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恵美と河童
59 治太夫の反乱3
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必死の形相で、「イヤ、イヤ」と、何度も首を横に振るナナミ……。
そのナナミの頭に…。
鉈が振り下ろされる!
ザクッ!!
「うおお~!!」
野太い叫び声・・・。
これは、ナナミのものでは無い。治太夫の方…。
治太夫の背中には、脇差が突き刺さっていた。
投剣術…。恵美が投げたモノだ。
間一髪で、恵美が間に合った。御殿が見える位置まで来た段階で、タケに瞬間移動させた結果だ。
治太夫が振り下ろした鉈は、恵美の攻撃による衝撃の為に途中で勢いを失い、ナナミの頭に命中はしたが、脳にまでは達していない。
ナナミは頭を割られてダラダラ流血し、苦悶の表情を浮かべているが、直ぐに白い靄が出て修復して行く。
治太夫の方はというと、肋骨と肋骨の隙間に綺麗に刺さったようで、傷はかなり深い。すぐに鉈を手放し、背に刺さっている脇差を引き抜き捨てて、ナナミから離れると同時に脇差が飛んできた方向を向く。
が、向いた時にはもう間近に、右手で刀を振りかぶった恵美が接近していた。
慌てて鎌鼬を発動するも、いきなりの事でコントロールを誤った。恵美の右腕を切り落とすつもりが、狙い外れて、それは彼女の右胸の膨らみをザックリ斬り裂いた。
「あうっ!」
恵美は思わず小さく声を上げたが、そのまま攻撃続行。
しかし、彼女もこの傷の衝撃で狙いが外れ、勢いも弱まってしまった。
治太夫の首を狙っていたのだが、肩への斬撃となり、与えた傷も、それほど深くない…。
恵美は、右乳房を縦に完全に割かれ、更に傷は腹部の方まで達していた。
肋骨でかろうじて守られ、肺や心臓には損傷無いが、かなりの出血だ。よろめき乍らも、治太夫から距離を取って中段に刀を構えた。
治太夫も仁王立ちになって、対峙する。
背中と肩の傷からは白い靄が出て、修復されてゆく……。
この状態は、誰がどう見ても、明らかに恵美が不利だ。
深手を負った恵美に対して、治太夫の傷は即座に治癒して無傷の状態になってゆく。
さらに、治太夫は鎌鼬を操るのだ。
…ズタズタに切り刻まれてしまう…
恵美の額から冷や汗が流れ伝った。
「治太夫!!」
恵美の背後、入口の方から怒声が飛んだ。
「銀之丞・・・」
走り入ってきた銀之丞が、恵美を庇う様に彼女の前に両手を広げて立った。
そして、次々と警備の河童が入って来る。
…恵美は、戦闘で警備河童を殺しては居なかった。彼女は木刀で気絶させただけだ。
それが正気に戻り、駆け付けたリナの御殿で、リナの指示を受けて来たのだ。
「治太夫殿!大人しくしてください」
「リナ様のご命令です。貴方を拘束します」
治太夫には鎌鼬がある。一人、二人の事なら、大事の為の犠牲として殺すことも厭わない。
が、続々と入って来る。それには、柩を運んで来ていた荷運び河童も含まれていた。
皆、タケによって次々転送されてきているのだ。
元々、河童一族の未来の為と始めた事。同族を多数殺すことは出来ない。
治太夫は止むを得ず、窓を突き破って外へ跳び出し、闇夜に紛れて逃走を図った。
何人かの警備河童が慌てて治太夫を追ってゆく。
しかし、銀之丞は治太夫を追わず、自分の後方を振り返った。恵美がかなりの深手を負ったように見えていたからだ。
恵美は片膝をついて、苦悶の表情を浮かべている……。
既に頭の傷が治ってしまったナナミも、起き上がって心配そうに覗き込んだ。
よく見ると、恵美の腹から、何か赤い物がダラッと垂れ下がっている。そして、そこからポタポタ血が滴っていた。
垂れ下がっているモノ…。腸だ。 …腹が切れ、腸が出てしまっているのだ。
「た、たいへん! 早く、お母様の元へ! 担架を早く!」
ナナミの叫ぶような指示で、荷運び河童の数人が慌てて担架を用意してくる。
その間にナナミは、血と吐瀉物と体内汚物でドロドロになってしまったドレスをサッと脱ぎ捨てた。
一糸纏わぬ、完全な全裸状態・・・。
顔も手足も血などで汚れているが、色白の綺麗な素肌に形の良い豊かな乳房…。出るところは出て、くびれるところはくびれ、神々しいばかりの素晴らしいプロポーション。
この場に舞衣を知るのは恵美だけだが、顔だけでなく体型までも、彼女は舞衣にソックリだった。
すぐ近くに銀之丞も他の男河童も居るが、ナナミは全裸を曝すのを全く気にしていない。
というのも、そもそも性別の無い人魚には、異性の認識が無い。
また、妹のナナセとは違い、彼女には他のモノと体を合わせる行為の経験も無いどころか、それに対する興味も関心も無かった。
よって、羞恥も何も無い。
ハッキリ言ってしまえば、犬猫の前で裸になっても平気といった感覚だ。
だが、その姿を目にしてしまった男河童たちは、平気では居られない…。皆、大いに慌てまくり、中には腰蓑から大きくなったモノの先がノゾイテいる者もいる・・・。
荷運び河童たちは見なかった振りをして、恵美を担架に乗せる作業を続行した。
何もしていなかった者は、顔を背けるか、回れ右するかして、とにかく急いで目を逸らした。
勿論、どの河童も、大きく目を見開いてシッカリと「美しいモノ」を目に焼き付けた後にだが…。
ナナミは、微妙な雰囲気になっている周りに訝しみながら、顔・体の血や汚れを部屋隅の水槽の水で洗い、壁に掛けてあった新しいドレスに素早く着替える。
準備完了した担架に恵美が乗せられると、「急ぐわよ」と言って、付き添って走り出した。
ナナミの着替えを見ないように目を伏せていた銀之丞も、顔を少し赤め乍らそれに続いた。
そう、とにかく今は、急がなければならないのだ。
ナナミも普段であれば、他種族といえ、河童前で着替えたりするようなことなどしない。一刻を争う事態だから、そうしただけのこと。
夜道を大急ぎで運ばれる担架からはポタポタと血が零れ、地面に赤い点を付け続けてゆく。
途中で警備河童の転送を終えて走って来るタケに遭遇し、そのタケに担架ごと、今度はリナ御殿の近くまで転送してもらった。
すぐに、リナの御殿内に恵美は運び込まれた。
―――リナの御殿―――
恵美たちが飛び出して行って少しすると、警備河童が何人か駆けつけてきた。
中には腕の骨が折れている者もいた。この御殿へ来る途中の恵美にやられたモノだ。
負傷している者は、リナが即座に治癒させた。そして、恵美と銀之丞に協力して反逆者治太夫を捕らえるようにと指示がなされ、ナナミの御殿に向かわされた。
その後も、遅れてパラパラと河童が駆け込んでくる。その都度、リナは治療・指示をする。
愛は、リナの邪魔にならないように、隅にあった椅子に坐って静かに待っていた。
暫くして、慌ただしく担架が運び込まれてきた。
ナナミと銀之丞も一緒に駆け込んでくる。担架からは、ポタポタと赤い血が零れていた。
そして、寝かされていたのは恵美……。
「恵美母様!」
愛は椅子から勢いよく立ち上がり、慌てて担架に駆け寄った。
恵美は、痛そうに顔を顰め、目を瞑ったままだ。
「しっかりして。恵美母様!」
恵美に取りすがるが、その愛の目に入ったモノは…。
パックリ割れた乳房から腹にかけての酷い傷…。傷奥には、肋骨も見える。
そして、腹から溢れ出ている恵美の腸と真っ赤な血液・・・。
「えっ?! い、いやー!! 死なないでー!!」
愛は、半狂乱となった。
恵美は、愛にとって最も信頼している大切な育ての母なのだ。生みの母の舞衣と同等、いや、それ以上の存在と言っても良い。
「大丈夫よ。すぐ治るから」
その生みの母ソックリのナナミが、愛の両肩を背後から持って担架から引き離し、リナに向かって縦に首を振った。
リナも頷き、運ばれてゆく恵美と一緒に、奥の部屋へ入っていった。
そのナナミの頭に…。
鉈が振り下ろされる!
ザクッ!!
「うおお~!!」
野太い叫び声・・・。
これは、ナナミのものでは無い。治太夫の方…。
治太夫の背中には、脇差が突き刺さっていた。
投剣術…。恵美が投げたモノだ。
間一髪で、恵美が間に合った。御殿が見える位置まで来た段階で、タケに瞬間移動させた結果だ。
治太夫が振り下ろした鉈は、恵美の攻撃による衝撃の為に途中で勢いを失い、ナナミの頭に命中はしたが、脳にまでは達していない。
ナナミは頭を割られてダラダラ流血し、苦悶の表情を浮かべているが、直ぐに白い靄が出て修復して行く。
治太夫の方はというと、肋骨と肋骨の隙間に綺麗に刺さったようで、傷はかなり深い。すぐに鉈を手放し、背に刺さっている脇差を引き抜き捨てて、ナナミから離れると同時に脇差が飛んできた方向を向く。
が、向いた時にはもう間近に、右手で刀を振りかぶった恵美が接近していた。
慌てて鎌鼬を発動するも、いきなりの事でコントロールを誤った。恵美の右腕を切り落とすつもりが、狙い外れて、それは彼女の右胸の膨らみをザックリ斬り裂いた。
「あうっ!」
恵美は思わず小さく声を上げたが、そのまま攻撃続行。
しかし、彼女もこの傷の衝撃で狙いが外れ、勢いも弱まってしまった。
治太夫の首を狙っていたのだが、肩への斬撃となり、与えた傷も、それほど深くない…。
恵美は、右乳房を縦に完全に割かれ、更に傷は腹部の方まで達していた。
肋骨でかろうじて守られ、肺や心臓には損傷無いが、かなりの出血だ。よろめき乍らも、治太夫から距離を取って中段に刀を構えた。
治太夫も仁王立ちになって、対峙する。
背中と肩の傷からは白い靄が出て、修復されてゆく……。
この状態は、誰がどう見ても、明らかに恵美が不利だ。
深手を負った恵美に対して、治太夫の傷は即座に治癒して無傷の状態になってゆく。
さらに、治太夫は鎌鼬を操るのだ。
…ズタズタに切り刻まれてしまう…
恵美の額から冷や汗が流れ伝った。
「治太夫!!」
恵美の背後、入口の方から怒声が飛んだ。
「銀之丞・・・」
走り入ってきた銀之丞が、恵美を庇う様に彼女の前に両手を広げて立った。
そして、次々と警備の河童が入って来る。
…恵美は、戦闘で警備河童を殺しては居なかった。彼女は木刀で気絶させただけだ。
それが正気に戻り、駆け付けたリナの御殿で、リナの指示を受けて来たのだ。
「治太夫殿!大人しくしてください」
「リナ様のご命令です。貴方を拘束します」
治太夫には鎌鼬がある。一人、二人の事なら、大事の為の犠牲として殺すことも厭わない。
が、続々と入って来る。それには、柩を運んで来ていた荷運び河童も含まれていた。
皆、タケによって次々転送されてきているのだ。
元々、河童一族の未来の為と始めた事。同族を多数殺すことは出来ない。
治太夫は止むを得ず、窓を突き破って外へ跳び出し、闇夜に紛れて逃走を図った。
何人かの警備河童が慌てて治太夫を追ってゆく。
しかし、銀之丞は治太夫を追わず、自分の後方を振り返った。恵美がかなりの深手を負ったように見えていたからだ。
恵美は片膝をついて、苦悶の表情を浮かべている……。
既に頭の傷が治ってしまったナナミも、起き上がって心配そうに覗き込んだ。
よく見ると、恵美の腹から、何か赤い物がダラッと垂れ下がっている。そして、そこからポタポタ血が滴っていた。
垂れ下がっているモノ…。腸だ。 …腹が切れ、腸が出てしまっているのだ。
「た、たいへん! 早く、お母様の元へ! 担架を早く!」
ナナミの叫ぶような指示で、荷運び河童の数人が慌てて担架を用意してくる。
その間にナナミは、血と吐瀉物と体内汚物でドロドロになってしまったドレスをサッと脱ぎ捨てた。
一糸纏わぬ、完全な全裸状態・・・。
顔も手足も血などで汚れているが、色白の綺麗な素肌に形の良い豊かな乳房…。出るところは出て、くびれるところはくびれ、神々しいばかりの素晴らしいプロポーション。
この場に舞衣を知るのは恵美だけだが、顔だけでなく体型までも、彼女は舞衣にソックリだった。
すぐ近くに銀之丞も他の男河童も居るが、ナナミは全裸を曝すのを全く気にしていない。
というのも、そもそも性別の無い人魚には、異性の認識が無い。
また、妹のナナセとは違い、彼女には他のモノと体を合わせる行為の経験も無いどころか、それに対する興味も関心も無かった。
よって、羞恥も何も無い。
ハッキリ言ってしまえば、犬猫の前で裸になっても平気といった感覚だ。
だが、その姿を目にしてしまった男河童たちは、平気では居られない…。皆、大いに慌てまくり、中には腰蓑から大きくなったモノの先がノゾイテいる者もいる・・・。
荷運び河童たちは見なかった振りをして、恵美を担架に乗せる作業を続行した。
何もしていなかった者は、顔を背けるか、回れ右するかして、とにかく急いで目を逸らした。
勿論、どの河童も、大きく目を見開いてシッカリと「美しいモノ」を目に焼き付けた後にだが…。
ナナミは、微妙な雰囲気になっている周りに訝しみながら、顔・体の血や汚れを部屋隅の水槽の水で洗い、壁に掛けてあった新しいドレスに素早く着替える。
準備完了した担架に恵美が乗せられると、「急ぐわよ」と言って、付き添って走り出した。
ナナミの着替えを見ないように目を伏せていた銀之丞も、顔を少し赤め乍らそれに続いた。
そう、とにかく今は、急がなければならないのだ。
ナナミも普段であれば、他種族といえ、河童前で着替えたりするようなことなどしない。一刻を争う事態だから、そうしただけのこと。
夜道を大急ぎで運ばれる担架からはポタポタと血が零れ、地面に赤い点を付け続けてゆく。
途中で警備河童の転送を終えて走って来るタケに遭遇し、そのタケに担架ごと、今度はリナ御殿の近くまで転送してもらった。
すぐに、リナの御殿内に恵美は運び込まれた。
―――リナの御殿―――
恵美たちが飛び出して行って少しすると、警備河童が何人か駆けつけてきた。
中には腕の骨が折れている者もいた。この御殿へ来る途中の恵美にやられたモノだ。
負傷している者は、リナが即座に治癒させた。そして、恵美と銀之丞に協力して反逆者治太夫を捕らえるようにと指示がなされ、ナナミの御殿に向かわされた。
その後も、遅れてパラパラと河童が駆け込んでくる。その都度、リナは治療・指示をする。
愛は、リナの邪魔にならないように、隅にあった椅子に坐って静かに待っていた。
暫くして、慌ただしく担架が運び込まれてきた。
ナナミと銀之丞も一緒に駆け込んでくる。担架からは、ポタポタと赤い血が零れていた。
そして、寝かされていたのは恵美……。
「恵美母様!」
愛は椅子から勢いよく立ち上がり、慌てて担架に駆け寄った。
恵美は、痛そうに顔を顰め、目を瞑ったままだ。
「しっかりして。恵美母様!」
恵美に取りすがるが、その愛の目に入ったモノは…。
パックリ割れた乳房から腹にかけての酷い傷…。傷奥には、肋骨も見える。
そして、腹から溢れ出ている恵美の腸と真っ赤な血液・・・。
「えっ?! い、いやー!! 死なないでー!!」
愛は、半狂乱となった。
恵美は、愛にとって最も信頼している大切な育ての母なのだ。生みの母の舞衣と同等、いや、それ以上の存在と言っても良い。
「大丈夫よ。すぐ治るから」
その生みの母ソックリのナナミが、愛の両肩を背後から持って担架から引き離し、リナに向かって縦に首を振った。
リナも頷き、運ばれてゆく恵美と一緒に、奥の部屋へ入っていった。
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