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美雪と早紀

20 野村医療研究所4

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 検査の結果、早紀に精子は無かった。
 つまり、男性機能は無い、完全な女性だ。

 まあ、そうだろう。精子があれば精巣がどこかに隠れているということになる。
 そして、そうであれば、男性ホルモンも出ているということになる。
 となれば、どこからどう見ても女性らしい早紀の体つきは、説明が付かない。

 スミレに関しても同じであろう。だが、スミレの方は、男女一対一の関係であるから、特に調べる必要性もない。
 この日は、これで終了となり、慎也たちは帰宅。スミレたちは予約してあるホテルへ向かった。
 杏奈と環奈は名残惜しそうに、慎也たちを見送っていた。


 所用で研究所から出ていた徹が帰ってくる。すぐにそのまま、杏奈と環奈を駅まで車で送って行き、再度戻ってくると、亜希子がグッタリしていた。
 あの家族を相手にすると、疲れる…。悪い人たちではない。亜希子にも、徹にとっても、命の恩人たちだ。だが、常識が通じないというか、突飛なことが起きすぎるというか・・・。とにかく疲れるのだ。

 徹は、机に置かれている奇妙な液体が気になった。

「亜希子さん、これ何?」

「あ~、今日の患者の分泌液…。汚染物じゃないから、大丈夫よ。
 もういらないから捨てておいて~」

 こういうものは下水には流さず、処理箱へ入れて、焼却処分することにしている。
 汚染物であれば、もっと厳重な処理をするが、そうでないとのこと。徹は、特に考えも無く、普通の処分箱へ流し捨てた。二重にビニール袋が入れられていて、こぼれることは無い。枯れた花なんかも一緒に捨てられている箱だ。
 その、枯れた花に、早紀の分泌液がたっぷりとかかった。

 翌朝…。

 二人は処分箱を呆然ぼうぜんと見ていた。

 ふたが開いて、綺麗な花が咲きほこっていた。
 あたかも、大量の花を生けた花瓶のように・・・。




 朝から急遽、亜希子に呼び出された慎也たち…。
 案内されて通された検査室の、見事な花に見入っていた。

 スミレたちも帰る前に再度舞衣に挨拶に来ていて、研究所に異変があったということで同行していた。つまり、今ここにいるのは、研究所の亜希子と徹。そして、慎也・舞衣・祥子と、スミレ・総司である。
 双子と美雪・早紀は、それぞれ大学に行っている時間だ。

「え~と、亜希子さん。この目の前にあるモノは、ゴミ箱なんですよね・・・」

 舞衣の質問に、亜希子がうなずく。

「そうなんです」

「いつも花を飾っているのは徹さんですよね。ゴミ箱にも花を咲かせるという、斬新な芸術か何かですか?」

「ま、まさか! そんなことしませんよ!」

 亜希子は、どちらかというとガサツな方。一方、徹は、薬草研究を行っており、野山の植物も愛するナチュラリスト。この研究所は、いつ来ても色々な草花が飾られているが、これは皆、徹がしているのだ。
 しかし、ごみ箱にまで花を活けてしまっては、ゴミを捨てる事が出来なくなってしまう。当然、そんなことをするはずがない。

「処分箱には枯れた草花が入っていました。それが、今朝起きたら全て復活して、根まで生やして茂り、こんなふうに咲き誇っていたんです!」

「いったい、何をしたら、こんな風に?」

 慎也の疑問には、亜希子が答えた。

「あの、昨日の早紀さんの分泌液……。結構な量がありましたよね。検査ではそんなに使わないから、たくさん余っていたんです」

 徹が続ける。

「亜希子さんが、もういらないというから、俺がそこへ捨てたんです。そしたら一晩でこんなことに…」

「こ、これか…。ワラワに分からなかった早紀の力は……。主殿よ、これはすごいぞ。早紀の出す汁は、命を復活させる力を持つモノなのかもしれぬ」

 祥子の言葉を聞き、スミレと総司は、目配せし合った。そしてスミレが、オズオズと口を開いた。

「あ、あの~。昨日は娘さんの前でしたから、心配もされるだろうし、黙っていましたが・・・」

 皆がスミレを注視した。

「総司さんは、末期のがんを患っていたんです。手術しても無駄というくらいの…」

 驚いた視線が総司に向かったところで、あとを総司がつないだ。

「ですが、スミレちゃんと関係を持つようになって、彼女のアレを・・・え~とその、める・・・ようになりまして、進行が止まって痛みも消えたんです。で、もしかしたらと、二人で話して、ゴックンするようにしたら・・・半月で癌が完全に消えました」

「末期の癌が消えた…。凄いじゃない、スミレちゃん!」

「これで、ちょっとは総司さんに恩返し出来たのかなと・・・」

「いやいや、ちょっとどころではありませんよ。彼女は私の命の恩人なんです」

「もう、こういうことは、娘になる早紀ちゃんにも話してあげなきゃ!」

 舞衣が、恥ずかしそうにしているスミレの肩をポンポン叩いた。
 この舞衣の発言には、総司が決まり悪そうに弁明をする。

「い、いや、その・・・。娘に話すには、ちょっと生々しいかなと・・・。スミレちゃんのアソコから出るモノを、毎日飲んでいたなんて・・・」

「あ…。確かに・・・」

「まあ、なんじゃな。その話は我らの方で早紀に伝えるとしてじゃな。とにかく、二人の汁には大いなる力があるということじゃ。性を超越ちょうえつしかけた者の持つ力ということかもしれぬ。精液ならぬ、『聖液』といったところかの」

 表記が違っても音は同じ「セイエキ」。スミレは微妙な顔をしている。他の呼び名に変えて欲しいと思っているに違いないが、無視して祥子は続けた。

「じゃが、主殿の力と同じでな、この事はあまり口外せぬ方が良いぞ。こういう力は、狙われる元となる」

「そうだね…。亜希子さん、徹さん、宜しくお願いします。スミレさんたちも」

 慎也の真剣な表情に、亜希子・徹・スミレ・総司はうなずいた。
 大いなる力は、争いの元ともなりかねない。スミレや早紀が狙われるという事態は避けたい。
 何事も、用心するに越したことは無い。
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