月の影に隠れしモノは

しんいち

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仙界にて

5 謎の美女

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 あっという間の出来事だった。
 光が消えると、雑巾ぞうきんを持ったまま、全く知らないところに立っていた。

 社務所の中に居たはずなのに、屋外…。
 室内に居たので、当然履物はきものいていない。作務衣さむえ姿で靴下くつした状態のまま、土の上に立っている。

 たしか、大叔父が昔、言っていた。

「神隠しというのは本当にある。それが起きるときは白い光に包まれる。気が付くと知らないところに移動しているのだ…」

(俺は神隠しにあったのか…)

 大叔父の言葉を思い出しながら、慎也は辺りを見回した。
 少し先に、石造りの遺跡のような古い建物がある。他には緑の草木と、舗装されていない土の道しか目につかない。
 人は見当たらないし、自動車も走っていない。
 看板も、標識も、電柱も、電線も、何も無い。…どれだけ田舎なのか。
 いや、小鳥のさえずりさえも聞こえない。
 明らかに、オカシイ…。
 この世と思えない世界……。

 どうしたものかと、慎也が一人で困惑していると、古い建物の戸がスーッと開いた。誰もいないということでは無かったようだ。人嫌いとは言え、これには取り敢えずホッとした。
 そこからは一人の美しい女性が出てきて、慎也の方に向かって真っすぐ歩いて来る。
 山吹色の着物姿。しかし、普通の着物では無い。大振りの、平安時代衣裳のような、うちきというのであろうか。その長いすそを引きずらないように、左手でたくし上げている。
 地に着きそうなくらいに長い、綺麗でつややかな黒髪…。
 女性の年齢を詮索すると怒られそうだが、二十代の中半くらいに見受けられる。そして、慎也よりも、背は高そうだ。

「ようこそ仙界へ。お坊様? いや神主殿か…。懐かしいのう」

 慎也の前まで来て彼の作務衣姿を見、女性は言った。
 神主と分かったのは、剃髪していないのと、作務衣の上衣が白で、下はかまの色が浅葱あさぎ色だったことからだろう。…浅葱色というのは、水色のような色。神主の袴の色として、よく見る色だ。僧侶用の形式とは少し違う、神職用の改良作務衣だったのだ。
 だが、まあ、そんなことは、どうでも良い。神隠しになって、そこへ訳知り気な女性の登場だ。慎也はここで、何かをさせられることになるのだと直感する。そして、素直にいてみることにした。

「あなたが俺をここへ呼んだのですか? 何をさせる気ですか?」

「おやおや。あまり驚いておらんのう。さすがは神主殿じゃ」

 女性は、意外そうな顔をした。
 まあ、通常は取り乱すものかもしれない。
 しかし、騒いでも事態が好転するはずがない。冷静に状況を確認するのが最善というものであろう。

「ワラワが呼んだのではない。が、何かさせられるというのは大正解じゃ」

 そう言いながら、彼女は笑顔を見せる。
 優雅な動きで、平安貴族のお姫様といったたたずまい。おまけに、容姿端麗。目元が少しキツ目だが、知的雰囲気のただよう超絶美人だ。

「話が早いのは助かる。まあ、立ち話もなんじゃ。こちらへ」

 手招きし、歩いて、さっき出てきた遺跡のような建物へ向かって行く。
 慎也は後に続き、女性が入って行った部屋の中を、入り口でのぞき込んだ。
 少し薄暗い部屋の中で、さらに手招きする女性。
 女性は入り口で草履ぞうりを脱いだが、慎也はそもそも履物はきものを履いていなかった。そのまま入れば、室内を汚してしまう。靴下を脱いで裸足になり、中へ入る。

「お出迎えじゃから袿を着たがの、邪魔じゃから脱がしてもらう」

 女性は、羽織っている大振りの着物を脱いだ。
 白といっても純白では無い少し黄色がかった着物に、赤いはかま姿となる。
 所謂いわゆる巫女みこさんの格好に近い。が、決定的に違うのは、着物が薄い…。おまけに襦袢も下着も付けて居ないようだ…。
 豊かな乳房が透けそうで、慎也は目のやり場に大いに困った。

 それほど広くは無い部屋。木製の机と、立てかけた木刀、他には大き目の寝台のような物があるのみ。
 女性は脱いだ袿を優雅に畳んで机に置き、寝台のような物に腰掛けた。
 再度手招きし、坐った自分の隣を指差す。…「ここへ坐れ」という指示だ。
 ここがどこかも、何も分からない状態。抵抗しても仕方がない。慎也は素直に隣に坐った。しかし、薄暗い部屋で、透けそうな着物の美女の隣…。緊張で喉が渇き、つばをゴクッと飲み込む。

「ふふふっ。そんなに硬くならなくても良いぞよ。ここが其方そなたの部屋じゃ」

 笑顔が逆に怖い。それに、顔が近い…。

(このまま、このベッドに押し倒されるのか?)

 心臓が、トクトクトクトクと高鳴る。

其方そなたは『龍の祝部ほうり』の候補として選ばれたのじゃ。候補はあと二人、つまり三人から一人のみが祝部となる」

 聞きなれない言葉が、女性の口から発せられた。慎也には、意味が分からない。

「あ、あの『龍の祝部』って?」

 おびえと怪訝けげんさが混じった表情で尋ねる慎也に、女性は、やはり、かなり近くに顔を寄せて答える。

其方そなたらが居た世を救う存在となる『神子かんこ』を産ませる役目を持つ者なのじゃが…。まあ、早い話、『種馬』という奴じゃな~」

「た、種馬って……」

 言葉に詰まった慎也に、先程まで顔のみ寄せていた女性は、今度は体ごと、ジワジワとすり寄ってきた。
 肩が触れる…。着物越しだが、柔らかい感触…。
 そして、はち切れんばかりの豊かな胸に目がゆく…。
 ピンク色の乳首が薄っすら透けている…。

(やっぱり、ここで、この女性とってことか?)
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