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ロリータ少女と戦姫
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私がタイムスリップ?
夕方になって私は加奈の家を出た。
加奈はすごいと思う。
やりたいことがあって、そのための努力もできる。
私はどうだろう。
将来の夢は、お姫様。その答えが通じるのはせいぜい中学生までだった。いや、中学生でも受け入れられてはなかったか・・・。
だけど、私にはやりたいと思えることが分からないし、将来のことだって想像できない。
風が頬を撫でた。足が自然に止まる。
・・・・家に帰りたくないな。
お母さんはきっと加奈を褒める。それで、私も見習えって言うに決まってる。
そんなこと、私が一番わかってるよ・・・。
そんな私の目に、大きな天狗岩がうつった。
昔は怖かった天狗岩。でも今見たらただの大きな岩だ。
天狗岩は、桜野城跡地と梅田城跡地のちょうど真ん中の小さな山の上にある。
きっと子供を早く家に帰すためにそんな伝説ができたんだろう。
そう思った私は、天狗岩にのぼって腰かけた。
そばには一本の大きな桜。
ぼーっとしていると、お母さんの言葉が浮かんできた。
奇抜。変わった子。
私はただ好きな服を着ているだけなのに。
・・・・・こんな田舎じゃなかったら、もっと生きやすかったのかな?
携帯電話を取り出してネットを開く。
だって、都会はもっと自由に見えるもん。きっと同じ趣味の子もネットの中だけでなくてリアルで友達になれるかもしれない。
風が吹いている。
山の木々が揺れて、ザワザワと音を立てる。
そんな光景を見ながら、私は思った。
いっそ、天狗が私の願いが叶う場所にでも連れて行ってくれればいいのに・・・。
春の暖かさの中、私はそのままうとうとして気が付いたら天狗岩の上で眠ってしまった。
カラン・・・・カラン・・・・・
何か音が聞こえた気がしたけれど、夢だろうか?
どれくらい眠っていたんだろう・・・。
目を覚ますと、辺りが明るくなっていた。
夕方だったはずなのに・・・。
そう思って辺りを見回した私は言葉を失った。
「ここ・・・・どこ・・・・?」
確かに天狗岩に座っている。だけど・・・。
桜の木が、座っている私の頭ほどしかない。
それに何より・・・。
天狗岩がある小さな山を挟んで二つ、大きなお城がたっているのだ。
「夢・・・・じゃない・・・・。」
これって・・・これって・・・・タイムスリップってやつ!?
私はその場に固まったままぼーっと周りを見ていた。
タイムスリップって、映画やドラマ、ゲームでよく見るけど・・・。
それって何か特技があったり、技術があったから生き残ってこれたものばっかりで。
私なんて学校の成績は悪いし、これといって特技もない。
スマホを取り出してみるけど、当たり前のように圏外。
・・・これからどうしよう・・・・。
「お前、誰だ?」
女の人の声に私は慌てて振り返った。
そこには、私と同い年くらいの女の人が立っていた。
鮮やかな色をした、忍者のような、振袖のような可愛い服。手には・・・大きな、なぎなたを持っていた。
「私・・・その・・・。」
言葉を失ってしまう。
タイムスリップなんて、なんて言えばいいの?
「お前、珍しいなりをしているな。」
女の人が私に近づいてきて、まじまじと見つめた。
「あの・・・私・・・・この岩で・・・。」
状況を説明したいけれど、言葉が続かない。
「この岩?・・・・もしかしてお前、異世界から来たのか?」
突然の女の人の言葉に驚いた私だけれど、反射的にうなずいていた。
「あの・・・私、未来からきたんです!未来にもこの天狗岩があって、そこで眠っていたら気が付いたらここに・・・・。」
しゃべりはじめたら、一気に言葉が出た。
女の人は驚いて私を見つめている。
「未来・・・。面白いな、それが未来の恰好か!」
そう言って女の人は私の服を触る。
「この岩は、よく子供が神隠しにあうことから、山の天狗の仕業だと言って天狗岩と呼ばれてる。神隠しにあったものは多く知っているが、お前のように連れてこられたものは初めてだ。どうりで私の姿を見ても動じないはず。」
そういうと女の人は笑った。
「私は、桜野城頭首、桜野繁蔵の正室、美弥だ。」
「桜野城・・・・・正室・・・・・って、もしかしてお姫様!?」
美弥がニヤリと笑った。
「あぁ、そうだ。女なのに戦に出向き、百戦錬磨の戦姫。奇抜で異端児と呼ばれる正真正銘の桜野城の姫だ。」
「・・・・・・・・。」
お・・・・・お姫様・・・・本物の・・・。
「で、お前の名前は?」
また言葉を失っていた私に、美弥姫が聞いた。
「私は・・・・さ・・・。」
私は一瞬言葉を切った。桜野なんて苗字を言ったら、ややこしいことになりそうな気がするから。さっきも、美弥姫は名前だけ言ったし、この時代では女は名前だけなのかもしれない。
「私、志乃。」
「志乃か。お前、これからどうするんだ?」
「・・・・・どうしよう・・・・。ここにいたら、元の世界に帰れるかな・・・?」
「こんな所に、そんななりでいたら目立つだけだぞ。」
美弥姫はそう言った途端、梅田城の方をにらんだ。
「志乃、死にたくなかったらそこから動くなよ。」
「えっ・・・なに!?」
目の前にはいつの間にか見知らぬ男の人が立っていて、刀を振っていた。
美弥がなぎなたで刀をはらう。
私はその場で固まって、目を閉じることすら忘れていた。
「突然の奇襲とは感心しないな、正道。」
「お前こそ、こんな近くまで敵襲に気が付かないなんて珍しいこともあるものだ。」
て・・・敵!?
私はますます動けなくなった。
「客人の前で無礼だぞ。」
「客人?あぁ、そこのおなごのことか。」
「そうだ。聞いて驚け。天狗岩からの、異世界からの客人だ。」
「なに!?その話、本当だろうな。」
「お前に嘘をつく必要もあるまい。」
二人は会話をしながら、刀となぎなたを振りあっていて、あたるたびに鋭い金属音がして本物の武器なんだと実感させられた。
命のやりとりをしているはずなのに、どうして二人は笑いながら戦っているの?
それに、美弥姫は私のことを普通に説明した・・・。
正道と呼ばれた男の人も、疑う様子はない。
私はそんなことを考えていたけれど、二人は止まらなかった。
「このおなご、名は志乃。元の世界に帰りたがっているが、正道、どうしたらいいと思う?」
「神隠しは多くても年に三回、四回ほどだ。今すぐにというのは難しいんじゃないか。それに、また元の世界に帰れるともわかるまい。」
正道さんの言葉に私はショックを受けた。
私、元の時代に帰れないの・・・?
それに、下手したらまた別の知らない時代に行ってしまう可能性があるってこと?
「そうか。正道、なんとか志乃が帰る方法を探せないか?」
美弥が言った。
相変わらず二人は刃を交えている。
この二人、どういう関係なんだろう?
「そうだな。神隠しについての資料を調べてみてやろう。その間、志乃はどうする?」
「我が桜野城の側室として迎え入れようと思う。勿論、形だけの側室だ。繁蔵様は私以外に妻をめとっていない。事情を説明したら、快くかくまってくれるに違いない。」
「そうか。乱世のこの世。下手に城下へ送るよりいいだろう。情報は入り次第お前に届くようにしよう。」
「分かった。正道、恩に着る。」
美弥姫がそう言うと、二人は戦うのをやめた。
正道さんが私を見る。
「俺は梅田城に仕える正道。桜野城の姫である美弥とは本来は敵同士だ。だが君に罪はない。全力で元の世界に帰れるように協力しよう。美弥が自分からおなごに話しかけるなど前代未聞だ。どうか仲良くしてやってくれ。」
正道さんの言葉に私は何も言えず黙ってうなずいた。
それを見ると、正道さんは梅田城の方に戻っていった。
「あの・・・美弥・・・姫・・・様?」
「様はいらない。美弥姫でいい。今日からお前も、我が桜野城に仕える姫となるのだから。」
「えっ!?」
「案ずるな。形だけだ。繁蔵様の側室として入れば、城でも不便なく過ごせるだろう。林之助。」
「はっ、姫様、ここに。」
どこからともなく、男の人が現れて美弥姫の前で足をついて頭を下げている。
「話は聞いていたと思う。家臣の誰にも気づかれぬよう、繁蔵様と聖花に連絡。ここへは姫にふさわしい着物を持ってきてくれ。二人がすぐに城に向かい入れる手はずを整えてくださるはずだ。」
「御意。」
そう言うと、林之助と呼ばれた男のひとは姿を消した。
話が勝手に進んでいて、全くついていけない。
私、どうなるの・・・?
「案ずるな。」
美弥姫の言葉に、私は顔を上げて美弥姫を見た。
「案ずるなと言っている。林之助がうまくやってくれるだろう。林之助には今後、お前の護衛をさせる。そして聖花という繁蔵様の乳母を、志乃、お前の教育係として傍におかす。お前の正体を知っているのは、私、正道、林之助、聖花、そして繁蔵様だけだ。お前が元の世界に戻れるまで、私が責任をもって面倒見よう。だから案ずるなと言っている。」
「・・・・あ・・・ありがとうございます・・・でも、どうして・・・。」
そう。どうして、美弥姫は初めて会った私を疑いもせず、こんなに良くしてくれるの?
「私は、奇抜な異端児だ。そこらへんの人間と同じにしてもらっては困る。」
そう言って美弥姫はふふんと笑った。
奇抜な異端児・・・・。
奇抜。変わっている。
私は自分が言われていたことを思い出した。
私と、美弥姫は言われていることが似ている。
・・・。
さっきの美弥姫の戦い。
正道さんが言った乱世の世界。
そう、ここは戦国時代。
いつ、戦いに巻き込まれてもおかしくないんだ・・・。
だけど、偽りでもお姫様になれることに正直喜んでいる自分がいた。
しばらくして、林之助さんが荷物を抱えて戻ってきた。
「美弥姫様、ご要望の着物でございます。もうすぐ、城からの使者が籠を持ってまいります。そこで正式に側室に入る手はずとなっております。」
林之助は美弥姫の前に足をつき、頭を下げて言った。
「そうか。まず、志乃を着替えさせねばな。」
そう言うと美弥姫は荷物を持って、岩陰に私を呼んだ。
「この中から好きな着物を選べ。偽りの側室といえど今日からお前も桜野城に仕える姫。繁蔵様に仕え、桜野城に恥じない行動を心掛けろ。・・・・案ずるな。私たちが全力で援護する。」
私は、さっきまでの嬉しい気持が一気に消えて気分が重くなった。
・・・この時代のお姫様・・・・いや、本物のお姫様は、私が憧れたようなお姫様じゃないんだ。
これから、どうなるんだろう・・・。
ちゃんと教えてくれる人がいるとはいえ・・・・・。
「わぁ!どれも綺麗!」
真面目に考えていた私だったけれど、荷物の中を見たら思わず弾んだ声が出た。
荷物の中には色とりどり、模様も様々な着物の数々。
この中から選んでいいんだ・・・・。
私は、ピンク色で桜がちりばめられた着物を選んだ。
美弥姫が、てきぱきと着せてくれる。
「林之助、家臣たちの反応はどうだったか。」
私に着物を着せながら美弥姫が言った。
「はっ、皆、驚きを隠せない様子でした。繁蔵様は美弥姫様しか目に映っておられませんでしたから。ですが、繁蔵様が今、停戦状態の北の国から人質として形だけの側室を迎えると家臣たちに告げました。戦が嫌いな繁蔵様の言葉に、皆納得した様子であります。」
「そうか。林之助、お前はこれから志乃の護衛につけ。私は戦にでることもあるだろう。側室の志乃が跡継ぎを産むのではないかと、志乃の命を狙ってくるものも多いだろうからな。」
「御意。」
「よし、準備は整った。・・・ここには姿見がないな。」
私は自分の恰好を見た。
現代的な着物ではないけれど、現代より色鮮やかで綺麗だった。
だけど、美弥姫が着ている着物と、全然形が違う。
不思議に思って美弥姫を見た。
「私のなりが珍しいか?」
まるで私の心を読んだかのように、美弥姫が言った。
「珍しいかは分からないです・・・。私、この世界で何が普通なのかどんな格好がお姫様らしいのか分からないから・・・。」
「今お前が着ている恰好が、この世界で普通のなりだ。城についたら、もっと姫らしいなりをさせる。私は特殊だ。」
「特殊・・・?」
「あぁ。そのうちわかるだろう。・・・籠がきたようだな。」
桜野城の方から、二人の人が籠を担いできているのが見えた。
テレビとかで見たことがあるけれど、本当にあれに乗るんだ・・・。
「このくらいの距離、私歩けるのに・・・・。」
「側室として城に入るんだ。それなりの威厳をもたなければな。」
私の言葉に、美弥姫が答えた。
林之助さんはいつの間にか姿を消していた。
籠を運んできた人たちは、私たちを見ると籠をおいて膝をついた。
「これは、美弥姫様みずから・・・・。申し訳ありません、籠がひとつしか・・・。」
「良い。私は籠の横を歩いて帰る。」
「姫様にそのような真似は・・・!」
「私が良いと言っているのだ。さぁ、この娘が新しい側室に入る娘だ。名は志乃。正室の私が直々に姫として出迎えに来た。それだけだ。」
「はっ!志乃様、どうぞ籠にお乗りください。殿がお待ちです。」
「え・・・・あ、はい・・・・。」
私は言われるがままに籠に乗り込んだ。
夕方になって私は加奈の家を出た。
加奈はすごいと思う。
やりたいことがあって、そのための努力もできる。
私はどうだろう。
将来の夢は、お姫様。その答えが通じるのはせいぜい中学生までだった。いや、中学生でも受け入れられてはなかったか・・・。
だけど、私にはやりたいと思えることが分からないし、将来のことだって想像できない。
風が頬を撫でた。足が自然に止まる。
・・・・家に帰りたくないな。
お母さんはきっと加奈を褒める。それで、私も見習えって言うに決まってる。
そんなこと、私が一番わかってるよ・・・。
そんな私の目に、大きな天狗岩がうつった。
昔は怖かった天狗岩。でも今見たらただの大きな岩だ。
天狗岩は、桜野城跡地と梅田城跡地のちょうど真ん中の小さな山の上にある。
きっと子供を早く家に帰すためにそんな伝説ができたんだろう。
そう思った私は、天狗岩にのぼって腰かけた。
そばには一本の大きな桜。
ぼーっとしていると、お母さんの言葉が浮かんできた。
奇抜。変わった子。
私はただ好きな服を着ているだけなのに。
・・・・・こんな田舎じゃなかったら、もっと生きやすかったのかな?
携帯電話を取り出してネットを開く。
だって、都会はもっと自由に見えるもん。きっと同じ趣味の子もネットの中だけでなくてリアルで友達になれるかもしれない。
風が吹いている。
山の木々が揺れて、ザワザワと音を立てる。
そんな光景を見ながら、私は思った。
いっそ、天狗が私の願いが叶う場所にでも連れて行ってくれればいいのに・・・。
春の暖かさの中、私はそのままうとうとして気が付いたら天狗岩の上で眠ってしまった。
カラン・・・・カラン・・・・・
何か音が聞こえた気がしたけれど、夢だろうか?
どれくらい眠っていたんだろう・・・。
目を覚ますと、辺りが明るくなっていた。
夕方だったはずなのに・・・。
そう思って辺りを見回した私は言葉を失った。
「ここ・・・・どこ・・・・?」
確かに天狗岩に座っている。だけど・・・。
桜の木が、座っている私の頭ほどしかない。
それに何より・・・。
天狗岩がある小さな山を挟んで二つ、大きなお城がたっているのだ。
「夢・・・・じゃない・・・・。」
これって・・・これって・・・・タイムスリップってやつ!?
私はその場に固まったままぼーっと周りを見ていた。
タイムスリップって、映画やドラマ、ゲームでよく見るけど・・・。
それって何か特技があったり、技術があったから生き残ってこれたものばっかりで。
私なんて学校の成績は悪いし、これといって特技もない。
スマホを取り出してみるけど、当たり前のように圏外。
・・・これからどうしよう・・・・。
「お前、誰だ?」
女の人の声に私は慌てて振り返った。
そこには、私と同い年くらいの女の人が立っていた。
鮮やかな色をした、忍者のような、振袖のような可愛い服。手には・・・大きな、なぎなたを持っていた。
「私・・・その・・・。」
言葉を失ってしまう。
タイムスリップなんて、なんて言えばいいの?
「お前、珍しいなりをしているな。」
女の人が私に近づいてきて、まじまじと見つめた。
「あの・・・私・・・・この岩で・・・。」
状況を説明したいけれど、言葉が続かない。
「この岩?・・・・もしかしてお前、異世界から来たのか?」
突然の女の人の言葉に驚いた私だけれど、反射的にうなずいていた。
「あの・・・私、未来からきたんです!未来にもこの天狗岩があって、そこで眠っていたら気が付いたらここに・・・・。」
しゃべりはじめたら、一気に言葉が出た。
女の人は驚いて私を見つめている。
「未来・・・。面白いな、それが未来の恰好か!」
そう言って女の人は私の服を触る。
「この岩は、よく子供が神隠しにあうことから、山の天狗の仕業だと言って天狗岩と呼ばれてる。神隠しにあったものは多く知っているが、お前のように連れてこられたものは初めてだ。どうりで私の姿を見ても動じないはず。」
そういうと女の人は笑った。
「私は、桜野城頭首、桜野繁蔵の正室、美弥だ。」
「桜野城・・・・・正室・・・・・って、もしかしてお姫様!?」
美弥がニヤリと笑った。
「あぁ、そうだ。女なのに戦に出向き、百戦錬磨の戦姫。奇抜で異端児と呼ばれる正真正銘の桜野城の姫だ。」
「・・・・・・・・。」
お・・・・・お姫様・・・・本物の・・・。
「で、お前の名前は?」
また言葉を失っていた私に、美弥姫が聞いた。
「私は・・・・さ・・・。」
私は一瞬言葉を切った。桜野なんて苗字を言ったら、ややこしいことになりそうな気がするから。さっきも、美弥姫は名前だけ言ったし、この時代では女は名前だけなのかもしれない。
「私、志乃。」
「志乃か。お前、これからどうするんだ?」
「・・・・・どうしよう・・・・。ここにいたら、元の世界に帰れるかな・・・?」
「こんな所に、そんななりでいたら目立つだけだぞ。」
美弥姫はそう言った途端、梅田城の方をにらんだ。
「志乃、死にたくなかったらそこから動くなよ。」
「えっ・・・なに!?」
目の前にはいつの間にか見知らぬ男の人が立っていて、刀を振っていた。
美弥がなぎなたで刀をはらう。
私はその場で固まって、目を閉じることすら忘れていた。
「突然の奇襲とは感心しないな、正道。」
「お前こそ、こんな近くまで敵襲に気が付かないなんて珍しいこともあるものだ。」
て・・・敵!?
私はますます動けなくなった。
「客人の前で無礼だぞ。」
「客人?あぁ、そこのおなごのことか。」
「そうだ。聞いて驚け。天狗岩からの、異世界からの客人だ。」
「なに!?その話、本当だろうな。」
「お前に嘘をつく必要もあるまい。」
二人は会話をしながら、刀となぎなたを振りあっていて、あたるたびに鋭い金属音がして本物の武器なんだと実感させられた。
命のやりとりをしているはずなのに、どうして二人は笑いながら戦っているの?
それに、美弥姫は私のことを普通に説明した・・・。
正道と呼ばれた男の人も、疑う様子はない。
私はそんなことを考えていたけれど、二人は止まらなかった。
「このおなご、名は志乃。元の世界に帰りたがっているが、正道、どうしたらいいと思う?」
「神隠しは多くても年に三回、四回ほどだ。今すぐにというのは難しいんじゃないか。それに、また元の世界に帰れるともわかるまい。」
正道さんの言葉に私はショックを受けた。
私、元の時代に帰れないの・・・?
それに、下手したらまた別の知らない時代に行ってしまう可能性があるってこと?
「そうか。正道、なんとか志乃が帰る方法を探せないか?」
美弥が言った。
相変わらず二人は刃を交えている。
この二人、どういう関係なんだろう?
「そうだな。神隠しについての資料を調べてみてやろう。その間、志乃はどうする?」
「我が桜野城の側室として迎え入れようと思う。勿論、形だけの側室だ。繁蔵様は私以外に妻をめとっていない。事情を説明したら、快くかくまってくれるに違いない。」
「そうか。乱世のこの世。下手に城下へ送るよりいいだろう。情報は入り次第お前に届くようにしよう。」
「分かった。正道、恩に着る。」
美弥姫がそう言うと、二人は戦うのをやめた。
正道さんが私を見る。
「俺は梅田城に仕える正道。桜野城の姫である美弥とは本来は敵同士だ。だが君に罪はない。全力で元の世界に帰れるように協力しよう。美弥が自分からおなごに話しかけるなど前代未聞だ。どうか仲良くしてやってくれ。」
正道さんの言葉に私は何も言えず黙ってうなずいた。
それを見ると、正道さんは梅田城の方に戻っていった。
「あの・・・美弥・・・姫・・・様?」
「様はいらない。美弥姫でいい。今日からお前も、我が桜野城に仕える姫となるのだから。」
「えっ!?」
「案ずるな。形だけだ。繁蔵様の側室として入れば、城でも不便なく過ごせるだろう。林之助。」
「はっ、姫様、ここに。」
どこからともなく、男の人が現れて美弥姫の前で足をついて頭を下げている。
「話は聞いていたと思う。家臣の誰にも気づかれぬよう、繁蔵様と聖花に連絡。ここへは姫にふさわしい着物を持ってきてくれ。二人がすぐに城に向かい入れる手はずを整えてくださるはずだ。」
「御意。」
そう言うと、林之助と呼ばれた男のひとは姿を消した。
話が勝手に進んでいて、全くついていけない。
私、どうなるの・・・?
「案ずるな。」
美弥姫の言葉に、私は顔を上げて美弥姫を見た。
「案ずるなと言っている。林之助がうまくやってくれるだろう。林之助には今後、お前の護衛をさせる。そして聖花という繁蔵様の乳母を、志乃、お前の教育係として傍におかす。お前の正体を知っているのは、私、正道、林之助、聖花、そして繁蔵様だけだ。お前が元の世界に戻れるまで、私が責任をもって面倒見よう。だから案ずるなと言っている。」
「・・・・あ・・・ありがとうございます・・・でも、どうして・・・。」
そう。どうして、美弥姫は初めて会った私を疑いもせず、こんなに良くしてくれるの?
「私は、奇抜な異端児だ。そこらへんの人間と同じにしてもらっては困る。」
そう言って美弥姫はふふんと笑った。
奇抜な異端児・・・・。
奇抜。変わっている。
私は自分が言われていたことを思い出した。
私と、美弥姫は言われていることが似ている。
・・・。
さっきの美弥姫の戦い。
正道さんが言った乱世の世界。
そう、ここは戦国時代。
いつ、戦いに巻き込まれてもおかしくないんだ・・・。
だけど、偽りでもお姫様になれることに正直喜んでいる自分がいた。
しばらくして、林之助さんが荷物を抱えて戻ってきた。
「美弥姫様、ご要望の着物でございます。もうすぐ、城からの使者が籠を持ってまいります。そこで正式に側室に入る手はずとなっております。」
林之助は美弥姫の前に足をつき、頭を下げて言った。
「そうか。まず、志乃を着替えさせねばな。」
そう言うと美弥姫は荷物を持って、岩陰に私を呼んだ。
「この中から好きな着物を選べ。偽りの側室といえど今日からお前も桜野城に仕える姫。繁蔵様に仕え、桜野城に恥じない行動を心掛けろ。・・・・案ずるな。私たちが全力で援護する。」
私は、さっきまでの嬉しい気持が一気に消えて気分が重くなった。
・・・この時代のお姫様・・・・いや、本物のお姫様は、私が憧れたようなお姫様じゃないんだ。
これから、どうなるんだろう・・・。
ちゃんと教えてくれる人がいるとはいえ・・・・・。
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真面目に考えていた私だったけれど、荷物の中を見たら思わず弾んだ声が出た。
荷物の中には色とりどり、模様も様々な着物の数々。
この中から選んでいいんだ・・・・。
私は、ピンク色で桜がちりばめられた着物を選んだ。
美弥姫が、てきぱきと着せてくれる。
「林之助、家臣たちの反応はどうだったか。」
私に着物を着せながら美弥姫が言った。
「はっ、皆、驚きを隠せない様子でした。繁蔵様は美弥姫様しか目に映っておられませんでしたから。ですが、繁蔵様が今、停戦状態の北の国から人質として形だけの側室を迎えると家臣たちに告げました。戦が嫌いな繁蔵様の言葉に、皆納得した様子であります。」
「そうか。林之助、お前はこれから志乃の護衛につけ。私は戦にでることもあるだろう。側室の志乃が跡継ぎを産むのではないかと、志乃の命を狙ってくるものも多いだろうからな。」
「御意。」
「よし、準備は整った。・・・ここには姿見がないな。」
私は自分の恰好を見た。
現代的な着物ではないけれど、現代より色鮮やかで綺麗だった。
だけど、美弥姫が着ている着物と、全然形が違う。
不思議に思って美弥姫を見た。
「私のなりが珍しいか?」
まるで私の心を読んだかのように、美弥姫が言った。
「珍しいかは分からないです・・・。私、この世界で何が普通なのかどんな格好がお姫様らしいのか分からないから・・・。」
「今お前が着ている恰好が、この世界で普通のなりだ。城についたら、もっと姫らしいなりをさせる。私は特殊だ。」
「特殊・・・?」
「あぁ。そのうちわかるだろう。・・・籠がきたようだな。」
桜野城の方から、二人の人が籠を担いできているのが見えた。
テレビとかで見たことがあるけれど、本当にあれに乗るんだ・・・。
「このくらいの距離、私歩けるのに・・・・。」
「側室として城に入るんだ。それなりの威厳をもたなければな。」
私の言葉に、美弥姫が答えた。
林之助さんはいつの間にか姿を消していた。
籠を運んできた人たちは、私たちを見ると籠をおいて膝をついた。
「これは、美弥姫様みずから・・・・。申し訳ありません、籠がひとつしか・・・。」
「良い。私は籠の横を歩いて帰る。」
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