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序章 ようこそアリュビオンへ
エピローグ 友人と相棒 -シューマ様とシャルディ
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バトルが終了し、ナギサ達は元いた場所……ターミナルのロビーに立っていた。双方のデーヴァはアクロスギアの中へと戻ったらしい。
ナギサのギアには『アンティルールによりN:ファイアボールを入手しました』との表示が。どうせならSRが欲しかったなと心の中でぼやく。
ナギサの目の前にいたモトカズは露骨に不機嫌そうな顔をしてチッ、と舌打ち。
「ふん、今回はたまたまだ。次にやる時はぜってぇ負けねえ」
そしてポケットに両手を突っ込んでわざとらしくナギサに背を向けて歩いていく。
その時、モトカズの前へと別の男性が歩いてきたため、互いはぶつかりそうになった。
「おい、どこ見て歩いてやがる!」
モトカズとぶつかりそうになった男性はフッ、と鼻で笑う。
そしてその男性の傍に立っていたメイド服の女性もフフフッ、と同時に笑った。
「ああ、すまない。見えなかったよ。敗者の姿というものはあまりにも小さく見えるものでな。危うくぶつかりそうに…………いや、うっかり踏んでしまうところだった」
「ごめんなさい。虫かと思いましたわ」
「なっ!……テメェら昼の!」
「傍らに立ってるそいつは……ふむ、初心者だな。もしかして俺と同じようにバトルをふっかけて負けたか?まさかそんなことはないよな。弱そうな初心者を狙って戦いを挑んだら返り討ちなんて、そんな情けないことが2回も続くわけないもんなァ?俺が貴様だったら恥ずかしくて二度とANOをやらんな!フハハハハハ!!」
「テ、テメェ……!」
ナギサはその声に聞き覚えがあった。少し気取ったクールな声、他人を見下すようなその態度。友人である志木宗馬……シューマその人であった。
傍らに立っているのは彼のデーヴァだろう。ナギサは彼女の姿にも見覚えがある。
モトカズは何も言い返せなかったのか、また大きく舌打ちすると、シューマとナギサから視線をそらすように軽く俯き、その場から走り去る。
「テメェら、調子に乗るなよ!実は初心者相手だから手加減してやってたんだ!次は負けねえんだからなー!」
ありきたりな敗者の台詞を叫んで走り去っていくモトカズの背中を見送りながらシューマはまたフンッ、と小馬鹿にした様子で笑う。
「やれやれ、みっともない言い訳だ。もっとも、次をやったとしても俺とシャルディが勝つに決まってるがな」
「間違いないですわね」
そしてナギサの方へと向き直る。
「遅かったな。御察しの通り、お前が来るまでに一戦したところだよ。さっきの無様な初心者狩りとな」
◆
アリュビオン内に建設されている喫茶店のテーブル席にナギサとシューマは向かい合うようにして座っていた。
ナギサの隣にはソウハが、シューマの隣には美しく長い銀髪をもつメイド服の女性が座っていた。服装や仕草からはどこか高貴な雰囲気を醸し出していた。
ナギサは彼女のことを知っていた。シューマがANOの前身であるスマートフォンアプリゲーム、アクロステージで育成していたデーヴァ"シャルディ"だ。
魔法の弾丸を放つ拳銃を用いて戦う、攻撃特化型のステータスに育てられたデーヴァで、近接戦闘を主体に戦うソウハとは相性があまりよろしくなかったことを覚えている。
4人のもとへ「お待たせしましたー」と紅茶が2つ、コーヒーが1つ、柚子茶が1つ運ばれてきた。このウェイトレスもデーヴァなのだろうか、ナギサが質問しようとしたが、ウェイトレスの少女はそそくさと厨房へと戻っていく。
それぞれ1杯の値段は100コイン。先ほどのバトル1勝で得たコインは200。高いのか安いのかよく分からない。この世界での金銭感覚にはもう少し慣れが必要なようだ。
シューマとシャルディが上品そうに紅茶を口へと運ぶ。美男子と美女が紅茶を飲む姿は中々に絵になっていた。
そしてずぞっ、ずぞぞぞぞっ……とナギサの隣から柚子茶をすする音。ソウハは初めてこの世界で会った時は雅な雰囲気を感じたのだが、お茶を飲む様子はなんだか幼い子どもっぽい。
というかデーヴァって飲食出来るんだ。そんなことを考えながら自分もコーヒーにミルクを1杯、砂糖を1杯入れてから口をつける。
……味覚の再現まで完璧だ。味覚の再現はかなり難しいのか食事機能は搭載されていないVRゲームが多いのに、凄いなANO。とナギサはもう一口を含む。
「……まだ甘さが足りんな」
シューマは口をつけたティーカップを一旦テーブルに置くと、シュガースティックを6本ほど追加でドサドサと放り込んでかき混ぜた。そういえばこいつは大の甘党だったな、と思い出す。それにしてもその数は入れ過ぎだろう。もう砂糖でも舐めてろ。
そんなシューマを見てシャルディが口元に手を当てて上品そうにクスクスと笑う。
「シューマ様ったら、相変わらず甘い物がお好きなのですね」
「悪いか?」
「いえ。味覚は人それぞれですもの」
そう言って女性は2杯目に口をつける。仕草も言動も、まるで高貴なお嬢様のようだ。
そしてその向かい側で自分の相棒は「ぞぞっ、ぞぞぞっ」と相変わらず音を立てながらお茶をすする。
……なんだこれ。まるで僕ら2人があちらと比べて幼く見えるではないか。片方の側が砂糖に砂糖をかけて食べたことがある程に味覚が馬鹿なことは知っているが、それにしても雰囲気で負けている。
シューマがティーカップをテーブルに置き、ふう、と一息。
「この姿だから不要とは思うが、一応自己紹介でもしておくか。さっき呼ばれた通り、俺はこの世界では”シューマ”の名前でプレイしている」
「僕は”ナギサ”だ。ま、リアルと同じ姿で別の名前を名乗る方が気持ち悪いもんね」
「だな。そして紹介しよう……といっても共に前作を遊んだお前は知っているだろうが、改めて。俺のデーヴァ、シャルディだ」
「改めまして、よろしくお願いいたしますわ。お久しぶりですわね、ナギサさん。ソウハさん」
そう紹介された銀髪の女性、シャルディが深々と頭を下げる。
こちらこそ久しぶり。と頭を下げるナギサ。その隣でソウハも「お久しぶりです」とお辞儀。シャルディが顔を上げてほほ笑む。
「シューマ様もナギサさんもお変わりないようで何よりですわ。あ、そうそう。大学合格おめでとうございます」
「あ、うん。ありがとう」
そうか、アクロステージをやってた頃は高校生だったもんなぁ。それにしても大学合格を祝われてナギサはちょっとだけ照れ臭い気分になった。
よく見るとシューマもどこか照れくさそうな顔で頬を掻いていた。
――あ、違う。照れ臭いんじゃなくて恥ずかしいんだ。第一志望落ちてるんだった、こいつは。
「ナギサさんは相変わらず須藤あずみ推しの枯れ専だとお聞きしたのですが、やはりそこも変わっていませんの?」
「何教えてんだお前!?」
シャルディの次の発言を聞くなり、向かいの席に座るシューマに掴みかかるほどの勢いで身を乗り出すナギサ。
対するシューマはそれを一切気にしていない様子で甘ったるい状態の紅茶を口にする。
「ん?……別にいいだろ。事実なんだし」
「あずみさん担当が枯れ専だってのは訂正しやがれ!まだ26だぞ、あの人は!」
「ハンッ!“まだ”だと?一の位を四捨五入すれば30!とっくにババァではないか!」
「んだとぉ!?そもそも30代も枯れてはねえだろうが、えぇ!?やっぱお前ロリコンだよ!クソロリコン!」
「ロリコンじゃないわ!大体、イマ以外のロリなんてアイツのお姉さん要素を引き立てるための添え物に過ぎんといつも言って――」
「二人とも、声が大きいですよ」
ソウハに注意され、ハッと我に返る2人。周りの席に座っている何人かの客が迷惑そうに2人を見ていた。シューマはこほん、と咳払い。
「……高校時代から繰り返してきたこのやり取りをまさか仮想現実の世界でもやるとはな」
「仕掛けてきたのはそっちだけどな……。というか僕はこのやり取り好きじゃないんだけど。そろそろマジで自重してほしいと思ってる」
それを聞いてシューマはニヤリ、と笑う。何がおかしいのだ。
「だったら、力づくで言うことを聞かせてみるというのはどうだ?」
「え、何?喧嘩しろってこと?おうおうやってやろうじゃん。渾身の右ストレートをお見舞いしてやる」
「そうじゃない。全くどこまで単細胞なんだお前は。この世界にやってくる時にまともな思考能力を現実世界に置いてきたのか?……これだ、これ」
シューマは自分のアクロスギアを取り出し、ちょんちょんと指差す。
「バトルだよ。お前達が勝てば、二度とお前の前で美浜あずみの悪口は言わないと誓おう」
「……あらシューマ様、もう本日の2戦目をやるおつもりですの?」
隣でシャルディが言う。それと同時にナギサも驚きのあまり目を丸くした。そしてその直後に心の中で叫ぶ。
――雑な対戦理由作りだな!
思えば昔から彼はそういう奴だった。何かと理由をつけては対戦ゲームやTCGなどといったコンテンツを用いては「負けた方は勝った方の言うことを聞く」というルールで戦いを挑んできた。
それでお互いによく缶ジュースや昼食を奢りあったりしたものだった。
「まあ、ワタシは別に構いませんけど。あなた方はどういたします?」
「私も構いませんよ。というか、今日はいっぱいバトルしたい気分です。記念すべき初ログイン日ですからね」
確かに今日一日は複数回バトルをして戦い方に慣れておいた方が良さそうだ。
……それにいい加減自分の担当アイドルを馬鹿にされるのにもうんざりしていたところだ。ここはカッコよくソウハと共に勝って、あずみさんと自分に謝罪してもらおうじゃないか。
「よし分かった、やろうか。表に出ろこの野郎」
「まあ待て脳みそ無し男。これを飲み終わってからだ」
「お前、真面目に僕と喧嘩したいのか……?」
グイっとシューマは紅茶を一気に飲み干す。それと同時にナギサも残りのコーヒーを飲みほした。ぞぞっ、ずぞぞぞぞぞっと隣で柚子茶をすする音がまた聞こえた。
フフフッ、とシャルディが口元に手を当てて笑い、柚子茶から口を離したソウハも小さく笑う。
「こんなに仲良しだったんですのね、お二人って!」
「仲良しかどうかはわかりませんが……、でも人間達の生のやり取りが見れるのって楽しいですねシャルディ」
2人の人間の争う声と、2体のデーヴァの笑い声が重なる。
こんな感じでナギサとソウハのANOでの日々が本格的に幕を開けたのだった。そして、友人との戦いも。
「待たせたなナギサ。さぁ、やろうか」
「おうよ。絶対負けないからな。……今日は!僕が!お前に!勝つ!やろう、ソウハ!」
「ええ、ガンバりましょうナギサ君」
「ハッ、言ってろ三流が!行くぞシャルディ!プリステでもANOでも、俺の女こそが最強だってことを教えてやる!」
「承知ですわ!」
――「「イグニッション!!」」
ナギサのギアには『アンティルールによりN:ファイアボールを入手しました』との表示が。どうせならSRが欲しかったなと心の中でぼやく。
ナギサの目の前にいたモトカズは露骨に不機嫌そうな顔をしてチッ、と舌打ち。
「ふん、今回はたまたまだ。次にやる時はぜってぇ負けねえ」
そしてポケットに両手を突っ込んでわざとらしくナギサに背を向けて歩いていく。
その時、モトカズの前へと別の男性が歩いてきたため、互いはぶつかりそうになった。
「おい、どこ見て歩いてやがる!」
モトカズとぶつかりそうになった男性はフッ、と鼻で笑う。
そしてその男性の傍に立っていたメイド服の女性もフフフッ、と同時に笑った。
「ああ、すまない。見えなかったよ。敗者の姿というものはあまりにも小さく見えるものでな。危うくぶつかりそうに…………いや、うっかり踏んでしまうところだった」
「ごめんなさい。虫かと思いましたわ」
「なっ!……テメェら昼の!」
「傍らに立ってるそいつは……ふむ、初心者だな。もしかして俺と同じようにバトルをふっかけて負けたか?まさかそんなことはないよな。弱そうな初心者を狙って戦いを挑んだら返り討ちなんて、そんな情けないことが2回も続くわけないもんなァ?俺が貴様だったら恥ずかしくて二度とANOをやらんな!フハハハハハ!!」
「テ、テメェ……!」
ナギサはその声に聞き覚えがあった。少し気取ったクールな声、他人を見下すようなその態度。友人である志木宗馬……シューマその人であった。
傍らに立っているのは彼のデーヴァだろう。ナギサは彼女の姿にも見覚えがある。
モトカズは何も言い返せなかったのか、また大きく舌打ちすると、シューマとナギサから視線をそらすように軽く俯き、その場から走り去る。
「テメェら、調子に乗るなよ!実は初心者相手だから手加減してやってたんだ!次は負けねえんだからなー!」
ありきたりな敗者の台詞を叫んで走り去っていくモトカズの背中を見送りながらシューマはまたフンッ、と小馬鹿にした様子で笑う。
「やれやれ、みっともない言い訳だ。もっとも、次をやったとしても俺とシャルディが勝つに決まってるがな」
「間違いないですわね」
そしてナギサの方へと向き直る。
「遅かったな。御察しの通り、お前が来るまでに一戦したところだよ。さっきの無様な初心者狩りとな」
◆
アリュビオン内に建設されている喫茶店のテーブル席にナギサとシューマは向かい合うようにして座っていた。
ナギサの隣にはソウハが、シューマの隣には美しく長い銀髪をもつメイド服の女性が座っていた。服装や仕草からはどこか高貴な雰囲気を醸し出していた。
ナギサは彼女のことを知っていた。シューマがANOの前身であるスマートフォンアプリゲーム、アクロステージで育成していたデーヴァ"シャルディ"だ。
魔法の弾丸を放つ拳銃を用いて戦う、攻撃特化型のステータスに育てられたデーヴァで、近接戦闘を主体に戦うソウハとは相性があまりよろしくなかったことを覚えている。
4人のもとへ「お待たせしましたー」と紅茶が2つ、コーヒーが1つ、柚子茶が1つ運ばれてきた。このウェイトレスもデーヴァなのだろうか、ナギサが質問しようとしたが、ウェイトレスの少女はそそくさと厨房へと戻っていく。
それぞれ1杯の値段は100コイン。先ほどのバトル1勝で得たコインは200。高いのか安いのかよく分からない。この世界での金銭感覚にはもう少し慣れが必要なようだ。
シューマとシャルディが上品そうに紅茶を口へと運ぶ。美男子と美女が紅茶を飲む姿は中々に絵になっていた。
そしてずぞっ、ずぞぞぞぞっ……とナギサの隣から柚子茶をすする音。ソウハは初めてこの世界で会った時は雅な雰囲気を感じたのだが、お茶を飲む様子はなんだか幼い子どもっぽい。
というかデーヴァって飲食出来るんだ。そんなことを考えながら自分もコーヒーにミルクを1杯、砂糖を1杯入れてから口をつける。
……味覚の再現まで完璧だ。味覚の再現はかなり難しいのか食事機能は搭載されていないVRゲームが多いのに、凄いなANO。とナギサはもう一口を含む。
「……まだ甘さが足りんな」
シューマは口をつけたティーカップを一旦テーブルに置くと、シュガースティックを6本ほど追加でドサドサと放り込んでかき混ぜた。そういえばこいつは大の甘党だったな、と思い出す。それにしてもその数は入れ過ぎだろう。もう砂糖でも舐めてろ。
そんなシューマを見てシャルディが口元に手を当てて上品そうにクスクスと笑う。
「シューマ様ったら、相変わらず甘い物がお好きなのですね」
「悪いか?」
「いえ。味覚は人それぞれですもの」
そう言って女性は2杯目に口をつける。仕草も言動も、まるで高貴なお嬢様のようだ。
そしてその向かい側で自分の相棒は「ぞぞっ、ぞぞぞっ」と相変わらず音を立てながらお茶をすする。
……なんだこれ。まるで僕ら2人があちらと比べて幼く見えるではないか。片方の側が砂糖に砂糖をかけて食べたことがある程に味覚が馬鹿なことは知っているが、それにしても雰囲気で負けている。
シューマがティーカップをテーブルに置き、ふう、と一息。
「この姿だから不要とは思うが、一応自己紹介でもしておくか。さっき呼ばれた通り、俺はこの世界では”シューマ”の名前でプレイしている」
「僕は”ナギサ”だ。ま、リアルと同じ姿で別の名前を名乗る方が気持ち悪いもんね」
「だな。そして紹介しよう……といっても共に前作を遊んだお前は知っているだろうが、改めて。俺のデーヴァ、シャルディだ」
「改めまして、よろしくお願いいたしますわ。お久しぶりですわね、ナギサさん。ソウハさん」
そう紹介された銀髪の女性、シャルディが深々と頭を下げる。
こちらこそ久しぶり。と頭を下げるナギサ。その隣でソウハも「お久しぶりです」とお辞儀。シャルディが顔を上げてほほ笑む。
「シューマ様もナギサさんもお変わりないようで何よりですわ。あ、そうそう。大学合格おめでとうございます」
「あ、うん。ありがとう」
そうか、アクロステージをやってた頃は高校生だったもんなぁ。それにしても大学合格を祝われてナギサはちょっとだけ照れ臭い気分になった。
よく見るとシューマもどこか照れくさそうな顔で頬を掻いていた。
――あ、違う。照れ臭いんじゃなくて恥ずかしいんだ。第一志望落ちてるんだった、こいつは。
「ナギサさんは相変わらず須藤あずみ推しの枯れ専だとお聞きしたのですが、やはりそこも変わっていませんの?」
「何教えてんだお前!?」
シャルディの次の発言を聞くなり、向かいの席に座るシューマに掴みかかるほどの勢いで身を乗り出すナギサ。
対するシューマはそれを一切気にしていない様子で甘ったるい状態の紅茶を口にする。
「ん?……別にいいだろ。事実なんだし」
「あずみさん担当が枯れ専だってのは訂正しやがれ!まだ26だぞ、あの人は!」
「ハンッ!“まだ”だと?一の位を四捨五入すれば30!とっくにババァではないか!」
「んだとぉ!?そもそも30代も枯れてはねえだろうが、えぇ!?やっぱお前ロリコンだよ!クソロリコン!」
「ロリコンじゃないわ!大体、イマ以外のロリなんてアイツのお姉さん要素を引き立てるための添え物に過ぎんといつも言って――」
「二人とも、声が大きいですよ」
ソウハに注意され、ハッと我に返る2人。周りの席に座っている何人かの客が迷惑そうに2人を見ていた。シューマはこほん、と咳払い。
「……高校時代から繰り返してきたこのやり取りをまさか仮想現実の世界でもやるとはな」
「仕掛けてきたのはそっちだけどな……。というか僕はこのやり取り好きじゃないんだけど。そろそろマジで自重してほしいと思ってる」
それを聞いてシューマはニヤリ、と笑う。何がおかしいのだ。
「だったら、力づくで言うことを聞かせてみるというのはどうだ?」
「え、何?喧嘩しろってこと?おうおうやってやろうじゃん。渾身の右ストレートをお見舞いしてやる」
「そうじゃない。全くどこまで単細胞なんだお前は。この世界にやってくる時にまともな思考能力を現実世界に置いてきたのか?……これだ、これ」
シューマは自分のアクロスギアを取り出し、ちょんちょんと指差す。
「バトルだよ。お前達が勝てば、二度とお前の前で美浜あずみの悪口は言わないと誓おう」
「……あらシューマ様、もう本日の2戦目をやるおつもりですの?」
隣でシャルディが言う。それと同時にナギサも驚きのあまり目を丸くした。そしてその直後に心の中で叫ぶ。
――雑な対戦理由作りだな!
思えば昔から彼はそういう奴だった。何かと理由をつけては対戦ゲームやTCGなどといったコンテンツを用いては「負けた方は勝った方の言うことを聞く」というルールで戦いを挑んできた。
それでお互いによく缶ジュースや昼食を奢りあったりしたものだった。
「まあ、ワタシは別に構いませんけど。あなた方はどういたします?」
「私も構いませんよ。というか、今日はいっぱいバトルしたい気分です。記念すべき初ログイン日ですからね」
確かに今日一日は複数回バトルをして戦い方に慣れておいた方が良さそうだ。
……それにいい加減自分の担当アイドルを馬鹿にされるのにもうんざりしていたところだ。ここはカッコよくソウハと共に勝って、あずみさんと自分に謝罪してもらおうじゃないか。
「よし分かった、やろうか。表に出ろこの野郎」
「まあ待て脳みそ無し男。これを飲み終わってからだ」
「お前、真面目に僕と喧嘩したいのか……?」
グイっとシューマは紅茶を一気に飲み干す。それと同時にナギサも残りのコーヒーを飲みほした。ぞぞっ、ずぞぞぞぞぞっと隣で柚子茶をすする音がまた聞こえた。
フフフッ、とシャルディが口元に手を当てて笑い、柚子茶から口を離したソウハも小さく笑う。
「こんなに仲良しだったんですのね、お二人って!」
「仲良しかどうかはわかりませんが……、でも人間達の生のやり取りが見れるのって楽しいですねシャルディ」
2人の人間の争う声と、2体のデーヴァの笑い声が重なる。
こんな感じでナギサとソウハのANOでの日々が本格的に幕を開けたのだった。そして、友人との戦いも。
「待たせたなナギサ。さぁ、やろうか」
「おうよ。絶対負けないからな。……今日は!僕が!お前に!勝つ!やろう、ソウハ!」
「ええ、ガンバりましょうナギサ君」
「ハッ、言ってろ三流が!行くぞシャルディ!プリステでもANOでも、俺の女こそが最強だってことを教えてやる!」
「承知ですわ!」
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