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友達だからこそ
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「り~む」
「・・・・」
「なあ、梨夢ちゃん」
「・・・・」
「なあってば」
「・・・・・」
「り~む~!!」
「もう、何だよ護」
根負けしたように梨夢が机から顔を上げる。
夏休み最終日。
梨夢は夏休みの宿題をかたずけるために今日はずっと机にかじりついていた。
梨夢だけじゃなく、慎も周も。とっくに終わっているのは廉くんぐらいのもんだ。
俺なんて、最初から終わらせるつもりがないから今日も日中はずっとパン屋でバイトをしていた。
で、なんで今俺がここにいるのかと言うと。
「夏休み終わったらやることがあるって言ってたじゃん。それって何なの」
あの公園で梨夢が言ったことが、俺たちはどうしても気になって仕方なかった。
好きな人がいるっていうのももちろんだけど、なんか、それを言う前にやらなきゃいけないことがあるとか何とか・・・
よくわかんないけど、とにかく梨夢が俺たちに隠し事をするなんて、本当にショックだった。
「だから、それはまだ言えないって・・・・」
「なんで?俺たち、いつも梨夢の言うことはちゃんと聞いてきたじゃん。梨夢が言いたくないっていうことは、俺も無理に聞きたくない。でも・・・・でも、心配なんだ。急にたくさん隠し事して、俺らに何も話さなくなって・・・・」
「護・・・・」
「そんな・・・・そんな、急に大人になるなよ」
急に梨夢が手の届かないところへ行ってしまったような気がした。
大人びた表情をするようになった梨夢。
物思いにふけることが多くなった梨夢。
いつも俺たちの後にくっついて、屈託ない笑顔で俺たちに甘えてくれていたのに。
寂しい。
とにかく、寂しくて仕方がないんだ。
梨夢はじっと俺の顔を見つめていたけれど―――
ふっと困ったように笑うと、椅子から立ち上がりベッドの上に座った。
つられるように俺も梨夢の隣に座る。
梨夢が、こてんと俺の肩に頭を預けた。
「・・・ごめんね、護。そんな悲しそうな顔、させるつもりじゃなかったんだ・・・。これは、俺の問題だから・・・・皆には言わないでおこうと思ったんだけど」
そう言って、梨夢はちょっとため息をついた。
「護は、一番上のお兄ちゃんだし、高校生だから・・・護にだけは、言っておく」
「え・・・・ほんとに?」
「うん。でも、他の3人にはまだ言わないで。絶対めんどくさいことになるから」
「へ?めんどくさい?」
梨夢がこくんと頷き、また一つため息をつくと俺の肩に乗せていた頭を戻した。
「どういうこと?」
「あのね・・・あの久保田の事件の前に俺、クラスのある人に告白されて・・・」
「また?梨夢、もてるなあ」
そう言ってちょっと笑った俺を、梨夢はちらりと見た。
「けど、そんなの今までもあったじゃん。別に隠さなくても・・・」
「・・・相手が、和也でも?」
「和也って・・・・え、お前の友達の?渋木和也?」
「そう、あの渋木和也」
「マジなやつ・・・・?」
「だったみたい」
そう言って、梨夢はまたため息をついた。
「最初は、俺も冗談だと思ったんだ。いつもみたいにふざけてるんだと思って、本気にしなかったの。そんな時、西野さんに言われたんだ。久保田には気を付けたほうがいいって」
「え、そうなの?西野さんて梨夢に告白した子でしょ?」
「うん。体育の授業の準備運動の時、俺の後ろがいつも西野さんで。それで、久保田が俺に触ったりしてたことに気づいてたみたいで。あと、いやらしい目で俺を見てるって言ってた」
「さすが。よく見てるね」
「和也は、準備運動の時俺から一番離れた場所にいるから気付いてなかったんだよね。そしたら西野さんが、このことは和也に言わない方がいいって」
「それは・・・渋木が知ったら怒るからってこと?」
「みたい。でも、俺は和也のこと親友だと思ってたし、周りもふざけて冷やかしてるだけだと思ってたから・・・。だけど、西野さんは真剣な顔して、本当だからって。で・・・あのプールで久保田が盗撮してた時も、和也には聞こえないように俺にだけ盗撮のこと教えてくれた。でも、放課後俺が教室出ようとした時、和也に言われたんだ」
「なんて?」
「久保田に何かされたんだったら、俺がぶっ殺すからって」
「・・・渋木も、気付いてたってこと」
「ん。触ってたことは知らなかったと思うけど、あいつが俺を変な目で見たりスマホ向けてたことには気づいてたみたい。それで・・・和也の気持ちが、わかったんだ。本気なんだって」
「なるほど」
「目が、なんていうか・・・本気の目で。正直、どうしたらいいかわからなかった。久保田とか美術の岡田とか、慎くんのクラスメイトとかも別に男だから嫌だとか思うことはなかった。だけど、和也は友達だから・・・」
梨夢は真面目だし優しいから、とても悩んだのだろう。
友達だからこそ、本気で考えて・・・。
「夏休みに入る前、また和也に言われたんだ。本気で好きだから、考えてほしいって。夏休み終わったら、返事が欲しいって」
だからか・・・・
「確かに、あいつらが知ったらめんどくさいことになるな。特に周は」
「でしょ?周は、和也とも友達だし。だから、ちゃんと俺が和也に返事するまでは言いたくなかったんだ」
「・・・どう返事するかは、もう決まってるの?」
「うん、決まってる」
「・・・・梨夢の好きな人って、もしかして・・・・」
渋木なのか・・・・?
俺の胸が、ドクドクといやな音を立てていた。
不安そうな俺の顔を見て、梨夢はちょっとおかしそうに笑った。
「なんて顔してんの、護」
「いや、だってさ」
「違うよ、和也じゃない。和也は、親友だけどそういう目で見たことはないんだ。だから・・・どうしたら和也を傷つけずに自分の気持ちを伝えられるだろうって、ずっと考えてた。でも考えても考えてもわからなくて・・・」
だから、一人で引きこもって悩んでたのか・・・・
「俺が断ったらどうしたって和也を傷つけちゃうし、そうしたら、もう和也とは友達に戻れないんじゃないかって・・・」
「で・・・どうやって答えを見つけたの?」
どう返事するかはもう決まってると言っていた。
「・・・答えなんて、最初からなかった。ていうか、一つしか答えはなかった」
そう言って、梨夢は俺を見てほほ笑んだ。
綺麗な、すっきりしたような笑顔だった。
「ただ、自分の気持ちを正直に伝えるしかない。和也は大切な友達だから、嘘はつきたくない。だから・・・俺の気持ちをそのまま伝えようと思ってる」
「そっか・・・」
「和也には・・・縁を切られるかもしれないけど」
と言って、梨夢は寂しそうに笑った。
「そんなこと、ないと思うよ」
「そうかな・・・だって俺、和也の気持ちに応えられないんだよ」
「それでも。梨夢が大切な友達だと思ってるなら、きっと渋木もわかってくれる」
俺がそう言って梨夢の頭をなでると、梨夢は俺の方を見て泣きそうな顔で頷いた。
「ありがと、護。やっぱり、護に言ってよかった」
そうして、また梨夢は俺の肩に頭をくっつける。
俺は梨夢の肩をしっかり抱き、その柔らかい髪に頬を寄せた。
「もし・・・・渋木と今までみたいな友達に戻れなくても、梨夢には俺らがいるから。だから、大丈夫」
「ん・・・・・護?」
「ん?」
「護、学校の宿題やった・・・・?」
「・・・・心配すんな」
「ふふ。やってないんだね。廉くんに怒られない?」
「廉くんには言わないで」
「もう遅いと思う」
「やっぱり?」
「うん」
まあ今は宿題のことは忘れて。
俺たちはぎゅっとくっつきながら、くすくすと笑い合ったのだった・・・・・。
「・・・・」
「なあ、梨夢ちゃん」
「・・・・」
「なあってば」
「・・・・・」
「り~む~!!」
「もう、何だよ護」
根負けしたように梨夢が机から顔を上げる。
夏休み最終日。
梨夢は夏休みの宿題をかたずけるために今日はずっと机にかじりついていた。
梨夢だけじゃなく、慎も周も。とっくに終わっているのは廉くんぐらいのもんだ。
俺なんて、最初から終わらせるつもりがないから今日も日中はずっとパン屋でバイトをしていた。
で、なんで今俺がここにいるのかと言うと。
「夏休み終わったらやることがあるって言ってたじゃん。それって何なの」
あの公園で梨夢が言ったことが、俺たちはどうしても気になって仕方なかった。
好きな人がいるっていうのももちろんだけど、なんか、それを言う前にやらなきゃいけないことがあるとか何とか・・・
よくわかんないけど、とにかく梨夢が俺たちに隠し事をするなんて、本当にショックだった。
「だから、それはまだ言えないって・・・・」
「なんで?俺たち、いつも梨夢の言うことはちゃんと聞いてきたじゃん。梨夢が言いたくないっていうことは、俺も無理に聞きたくない。でも・・・・でも、心配なんだ。急にたくさん隠し事して、俺らに何も話さなくなって・・・・」
「護・・・・」
「そんな・・・・そんな、急に大人になるなよ」
急に梨夢が手の届かないところへ行ってしまったような気がした。
大人びた表情をするようになった梨夢。
物思いにふけることが多くなった梨夢。
いつも俺たちの後にくっついて、屈託ない笑顔で俺たちに甘えてくれていたのに。
寂しい。
とにかく、寂しくて仕方がないんだ。
梨夢はじっと俺の顔を見つめていたけれど―――
ふっと困ったように笑うと、椅子から立ち上がりベッドの上に座った。
つられるように俺も梨夢の隣に座る。
梨夢が、こてんと俺の肩に頭を預けた。
「・・・ごめんね、護。そんな悲しそうな顔、させるつもりじゃなかったんだ・・・。これは、俺の問題だから・・・・皆には言わないでおこうと思ったんだけど」
そう言って、梨夢はちょっとため息をついた。
「護は、一番上のお兄ちゃんだし、高校生だから・・・護にだけは、言っておく」
「え・・・・ほんとに?」
「うん。でも、他の3人にはまだ言わないで。絶対めんどくさいことになるから」
「へ?めんどくさい?」
梨夢がこくんと頷き、また一つため息をつくと俺の肩に乗せていた頭を戻した。
「どういうこと?」
「あのね・・・あの久保田の事件の前に俺、クラスのある人に告白されて・・・」
「また?梨夢、もてるなあ」
そう言ってちょっと笑った俺を、梨夢はちらりと見た。
「けど、そんなの今までもあったじゃん。別に隠さなくても・・・」
「・・・相手が、和也でも?」
「和也って・・・・え、お前の友達の?渋木和也?」
「そう、あの渋木和也」
「マジなやつ・・・・?」
「だったみたい」
そう言って、梨夢はまたため息をついた。
「最初は、俺も冗談だと思ったんだ。いつもみたいにふざけてるんだと思って、本気にしなかったの。そんな時、西野さんに言われたんだ。久保田には気を付けたほうがいいって」
「え、そうなの?西野さんて梨夢に告白した子でしょ?」
「うん。体育の授業の準備運動の時、俺の後ろがいつも西野さんで。それで、久保田が俺に触ったりしてたことに気づいてたみたいで。あと、いやらしい目で俺を見てるって言ってた」
「さすが。よく見てるね」
「和也は、準備運動の時俺から一番離れた場所にいるから気付いてなかったんだよね。そしたら西野さんが、このことは和也に言わない方がいいって」
「それは・・・渋木が知ったら怒るからってこと?」
「みたい。でも、俺は和也のこと親友だと思ってたし、周りもふざけて冷やかしてるだけだと思ってたから・・・。だけど、西野さんは真剣な顔して、本当だからって。で・・・あのプールで久保田が盗撮してた時も、和也には聞こえないように俺にだけ盗撮のこと教えてくれた。でも、放課後俺が教室出ようとした時、和也に言われたんだ」
「なんて?」
「久保田に何かされたんだったら、俺がぶっ殺すからって」
「・・・渋木も、気付いてたってこと」
「ん。触ってたことは知らなかったと思うけど、あいつが俺を変な目で見たりスマホ向けてたことには気づいてたみたい。それで・・・和也の気持ちが、わかったんだ。本気なんだって」
「なるほど」
「目が、なんていうか・・・本気の目で。正直、どうしたらいいかわからなかった。久保田とか美術の岡田とか、慎くんのクラスメイトとかも別に男だから嫌だとか思うことはなかった。だけど、和也は友達だから・・・」
梨夢は真面目だし優しいから、とても悩んだのだろう。
友達だからこそ、本気で考えて・・・。
「夏休みに入る前、また和也に言われたんだ。本気で好きだから、考えてほしいって。夏休み終わったら、返事が欲しいって」
だからか・・・・
「確かに、あいつらが知ったらめんどくさいことになるな。特に周は」
「でしょ?周は、和也とも友達だし。だから、ちゃんと俺が和也に返事するまでは言いたくなかったんだ」
「・・・どう返事するかは、もう決まってるの?」
「うん、決まってる」
「・・・・梨夢の好きな人って、もしかして・・・・」
渋木なのか・・・・?
俺の胸が、ドクドクといやな音を立てていた。
不安そうな俺の顔を見て、梨夢はちょっとおかしそうに笑った。
「なんて顔してんの、護」
「いや、だってさ」
「違うよ、和也じゃない。和也は、親友だけどそういう目で見たことはないんだ。だから・・・どうしたら和也を傷つけずに自分の気持ちを伝えられるだろうって、ずっと考えてた。でも考えても考えてもわからなくて・・・」
だから、一人で引きこもって悩んでたのか・・・・
「俺が断ったらどうしたって和也を傷つけちゃうし、そうしたら、もう和也とは友達に戻れないんじゃないかって・・・」
「で・・・どうやって答えを見つけたの?」
どう返事するかはもう決まってると言っていた。
「・・・答えなんて、最初からなかった。ていうか、一つしか答えはなかった」
そう言って、梨夢は俺を見てほほ笑んだ。
綺麗な、すっきりしたような笑顔だった。
「ただ、自分の気持ちを正直に伝えるしかない。和也は大切な友達だから、嘘はつきたくない。だから・・・俺の気持ちをそのまま伝えようと思ってる」
「そっか・・・」
「和也には・・・縁を切られるかもしれないけど」
と言って、梨夢は寂しそうに笑った。
「そんなこと、ないと思うよ」
「そうかな・・・だって俺、和也の気持ちに応えられないんだよ」
「それでも。梨夢が大切な友達だと思ってるなら、きっと渋木もわかってくれる」
俺がそう言って梨夢の頭をなでると、梨夢は俺の方を見て泣きそうな顔で頷いた。
「ありがと、護。やっぱり、護に言ってよかった」
そうして、また梨夢は俺の肩に頭をくっつける。
俺は梨夢の肩をしっかり抱き、その柔らかい髪に頬を寄せた。
「もし・・・・渋木と今までみたいな友達に戻れなくても、梨夢には俺らがいるから。だから、大丈夫」
「ん・・・・・護?」
「ん?」
「護、学校の宿題やった・・・・?」
「・・・・心配すんな」
「ふふ。やってないんだね。廉くんに怒られない?」
「廉くんには言わないで」
「もう遅いと思う」
「やっぱり?」
「うん」
まあ今は宿題のことは忘れて。
俺たちはぎゅっとくっつきながら、くすくすと笑い合ったのだった・・・・・。
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