真の敵は愛にあり

Emi 松原

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もう一つの覚悟の魔法を使う

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「俺は……君を殺したくない!」
 ラオンが一瞬距離をとって、俺を睨んだ。
「じゃあ、何故あの魔法を習得した」
 ラオンが、俺を睨みつけながら言った。だけれど、その目を怖く感じない。だって、ラオンにはラオンの何か信念があると、刃を交えるたびに分かっていたから。
 答えない俺に向かって、ラオンはニヤリと笑うと、武器を投げ捨てた。俺には、それがどういう意味か分かった。だから俺も、スピアを投げ捨てた。
「おい!コル!何をやっている!」
 第一騎士団団長の声が聞こえたけれど、返事をしている暇はない。
 ラオンが、赤い魔方陣を手に作った。
 それを見て、俺は青い魔方陣を手に作る。
 周りの驚く声が聞こえてきた気がするけれど、そんなことに構っていると集中が切れてしまう。俺はラオンを殺したくはない。だけれど、ラオンがこの魔法で俺にぶつかってくるのなら、俺もこの魔法で真剣にぶつかる。その先に、何か得るものがあると信じて。
 俺とラオンは、一気に距離を詰めると、魔方陣を振り上げて、ぶつけ合った。
 その瞬間、俺に大きな衝撃が襲い、吹き飛ばされないように足を踏ん張った時、異変に気がついた。

ここ……どこだ……?
俺は、知らない場所に立っていた。ふわふわ浮いているような感覚。周りには色んな色が溢れた世界が広がっている。目の前には、俺と魔方陣をぶつけ合ったままのラオン。
 その瞬間、俺の頭の中に一気に映像、声、様々なものが次々と流れ込んできた。なんだこれ……なんなんだ……これは……これは……。
 しばらく慌てていたけれど、これが何なのか本当は最初から分かっていた。これは、ラオンの頭の中にある記憶と、心の声だ。
 ラオンの両親は、幼いラオンと、ラオンの妹……リーシャを残して戦争で死んでしまった。レッド王国は、ブルー王国と違って、騎士団は希望してなるものではなく、魔獣を操る力に長けている者が、無理矢理招集される。ラオンは、魔獣を操る能力が少なかった。だけれど、ラオンは自らで戦う力を証明して、タツさんに騎士団に迎え入れられた。けれどそれは、レッド王国では異端だった。ラオンは、戦狂いと呼ばれて人々から遠ざけられた。ラオンが戦狂いと呼ばれても騎士団に入った理由。それはーーーー
 妹のリーシャを騎士団に入れない為だった。リーシャは魔獣を操る能力に長けている。だから必ず規定年齢に達したら招集される。その前に、戦争を終わらせるためにーー
 俺の頭の中に、花屋が流れ込んできた。リーシャの営む花屋だ。そこで、花を持って笑う女の子。この子が、リーシャ。
【なんで、なんで、こんなこと思うんだ。俺はブルー王国の奴を全員殺して、戦争を終わらせるはずだったのに】
【なんで、こいつに武器を向けるのが苦しいんだ。この気持ちはなんなんだ】 
 これは……ラオンの心の声だ。
 この魔法がなんなのか、やっと分かった。
 この魔法は……相手の考えや、今まで見たものが流れ込んでくるものだ。
 俺たちは勝手に、この魔法はお互いを殺すためのものだと思っていただけだったのだ。
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