きらめきの星の奇跡

Emi 松原

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出発と破壊神

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「ここが、蝶々石の生息地域だよー」
「わぁ!!」
 ユーク様が立ち止まると、それまで警戒していたリルが、嬉しそうな声を上げた。
 当たり前だ。だって、周りには、生きている蝶々石が飛んでいるのだから。この光景だけでも、とても貴重なものだ。
「へー。俺もこの光景は初めて見たよー」
 ユーク様が、軽い口調で言った。
「じゃあ、奥に進むよー」
 エミリィ様が周りを巻き込む時とは全く違う、とても掴みどころのない感じで、俺たちはユーク様のペースに巻き込まれていた。
 ユーク様は、また、鼻歌を歌いながら歩いている。
 俺は、グリーンクウォーツ王国のことを考えたら、集中が切れてしまいそうだったから、必死に考えないようにしながら、周りを警戒した。
 だけれど俺たちは、一度も襲われることなく、本来ここで働いているはずの人たちの居住地についていた。

 そこは、小さな一軒家だったけれど、廃墟のようになっていた。
 人がいた形跡がないし、家も壊れている。それに、明らかに荒らされた後。
「……酷い……」
 リルが、小さな声でつぶやいた。
「うーん。やっぱり、ここで働いていた人間は、全員始末されちゃったみたいだねー。蝶々石の生息地に、魔力の痕跡や、蝶々石を攻撃した後が残っていないことを見ても、とても凄い力を持った乱獲者のようだねー」
 ユーク様が、小さくため息をついた。
 だけれど、その口調はやっぱりどこか軽くて、他人事のようで、感情が全く読み取れなかった。
「じゃあ、とりあえず夜まで、ここで休もうかー。ここで魔力を使ったら、向こうも何か仕掛けてくるかもしれないしねー」
 ユークさんは、軽い笑顔でそう言うと、ブラックダイヤモンドの星の形をした生誕指輪に、軽くキスをした。
 そのまま、また軽くその手を振ると、家が一気に修復されていく。
 呆気にとられる間もないまま、廃墟のようになっていた家は、新居のようになっていて、中まで綺麗になっていた。
「さぁ、向こうが仕掛けてくるまで、中で休もうかー。夜になっても何もなかったら、見回りに行こうー」
 ユーク様が、家の中に入ろうとした。
 そこで初めて、俺たちを振り返ると、首をかしげた。
「二人ともー?」
「あ、す、すみません!」
 俺は慌てて言った。
「うん?どうかしたのー?」
 ユーク様が、不思議そうに聞いた。
 どうかしたのかと言われても、答えられるわけがない。
「すみません。なんだか、魔法の使い方が師匠と似ていて、驚きました」
 リルが、自分の考えを言うと同時に、俺をフォローしてくれた。
 ユーク様は、その言葉に、ふふふと笑った。
「破壊神らしくないって思ったー?」
「い、いえ!そう言う意味では……」
「あははー。気にしなくて良いよー。エミリィに、昔からいつも言われるんだー。俺は、破壊神のくせに小賢しいってねー」
 ユーク様は、少し懐かしむように目を細めると、家の中に入っていった。
 俺たちは、慌てて後に続いたのだった。

 そこから、俺たちは家の中で、夜になるまで待つことになった。
 ユーク様は、相変わらず掴みどころのない笑顔で、俺たちを見ていた。
「そういえば、時間があったら、二人に、グリーンクウォーツ王国の情報を教えろって、エミリィに言われたんだったなー。情報を教えろと言われてもねー。二人とも、知りたいことがあれば答えるよー。夜まで、まだまだ時間はあるし、向こうも、なかなか仕掛けてきてくれないしねー」
 ユーク様の言葉で、俺はエミリィ様の言葉を思い出した。
 復讐の為に、情報収集しろ……。
 でも、俺は、どんな情報が復讐に必要なのかもまだ分からないし、それに、表向きには友好的にしなくてはいけない。
 うっかり失礼なことを聞いてもいけないし……。
 俺は困って黙り込んでしまったけれど、リルは、不思議そうにユーク様を見つめていた。
「国のことを、簡単に話しても良いのですか?」
 リルが、静かに言った。その雰囲気が、どこかエリィ姫様と似ていたので、俺は少し驚いた。
「お、さすがエリィの弟子だねー。うん。俺はあんまりそういうの気にしないからねー。さすがに機密事項のことは言えないけれど、それ以外なら、なんでも答えるよー」
「じゃあ、その……グリーンクウォーツ王国の国王様のことを信仰している方々が、グリーンクウォーツ王国にどのくらいいるのか聞いても良いですか?」
 リルが、控えめに、だけれどしっかりとした声で聞いた。
 俺は、きっとまた話題についていけなくなる。自分から質問もできないだろう。だからこそ、しっかりと聞いておこうと思った。
「そうだねー。これが、意外と多いんだよー。最初は、貴族が中心だったんだけれどねー。今は、国民にも広がってる。多分だけどねー、国民の信者は、父上様を信仰していると安心なんじゃないかなー。想像もつかないほどの力を持った、双子神の化身の俺たちを、唯一制御できる人物だと思ってるからさー」
「……実際に、グリーンクウォーツ王国の国王様は、ユーク様達を制御できるのですか……?」
 リルが、少し申し訳なさそうに聞いた。
 そんなリルを見て、ユーク様は、軽い笑顔で首をかしげた。
「どうだろうねー。俺も、シークも、エリィもエミリィも、きっと本気の力なんて出したことないからさー。俺や、エミリィが本気の力を出したら、世界はどうなるか分からないと言われているし、創造神の力だって、使いようによっては、危険なものになるはずだしねー。子供の頃から、コントロールを徹底的に叩き込まれてきたからねー。懐かしいなー。シークと、エリィとエミリィと、二人の先生と、アーサ師匠との日々はー」
 ユーク様が、懐かしそうに目を細めた。どうしてだろう、その顔が、一瞬、少し寂しそうなものになった。
 そのまま、ユーク王子は、リルが知りたいことを分かっているかのように、俺たちに国のことを話し始めた。
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