月の影に隠れしモノは ~人魚と河童の事件編~

しんいち

文字の大きさ
38 / 80
恵美と河童

37 河童の助吉2

しおりを挟む
 ここへ来てから二年経ち、最初の報告為の一時帰還の日が来た。

 島を統治するのは村主すぐり様。その御曹司おんぞうしが異界の情報を集めていると聞いている。
 我は二匹を得た時、一緒に一枚の奇妙な書付も入手していた。
 書かれていたのは異界の事というより、我ら河童の事と河童渕の取り決めの事だったが、鬼や人魚様の記述もある。だから、書付は、御曹司に進呈した。
 上手くすれば、任期満了を待たずに交代させてもらえるかもしれないという下心もあったのだが、やはり、そんなに甘くない。ただ、御曹司からの褒美として、面白いモノを見せてもらった。
 それは、村主すぐり様が抱えるヒトの妾だ。
 ヒトは我らより長生きだという。村主すぐり様に気に入られ、良い待遇をされているようだ。着物を着ているのだから……。

 なぜ着物で待遇が分かるかというと、我らは身分によって身に着けられるものが異なるのだ。
 役人階級は上半身を包む着物を着る事が出来る。
 我ら庶民は上半身裸で、腰蓑姿。これは、男も女も同じ。泳ぐには都合の良い格好だ。着物を着ていると、一々脱がなければならないからだ。
 そして、奴隷は何も着けさせてもらえない。腰蓑も、だ…。
 だから、着物を着ているということは、我らより上の扱い。役人階級ということになる。
 我は、自身の妾に何も着せず、奴隷扱いをしているのだが……。

 さて、村主すぐり様の、ヒトの妾。着物は着ているが、よくよく見てみると、やはり、あの二匹と同じように緑色の肌になっている。
 我は恐る恐る御曹司にいてみた。

「人にしては、肌の色が我らと同じ色になっているようですが?」

 御曹司は、あの書付の情報に、かなり気を良くしてくれていたようだ。質問には勿論、訊かないことまで併せて教えてくれる。

「うむ。我らの精を受けると、肌の色が同じになってくるようだな。ただ、水掻きは無いし、歯の形が我らとは違うからすぐ判別できる。それは、精を受けても変わらぬようだ。
 あの肌の色も、人魚様なら元に戻せるそうだ。ヒトの中にも聖巫女という特別な存在が居って、それの排出するものを喰ろうても、戻せるということだ」

「聖巫女? それが『排出するもの』でございますか?」

「うむ。そう聞いた。ヒトが出すモノというと、糞くらいしかないだろうがなあ」

 糞を喰う・・・。

 我らは、ヒトのハラワタを喰らう。あの中には糞も入っている。程よく苦く、美味い物だ。
 だが、排出された糞のみを喰うというのは、ちょっと抵抗がある。ハラワタと一体になっていればこそ喰えるものだ…。





 報告を終えて、隠れ里へ戻った。
 ヒトの世との行き来は、人魚様の力を借りなければならない。
 当初は朝こちらに来て、昼に帰る予定であった。だが御曹司との面会で帰る時間は夕方に変更となった。人魚様には御曹司から連絡を入れてもらえたようだ。
 隠れ里に戻り、異界を繋ぐ門が消えると、物陰からこっちを伺っていたあの二匹が駆け寄ってきた。

「お帰りなさいませ」
「遅いので、心配していたのですよ」

 二匹で我に抱き着き、豊かで柔らかな乳房を押し付けてくる。

(我を心配していた?)

 代わるがわる接吻も求めてくる二匹……。
 二匹にとっては、頼るモノは我だけしかいない。それだけのことであろうが、それでも心配したなどと言われると、悪い気はしない。
 その日は、いつもより、激しく交わった。
 そして、翌日から、我は二匹に腰蓑を付けさせることにした。



 ―――――
 助吉が人界の隠れ里で、人の妾と激しく交わっていた頃。妖界童島では・・・。

 薄暗い部屋の中、燭台の灯りの下で、『御曹司』治太夫が、助吉の持ってきた書付を熱心に何度も読み返していた。
 ニヤニヤ怪しい笑みを浮かべながら・・・。


*****
妖覚書
鬼 元は人界の住人。古き時代に戦に敗れ、妖界に逃げ込んだ人の成れの果て。妖界では寿命が長くなり、それに伴って角が生え、特殊な能力を得た。力が強く、その赤く光る眼を見ると動けなくなる。妖界では子が産めないようで、女鬼が人界に来て人の男と交わり、子を生して戻ってゆく。鬼は神鏡を使い、人界と妖界を行き来する。満月に近い月光を映し、五芒星を描くことで異界の門が開く。閉じるには格子文を描く。(……以下欠落……)

河童 肌は緑色で鱗がある。水掻きがあり、歯は小さく鋭い。小柄で動きが早く、力も強い。水中で生活する。人を水中に引きずり込み、尻子玉を抜いてハラワタを喰らう。
その昔、信濃国でたて続けに村人が河童に襲われることがあり、村総出で渕を捜索するも、河童はみつからなかった。翌日、また村の娘が襲われ、尻子玉を抜かれた。そこに出くわした一人の若者が、娘のハラワタを貪り食っていた河童の背後から棒で殴りつけ、気を失った河童を太縄でぐるぐる巻きにして、木に縛り付けた。三日間そのままにし、村人が代わるがわる痛めつけた。息も絶え絶えになった河童を他の河童が助けにきて、戦になり、どちらにも死傷者が出ることになって、河童との協議がもたれた。
河童側の申し出によると、河童は、この人界とは別の、妖界にすむ種族。妖界では子が産めないため、身籠った女河童は、人魚の力を借りて人界へ来る。そして、出産して戻ってゆく。その出産場所が、山中の河童渕である。だから、その場所さえ、侵されないように守ってくれるのなら、以後、勝手に人を襲わない。今回も、人が頻繁に渕に来るようになったことから、引きずり込んだのが始まりだという。もし、人と河童の本格的な争いとなれば、どちらにも多数の死者が出ることになる。互いの領分を侵さないように出来ないかとのこと。
協議の結果、河童渕の人の立ち入りが禁じられた。かわりに河童は人を襲わない。但し、罪人など、要らないモノがあれば放り込んで河童に進呈することとなった。
河童に捧げられたモノか確認の為、渕に罪人を放り込む際の手順も定められた。その作法、簀巻きにし、四つ手を打ち、再度四つ打つ。波紋が広がるのを確認し、いらぬ者。好きにせよと唱えて投げ入れる。

人魚 女しかいない。見た目は人とあまり変わらないが、指には水かきがある。不老不死で、傷を負っても、すぐに治る。だが、長く陸に上がっていることが出来ない。
自分で子を産まず、人の女に子を産ませる。人魚の子は一ケ月で産まれるが、腹を食い破って出て来ることもあるという。
人魚の生き胆を喰うと不老不死になるともされるが、真偽は不明。
人魚は妖界と人界を自由に行き来できる。河童の行き来も人魚が助けていて、河童を支配している。
*****

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...