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もう一つの覚悟の魔法を使う
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「よいしょ……」
アマナが、ゆっくりとコルをベッドに寝かせた。
パニックに陥っていたコルは、体力が持たずに、また深い眠りについていた。
モカは泣くのを必死でこらえている。
ブランも、やり場のない想いを隠すように、自分の拳をぎゅっと握った。
その時、軽く扉がノックされた。
「はい、どなた?」
アマナが答える。
「…………邪魔するぞ」
入ってきたのは、ヨネルだった。
同時に立ってお辞儀をするモカとブラン、そのままお辞儀をするアマナ。
「俺にお辞儀なんてしなくて良い…………コルはどうだ」
ヨネルが、寝ているコルをチラリと見て、アマナを見た。
「……さっきまでパニックになっていました。叫んでいる内容から、あのレッド王国のラオンという子のことが分かりました」
ヨネルが、黙って頷いた。
「あの……エミルさんは……」
控えめにアマナが聞いた。ヨネルが一人で行動しているなんて初めて見たからだ。
「まだ寝ている。正確には、まだ体が起こせる状態じゃない」
それがどういうことか分かるだろう、ヨネルの目がそう言っていた。
「……受け止めてやれ。支えてやれ。俺たちには、そんなことしかできない」
ヨネルの言葉に、黙って頷く三人。
「エミルからだ。コルのチームに休みを与える。その間、コルを落ち着かせて、五日後にグリーン王国で行われる、平和交渉に連れて行ける状態にすること。平和交渉にはアマナとコルを連れていく……そこに、レッド王国のラオンも来る予定だ」
ヨネルの言葉に、アマナが驚いた顔をした。そして、真剣な顔でヨネルを見た。
「……コルには、どこまで教えれば良いでしょうか」
「俺たちの話は、あくまでも『仮定』に過ぎない。だが、何も知らない、考えていないのでは連れて行く意味がない。アマナ、君が思う、コルの受け止めきれる範囲で教えてやってくれ」
ヨネルはそう言うと、もう一度コルを見た。
「……すまない」
そう一言言うと、ヨネルは部屋を出て行った。
「平和交渉か。そこにアマナとコルを連れていくなんて、エミルさんは何を考えているのだろう」
ブランがアマナを見て言った。
「この戦争を終わらせようと思ったら、グリーン王国での対談は避けては通れない。だけれど、知っての通り、レッド王国の騎士団長タツさんとエミルさんは、ずっとあの魔方陣を使ってやり取りをしている。双方が納得する形で戦争を終わらせられるように。今のコルにこれ以上負担をかけたくないけれど……エミルさん達の長年の計画が形になりそうな時だから……」
「長年の計画?」
アマナの言葉に、ブランが冷静に聞いた。
「えぇ。私が、自分の考えが合っているかどうか、特別騎士団の方達と話をしに行ったでしょう?その時に、エミルさんが教えてくれたの。エミルさん達が今まで考えてきたことに、これからどうしていきたいか……。だけれど、まだ全部は教えられない。さっきもヨネルさんが言ったけれど、『仮定』の段階だから。だけれど必要になったら必ず教える。いや、教えないといけないの」
ブランが、黙って頷いた。
モカは黙って涙を流していた。
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