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第75話
しおりを挟む「どうしてって‥‥だって、彩名ちゃんがそう望んだでしょ?」
慧はそんな彩名を不思議そうに見ながら、ワインを片手に頬杖をつきながら言った。
「え・・・・?」
「3人にはすごく感謝してるって言ったでしょ?でもあの時の俺は何も持ってなかった。だから考えたんだよ。3人が、俺にしてほしいことをしようって」
そう言ってにっこり笑う慧は、後ろめたさなどみじんも感じていないようだった。
「俺ね、昔から人が思ってることを当てるのが得意だったの。別に超能力とかじゃないけど、会話しててもその人が何を聞きたいか、何を知りたいかっていうのがなんとなくわかったんだよね」
その言葉に、俺はそれまでの慧との会話で思い当たることがあったのを思い出した。
こっちが聞こうとしていたことを先回りして答えたことが何度かあったこと。
慧には、人の気持ちを察知する力があるのかもしれないと思っていたのだ。
「だから、3人に何かお礼をしたいと思った時、どうすれば3人が喜ぶかすぐにわかったよ」
「じゃあ・・・・じゃあ、わたしたちを抱いたのは、あの家に居候していたお礼だったって言うの‥‥?」
裕子が震える声でそう言った。
彩名は口を開けたまま慧を見つめていた。
「うん」
悪びれもせずそう言ってほほ笑む慧。
裕子は真っ青になっていた。
俺は――この状況で、情けないことに何を言っていいかわからなかった。
『3人が喜ぶこと』
それが、俺たちと体の関係を持つことだったと、そう思ったからそうしただけだなんて。
そんな思考回路をどう理解しろと言うのか。
「ひどい!わたしは本気で慧くんが好きだったのに!事件が解決して家を出て行っても、わたしと付き合ってくれると思ってたのに!」
彩名の目からは涙が零れ落ちていた。
「だから、慧くんがもうあの家に帰ってこないってわかった時にすぐ電話して会いたいって・・・・。そしたら慧くん、すぐにまた会えるって言ってくれたじゃない!」
「うん。それは事実だからね。でも、俺ちゃんと言ったよね?彩名ちゃん、誤解してるみたいだったから、俺は和樹さんや裕子さんとも寝たって」
「言われたけど!でもパパとママは結婚してるんだよ?慧くん、パパとママには別れてほしくないって言ってたじゃない!だから、それならわたしと・・・・!」
「そりゃ、俺和樹さんも裕子さんも好きだもん。その好きな2人が不幸になるのは見たくないからね。お似合いの2人だし、幸せになってほしいから」
完全に俺の理解の域を超えている。
最初から変わったやつだとは思っていたけれど、どうすればそんな考え方になるのか‥‥。
「お前・・・・俺たちに幸せになってほしいって思いながら、あんなことを‥‥?」
ようやく口を開いた俺は、しかしそんな言葉しか出てこなかった。
「そうだよ。だって、和樹さんも裕子さんも俺とそうなりたいって思ってたでしょ?俺は2人の望みを叶えただけ。彩名ちゃんも‥‥初体験は俺みたいな男がいいって言ったでしょ?だからその通りにした。けど‥‥彩名ちゃん、本気って言うのは違うと思うよ」
「え・・・・?」
「彩名ちゃんは、俺みたいに顔が良くて優しい男と付き合ってみたかっただけ。友達に、俺といるところを見せて自慢したかっただけ。違う?」
彩名の顔がさっと青くなった。
彩名を見る慧の目は、笑っているのに笑っていない‥‥そこには何の感情も見えなかった。
「裕子さんは、結婚してから和樹さん以外の男性と接する機会がないって言ってたよね。あっても近所の人か和樹さんの同僚くらいで。だから俺みたいな男が同じ家にいて2人きりで、ドラマか映画みたいな情事をしてみたいって思ってたんでしょ?」
「わ、わたしは、そんなこと・・・・!」
裕子は慧から目をそらせ、震える手でコーヒーカップを持った。
「和樹さんは、事件の中心にいる俺に興味があったんだよね?事件に関係してる人たちが俺に興味を持ってることに関心があった。そして――男に興味はないけど俺がきれいだったから、抱いてみたいと思ったんだ。違う?」
心の中を見透かすような瞳に見つめられ、俺は何も言い返すことができなかった。
俺は慧が好きだった。
綺麗で、かわいくて、謎めいているこの男に惹かれていたんだ。
本気で好きだと・・・・・
だがしかし。
俺が裕子や彩名を捨てて慧を選んだとして、果たしてうまくいっただろうか‥‥?
慧には俺たちの考えが分かる。
しかし俺には慧の考えていることが分からない。
決して本心を見せないこのきれいな男と一緒にいて、安心することなどできるだろうか・・・・・?
突然、音もなく慧は立ち上がると、俺たちを見渡して言った。
「そろそろ、お開きにしようか」
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