記憶を嫌う少年と記憶を探す少女の物語

Rin凜Lin

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1章 出会い

街へ

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「……ん……」

 体を揺さぶられ目を覚ました。
 目の前には覗き込むような形で俺を見つめるベルがいた。
 どうやら起こしてくれたみたいだ。

「───。」

「……うん、おはよう……」

 挨拶を返すとベルはキッチンの方へと向かっていった。
 上体を起こし、体を伸ばす。
 それと同時に大きな欠伸が出た。
 ……そうか、昨日サヘラにベッドを貸したからここで寝たんだったな……
 枕代わりに使っていたクッションなどを片付け、洗面所へ向かい顔を洗った。
 ……今日はサヘラを連れていかなければ。
 目が覚めると同時に脳も冴え、今日の予定を思い出す。
 俺はリビングへ戻り、

「サヘラは?」

 と聞いた。

「───。」

 まだ寝ているのか……
 俺はサヘラがいる自分の部屋の扉を叩いた。

「起きろ。」

 扉の向こうから返事が聞こえた。
 起きたことを確認し、再びリビングへ。

「……相変わらず準備が早いな。」

 今の短時間で料理が机の上に並べられていた。
 ベルはこうして朝早くから起きて料理は作るし、洗濯もしてくれる。
 本当に優秀だ。

「おはよ!」

 部屋から出てきたサヘラが大きな声で挨拶してきた。
 髪はボサボサで服装もだらしない。

「顔だけでも洗ってこい。」

「はーい!」

 朝から元気なやつ。
 サヘラが洗面所の方へ向かうのを確認した後、俺は椅子に座った。

「─────。」

「分かってるよ。」

 ベルがサヘラを街に連れていくよう伝えてきた。
 ベルにはいろいろ頑張ってもらったし、記憶喪失のままここに居られても仕方ないからな。

「わぁ!朝からベルの美味しいご飯が食べられるなんて幸せ~!」

 戻ってきたサヘラが朝食に目を輝かせている。
 そんなサヘラに、

「今日は街に行くから準備しとけよ。」

 と伝えた。

「街……?近くに街があるの?」

 それすらも分かってなかったのか……
 とにかく今日こいつを連れていかないと、ベルにも申し訳ない。

「えっとたしか……いただきます。」

「……いただきます。」

 俺たちは朝食をとった。



 ──────────



「街に何の用があるの?お買い物?」

「違う。」

 朝食を終え、サヘラと街に。
 ベルは自分から留守番をしたいと言って来なかった。
 まぁ、妥当な判断だろう。
 ベルの身に何かあったら大変だし。

「じゃあなにをするの?そろそろ教えてよ。」

 サヘラは街が見えてきたくらいからずっとテンションが高い。
 記憶喪失により、見ている景色が全て目新しいものばかりだからだろう。
 そんなサヘラの対応がめんどくさくなった俺は、

「お前の親を探す。家に帰すんだよ。」

 と正直に言った。

「魔道署に行って探してもらう。今日でお別れだ。」

「そ、そう……まぁ……そうだよね……」

 明らかに気を落とした。
 ……元は赤の他人だ。
 こうなることくらいサヘラも分かっていたはずだ。
 それで気を落とされても困る。

「───だけ─……」

「ん?」

 サヘラが小さな声で何かを言ったが聞き取れなかった。
 小首を傾げていると、サヘラは少し寂しそうな表情を浮かべてこちらを見つめた。

「その……お別れする前に、一つだけお願いがあるの。」

 今度は聞き取れた。
 お願い……?

「……なんだよ。」

「えっと──」



 ──────────



「これ綺麗……!」

 俺はサヘラのお願いというものを聞いた。
 聞くだけの……はずだった。
 俺たちは魔道署には向かわず、

「いらっしゃい。」

 小さな雑貨屋に来ていた。
 サヘラの願いというのは、別れる前に一軒だけ店を見たいというものだった。
 なんでそう言ったのかは分からんが、一軒だけならそう時間もかからんだろうと思い、近場にあったここに来たのだ。
 サヘラは商品棚に並ぶキラキラしたアクセサリーを見つめていた。

「あ。」

 サヘラは商品棚から何かを手に取った。

「これ、シエルのと同じだ。」

 それは紫色の小さなピアスだった。
 確かに今付けているピアスと同じだが、それがどうしたという感じなのだが……
 すると、

「かわいい子だねぇ。」

 先ほど出迎えてくれた老人の商人が奥から出てきた。

「それが気に入ったのかい?」

「え?……は、はい!」 

 老人は笑みを浮かべたまま、突然手元からポンッという音と共に何かを出した。
 それは腕が通せるほどの穴が空いた、小さな箱だった。

「すごい!この箱光ってる!」

 思わずサヘラはその箱をつついた。

「魔法で作っているものだ。」

「魔法?」

 分かんないのか……

「体内の魔力を消費して使う特殊な能力のことだよ。」

「あ!本で読んだよ!たしか何もないところから火を出したり、水を出したり……あと剣とかも出したりできるんだよね!これもその魔法なんだ~。」

 ……大体合ってるしもうそれでいいか。
 それに魔法に関して俺はあまり詳しく説明できそうにないし。

「この中に一つだけ当たりがあるよ。もしその当たりを引けたらそれをプレゼントしようかねぇ。」

「え!本当!?」

 サヘラは目を輝かせた。
 というかあのピアス欲しいのかよ。
 サヘラは箱の中に手を入れ、一枚の紙を取り出した。

「……残念だったねぇ。はい、これ。」

 はずれを引いたみたいだが、老人が駄菓子を差し出してきた。

「え?はずれじゃなかったの?」

「いいんだよ。そういうのはもらっとけ。」

 サヘラは駄菓子を受け取り、深々と頭を下げた。
 ……今朝もベルに対して同じように頭を下げていたな。
 昨夜に服を作ってもらい、今朝は整髪もしてもらっていた。
 感謝してもしきれないくらい恩があったのだろう。

「あんたはやらんのかい?」

 すると、老人が俺に向けて箱を差し出してきた。
 ……正直どちらでもいいのだが、サヘラが謎の期待を込めた眼差しで見てきたから一応やることにした。
 やらないとそれはそれでうるさそうだし。
 箱に手を入れ、一枚の紙を取り出す。

「……当たりじゃよ。」

「え。」

 当たりを引いてしまったらしく、老人からピアスを受け取った。
 まじか……もう持ってるからいらないのに……

「シエルすごい!」

 当たりを引いたことに対し、褒めてくるサヘラ。
 ……俺がこれを持っていても仕方がない。
 俺はピアスを持った手をサヘラに向け差し出し、

「手、出せ。」

「へ?」

 サヘラは理解できていなさそうだが、俺の言う通りに両手を差し出してきた。
 その手の上にピアスを落とす。

「やる。俺には必要ないし。」

「えぇ!?」

 驚いたサヘラが声を上げる。

「欲しかったんじゃねぇのかよ。」

 そう言うとサヘラは頷いた。
 サヘラはしばらく手の平のピアスを見つめていたが、こちらを向き、

「ありがとう!」

 そう言って満面の笑みを浮かばせた。
     
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