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36 介錯
しおりを挟む「腸間膜ってのがどうなっているか、解剖図ではよく分からないのよね。実際に出して広げてみないとね。前に見た切腹でも、良く分からなかったのよ。腸をまとめて掻き出して、お腹から垂らしたまま、すぐ介錯だったからね」
「美紀さん。準備完了っすよ~、じゃあ、小腸からどうぞ~」
「はい、出すわね」
腹部の皮を除去していた夏実さんと場所を替わった美紀さん、小腸を掬うように両手を突っ込み、そのまま掴んでグチョグチョッと引き出します。更に左右に広げる…。
うわ、凄い。透明な膜が…。血管が放射状に走っていて、麗しい。アレが腸間膜。腸がこの膜で腹部奥に繋がっているのです。
これ、凄すぎます。とっても綺麗です。生きている人間の小腸と腸間膜。こんなに美しいモノだとは…。ピクピクと血管は鼓動していて、中を赤い血が流れています。
あ、ダメ…股間がジンワリ濡れてきてしまいます。
私はホントに、ド変態です。
「すごいね。こんなになってるんだ。腸を完全に体外に取り出すには、これを破かなきゃね」
そういいながら美紀さんは、綺麗な膜をベリベリ破き、小腸を一本の管状にして、腹部内から分離させてゆきます。当然、膜内を走っている血管もズタズタに切れてしまい、真っ赤になって血みどろ状態。これもまたソソル…。
次は大腸。内視鏡で二回調べた臓器ですから、こちらは良く分かっています。
腹壁に固定されている上行結腸や下行結腸は剥ぎ取るようにし、小腸と同じく腸間膜で繋がっている横行結腸とS状結腸は膜を破いて出し、直腸でサクッと切って摘出。
その後に胃。そして肝臓。更に子宮と卵巣。切腹時に取り出す予定の内臓を次々摘出します。
凄いです! 凄すぎます!! 興奮です!!!
「う~ん。だけど、動けなくされちゃってるから、出すときの痛みとか体の反応とかが分かんないね」
「大丈夫っすよ~。それは、私が切腹する時にお伝えしますからね~」
「そうね。よろしくね」
まだ体内には腎臓とか心臓とかが残っています。しかし、それらは切腹では出さない臓器。出したら出血多量で即動けなくなってしまうからです。
ですので、そういったものには手を付けません。これで終了・・・。
いや、違いますよ。
切腹の際、最後に行うことがあります。
そう、介錯です。首を切るのです。
美紀さんと夏実さんは、その相談をしています。
「寝かせたままですから、スパッと切れませんよね~。でも、切ったらどんなになるかも見たいですね~」
「そうよね。じゃあ、切ろうか」
美紀さんが介錯用の長い日本刀を出しました。これで、寝かせたまま首を引き斬るというのです。
だけどですね、ちょっと待ってくださいね。
切腹は自分でするものですが、介錯というのは他人にしてもらうものです。自分では出来ません。
この二人は切腹して死にます。そして、私は切腹しない。
ということは・・・。
「あ、あの! それ、私がしましょうか?
だって、美紀さんの介錯を出来るのは私しかいませんし…」
「えっ。有香ちゃん、私の介錯してくれるの?」
「仕方ないじゃないですか。私以外に誰もいないんですよ。
でも、いきなりやれって言われても無理ですからね。だから、練習させてください」
「いいの? とどめを刺すってことは、有香ちゃんが直接にコイツを殺すってことなのよ」
「分かってますよ。もう、こうなったら、何でもやりますよ」
「おおお~、さ、さすがっす~。有香ちゃん、度胸あるっす~。感動っす~」
別に感動してもらわなくて結構です。
仕方ないじゃないですか。介錯が無いってことは、失血死するまで苦しみぬくってことです。最後の美紀さんの切腹を考えると、そんな状態で彼女を放っておけませんよ。私がやるしかないのです。
どうせやるなら、何人やったって同じですし、いきなり大切な人の本番ってのは困ります。練習したいです。
それに……。
二人が行う解剖を見ていて、私も切ってみたくなってきちゃったのですよ。
ゴメンナサイ。真正の変態ですからね。
美紀さんから刀を受け取りました。お、重い…。
「押し付けても切れないからね。引き斬るのよ。実際の介錯の時も同じ。単に刀を振り下ろすんじゃなくて、刀の反りを生かして円を描くよう、引き斬るようにすると綺麗に斬れるからね」
「りょ、了解です」
取り敢えず、目の前の横たわっている女性です。ずっと涙を流しています。痛いんですね。早く楽にしてあげましょう。
刀の根元の方の刃を首に当て、力を込めて一気にズッと引きます。
ううう…。肉の塊を切る感触…。
少し骨に当たりましたが、上手く骨と骨の間に入ったようです。一息でザックリと切れて、あたまがゴロッと転がる…。同時に首の断面から血がビュー、ビューっと、噴き出しました。
これが、人間の首を斬る感触か…。案外、大したことないかも……。
「お見事、有香ちゃん。あなた、凄いね。これで私も安心して切腹できるわ。介錯のことが気がかりだったのよ。なかなか頼みづらくてね。ありがとう」
「いや~全くっすよ~。私の時もお願いしますね~」
分かりましたよ。これくらいのことなら、私が奉仕させて頂きます。ご安心ください。
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