4人の兄に溺愛されてます

三男、ヒーローになる

「慎くん、がんばってね！」

バスケ部の練習試合で、俺はコートに出ていた。

梨夢の声が体育館の中に響き、相手の学校の選手たちが梨夢の方を見た。

「慎くんだってさ」

「アイドルかよ」

「てか、あれ1年？先輩のこと慎くんて呼んでんの？」

「超生意気じゃね？」

「でも、あいつかわいくね？色白でさ、目ぇでかくて女の子みたいじゃん」

「なんだよお前、そういう趣味あったの？」



梨夢のことを見ながら勝手なことを話している相手選手たちを横目で見ながらウォーミングアップを続ける。

「・・・・どこ行ってもお前の弟は注目の的だよなあ」

同じクラスの渡部が言った。

「目立つんだよなあ、あの顔も、声変わりしてないあの声もさ。確かにうちのクラスの女子より数倍可愛いもんな」

「・・・・梨夢に手ぇ出したら殺すよ？」

じろりと睨みつけると、渡部が顔をひきつらせた。

「分かってるって！有原家を敵に回す勇気はねえよ！」

梨夢の方を見ると、俺に気付いた梨夢がかわいらしく手を振った。

その横で、周が興味のなさそうな顔で俺たちの方を見ていた。

「お前らマジで、仲良過ぎなんだって！てか、末っ子可愛がりすぎだろう。こないだ俺、廊下で末っ子と話してたらお前の兄貴に睨まれたからな。マジこえぇ。お前も、弟のこととなると人が変わるもんなぁ。さすがに女子もひいてたぜ」

だろうね。

俺も含め、うちの兄弟は梨夢のことに関して容赦ないからな。

普段は温和そうに見える護にぃも、梨夢のことになると目がマジになるからね！

あの人は、実は一番怒らせちゃいけない人だと思う。

廉ちゃんもいつも優しいのに俺が梨夢とのお風呂権獲得すると、すげえ不機嫌になるし。

周なんかあからさまに威嚇してくるし！

「ホントお前らブラコンだよな」

まあ、事実だから否定しない。

昔からそうだからきっとこれからも変わらない。

梨夢に、もし恋人ができたりしたら変わるのかな。

梨夢に恋人・・・

そうなったらやだなあ。




試合が始まって、ちょっと俺は集中できてなかったのかもしれない。

「―――危ない！！」

そんな声が聞こえて、はっと気付いた時には遅かった。


―――ガツンッ


思いきり、同じチームのやつと接触してしまった。

肩に激痛を感じ、その場に倒れたまま肩を押さえる。

「おい、大丈夫か！？」

「―――はい、すいません」

俺の言葉にキャプテンはほっとした表情を見せたものの、結局交代させられてしまった。

接触したチームメイトは特に問題なさそうなのでそのまま試合に出ていた。

「慎くん、大丈夫？」

俺の肩を冷やしながら、梨夢が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

周も俺の隣に来て、

「ぼーっとしてるからだよ」

と言って、呆れたように俺を見た。

「お前も心配しろよ！」

「ちょっとぶつけただけじゃん。ただの打ち身でしょ？それより、チームに迷惑かけたんだから反省してもらわないと」

「う・・・はい」

周の言うことはもっともだ。

練習試合とはいえ、レギュラーなんだからしっかりしないと！

「―――大した怪我じゃなくてよかった」

梨夢が、ほっとしたように微笑んだ。

「俺、慎くんがシュートするとこかっこよくて大好きだからさ」

その笑顔に、胸が高鳴る。

やっぱり、梨夢が好きだなって思う。

兄弟だって、関係ない。

いや、大事な家族だってことは事実だけど。

でも俺は、やっぱり梨夢が好きなんだ。

「・・・心配かけて、ごめんね。俺、がんばるよ」

「うん！」

「慎、コーチが呼んでるよ」

周の言葉に、俺は立ち上がった。

「慎くん、いける？」

「全然、大丈夫！見てて、梨夢。俺、梨夢のためにゴール決めてくるから！」

そう言って二カッと笑うと、梨夢も笑顔になった。

「うん、がんばって！」

その満面の笑みに、俺はがぜんやる気になった。

コーチのもとへ走り、再びコートに戻る。

「慎くん、がんばって！」

梨夢の声を、背に受けながら―――





「慎くんすごいね！！いくつゴール決めたの！？」

3人での帰り道、梨夢が興奮気味に俺の腕を掴んだ。

「えー、いくつかなぁ」

答えながら、思わずにやにやしてしまう。

「運動神経だけはいいよね」

ボソリと呟かれた周の言葉は聞こえない振りだ。

「超かっこよかった！」

梨夢が嬉しそうで、俺はそれだけで幸せな気持ちになる。

まるで梨夢のヒーローにでもなったみたい。

俺は梨夢の肩を抱き、やわらかな髪に頬を擦り寄せた。

「―――おいっ、調子に乗んなよ！」

後ろから周が俺たちの間に無理矢理割り込んで来た。

「なんだよぉ！」

「くっつきすぎなんだよ！」

俺と周がぎゃあぎゃあやり合っているのを、梨夢が楽しそうに見つめていた。

兄弟げんかさえも梨夢にとっては幸せなことなんだと、俺たちも知っていた。



『ずっと一緒だよ』

『約束だよ』



俺たち5人の約束。

俺たちはずっと一緒。

だからいつでも笑顔でいられる。

梨夢が、俺たちの弟でいてくれる限り・・・・。



だけど最近、ちょっと胸が痛い。

だって、梨夢のことが好き過ぎるから。

触れられる距離にいるのに、それ以上触れられないもどかしさ。

柔らかな髪に触れれば、その赤い唇に触れたくなる。

そして、こんな思いを抱いてるのが俺だけじゃないってことも知ってる。



俺たちは、これからどうなるのかな・・・・・