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第一章 バルガス公爵領

第二十三話 冒険者ギルドの初心者講習

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「さて、これから冒険者ギルドに行くけど、準備は大丈夫?」
「バッチリ! 問題ないよ」
「よし、じゃあ行くか」
「おー!」

 午前中のシルの魔法講座が終わり、午後は冒険者ギルドでの初心者講習。
 お昼を食べて、準備も万端。
 早めにお屋敷を出て冒険者ギルドに行きます。

「お兄ちゃん、初心者講習って何やるんだろう?」
「うーん、どうも講師役次第みたいだ」

 講師役の先生になる上級の冒険者次第で、講習の内容が変わるみたいだ。
 ひどい講師だと、半日自分の武勇伝で終わる事もあるそうだ。
 流石にそんなひどい人に当たることは少ないが、癖がある人はいるそうだ。
 冒険者だから、自意識過剰の人は割合的に多そうだ。
 そんな事を思っている内に、冒険者ギルドに到着。
 受付に行こうとすると、中にこの間会った人がいた。 

「おう、サトーじゃないか」
「あれ? ビルゴさんじゃないですか。どうしてここに?」
「指名依頼でな。危険な事じゃないんだが、ちょっと退屈なんだよ」
「そうなんですね。俺は初心者講習なんですよ」
「そういやこないだ会った時も登録したばっかりと言っていたなあ。ククク、これは面白くなった」
「面白くなった? 何かあったのですか?」
「いや、こっちの話だ。ミケの嬢ちゃんも初心者講習かい?」
「うん、そうだよおっちゃん」
「そうかいそうかい。ははは、こりゃいいや。退屈な仕事と思ったけど、退屈しなくてすみそうだ」
「退屈しなくて済むの?」
「そうだよミケ嬢ちゃん。俺はもう行くな。サトーもまたな」

 そう言って、ビルゴさんは受付の奥に行ってしまった。
 面白くなった指名依頼ってなんだろう?
 とりあえず俺らも受付済ませよう。

「こんにちは、サトー様、ミケ様。初心者講習の受付を行います。カードの提出をお願いします」
「はい、お願いします」
「お願いします!」
「ありがとうございます。講習が終わってからの返却になりますので、忘れずに受付に来てくださいね」
「わかりました」
「本日はサトー様、ミケ様を含めて九名で講習を行います。お時間になりましたら呼びますので、この建物の中にいてくださいね」
「はーい!」
「すみません、質問ですが、従魔は講習の間はどうすればいいですか?」
「従魔も一緒に受けてもらいます。もし難しい場合はお預かりしますが、いかがしますか?」
「一緒に受ける様にします。ありがとうございます」

 受付が終わったので、ミケ達と一緒に依頼票を見る事にした。
 Fランクになると外に行けるから、受けられる依頼もだいぶ変わるんだ。
 薬草採取の依頼もだいぶ多いなあ、確かギルドのハンドブックに薬草の種類が載っていたっけ。
 
「なんで金ピカ女なんかと一緒に受けないといけないんだよ」
「私たちも、見窄らしい方と一緒はごめんですわ」
「なんだと!」
「なんですの!」
「ガイ、やめなよ……」
「止めるな!」
「リンも、もうその辺で……」
「止めないでください!」
「「ぐぬぬぬ……」」
「「「「「オロオロ」」」」」

 そんな事を考えていたら、受付の方が騒がしい。
 よくみると男女のグループ、というか二人の男女が言い争っていた。
 周りの人は止めようとしているが、全く聞く耳持たないようだ。

「ふう、いつまで喧嘩しているのかしらねえ……」

 そう思ったら、いつの間にかこの街のギルドマスターが、俺の横に立っていた。
 すげー。全く気配がわからなかったよ。
 ミケもシルもスラタロウもみんなビックリしているぞ。

「あら、サトーさん、それにミケさんも」
「あ、マリシャさん。どうしてここに?」
「下から何やら、物音が聞こえてきて。そうしたらあの惨状よ」
「ははは、確かにあの声だと上まで響きそうですね」
「そうなのよ。いつもは、あの人が顔を見せると直ぐに大人しくなるんだけど、今日は出かけていていないのよね」
「あー、確かに。見た目はもの凄い効果ありそうですね」

 そんな事をマリシャさんと話ししていたけど、喧嘩は一向に収まらない。

「ふう、そろそろ止めないとね」
「そうですね、マリシャさ……ん?」

 不意にギルド内の空気が重くなった。

 うわー、マリシャさん怒っちゃったよ。
 殺気がギルド内に漏れているよ。
 ミケもシルもスラタロウも怯えている。
 もちろん周りの冒険者達もガクブルだ。

「あなた達、一体何しているのかしらね」
「「ひぃ」」

 そしてその殺気は喧嘩していたグループ、もとい二人に向けられていた。
 さっきまで喧嘩していた二人だが、今は抱き合って涙流しながらガクガクブルブルと震えている。
 グループのメンバーは、床にペタンと座り込んでいる。
 見た目は小さなご婦人なのだが、そこから出ている殺気はドラゴンも殺せそうだ。
 
「ギルドマスター……」
「「え? ギルドマスター?」」
「うふ」
「「あわわわわ……」」

 職員がポツリと漏らしたそのギルドマスターという言葉に、二人は怒らせてはいけない人を怒らせたと理解した。
 マリシャさん笑顔だけど、その背後には包丁を持った般若の姿が見えるよ……。
 二人は己の命の危機を感じ取って震えていた。

「マスター、準備ができた……。何だこの殺気は?」

 と、そこにビルゴさんと仲間の二人がやってきたけど、殺気にビックリしている。
 そして、ギルドマスターを見て震えていた。

「サトー、何でギルドマスターはあんなに怒っているんだ?」
「あそこのグループ、てか今抱き合っている二人が大声で喧嘩していて……」
「マジかよ。マスターはギルド内の喧嘩は滅茶苦茶怒るぞ」
「俺も実感しています」

 ビルゴさんは、俺にマスターが怒っている理由を聞いて、あちゃーって顔をしている。
 そりゃ誰だって自分の職場で喧嘩なんてやったら怒るよな。

「あら、ビルゴさん。お時間ですか。ふう、ここまでにしてきますかね」
「お仕置きにしちゃキツくないですか?」
「うふふ、締めるときはちゃんとしないとね。後はビルゴさんお願いね?」

 マリシャさんがビルゴさんに気がついて、殺気がおさまった。
 おお、心なしか空気がうまい。
 そしてビルゴさんに主導権が渡された様だ。

「たく、面倒な事になったもんだ。おい、お前らとサトー達もだな。俺の後についてこい」
「え? 俺もですか?」
「そうだ、別に怒るわけじゃないぞ」

 そうしてビルゴさんはスタスタとギルドの裏庭へ歩いて行き、俺たちもその後をついていく。
 怒られていたグループも付いて来るが、誰一人喋る事なくお葬式状態だ。

 連れてこられたのは、ギルドの裏庭にある訓練場だ。
 
「とりあえずそこのグループは離れて座れ。サトー悪いが間に入って座ってくれ」
「あ、はい」

 頭をぽりぽりかきながら、ビルゴさんは喧嘩したグループを離して座らせ、俺たちを間に入れた。
 もうこれ以上喧嘩させないためだろう。

「では改めて、今回の初心者講習を担当するビルゴだ」
 
 ギルド内の話の流れから何となく想像出来ていたけど、担当がビルゴさんで良かった。
 ミケはビルゴさんが担当だから大喜びしている。

「講習を始める前にお前らに言っておく事がある。冒険者は割合的に血の気のある奴が多い。冒険者同士のいざこざもそこら中である。だが、公共の建物の中での喧嘩は御法度だ。特にギルド内での喧嘩はダメだ。最悪ギルドカードの剥奪もありえる。一部の行為が冒険者全体の信用を落とす事になる。冒険者ってのは信用が第一だ。信用を失った冒険者は仕事もこねえぞ」

 特に喧嘩していた二人は神妙な面持ちでビルゴさんの話を聞いていた。
 安易な行動が起こす結果が重くなる事を認識しているのだろう。
 前世では漫画とかでギルド内で喧嘩するところが描かれていたけど、この世界はきっちりしているんだ。
 信用がない人に大きな仕事を任せられないからなあ。
 ビルゴさんもマリシャさんからの信用があって、講習の指名依頼があったのだろう。

「とりあえず喧嘩した二人。ギルドカード剥奪にならなくて良かったなあ。マスターは特にギルド内での喧嘩に厳しいんだ。あれ位で済んで良かったぞ。本気でマスターが怒ったら……」

 ビルゴさんはあえて最後まで言わなかったが、二人の顔が真っ青になった。
 あの殺気以上のお仕置きがあるなんて考えられないだろうね。

「だいぶ時間も経っているので早速始める。先ずは冒険者の心得だが、重要な所はさっき話した。とにかく冒険者は信用第一だぞ。冒険者のハンドブックは一回全部目を通しておけ。次は依頼を受ける上での心構えだ。おい、そこの、何だと思うか?」
「はい、えーと、完了までの早さでしょうか?」
「それもあるが、一番大事なのが準備だ。準備を怠ると死ぬぞ。その場所でどういう魔物が出るのか。依頼達成するにはどういう道具が必要か。食料や回復薬の準備はいいか。装備は問題ないか。当たり前が出来ないと自分が死ぬだけだ。行き当たりばったりで自分が死んで仲間も全滅だったらもっとダメだ。特に上級職ほど準備はしっかり行うぞ」

 ビルゴさんは、女性グループの一人に冒険の心得を聞いていたが、確かに何事も準備は大切だな。前世の仕事もそうだった。行き当たりばったりでは、本当に全滅しそうだ。特にこの世界は命は軽く扱われがちみたいだし。

「冒険者ギルドには様々な情報がある。簡単な依頼の場合だったら問題ないかもしれないが、Fランクになれば森にも入るようになる。魔物の情報などは、常に最新の物を手に入れとけ」
「とにかく分からなかったらギルド職員に聞け。聞くのは恥ではない。何も情報がない方が恥だ」
「また、些細な事でもおかしいと思ったら直ぐにギルドに報告しろ。ちょっとおかしいが実は大事件って事もある」
「あと意外と多いのが守秘義務を守らない奴だ。ただし、犯罪につながる場合は例外だ。直ぐにギルドに報告しろ」

 みんな真剣に頷いて聞いていた。社会人やっているのならOJTなんかで教えてくれるがここは異世界。
 こうして少しでも被害を無くそうと、ギルド側も必死なんだな。

「さて、座学はこの辺までだな。もう一回言っておくが、冒険者のハンドブックは一から読み直せよ。少し休憩だ」

 座学はここまでらしい。当たり前の事が多かったが、改めて聞くと気をつけないといけない事ばかりだな。
 休憩終わったら何をやるのだろうかって思ったら、ビルゴさんが近づいてきた。
 
「サトー、お前はテントはれるか?」
「問題ないですよ。この街までの道中でも使っていたし。ミケも補助があれば何とか」
「そうか。悪いが最初に手本を頼む。あと戦闘訓練も行うが、その時も最初にやってもらいたい」
「テントなら問題ないですよ、戦闘も多分問題ないかと」
「テントも戦闘も、ミケにお任せだよ」
「ほう、戦闘か。我に任せるのだぞ」
「みんな問題ないみたいですね」
「そうか、正直サトーなんかは初心者じゃないと思うが、この講習は義務だからな。暇だと思うがもう少し付き合ってくれ」
「暇じゃないですよ。再確認にもなってとても役立っています」
「そうか、それは良かった。じゃあ、このあと宜しくな」
「はい、おまかせを」
「ミケにお任せだよ!」
「我に任せるのだぞ」

 ビルゴさん的には俺たちは初心者ではないらしいが、この講習は役に立っている。
 それにこの間のお婆さんの事もあるし、少しはお手伝い出来れば。

「では、実践編に入るぞ。お前らポーションは持っているな。ポーションは飲んでも効くし怪我の部位にかけてもいい。初心者の内は怪我もしやすいから、多めに持っておくことだ。薬草なんかの類は、きちんと処理をしないと使えない物もある。値段はポーションよりも安いが、購入する時にきちんと確認しておけ」
「ナイフも用意させたが、これは戦闘用のものとは別だ。ナイフは解体でも使うし、ちょっとした小道具を作るときにも使えるし、料理にも使える。上級者に聞くか、書店でナイフの使い方の本を購入する事を薦める」

 回復薬とかは多めにあった方がいいな。この間ルキアさんに色々選んでもらったから当分大丈夫だけど、自分でももう少し補充しておこう。
 あとキャンプやっている身としては、ナイフは万能っていうのは実感する。荷物が少ない時は、ナイフあるとないとでは大違いだ。

「では、これからテントはりの実践を行う。最初にサトーが設営するからよく見るように。じゃあサトー始めてくれ」
「はい、わかりました」
「ミケも頑張るよ!」

 マジックバックからテントを出す。アイテムボックス持ちだとわかると大変だし。
 テントを広げ、ミケと一緒に設営する。
 ここにくる道中も行っていた事なので、十分もあれば設営完了。
 ビルゴさんもうなづいている。問題なさそうだ。
 心なしか二つのグループから羨望の眼差しを向けられている。

「サトーありがとう。サトーのテントは人数より広めだが、それはなぜだ?」
「荷物をおくスペースを確保する事と、予備のスペースです。人が避難する事もあるので」
「結構、完璧だ。テントは一人分位大きいものを薦める。だがそこは予算の都合次第だ、強制はしない」
「ではサトー、テントの撤収をしてくれ。撤収終わったら、他の所を手伝ってやってくれ。お前らもテントの設営、撤収を始めろ」

 撤収も慣れているからあっという間だ。設営よりも早くできる。
 撤収終わって周りを見渡すと……
 あちゃー、両方のグループともにテントの設営に苦労している。

「ミケとシルとスラタロウは女の子のグループを手伝ってくれる? 俺は男子の方を手伝ってくる」
「わかった、ミケお手伝いしてくるよ」
「我に任せるのだぞ」

 ミケ達に女性の方の手伝いに行ってもらった。ビルゴさんの仲間の人もいるし、大丈夫だろう。
 さてさて、こっちはどうなっているのかな?

「うーん、説明書読んでも分からん……」
「これがこっちなのか?」
「いや、これがこっちだろう」

 おっと、なかなか大変だ。説明書読んでいる人が理解していないから、的確に指示が出せていないようだ。
 説明書を読んでいるのは喧嘩していた男の子だな。確かガイって言っていたなあ。

「どんな感じだ?」
「あ、サトーさん。説明書がなかなか分からなくて……」
「どれどれ? あー、これは見難いよね。もしかして安いテントを買った?」
「はい……、俺らあまりお金なくって……」
「最初は誰でもそうだよ。説明書に内容を書き足すから、筆記用具を出して。ちょっと説明書が記載不足だ」
「え! そうなんっすか?」
「この商品はある程度テント設営経験者向けの物なんだ。初心者には難しいよ。でも物は良いから使う分には大丈夫だ」

 前世にもあったけ、初心者お断りの商品が。それを買っちゃったみたいだ。
 でもこうして接する分には、さっき喧嘩していた感じはなく、随分素直なんだよね。
 きっとこの街に来たばっかりで、気が立っていたのかな?

「おお、俺たちでテントが出来た」
「うん、問題なさそうだね。撤収は逆の手順で。何回か設営すれば、直ぐになれるよ」
「はい、手伝ってもらってありがとうございます」
「いえいえ、俺はあっちを手伝ってくるから、残り頑張ってね」

 うん、手順書に追記したら直ぐに出来た。この辺は流石男の子だな。
 礼儀も出来るけど、ちょっと世間知らずだな。

 さてさて、女の子の方はっと。
 見た感じ、もう少しで完成みたいだな。

「これはこっちに置くんだよ。あ、お兄ちゃんだ!」
「ミケ、シル。こっちはどんな感じだ?」
「主人、最初は時間がかかったが、もうすぐ終わりそうだぞ」
「お兄ちゃん、このテントすっごく高そうだよ」
「ああ、これは高級品だ」
「主人、これは単純に見栄えはするが、機能はそれほどでもないぞ」
「うん、そんな感じだね……」

 女の子の方のテントは見てくれはすごいが、機能は一般品と変わらないぞ。
 うーん、設営もめんどくさそうだし、これはあまりお勧めしないなあ……
 女の子たちの服装を見ると、お金持ちや貴族が着るような豪華な逸品だ。
 これはよく選ばないで、薦められるがままに高いの買わされた様だな。

「もう少しで出来上がりそうだな」
「あらサトーさん。ええ、ミケさんが手伝って下さったおかげですわ」

 女の子チームに声をかけたら、喧嘩していたリンという子が返事をした。
 受け答えを考えると、貴族かな?

「しかしながらこのテントはすごいね」
「ふふ、そうでしょう。お父様の知り合いの商会に作らせた特注品ですわ」
「なるほど、確かに豪華だ。しかしながら実際に使用することはお勧めしない」
「なんでですの?」
「まずこのテントは目立ちすぎる。普通の貴族なんかは野営の時には護衛がつく。しかし冒険者には護衛はつかない。このテントでは襲ってくださいって言っているようなもんだ」
「それは……」
「それに森の中とかでもこの派手な色では目立ってしまう。俺たちのテントが地味な色なのは、魔物に襲われないためでもあるんだ」
「はい、確かにそうですね」
「とはいえ、これだけ豪華なテントだ。捨てるには惜しい。自分でお金を貯めて自分にあったテントを買ってみるのも良いだろう」
「その時は、一緒に選んでくださる?」
「もし、この街に俺たちがいたならな」
「約束ですよ、サトーさん」

 うーん、この女の子チームも素直なんだけど、ちょっと人を信用しすぎるというか。
 男の子チームと別の意味で世間知らずだな。

「サトーよ、この二つのチームはどうだい」
「うーん、ちょっとお人好しというか世間知らずというか。悪い冒険者に騙されないか心配ですね。特に女の子の方はお金も持っているので、なおさら危険です」
「そうか、俺と一緒の見解だな。仲間も同じ事を言っていた。サトー、少しでいいがあの二つのチームを気にかけてやってくれ。俺も何気なしに見ておく様にする。流石に教え子が騙されたってのは目覚めが悪い」
「それは良いですけど、俺も初心者ですよ?」
「さっきも言ったが、お前らは初心者ではない! むしろ今すぐ上級者でも問題ないだろう」
「いや、暫くは初心者でいたいですよ」
「ははは、それだけ実力が既にあるということだ。さてこれから戦闘訓練だ。さっき頼んだ通り、最初にやってくれや」
「はいはい、分かりましたよビルゴ教官」

 ビルゴさんはそう言って、一度ギルドに戻り、それから何やら小さな魔道具を持ってきた。
 これから何を始めるのだろうか。

「ちょいっと待ってくれ。よし、『ゴーレム起動』」
「「「おお!」」」

 ビルゴさんが魔道具を起動させると、訓練場の土を使ってゴーレムが三体出現した。
 ゴーレムはなかなかの動きをしているぞ。

「ふう、ではサトー達準備してくれ」

 ビルゴさんから準備の合図があったので、それぞれの武器を用意する。
 ミケがでっかいバトルハンマーを出してブンブン振り回した時は、みんなびっくりしていた。
 そしてスラタロウも参加すると知った時は、呆れた目で見ていた。
 ……、うちのスラタロウは攻撃も出来るんだぞ!

「では、開始!」
 
 ビルゴさんの合図で、ゴーレムが突っ込んできた。
 スラタロウが何故か光ったら、ゴーレムの動きが止まった。
 あれ? ゴーレムの足が氷で固まっている?
 もしかしてスラタロウが?
 と思考しながら、俺、ミケ、シルで各個撃破。
 時間にしても数秒だっただろう。
 振り返ると、ビルゴさん含め全員が唖然としていた。

「えーっと、お疲れさん。上級者モードだったんだが、瞬殺だったか……」
「え? 上級者モード?」
「マスターがサトーの実力を見てくれということだ。多分大丈夫とは言っていたが、想像以上だったよ」
「ははは、それはどうも」

 くそー、マリシャさんも一枚噛んでいたか。
 しかしながら俺の感想はそこじゃない。
 他の二つのグループも言っている事だ。

「おいおい、あのスライム魔法使ったぞ」
「スライムって魔法使えたっけ?」
「あのスライムかわいい」
「……あのスライム飼いたい」

 まあ気分はわかるけどな。それとスラタロウは誰にもやりません。

「お兄ちゃん、スラタロウ凄かったね!」
「流石、主人の眷属だぞ」
「でもスラタロウが使えるのって、アースウォールじゃなかったっけ?」
「お兄ちゃん。スラタロウがね、昨日の夜に魔導書読んで覚えたんだって」
「えー!」

 昨日の夜、ペラペラと音がしていたのはスラタロウか。
 でも、これで全属性魔法が使えるとなると、とんでもないスライムになるぞ。

「さて、気を取り直して。お前ら用に初心者用のゴーレムを出す。十分間耐えるか、ゴーレムを倒せばお前らの勝ちだ。負けてもペナルティは無いから、思い切っていけ」
「「はい!」」
「それでは、始め!」

 さて、二つのグループはどんなものかな?
 男の子のグループは。うーん、武器があっていないのかな? 攻撃がチグハグだ。
 連携は取れているのに、もったいないなあ。
 対して女の子方はと。うん、わかっていたけど、良い武器使っているね。魔法使いもいるのか。
 しかし連携がまだまだだな。

「よし十分だな、終わりにしろ」
「「はあはあ、ぜいぜい」」
「サトー、お前が見た感想はどうだ?」
「良いんですか? 俺で」
「お前なら問題ないだろう」
「うーん、それでは。男の子の方は連携は取れているけど、武器がそれぞれにあっていないね。女の子の方は、武器はいいけど、お互いの連携が取れていない」
「流石だなサトー。全く同意見だ。男どもは、一度俺らが武器を見てやる。女の方はギルドが行なっている連携訓練に参加するように。お互い改善できれば、ゴーレムは倒せるぞ」
「「「「はい」」」」
「「「分かりましたわ」」」
「まあ、十分よくもった。そこそこは出来るから安心しろ。サトー達の強さは気にするな」
「あれ? 俺達は?」
「何回も言っているだろう? お前らは実力は上級者だと」
「はい……」
 
 最後に俺たちの事が流されたよ……

「いいか、お前達。冒険者なんてもんは命あってのものだ。危なくなったら逃げるのが鉄則だ。撤退は恥じゃないぞ」
「「「はい!」」」
「よし、講習はこれで終わりだ。各自後始末したら、受付に言ってカードを受け取れ」
「「「ありがとうございます」」」

 これで初心者講習は終わりか。ビルゴさんの教えも良かったから、楽しかったな。

「はい、カードをお返しします。明日からはFランクの依頼も受けられます」
「やったー! どんどん薬草採取するよ!」
「ミケ様は楽しみみたいですね、サトー様お疲れ様でした」
「「お疲れ様でした」」

 既に夕方になっていた。
 お屋敷に帰ったらすぐにご飯になるのかな?

「お兄ちゃん、明日が楽しみだね!」
「そうだね」

 ミケと手を繋ぎながらお屋敷へ帰っていきます。
 今日はゆっくり休んで、明日また冒険者を頑張ろう。

「ビルゴさん、サトーさんはいかがでしたか?」
「いやー、上級ゴーレムが瞬殺されましたよ。強さの底が見えないです。チームのバランスもいいし、相手の戦力を見抜く事も、的確な助言をする事も出来ます」
「あらー、高評価ね。あなたがそこまで評価するのは、なかなかないんじゃ?」
「謙遜を、マスター」
「もうすぐAランクになるビルゴさんの目は正しいですよ。サトーさんはもう護衛依頼もこなしているので、まずはCランク位かしら?」
「初めはその位が妥当かと。もしかしたら数日で更に実力上げる可能性もありますし」
「あらー、それは楽しみねー。うふふ、有望な新人が現れて嬉しいわ」

 サトーが帰った後、ギルド内でこんな会話があったとかなかったとか。
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