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出発と破壊神
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しおりを挟むうぅ……。緊張してあまり寝られなかった。
リルも、緊張しているのだろうか。いつもより口数が少ない。
依頼中は、グリーンクウォーツ王国の、破壊神様のユーク王子様がリーダーとなり、その指示に従うことになっている。
俺は、依頼についての不安もそうだし、ユーク王子様に対して、どう向き合えば良いのか分からず、気持ちを紛らわすように、何度も荷物確認を行っていた。
「さぁ、ルト、そろそろ行きましょう。ユーク王子様の元まで、マスターが転送させてくれるはずだから。マスターを待たせる訳にはいかないわ」
気合いを入れたようなリルの声に、俺は慌てて荷物を持つと、リルの隣に並んだ。
「リル、転送魔法って、双子神様達だけが使えるの?俺、マスターしか使える人を見たことないからさ」
「そんなことないわよ。だって、私も今、師匠から教えてもらっている最中だもの」
「えっ!?」
さらりと言ったリルに、俺は思わず大きな声が出た。
そんな俺を見て、クスクスと笑うリル。
「さすがに、マスターのように、他の人を転送させることはできないと思うけれど。転送魔法は、それ自体に大きな魔力を使うから。転送魔法はね、基本的には、自分が転送魔法の印をつけた場所に転移を行えるのよ。つまり、元々印を自分でつけておかないと使えないから、飛行魔法を使った方が魔力の消費量も少ないし、効率も良いの。でも、師匠やマスターは、相手の魔力を感知して、そこに転送をしたり、させたりすることができるのよ。本当に、知れば知るほど、双子神様の底の知れなさに驚くばかりよ」
リルが、どこか楽しそうに言った。
そういえば、昔からリルはそうだった。尊敬できる人の話をする時、新しく何かを知ったとき、とても清々しく笑う。
その笑顔を見たお陰で、少し緊張がほぐれた俺は、深呼吸すると、マスター達の待つ、ギルドの入り口へと向かった。
「やぁ、来たみたいだね。忘れ物はないかい?」
待っていたキラさんが、優しく笑って言ってくれた。
マスターとラネンさんもいる。
「はい……多分……」
「はい。大丈夫です」
俺は、自信なく頷いた。
リルは、緊張はしているみたいだけれど、しっかりと頷いた。
「激しい対人戦が予想されるから、ユーク王子様の指示にしっかりと従ってね。自分達の命を優先させるんだよ」
改めてキラさんに言われて、俺はますます緊張した。
そんな俺を、エミリィ様は、どこか楽しそうに見ていた。そして、俺に近づいてくる。
「不安か?」
エミリィ様が、楽しそうに、俺の前で言った。
「はい……」
「そんなに不安になる必要ないね。あんたの目には、乱獲者の動きなんて、止まって見えるはずだから」
「えっ……?」
俺は驚くと、顔を上げてエミリィ様を見つめた。
「あんた、誰を相手に修行してると思ってんのよ。ま、コントロールは下手だけど、今回はコントロールを重視する必要ないし。対人戦において必要な戦略も、エリィの弟子の、リルがいれば十分補える」
俺は、エミリィ様の言葉が嬉しかった。
いつも修行の時は、子供を相手にするようだけれど、ちゃんと俺のことを考えてくれていて、少しでも認めてくれているのが伝わってきたから。
エミリィ様は、俺にニヤリと笑うと、そのままリルを見た。
「エリィから伝言だ。修行を存分に生かして、試してこいって。後、蝶々石の保護を重点的に考えてくれって。ユークもこいつも、そこまで考えないだろうから」
「はい。分かりました」
リルも、少し緊張が抜けたように頷いた。
ラネンさんは、何も言わずエミリィ様の後ろにいたけれど、目が合ったときに、軽く頷いてくれた。
エミリィ様が、ブラックダイヤモンドの、星の形をした生誕指輪に触れた。
「じゃ、準備できたみたいだから。あんた達二人を、ユークの元に転送させる」
「はい!」
俺とリルが同時に言った。
「何かあったらすぐ私たちの誰かに連絡しな。……転送」
俺たちが何か言う前に、エミリィ様の声が響いた。
そして俺たちは、ユーク王子様の元へと転送させられたのだった。
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