛の支援中隊、最後方の作戦本部に分けた。
(ちなみに中隊は8つの小隊に分かれる)
アサルトライフルとグレネードと手りゅう弾で武装した歩兵が蹂躙し、迫撃砲で支援中隊が吹き飛ばす。
単純明快で、まぁこの世界の住人でも勝敗を理解できるだろう。
ただ、あまりにも圧倒的すぎる勝利。
虜囚とした帝国兵などは我々のことを「天の神兵」「魔術師」「神の怒り」などと言っている。
アサルトライフルと迫撃砲程度では、神の力には程遠い。
職業兵や場馴れした傭兵ほどのリスクはないだろうが、力に酔わないよう、キッチリと締めつける必要がある。
正直、そちらの方が面倒極まりない。
~ベガドリア男爵アレスタ~
何度もラッパが鳴り、帝国軍の進撃が始まった。
平野から怒号が響いてくる。
それは馬の駆ける音であり、人の駆ける音であり、突撃する兵士の雄叫びであり。
「距離600…550…」
「総員、まだ撃つな…200まで引き付けろ…」
大きなオペラグラスを持ったヒトと、大隊長の声がヘルメットの中で響く。
声は全員に伝わっているのだろう。
それにしても、何で誰も動かないの。
ただ黒い鉄の棒を、帝国兵に向けているだけ。
あんなので、叩けるのだろうか…
刀も槍も、弓すら見えない。
もう帝国兵は目の前まで迫っている。
「350…300…」
「安全装置解除!レバー、3点バースト!
歩兵中隊、射撃用意!撃鉄起こせっ!」
「距離200!!」
「撃ちィ方、始めェ!」
「歩兵中隊!攻撃始めっ!」
アレスタ様と大隊長が怒鳴る。
その瞬間、塹壕や土嚢あたりから大きな連続音が響き、帝国の騎馬が崩れ落ちた。
兵士が投げ出され、背後の騎馬兵に踏みつけられる。
その騎馬さえも崩れ落ちる。
「支援中隊!大隊長指示の目標!
攻撃始め!」
「支援小隊、第3から第6!弾種、榴弾!目標、敵先陣!
迫撃砲、発射始めっ!」
アレスタ様に続く大隊長の声に、土嚢の背後にある黒い筒がボンボンという音を出す。
数瞬後、大音量と共に敵陣の地面が弾け、敵歩兵が宙を舞う。
「何!?何!?」
「火薬です。」
半分パニックになった私に、横にいたヒューキャットの少女が話しかけてくる。
「あの土嚢を見てください、そう、最も手前の。
黒い筒がありますよね。
あの中に弾を入れると、火薬で敵陣まで、大量の火薬が詰まった弾を飛ばします。
そして地面に当たると中の火薬が爆発し、破片と爆風をまき散らします。」
「何それ!?」
火薬は学校で習ったことがある。
主に鉱山などで硬い岩盤を崩すためのものだ。
しかし扱いが非常に難しく、少しの火花でも大爆発を起こす。
数年前には王家直轄の鉱山で大規模な落盤事故をがあったはずだ。
「そんな危険な物…」
でも、味方に被害は生じていない。
筒の中に兵士(服の色は深緑だ)が何かを流し込む。
直後に兵士はしゃがみ込み、2秒後くらいに小さな火が見える。
対して敵陣は、あちこちで地面が弾けている。
「あんなに遠くに…?」
最前線である塹壕の200メートルくらい先は、帝国兵の死体が積み重なっていた。
剣どころか投げ槍や弓さえ届かない先で、一方的な攻撃が続いている。
「作戦本部より支援中隊、混乱に乗じて敵退路を遮断する。
第1支援小隊は左方9時方向、第8支援小隊は右方3時方向、第2および第7は後方12時方向。
敵陣より距離およそ50取り、敵兵への直撃は極力回避せよ。
小隊長は任意に攻撃を開始せよ。」
後方って…最後尾の荷馬車群は1キロ以上離れているのですが…
(後から聞いたのですが、迫撃砲と呼ばれるあの火薬発射装置は2キロ以上も飛ぶらしい。)
「大隊長より歩兵中隊、これより現場指揮権を第1歩兵小隊へ委譲する。
第1小隊長は歩兵中隊を指揮、敵本陣を制圧し指揮官を確保せよ。
一番派手な鎧を着ているのが指揮官と思われる。
分からなければ、近衛兵も纏めて確保せよ。」
『第1小隊長、現場指揮権を受諾。
歩兵中隊、12時の方向へ前進せよ!
各員、伏兵には最大限警戒!』
「弓兵と飛竜に警戒、近づけるなよ。
支援中隊、撃ち方止め!
これより歩兵中隊が前進を開始する、友軍誤射に厳重警戒!」
塹壕から奴隷がワラワラと出てくる。
「発砲は任意、ただし無用な殺害は慎め。」
『了解。
第1歩兵小隊長より支援中隊、火力支援を要請する。
敵後方で敗走の予兆あり、これを阻止されたし。』
『第1支援支援小隊、要請を受諾する。
作戦本部、観測をお願いしても?』
「了解だ、教練通りキッチリ退路を潰せ。
敗残兵狩りは非常に手間だ。
支援中隊!弾種、フレシェット弾!
第1歩兵小隊の指示の目標、攻撃始め!」
「アレスタから総員、警戒を厳にせよ。
油断して誰かが死ぬと、祝勝会の雰囲気が悪くなる。
通夜みたいな空気で仲間にマズいメシを食わせることは、絶対に許さん!」
『了解しました、閣下!』
何が起きているのか分からなかった。
勝利した今となっても、何もかもが理解できない。
補足説明:
ただ勝つだけなら越境前にハープーンやヘルファイアで吹き飛ばせばいいが、そうはいかない。
この世界では、誰もその勝利を理解できない。
であれば、領内において、視認できる範囲において勝利する必要があった。
なので買い受けた奴隷を、前衛の歩兵中隊、後衛の支援中隊、最後方の作戦本部に分けた。
(ちなみに中隊は8つの小隊に分かれる)
アサルトライフルとグレネードと手りゅう弾で武装した歩兵が蹂躙し、迫撃砲で支援中隊が吹き飛ばす。
単純明快で、まぁこの世界の住人でも勝敗を理解できるだろう。
ただ、あまりにも圧倒的すぎる勝利。
虜囚とした帝国兵などは我々のことを「天の神兵」「魔術師」「神の怒り」などと言っている。
アサルトライフルと迫撃砲程度では、神の力には程遠い。
職業兵や場馴れした傭兵ほどのリスクはないだろうが、力に酔わないよう、キッチリと締めつける必要がある。
正直、そちらの方が面倒極まりない。
~ベガドリア男爵アレスタ~
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