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恵美と河童
37 河童の助吉2
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ここへ来てから二年経ち、最初の報告為の一時帰還の日が来た。
島を統治するのは村主様。その御曹司が異界の情報を集めていると聞いている。
我は二匹を得た時、一緒に一枚の奇妙な書付も入手していた。
書かれていたのは異界の事というより、我ら河童の事と河童渕の取り決めの事だったが、鬼や人魚様の記述もある。だから、書付は、御曹司に進呈した。
上手くすれば、任期満了を待たずに交代させてもらえるかもしれないという下心もあったのだが、やはり、そんなに甘くない。ただ、御曹司からの褒美として、面白いモノを見せてもらった。
それは、村主様が抱えるヒトの妾だ。
ヒトは我らより長生きだという。村主様に気に入られ、良い待遇をされているようだ。着物を着ているのだから……。
なぜ着物で待遇が分かるかというと、我らは身分によって身に着けられるものが異なるのだ。
役人階級は上半身を包む着物を着る事が出来る。
我ら庶民は上半身裸で、腰蓑姿。これは、男も女も同じ。泳ぐには都合の良い格好だ。着物を着ていると、一々脱がなければならないからだ。
そして、奴隷は何も着けさせてもらえない。腰蓑も、だ…。
だから、着物を着ているということは、我らより上の扱い。役人階級ということになる。
我は、自身の妾に何も着せず、奴隷扱いをしているのだが……。
さて、村主様の、ヒトの妾。着物は着ているが、よくよく見てみると、やはり、あの二匹と同じように緑色の肌になっている。
我は恐る恐る御曹司に訊いてみた。
「人にしては、肌の色が我らと同じ色になっているようですが?」
御曹司は、あの書付の情報に、かなり気を良くしてくれていたようだ。質問には勿論、訊かないことまで併せて教えてくれる。
「うむ。我らの精を受けると、肌の色が同じになってくるようだな。ただ、水掻きは無いし、歯の形が我らとは違うからすぐ判別できる。それは、精を受けても変わらぬようだ。
あの肌の色も、人魚様なら元に戻せるそうだ。ヒトの中にも聖巫女という特別な存在が居って、それの排出するものを喰ろうても、戻せるということだ」
「聖巫女? それが『排出するもの』でございますか?」
「うむ。そう聞いた。ヒトが出すモノというと、糞くらいしかないだろうがなあ」
糞を喰う・・・。
我らは、ヒトのハラワタを喰らう。あの中には糞も入っている。程よく苦く、美味い物だ。
だが、排出された糞のみを喰うというのは、ちょっと抵抗がある。ハラワタと一体になっていればこそ喰えるものだ…。
報告を終えて、隠れ里へ戻った。
ヒトの世との行き来は、人魚様の力を借りなければならない。
当初は朝こちらに来て、昼に帰る予定であった。だが御曹司との面会で帰る時間は夕方に変更となった。人魚様には御曹司から連絡を入れてもらえたようだ。
隠れ里に戻り、異界を繋ぐ門が消えると、物陰からこっちを伺っていたあの二匹が駆け寄ってきた。
「お帰りなさいませ」
「遅いので、心配していたのですよ」
二匹で我に抱き着き、豊かで柔らかな乳房を押し付けてくる。
(我を心配していた?)
代わるがわる接吻も求めてくる二匹……。
二匹にとっては、頼るモノは我だけしかいない。それだけのことであろうが、それでも心配したなどと言われると、悪い気はしない。
その日は、いつもより、激しく交わった。
そして、翌日から、我は二匹に腰蓑を付けさせることにした。
―――――
助吉が人界の隠れ里で、人の妾と激しく交わっていた頃。妖界童島では・・・。
薄暗い部屋の中、燭台の灯りの下で、『御曹司』治太夫が、助吉の持ってきた書付を熱心に何度も読み返していた。
ニヤニヤ怪しい笑みを浮かべながら・・・。
*****
妖覚書
鬼 元は人界の住人。古き時代に戦に敗れ、妖界に逃げ込んだ人の成れの果て。妖界では寿命が長くなり、それに伴って角が生え、特殊な能力を得た。力が強く、その赤く光る眼を見ると動けなくなる。妖界では子が産めないようで、女鬼が人界に来て人の男と交わり、子を生して戻ってゆく。鬼は神鏡を使い、人界と妖界を行き来する。満月に近い月光を映し、五芒星を描くことで異界の門が開く。閉じるには格子文を描く。(……以下欠落……)
河童 肌は緑色で鱗がある。水掻きがあり、歯は小さく鋭い。小柄で動きが早く、力も強い。水中で生活する。人を水中に引きずり込み、尻子玉を抜いてハラワタを喰らう。
その昔、信濃国でたて続けに村人が河童に襲われることがあり、村総出で渕を捜索するも、河童はみつからなかった。翌日、また村の娘が襲われ、尻子玉を抜かれた。そこに出くわした一人の若者が、娘のハラワタを貪り食っていた河童の背後から棒で殴りつけ、気を失った河童を太縄でぐるぐる巻きにして、木に縛り付けた。三日間そのままにし、村人が代わるがわる痛めつけた。息も絶え絶えになった河童を他の河童が助けにきて、戦になり、どちらにも死傷者が出ることになって、河童との協議がもたれた。
河童側の申し出によると、河童は、この人界とは別の、妖界にすむ種族。妖界では子が産めないため、身籠った女河童は、人魚の力を借りて人界へ来る。そして、出産して戻ってゆく。その出産場所が、山中の河童渕である。だから、その場所さえ、侵されないように守ってくれるのなら、以後、勝手に人を襲わない。今回も、人が頻繁に渕に来るようになったことから、引きずり込んだのが始まりだという。もし、人と河童の本格的な争いとなれば、どちらにも多数の死者が出ることになる。互いの領分を侵さないように出来ないかとのこと。
協議の結果、河童渕の人の立ち入りが禁じられた。かわりに河童は人を襲わない。但し、罪人など、要らないモノがあれば放り込んで河童に進呈することとなった。
河童に捧げられたモノか確認の為、渕に罪人を放り込む際の手順も定められた。その作法、簀巻きにし、四つ手を打ち、再度四つ打つ。波紋が広がるのを確認し、いらぬ者。好きにせよと唱えて投げ入れる。
人魚 女しかいない。見た目は人とあまり変わらないが、指には水かきがある。不老不死で、傷を負っても、すぐに治る。だが、長く陸に上がっていることが出来ない。
自分で子を産まず、人の女に子を産ませる。人魚の子は一ケ月で産まれるが、腹を食い破って出て来ることもあるという。
人魚の生き胆を喰うと不老不死になるともされるが、真偽は不明。
人魚は妖界と人界を自由に行き来できる。河童の行き来も人魚が助けていて、河童を支配している。
*****
島を統治するのは村主様。その御曹司が異界の情報を集めていると聞いている。
我は二匹を得た時、一緒に一枚の奇妙な書付も入手していた。
書かれていたのは異界の事というより、我ら河童の事と河童渕の取り決めの事だったが、鬼や人魚様の記述もある。だから、書付は、御曹司に進呈した。
上手くすれば、任期満了を待たずに交代させてもらえるかもしれないという下心もあったのだが、やはり、そんなに甘くない。ただ、御曹司からの褒美として、面白いモノを見せてもらった。
それは、村主様が抱えるヒトの妾だ。
ヒトは我らより長生きだという。村主様に気に入られ、良い待遇をされているようだ。着物を着ているのだから……。
なぜ着物で待遇が分かるかというと、我らは身分によって身に着けられるものが異なるのだ。
役人階級は上半身を包む着物を着る事が出来る。
我ら庶民は上半身裸で、腰蓑姿。これは、男も女も同じ。泳ぐには都合の良い格好だ。着物を着ていると、一々脱がなければならないからだ。
そして、奴隷は何も着けさせてもらえない。腰蓑も、だ…。
だから、着物を着ているということは、我らより上の扱い。役人階級ということになる。
我は、自身の妾に何も着せず、奴隷扱いをしているのだが……。
さて、村主様の、ヒトの妾。着物は着ているが、よくよく見てみると、やはり、あの二匹と同じように緑色の肌になっている。
我は恐る恐る御曹司に訊いてみた。
「人にしては、肌の色が我らと同じ色になっているようですが?」
御曹司は、あの書付の情報に、かなり気を良くしてくれていたようだ。質問には勿論、訊かないことまで併せて教えてくれる。
「うむ。我らの精を受けると、肌の色が同じになってくるようだな。ただ、水掻きは無いし、歯の形が我らとは違うからすぐ判別できる。それは、精を受けても変わらぬようだ。
あの肌の色も、人魚様なら元に戻せるそうだ。ヒトの中にも聖巫女という特別な存在が居って、それの排出するものを喰ろうても、戻せるということだ」
「聖巫女? それが『排出するもの』でございますか?」
「うむ。そう聞いた。ヒトが出すモノというと、糞くらいしかないだろうがなあ」
糞を喰う・・・。
我らは、ヒトのハラワタを喰らう。あの中には糞も入っている。程よく苦く、美味い物だ。
だが、排出された糞のみを喰うというのは、ちょっと抵抗がある。ハラワタと一体になっていればこそ喰えるものだ…。
報告を終えて、隠れ里へ戻った。
ヒトの世との行き来は、人魚様の力を借りなければならない。
当初は朝こちらに来て、昼に帰る予定であった。だが御曹司との面会で帰る時間は夕方に変更となった。人魚様には御曹司から連絡を入れてもらえたようだ。
隠れ里に戻り、異界を繋ぐ門が消えると、物陰からこっちを伺っていたあの二匹が駆け寄ってきた。
「お帰りなさいませ」
「遅いので、心配していたのですよ」
二匹で我に抱き着き、豊かで柔らかな乳房を押し付けてくる。
(我を心配していた?)
代わるがわる接吻も求めてくる二匹……。
二匹にとっては、頼るモノは我だけしかいない。それだけのことであろうが、それでも心配したなどと言われると、悪い気はしない。
その日は、いつもより、激しく交わった。
そして、翌日から、我は二匹に腰蓑を付けさせることにした。
―――――
助吉が人界の隠れ里で、人の妾と激しく交わっていた頃。妖界童島では・・・。
薄暗い部屋の中、燭台の灯りの下で、『御曹司』治太夫が、助吉の持ってきた書付を熱心に何度も読み返していた。
ニヤニヤ怪しい笑みを浮かべながら・・・。
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妖覚書
鬼 元は人界の住人。古き時代に戦に敗れ、妖界に逃げ込んだ人の成れの果て。妖界では寿命が長くなり、それに伴って角が生え、特殊な能力を得た。力が強く、その赤く光る眼を見ると動けなくなる。妖界では子が産めないようで、女鬼が人界に来て人の男と交わり、子を生して戻ってゆく。鬼は神鏡を使い、人界と妖界を行き来する。満月に近い月光を映し、五芒星を描くことで異界の門が開く。閉じるには格子文を描く。(……以下欠落……)
河童 肌は緑色で鱗がある。水掻きがあり、歯は小さく鋭い。小柄で動きが早く、力も強い。水中で生活する。人を水中に引きずり込み、尻子玉を抜いてハラワタを喰らう。
その昔、信濃国でたて続けに村人が河童に襲われることがあり、村総出で渕を捜索するも、河童はみつからなかった。翌日、また村の娘が襲われ、尻子玉を抜かれた。そこに出くわした一人の若者が、娘のハラワタを貪り食っていた河童の背後から棒で殴りつけ、気を失った河童を太縄でぐるぐる巻きにして、木に縛り付けた。三日間そのままにし、村人が代わるがわる痛めつけた。息も絶え絶えになった河童を他の河童が助けにきて、戦になり、どちらにも死傷者が出ることになって、河童との協議がもたれた。
河童側の申し出によると、河童は、この人界とは別の、妖界にすむ種族。妖界では子が産めないため、身籠った女河童は、人魚の力を借りて人界へ来る。そして、出産して戻ってゆく。その出産場所が、山中の河童渕である。だから、その場所さえ、侵されないように守ってくれるのなら、以後、勝手に人を襲わない。今回も、人が頻繁に渕に来るようになったことから、引きずり込んだのが始まりだという。もし、人と河童の本格的な争いとなれば、どちらにも多数の死者が出ることになる。互いの領分を侵さないように出来ないかとのこと。
協議の結果、河童渕の人の立ち入りが禁じられた。かわりに河童は人を襲わない。但し、罪人など、要らないモノがあれば放り込んで河童に進呈することとなった。
河童に捧げられたモノか確認の為、渕に罪人を放り込む際の手順も定められた。その作法、簀巻きにし、四つ手を打ち、再度四つ打つ。波紋が広がるのを確認し、いらぬ者。好きにせよと唱えて投げ入れる。
人魚 女しかいない。見た目は人とあまり変わらないが、指には水かきがある。不老不死で、傷を負っても、すぐに治る。だが、長く陸に上がっていることが出来ない。
自分で子を産まず、人の女に子を産ませる。人魚の子は一ケ月で産まれるが、腹を食い破って出て来ることもあるという。
人魚の生き胆を喰うと不老不死になるともされるが、真偽は不明。
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