真の敵は愛にあり

Emi 松原

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チームの結成

1-2

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「俺の夢は、戦争をなくすことだ。ここに居ることが、アタッカーになることが、矛盾しているのは分かっている。だけど、俺はこういう道を選んだ。アマナをこの手で守る力も欲しい」
 俺がそう言うと、ブランは、少し目を見開いた。
「夢か……。俺は、この戦争で、兄を亡くしている」
「えっ……」
 突然話し始めたブランの言葉を、俺たちは黙って聞いた。
「兄は、騎士団にいた。シューターだった。誰よりも優れていたと、俺は今でも思っている。だけど……兄は、その時の命令に背いて、子供を庇って死んだ」
「…………」
「俺は、そんな兄を誇りに思っている。だから、俺は騎士団に入った。命令に背いてでも、兄が守りたかったものを、兄が見ていたものを、この目で見たくて」
「お兄様は、とても優しくて、騎士団の意味を理解していたのね」
 アマナが、優しく言った。ブランが、驚いたようにアマナを見る。
「そんなこと……言われたの、初めてだ。誰もが、兄は命令を守っていたら死ななかったと言ったのに」
 俺は、ブランに対して、何か感じるものがあった。ブランは、俺の夢を否定しなかったし、笑いもしなかった。それに、ブランのお兄さんは、守る為に命を失った。それと同じ景色が見たいというブランならば……。
「ブラン、突然なんだけれど、俺とチームを組んでくれないかい?」
 俺の言葉に、ブランが驚いて俺を見た。
「本気で言っているのか?君は、もっと優れた人間とチームが組めるはずだ」
「本気だ。君のお兄さんは、一つの目の前の命を守る為に動いた。命を失ってしまったのは悲しいけれど……だけれど、その景色を見たいという君となら、俺の夢に向かって、一緒に歩いて行けるんじゃないかと思うんだ」
 俺は、改めてブランに手を差し出した。
「兄のことを……こんなにも肯定してくれた人間はいなかった。計算外だ。それも、勧誘者の君たちが……」
 ブランは、俺の手を見つめていた。
「コルとチームを組んだら、大変なことの方が多いと思うわ。だけれど、私も、あなたがコルと組んだら、きっと良いチームになると思う」
 アマナが、背中を押すようにブランに言った。
 ブランが、ゆっくりと俺の手を握った。
「こんな計算外のこと、後悔しないかい?」
「あぁ、しないさ。君のシューターとしての腕は本物だとさっき訓練を見て分かったし、何より、俺の夢を聞いても動じずに受け入れてくれた。……これからよろしく、ブラン」
「こちらこそ、よろしく、コル」
 俺たちは固く握手をした。
 アマナが、嬉しそうに笑っていた。

 俺たちは、しばらく練習場で、今後のことを話し合っていた。
 あと一人、チームにはヒーラーが必要だ。
「コル、君はどんな人とヒーラーとして組みたいんだ?」
「そうだなぁ……戦いながら後ろを任せる人だから、簡単には決められないよな……だけれど、ブラン。君と同じで、一緒に歩いて行けると思える人が良いな。実力よりも、俺はそっちを重視したい。騎士団に入っている時点で、実力はあるはずだから……」
「じゃあ、ヒーラーの訓練所に行ってみる?多分、皆コルとチームを組みたい気持ちが先に立って、訓練は後回しにしていると思うの。ブランが、ここで一人で訓練していたように。だから、今訓練を頑張っている人は、きっとコルが気に入ると思うの」
 アマナが、笑顔で言った。
「アマナ……君は凄い計算力を持っているな。さすが、勧誘で後方部隊に入っただけある。君は計算外の力を持っている気がする」
 ブランが驚いた顔で言った。
「あら、ありがとう。でも、私はコルの助けになりたいだけよ」
 アマナが笑った。
 こうして俺たちは、ヒーラーの訓練所に行ってみることにした。

「誰も……いないな」
 殺風景の光景に、俺は思わずつぶやいた。
「ヒーラーは、訓練所を使わなくても訓練できるというメリットがあるからな。計算のうちだ。それに、もうチームが決まった人間は合同訓練所で訓練しているだろうからな」
 ブランが、訓練所を見渡しながら言った。
「誰もいない……かしら?」
 アマナが、少し笑っている。何か企んでいる時の顔だ。
「武器精製、召喚魔法、来て!」
 アマナが、シューターの武器を取り出した。何をする気だ?
 そのままアマナは、草むらに向かって魔法銃を向ける。
 すると、女の人が飛び出してきた。
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